危険運転致死傷罪 関連項目

危険運転致死傷罪

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/20 19:37 UTC 版)

危険運転致死傷罪(きけんうんてんちししょうざい)は、自動車危険運転によって人を死傷させた際に適用される犯罪類型である。東名高速道飲酒運転のトラックが女児二人を死亡させた1999年東名高速飲酒運転事故などをきっかけに2001年に制定された。


注釈

  1. ^ 期間は20年以下(刑法第12条)。ただし加重する場合は30年以下(同14条)
  2. ^ 2013年6月19日の衆議院法務委員会で危険運転致死傷罪の適用対象範囲について自転車の取り扱いを今後どうするのかと田嶋要から問われた谷垣禎一は「自動車と原付自転車、原付二輪だけ」と法務大臣として答弁した。また谷垣は法規制から自転車を除外し教育対応により対処する方針を示している。なお田嶋と谷垣は野党と与党の関係であったが、両者は法務委員会前日に催された自転車議連に出席し、自転車運転者の利益擁護実現に向け手を結んでいた。しかし安倍内閣施政下の2016年7月、谷垣は不慮の自転車事故により政治生命を失い、超党派議連としては規模の大きい自転車議連は活動を停止した[8]
  3. ^ 救護義務違反を伴う場合は一律10年となる
  4. ^ 人身事故という結果が出ていない場合には、道路交通法第66条(過労運転等の禁止)により、アルコール(飲酒)または薬物の影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転した場合として処罰の対象になる。危険ドラッグ等の薬物については、前歴によっては、車内に保有していただけで道路交通法第103条に定める危険性帯有者とみなされ、処罰の対象になることがある。
  5. ^ ただし、道交法に言う「酒酔い運転」程度の酩酊や「薬物等運転」である事が構成要件となっているわけではない。
  6. ^ なお、特定の疾患に結果的に罹患していても、そもそも事前に自覚症状がなかった場合や、多少なりの自覚症状を認識していた場合であってもそれが運転に関し危険を生じるという認識を持たなかった場合(認識可能性)については、本罪には該当しないこととなる。疾患は本人の認識外で自然発生することもあるという点で、アルコールや薬物の摂取など、原因が通常本人の認識に帰するものとは異なる。
  7. ^ 認知、予測、判断、操作に関する能力。以下同じ。
  8. ^ 脳全体の虚血により一過性の意識障害をもたらす病気であって、発作が再発する恐れがあるもの
  9. ^ 無自覚性ではない低血糖症や、人為的に血糖を調節できる低血糖症であっても、糖分の摂取等やインスリン注射等の、発症を防止するための措置を怠った場合には、病気運転致死傷罪の対象となる。なお、発症防止措置の懈怠については、必ずしも故意(意図的な懈怠)が要件ではなく、発症防止措置を怠っている事実の認識可能性があれば足りる(抽象的危険性)。
  10. ^ 人身事故という結果が出ていない場合には、道路交通法第66条(過労運転等の禁止)により、過労や疾患の影響により影響により走行中に正常な運転に支障が生じるおそれ(危険性)を認識していながら自動車を運転した場合として処罰の対象となる。
  11. ^ 令和2年法改正前は、第5号
