四万十川 四万十川の概要

四万十川

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/05 23:52 UTC 版)

四万十川
四万十川(岩間沈下橋付近)
水系 一級水系 渡川(四万十川)
種別 一級河川
延長 196 km
平均流量 -- m³/s
流域面積 2186[1] km²
水源 不入山高知県高岡郡津野町
水源の標高 1,336 m
河口・合流先 土佐湾高知県四万十市
流域 日本 高知県

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四万十川(佐田沈下橋付近)
四万十川(中半休憩所付近)

四万十川には支流も含めて47の沈下橋があり、高知県では生活文化遺産として保存する方針を1993年に決定している。

地理

高知県高岡郡津野町不入山(いらずやま)を源流とし、県中西部を逆S字を描くように蛇行しながら多くの支流を集め、四万十市太平洋に注ぎこむ。河口附近では「渡川」という名前であるため、水系名は「渡川水系」となっている。

清流2つの名前

「日本最後の清流」といえば「四万十川」を想起するほどに有名になっているが、河川法上では1928年から1994年まで「渡川(わたりがわ)」が正式名称だった。1896年(明治29年)の旧河川法により、1928年(昭和3年)11月1日に「渡川」を法律上の公式名称に採用。1964年(昭和39年)の新河川法でも「渡川」だったが、1994年(平成6年)7月25日に「四万十川」と改名された。河川法の一級河川名称変更はこれが初めてで、これは「四万十川」が「日本最後の清流」として、全国的に有名となり認知されているという実情によるところが大きい[4]。しかし高知県内では、知名度では劣るものの仁淀川の方に水質では軍配が上がる。

江戸時代には「四万十川」と書いて「わたりがわ」と呼ばれていたこともあるという。宝永5年(1708年)の土佐物語には「四万十川 わたりがわ」と記されているという。

一方、周辺の河川名を見ると、古来関係の深かった九州に向かって「向川(現在名:中筋川)」、「渡川」を渡って中村(四万十市)の市街、その後ろに「後川」があり、位置的な名称と考えることもできる。

「四万十川」の語源については、諸説があり定かではない[5][6]

  • 数多くの川(四万十の川)が合流している川である。
  • アイヌ語の「シ・マムト」(非常に美しい)が変化したものである。
  • 上流部の支流四万川と中流部の支流十川、あるいは上流部の四万川村と中流部の十川村連称地名である[7]
  • 四万石の材木を十回流し送るほど、豊かな森があったという林業の盛んな川である[8]
  • アイヌ語の「シマト」(砂礫の多い所)から来たものである。

一方、「渡川」の語源については、以下の2つの説がある[6]

  • 大言海』や『古今集』に出る小野篁の歌によると、「渡川」は「三途の川」を指すという。古代に土佐では人を罰する際に、川より西の具同中筋の方面に流刑する「渡川限り」という罪名があり、明治初頭まで続けられたと言われる。
  • 中村は古くから交通の要衝であって、川は渡船によって交通が行われていたから、川は「渡川」と名付けられた。

流域概要

佐賀堰堤(通称家地川ダム)
若井沈下橋(若井大橋下流)
四万十川にかかる沈下橋(佐田沈下橋)
四万十川橋(赤鉄橋)

不入山から流れ出た川は、山間を縫いながら周辺の小川を集めてだんだん太く大きな流れになってゆく。山清水を集めた川は清流の名にふさわしい透明な水をたたえて窪川盆地に入る。窪川盆地では周辺の田圃を潤すが、窪川駅近くでは四万十町内の下水道が流れ込み、清流とは言いがたい状態になる。その後、四万十川は四万十町家地川の佐賀堰堤(通称家地川ダム1937年竣工)という発電用ダム(堤高8.0メートルと小規模で、魚道も整えられていることから正確には堰堤)で水の半分近くを抜かれてしまう。特に上流の水量が少ない時期はダム直下の川底から水が消えてしまい、川が無くなる事もある。→ダムの水は黒潮町へ流れる伊与木川(伊与喜川)へ放流されている。ただ、このダムの存在により、四万十町の下水を含んだ水がほとんど下流に流れず、下流域の清流を保っている要因となっていることも事実である。

一旦細くなった四万十川は、四万十町田野々で梼原川と合流する。梼原川は水量が豊富な支流であり、四万十川本流を清流の様相に戻す。ただ、梼原川には津賀発電所下道堰堤(都賀ダム、1944年竣工、堤高45.5メートル)というダムが存在する。合流点の少し下流には轟の瀬と呼ばれる落差の大きい急流がある。続く、四万十町昭和には最大の中州の三島があり、キャンプ場が整備されているほか、からにはアユ漁を営む人々の姿が見られる。またテナガエビが名産であり、漁が行われるが、激減している。四万十町十川では、4月下旬から5月上旬にかけては鯉のぼりの川渡しが行われている(昭和49年から始められ、鯉のぼりの川渡し発祥の地である)。

