反物質 反物質の概要

反物質

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2015/06/03 08:10 UTC 版)

歴史

1928年物理学者ポール・ディラック電子の相対論的な量子力学を記述するディラック方程式を導いたが、この方程式から導かれる負エネルギー状態の電子の解釈について悩んでいた。負エネルギー状態の電子は、質量が負であることから、引っ張るとそれと反対向きに動こうとする奇妙な性質を持つため、ロバに似ていることから「ロバ電子」 (donkey electron) という名前がつけられた。

1930年、ディラックは、真空がロバ電子で満たされており、その中の泡に相当する空孔 (hole) が負エネルギー電子になるだろうという着想を得て、空孔理論 (hole theory) を提出した。この理論によると、負エネルギー状態の電子はあたかも正の電荷を持った電子(陽電子)のように振舞うはずであった。しかし、ディラックは、陽電子が当時発見されていなかったことから、負エネルギー状態の電子は正電荷を持つ陽子に対応しているというアイディアを推し進め、なぜ陽子が電子の質量と大きく異なっているかについては未解決の問題としてしまった。この点はディラックの間違いであり、この論文が公表された直後に他の研究者によって指摘されたが、ディラックによれば「数学上の対称性から空孔は電子と同じ質量を持つ粒子であるべきである」ときわめてはっきり言明したのはヘルマン・ワイルであった[1]

1932年宇宙線の研究をしていた物理学者アンダーソンにより正の電荷を持つ電子陽電子が発見される。1955年、物理学者のセグレチェンバレンにより、前年に建設された粒子加速器ベヴァトロンを用いて反陽子を発見。この実験では反中性子も発見されている。

1995年欧州原子核研究機構(CERN)とドイツの研究チームにおいて、陽電子と反陽子からなる「反水素」が生成された事が分かり、翌年1月に発表。

2002年 欧州原子核研究機構日本を含む国際共同研究実験グループにおいて、反水素の5万個ほどの大量生成に成功。

2010年11月 欧州原子核研究機構日本を含む国際共同研究実験グループにおいて、反水素原子38個を磁気瓶に閉じ込めることに成功(反水素原子の存続時間は0.2秒間)[2]

2011年4月、米ブルックヘブン研究所(BNL)の実験により、これまでで最も重い反物質である「反ヘリウム原子核」が合成された[3]。10億回の金原子核の衝突によって生じた5000億個の荷電粒子の軌跡を調べたところ、その中で18個が、反ヘリウム原子核と思われる軌跡であった。これ以上重い反原子核は、何らかの偶然を除けば、生成確率が非常に低いため、人類が手にすることの出来る最も重い反物質であると思われる。

2011年6月、欧州原子核研究機構で日本の理化学研究所東京大学含む日米欧などの国際共同研究実験グループにおいて、反水素原子を1000秒以上閉じ込めることに7回成功[4]。装置は前回と同様の物を用いた[5]

性質

物質と反物質が衝突すると対消滅を起こし、質量エネルギーとなって放出される。これは反応前の物質・反物質そのものが完全になくなってしまい、消滅したそれらの質量に相当するエネルギーがそこに残るということである 。1gの質量は約 9×1013(90兆)ジュール のエネルギーに相当する。ただし 発生するニュートリノが一部のエネルギーを持ち去るため、実際に反物質の対消滅で発生するエネルギーは、これより少なくなると言われる。

反物質は自然界には殆ど存在しないので、人工的に作らねば得ることが難しい。非常に高いエネルギーを持つ粒子どうしを衝突させると、多くの粒子が新たに生成されることは既に知られているが、これは、粒子が衝突前に持っていたエネルギーがそれに相当する質量に変わるためである。物質と反物質の衝突とは逆の事が起きていることになるので、それによって生成される粒子の中に反粒子が実際に含まれている。そのため現在では、人工的に高エネルギーの粒子を、粒子加速器という非常に巨大な装置を使って作り出し、それらを衝突させて反粒子を作りだし捕獲することで反粒子を得ている。


[ヘルプ]
  1. ^ この誤りについてディラックは「私は大胆さを欠いていたのです」と後述している。ディラックも空孔理論の着想を得たころは空孔が電子と同じ質量を持つと考えていたが、もしそのような粒子があればすでに発見されているはずと思ってしまったのである。この点が、そのような粒子が発見されていないという事実には何も悩まされることがない数学者ヘルマン・ワイルとの違いであった。出典 P.A.M.ディラック『ディラック現代物理学講義』(23頁)有馬朗人・松瀬丈浩 共訳 培風館(ISBN4-563-02176-9 C3042)
  2. ^ http://www.yomiuri.co.jp/science/news/20101118-OYT1T00185.htm 読売新聞社2010年11月18日配信記事
  3. ^ [1]
  4. ^ “「反物質」を装置に1000秒閉じ込め 理研・東大など”. 日本経済新聞. (2011年6月6日). http://www.nikkei.com/news/category/article/g=96958A9C889DE0EBEAE4E1E4E4E2E2E4E2E4E0E2E3E386989FE2E2E2;at=DGXZZO0195579008122009000000 2011年6月6日閲覧。 
  5. ^ “反水素原子を長時間捕捉=1000秒以上、精密観測可能に-理研など国際チーム”. 時事通信社. (2011年6月6日). http://www.jiji.com/jc/c?g=soc_30&k=2011060600018 2011年6月6日閲覧。 
  6. ^ kek.jp
  7. ^ titech.ac.jp
  8. ^ astroarts


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