  12. ^ 「殊更に」とあるため、通行禁止道路運転致死傷とは異なり、赤色信号等を見てはいたが、それが「止まれ」の意味であると認識していなかった場合(法の不知)には、対象外となる可能性がある。もっとも、そもそも法の不知は進行を制御する技能を有しないことを示唆するため、別途、未熟運転致死傷や無免許運転による加重を検討する余地があるものとみられる。また、赤色信号等と認識していたが、諸条件(矢印信号や補助標識などを含む)の誤認により止まるべきでない・止まる必要がないと誤解した場合(当てはめの錯誤)にも、適用外となる余地がある。なお、信号機の見落としについては、一時的に通りかかった道路ではなく通勤通学など習慣的に通行している道路においては、見落としという主張が認められずに故意と認定される可能性もある。
  13. ^ 令和2年法改正前は、第6号
  14. ^ 道路標識等は見ていたがそれが通行禁止の標識であると認識していなかったという場合(法の不知)や、通行禁止の標識と認識していたが諸条件(補助標識含む)の誤認により通行禁止ではないと誤解した場合(当てはめの錯誤)には、法律の錯誤の問題になり、直ちには故意を阻却しない。
    ただし、一時的に通りかかった道路ではなく通勤通学など習慣的に通行している道路においては、信号機の場合と同様に道路標識の見落としが認められず、故意と認定されて危険運転致死傷罪が適用される可能性がある。
    あるいは、一方通行や車両進入禁止の標識は、通常それぞれ一方通行道路の入口と出口にだけ設置されるため、「いったんは入口で道路標識等を認識したが途中で失念したため逆走してしまった」、と主張するような場合には、認知症などの精神症状が認定される場合は別として、故意を認定すべきかどうかが争点になる可能性がある。
  15. ^ 道路交通法第8条第1項を根拠とする道路標識または道路標示。同法の道路標識等は同法第4条により都道府県公安委員会が設置したものである事が要件である。以下同じ。
  16. ^ なお、本法施行令の文言では「道路交通法第八条第一項の道路標識等により自動車の通行につき一定の方向にするものが禁止されている道路」と規定されており、一見「指定方向外進行禁止」の道路標識も該当する余地があるように見える。
    しかし、道路標識、区画線及び道路標示に関する命令によると「指定方向外進行禁止」は「標示板の矢印の示す方向以外の方向への車両の進行を禁止する」、一方通行は「標示板の矢印が示す方向の反対方向にする車両の通行を禁止する」となっており、文言として「進行」と「通行」の差異がある。
    この2つの単語に明確な法律上の定義はないが、文理解釈上は進行(=前進)のほか横断・転回・後退をも総称して通行と称するところ、本法の政令には「通行につき一定の方向にするものが禁止」と記述されているため、指定方向外進行禁止は該当せず、一方通行・車両進入禁止のみが該当すると解釈される。
  17. ^ 補助標識における「二輪」とは「二輪の自動車、原動機付自転車」のことである(道路標識、区画線及び道路標示に関する命令 別表第二・備考一の(六))。
  18. ^ 文言には「道路交通法第十七条第四項の規定により通行しなければならないとされているもの以外のもの」とあるため、文理解釈上、高速道路等の路側帯通行も含まれる余地がある。しかしながら、順方向の路側帯通行に対して危険運転致死傷罪の適用を想定しているかどうかは不明である。
  19. ^ 事後にアルコール濃度を計測しても「事故時点までの飲酒」か「降車後の飲酒」のどちらが原因であるか判別できなくなる。
  20. ^ 実際には何の効果もないという意見もある
  21. ^ 危険運転致死傷罪の対象外のものでもこのような例(無免許運転等)がある