四万十市西土佐江川崎で愛媛県に端を発する広見川と合流し更に川幅を広げ、ゆったりとした雰囲気をかもしだす。江川崎には温泉カヌーの施設があり、ここから下流はカヌーが行き交い、あちこちにキャンプ場が見られる。四万十川は流域に湧き水が多く、支流以外の随所から常時きれいな水が供給されている。

江川崎から少し下ると目黒川を合流する。この目黒川上流には滑床渓谷があり、川底の滑らかな岩盤が特徴で、紅葉の時期には観光客で賑わう。

下流は四万十市街の端を流れ、川幅も広くなり、満潮時には海水が遡上する。

国土交通省手づくり郷土賞を四万十川関連では「渡川第二緑地」で昭和63年度(ふるさとに恵みを与える川)、「渡川」で、平成2年度(生活を支える自然の水)、「黒尊川」で平成5年度(自然とふれあう水辺づくり)、「四万十川と共存するツルの里づくり事業」で平成26年度、「流域住民主体で四万十川の環境保全と地域活性化の活動」で平成28年度と、それぞれ受賞している[9]

沈下橋

四万十川の沈下橋は、本流に22本、支流を含めると47本ある。鉄筋コンクリート造りで、欄干がなく、通常の水位より2-3m上にかけられている。台風大雨時には沈下することで、流木などが橋脚などに引っ掛って滞留し水圧がかかり橋全体が破損、流失するのを防いでいる。

沈下橋と川、周囲の山並みの醸し出すのどかな景観は、四万十川の代名詞にもなっており、しばしば好まれて写材にもなっている[10]

幻の電源開発計画

1950年代まで、日本の電力供給は水力発電によるものが多くを占めていたため、冬場の渇水期には慢性的な電気不足に悩まされていた。こうした背景から四万十川流域でも、大規模なダムと複数の発電所の建設がセットで計画された過去がある。具体的には梼原川ダム、秋葉川ダム、渡川ダムを建設して相互に水の調節を行いながら、松葉川ダムから久礼発電所に引水して発電(16万kw)、境川ダムから興津発電所に引水して発電(10万kw)を行うものである。なお、それぞれの発電所の排水は、四万十川に戻さずに直接土佐湾に流し込む計画となっていた[11]


注釈

  1. ^ 2187km2とする文献も存在する。
    海津正倫(1982)愛媛県地形地域区分.『愛媛県の地域区分と地域設定に関する研究』.愛媛大学地域社会総合研究所報告, Ser.A.18.5-15.

出典

  1. ^ a b 国土交通省 水管理・国土保全局 日本の川 - 中国 - 四万十川 2019年10月17日閲覧。
  2. ^ 渡川水系河川整備基本方針 - 国土交通省河川局
  3. ^ 四万十川 - 名水百選 Archived 2011年9月26日, at the Wayback Machine. - 環境省
  4. ^ 渡川水系河川整備基本方針 P4.
  5. ^ 日本の川の名の由来を教えてください”. 株式会社建設技術研究所. 2019年9月7日閲覧。
  6. ^ a b 川と人との歴史のものがたり 四国地方の古地理に関する調査報告書”. 四国地方整備局 - 国土交通省. p. 91. 2019年9月7日閲覧。
  7. ^ 梼原の清流~四万川川~│ゆすはら応援隊が行く!!│雲の上の町 ゆすはら ─高知県梼原町─”. www.town.yusuhara.kochi.jp. 2019年9月7日閲覧。
  8. ^ Company, The Asahi Shimbun. “高知のおもしろ駅名めぐり(下)~南国土佐よ、また今度 - ことばマガジン:朝日新聞デジタル”. 朝日新聞デジタル. 2019年9月7日閲覧。
  9. ^ 国土交通大臣表彰 手づくり郷土賞 - 国土交通省
  10. ^ アサヒカメラ」2012年9月号 76P-78P 雨の沈下橋 椎名誠朝日新聞社
  11. ^ 「四万十川に電源開発計画 年間に十二億キロ 規模は信濃川に匹敵」『朝日新聞』昭和25年11月2日3面
  12. ^ 四万十川源流の森 - 水源の森百選 - 林野庁
  13. ^ a b 2-2 川の生物・水産資源 - 四万十町役場”. 2020年5月30日閲覧。
  14. ^ 東健作「四万十川におけるアユの長期的な漁獲変動と近年の特徴」『水産増殖』第58巻第3号、日本水産増殖学会、2010年、401-410頁、doi:10.11233/aquaculturesci.58.4012020年6月1日閲覧 
  15. ^ a b 『Bises』2005年冬号 NO,39 橋下克彦「危うし、最後の清流四万十川」
  16. ^ 日本共産党2004年10月11日(月)「しんぶん赤旗」”. 2020年5月30日閲覧。
  17. ^ NHK特集 土佐・四万十川~清流と魚と人と~”. NHK. 2022年4月4日閲覧。
  18. ^ NHKクロニクル 1983年9月12日 総合 番組表”. NHK. 2022年4月4日閲覧。
  19. ^ NHK特集「土佐・四万十川〜清流と魚と人と〜」”. NHK (2021年5月4日). 2021年5月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年5月6日閲覧。


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