医療法人 財務

医療法人

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/08/04 07:59 UTC 版)

財務

医療法人は剰余金の配当ができない点(医療法第54条)で通常の営利法人とは区分されているが、残余財産分配(みなし配当)もできないために原則非課税となる公益法人等とはされていない。そのため社会医療法人を除く医療法人は、法人税等の税制面では原則的に営利法人と同じ扱い(法人税において23.2%)が適用される。さらにおこなえる事業の種類が非常に限定されていることから(医療法第42条)、比較的近い目的を持ち、税法上は公益法人等に当たる社会福祉法人(剰余金配当も残余財産分配も出来ないため法人税などは収益事業を行わないかぎり0%)とは法人の性質が異なっている。

なお、旧医療法では、持分を定めた社団医療法人は出資持分を定めることが可能である。この場合、旧厚生省が通達したモデル定款によれば、出資割合に応じてその払い戻しが可能と解釈されていた。

したがって、その法人の社員が死亡等の事由により退社した際、その相続人が、その出資持分を承継した場合、課税庁により、純資産価額方式(又は純資産価額方式及び類似業種比準価額方式)により払戻し時の時価により評価が行われる(財産評価通達194-2)。この場合、その相続人等が、持分を定めた社団医療法人の多額の相続税の返還請求を求めるケースがある。このため、多額の払戻しを請求された法人が解散に至ることもあり、課税庁と医療法人側がその出資評価をめぐって昭和50年代から60年代にかけて訴訟が提起されていた(東京地裁昭和53年4月17日判決, 行集29巻4号538頁参照)。平成22年4月8日最高裁判所判例によれば、定款に「払込出資額に応じて」という定めがある場合において、出資社員は退社時に払込出資額に応じて払戻しを請求することができる旨判示している(平成22年4月8日最高裁判所第一小法廷判決)[12]

現在は、医療法人の出資評価は、時価評価することが妥当であると説示されているため、課税実務では、依然として時価評価が行われている。

なお、改正医療法下(平成18年6月21日改正)においては、新たに医療法人を設立しようとする者は、社団形態は選択できるが、社員に対して持分の定めることはできない[13]。ただし、既に設立された持分を定めた社団医療法人については、改正医療法附則10条2項により「当分の間」存置されることとなった。この「当分の間」の解釈については、期限が設けられていないため、依然不透明である。

また、改正医療法が施行される2007年4月以降に医療法人を設立する際、解散時の残余財産の帰属先は「国、地方公共団体、公的医療機関の開設者、財団または持ち分の定めのない社団の医療法人」の中から選ぶことになる。

医療法人財団・持分の定めのない医療法人社団については、一定の要件を満たすことで、医療法第42条の2が規定する社会医療法人(旧医療法の特別医療法人は2012年3月末に廃止された)、あるいは、租税特別措置法67条の2に規定される特定医療法人(医療法の規定には存在せず租税特別措置法上の制度である)となることができる。

社会医療法人(旧医療法では特別医療法人)になった場合には、医療法人の目的は医療に専念することが基本ではあるが、附帯業務だけでなく収益業務を行うことができる。但し、通常の医療法人についても最近では老人ホームの運営など附帯業務について緩和される傾向にある。特定医療法人となった場合には、相続税法人税の減免を受けることもできる(法人税19%)。但しどちらの場合にも収入要件や役員の給与要件、残余財産の原則国庫への帰属など公益法人等と同じような要件を満たす必要がある。

社会医療法人については、公益法人制度改革(公益法人関連法令については、平成20年度施行)と併せて課税上の何らかの優遇措置が予定されていたが、公益法人制度改革においても、税制の優遇措置は長期課題とされているため、未だその措置については、不透明であった。 平成28年現在、社会医療法人は医療保健業の法人税は非課税とされており、救急医療などに使っている病院などの固定資産については、固定資産税や都市計画税は非課税とされている。

私法上の建前からいうと、法人格を有するのはあくまで医療法人であり、病院はその所有の客体となる資産にすぎないが、行政法規等ではあたかも病院そのものが法人格を有するかのように扱われることが多い点、注意を要する。

個人経営の病院や診療所に比べて、医療法人の資産が個人の資産と分離ができて効率よく経営ができるメリットがある。また税制にも有利になるといわれていたが、この近年の個人の所得税率の低下・医療法人化による事務コストの増加を精査すると、税務以外も考慮した総コストでは医療法人のメリットは大きく減殺されている。


  1. ^ 2019年 医療施設(動態)調査・病院報告の概況 (Report). 厚生労働省. (2019). https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/iryosd/19/. 
  2. ^ 平成22年3月末現在医療法人の基礎知識 - 厚生労働省
  3. ^ 令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(令和2年10月1日現在概数)”. 厚生労働省. 2022年8月3日閲覧。
  4. ^ 城南多胡病院の新築工事・起工式でした”. ウェブリブログ. 2022年9月15日閲覧。
  5. ^ 日本医療法人協会 年表”. 一般社団法人日本医療法人協会. 2022年8月10日閲覧。
  6. ^ “【独自】尾身理事長の医療法人がコロナ補助金などで311億円以上の収益増、有価証券運用は130億円も増加”. AERAdot. (2021年9月24日) 
  7. ^ 医療法の一部を改正する法律の施行に関する件(昭和25年8月2日発医第98号) (平成30年1月2日閲覧)https://www.mhlw.go.jp/topics/bukyoku/isei/igyou/igyoukeiei/tuchi/250802.pdf
  8. ^ a b 厚生労働省 医療法人数の推移(令和5年3月31日現在)(2023年8月4日閲覧)
  9. ^ 法人税法 別表第二で規定されている「公益法人等」とは分類が異なるので注意。
  10. ^ 厚生労働省 医療法人の業務範囲(平成30年3月30日現在) https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000207159.pdf
  11. ^ a b 厚生労働省 医療法人の附帯業務について(平成30年3月30日)https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10800000-Iseikyoku/0000205588.pdf
  12. ^ 裁判所 裁判例情報(2017年12月31日閲覧) https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/092/080092_hanrei.pdf
  13. ^ 医療法人制度改革 ~定款変更など -医師のみなさまへ”. 日本医師会 (2011年9月5日). 2015年3月1日閲覧。
  14. ^ 以上、医療法人の計算に関する事項について(厚生労働省医政局長通知)”. 厚生労働省 (2021年2月26日最終改正). 2022年6月3日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年8月17日閲覧。






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