出典

  1. ^ a b c 危険運転致死傷 時速146キロで不適用か:東京新聞 TOKYO Web”. 東京新聞 TOKYO Web. 2022年1月24日閲覧。 “一橋大の本庄武教授(刑事法学)は「いわば、<客観的に見れば危険な運転だったが、被告の主観では危険運転ではなかった>という流れだが、一つの事実に相反する判断をしており、構成には違和感をおぼえる」”
  2. ^ a b c 「危険罪」認めず 法を見直すしかない:中日新聞Web”. 中日新聞Web. 2022年1月24日閲覧。
  3. ^ a b 時速146キロの暴走車が奪った命…高裁は危険運転罪を適用せず 婚約者「そんな法律ならいらない」”. メ~テレニュース. 2022年1月24日閲覧。
  4. ^ a b c 特集 | 被害者の母と婚約者怒り…146キロで走行し5人死傷した事故で被告に“過失運転”致死傷罪を適用”. www.tokai-tv.com. 2022年1月24日閲覧。
  5. ^ a b 息子死なせた加害者、全財産は7000円 謝罪も賠償もないまま母国へ…(柳原三佳) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2022年1月24日閲覧。
  6. ^ a b 夫の命奪った加害者が、過去にも死亡事故……データが示す「事故を繰り返す」運転者の実態(柳原三佳) - 個人”. Yahoo!ニュース. 2022年1月24日閲覧。
  7. ^ a b 名古屋のひき逃げ死亡事故、控訴せぬ方針 地検”. 日本経済新聞 (2012年3月24日). 2022年1月24日閲覧。
  8. ^ 衆議院事務局第183回国会衆議院法務委員会会議録19号2013年(平成25年)6月19日」(pdf)『第183回国会衆議院法務委員会』議事録、19巻、衆議院、東京都、2013年6月19日、14頁(日本語)。2017年5月5日閲覧。「○谷垣国務大臣 きのうは自転車議連へ御参加いただきましてありがとうございました。本法は、当然、その対象としているのは自動車と原付自動車、原付二輪だけでございます。今までは歩道通行可というのが至るところにございまして、自転車に乗る者は当然歩道を走っていいものだとみんなが意識していると思います。実は車道は余り、危険で走りにくいところもある、そこをどうしていくかという問題もございます。最近、非常に自転車もふえてまいりましたけれども、マナーの悪い人が極めて多いというのを憂慮しておりまして、私はそういう教育も必要だと思います。」
  9. ^ a b c 05-5_論説_江崎氏.indd:特集●交通事故と法医学/論説 薬物乱用と交通事故
  10. ^ 判例タイムズ1108号297頁、同1375号246頁、
  11. ^ 判例タイムズ1352号252頁
  12. ^ 最高裁判所平成17年(あ)第2035号危険運転致傷・道路交通法違反・傷害被告事件、平成18年3月14日最高裁判所第二小法廷決定
  13. ^ 刑法等の一部を改正する法律(平成16年12月8日法律第156号)
  14. ^ 刑法の一部を改正する法律、平成19年5月23日法律第54号
  15. ^ 高山俊吉道路交通法が生まれた背景について…1960年代の話」『弁護士高山俊吉WEBSITE』2007年3月22日。
  16. ^ 5 死亡事故の状況と特徴 (3) 飲酒別の状況と特徴」『平成26年中の交通死亡事故の特徴及び道路交通法違反取締り状況について』(プレスリリース)警察庁交通局、2015年2月19日https://www.npa.go.jp/toukei/koutuu48/H270220.pdf2022年4月28日閲覧 
  17. ^ 3 死亡事故の状況 (3) 飲酒別の状況」『令和3年中の交通死亡事故の発生状況及び道路交通法違反取締り状況等について』(プレスリリース)警察庁交通局、2022年3月3日https://www.e-stat.go.jp/stat-search/files?page=1&layout=datalist&toukei=00130002&tstat=000001027458&cycle=7&year=20210&month=0&tclass1val=02022年4月28日閲覧 
  18. ^ 上岡直見 (2006年4月19日). “飲酒運転厳罰化でひき逃げ急増”. JANJAN. 2008年9月20日閲覧。
  19. ^ 上岡直見 (2006年9月19日). “出かける時に、車のキーを持たない:飲酒運転の防止策”. JANJAN. 2008年9月20日閲覧。
  20. ^ 「刑法の一部を改正する法律案(自動車運転過失致死傷事犯関係)」に対する意見書』(PDF)(プレスリリース)日本弁護士連合会、2007年4月20日http://www.nichibenren.or.jp/library/ja/opinion/report/data/070420.pdf2009年7月19日閲覧 
  21. ^ 参議院法務委員会」『第153回国会』議事録、9巻、2001年11月22日。「参考人」
  22. ^ 参議院法務委員会」『第151回国会』議事録、10巻、2001年11月27日。「参考人」
  23. ^ 飲酒影響事故 危険運転致死適用2割 立証難しく 毎日新聞 2016年8月23日
  24. ^ 遺族が法改正求め約17万人の署名提出 鹿沼クレーン車児童6人死亡事故”. msn産経ニュース (2012年4月9日). 2012年5月27日閲覧。
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  26. ^ 危険運転致死傷 曖昧な適用基準を改めよ”. 西日本新聞 (2012年5月28日). 2012年7月9日閲覧。
  27. ^ ミナミ暴走 3人死傷、被告に懲役3年6月 大阪地裁 毎日新聞 2016年11月2日
  28. ^ 大阪・ミナミ3人死傷 判決 母涙「娘の命 ばかに」 17万人署名届かず 毎日新聞 2016年11月2日
  29. ^ 後絶たぬ悪質事故 遺族「危険運転適用拡大を」
  30. ^ 自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律案”. 法務省. 2013年11月20日閲覧。
  31. ^ “来月20日から悪質運転厳罰化…持病にも適用”. 読売新聞. (2014年4月18日). http://www.yomiuri.co.jp/politics/20140418-OYT1T50095.html 2014年4月18日閲覧。 [リンク切れ]
  32. ^ a b c “福岡・飲酒追突3児死亡、懲役20年確定へ”. 読売新聞. (2011年11月2日). http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20111102-OYT1T00899.htm 2011年11月3日閲覧。 
  33. ^ a b 脱法ハーブでの危険運転に実刑 京都地裁、全国初の判決”. 朝日新聞 (2012年12月6日). 2012年12月6日閲覧。
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  35. ^ 池袋の危険ドラッグ暴走事故、懲役8年の判決 東京地裁”. 朝日新聞デジタル (2016年1月15日). 2020年6月14日閲覧。
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