医師 歴史

医師

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/11 04:39 UTC 版)

歴史

医師と患者が描かれた古代ギリシアの壺(紀元前480~470年頃のもの)

古代には病気というものに対して悪魔によるもの等と信じられていたため、「医師」という職業は世界各地で現在でも宗教と密接に関わっているものが多い。

西洋において「医」の象徴とされているのはギリシア神話に登場するアスクレピオスである。アスクレピオスの杖は世界保健機関(WHO)を含めて世界各国で「医」の象徴として用いられている。

古代西洋では、医師の社会的地位は比較的低かった。 古代ギリシアにおいては、医師は自由市民であるとは限らず、奴隷である医師もいた。自由市民は自由市民の医師が診察し、奴隷は奴隷である医師が診察した。また古代ローマにおいても、市民権は与えられたといわれるものの、医師の地位は高くなかった。これはローマにおいて往々に医師が被征服民のギリシア人が多く、更には奴隷階級とされた者も多かったためと考えられている。医師の社会的地位が高くなったのは中世ヨーロッパにおいてである。人の命に関わる重要な職業なので、専門職として特別な地位を与え、それに応じた責任が求められるようになった。

西洋においては、内科が知識主義に基づいて伸長したのに対し、外科は経験主義を基礎に伸長した。初期には床屋などから外科医となるものが多かった。

七十一番職人歌合』三十四番に描かれた室町時代の薬師(くすし)

東洋において「医」の象徴とされているのは一般に薬師如来が知られているように、日本においては「薬師(くすし)」と呼ばれた和漢薬の専門家が医師の起源となる。当時の薬学である本草学に基づき生薬を用いて診療を行った。日本の漢方医学中国の漢方医学とは16世紀頃分かれて独自の道を歩いている。律令制においては、典薬寮の下に官職としての「医師」が置かれた他、大宰府令制国にも医師が派遣されていた。

江戸時代においては士農工商の工に当たるとされたが、御典医などは士分に準ずる扱いを受けることもあった。鎖国下にあって西洋諸国に向けた唯一の公的な窓口であった長崎警備を受け持つ佐賀藩西洋医学の影響を強く受け、幕末期の1851年に「医業免札制度」を導入し、全ての医師に開業には免許を必須とした[2]

明治時代、西洋医学を日本に導入するため西洋から医者を招いた。また「医師」という呼称が用いられるようになったのは明治時代に入ってからである。それ以前は「医者」と呼んでいた。

日本では明治維新後の1874年、医師を免許制とする制度が導入され、1876年には新たに免許を受けようとするものは洋方六科試験合格が必要となることが内務省から通達され、漢方医を志す医師であっても西洋医学を学ぶことが必須とされるようになった[3]。現代の中華人民共和国韓国ではそれぞれ中医師韓医師という医師とは別の資格が並立している。


注釈

  1. ^ : physician
  2. ^ : surgeon
  3. ^ : doctor
  4. ^ : quack

出典

  1. ^ In 1949, Fildes' painting The Doctor was used by the American Medical Association in a campaign against a proposal for nationalized medical care put forth by President Harry S. Truman. The image was used in posters and brochures along with the slogan, "Keep Politics Out of this Picture" implying that involvement of the government in medical care would affect the quality of care. 65,000 Posters of The Doctor were displayed, which helped to raise public skepticism for the nationalized healthcare campaign. [1][リンク切れ]
  2. ^ 青木歳幸「種痘普及へ佐賀藩の先手◇西洋医学取り入れ天然痘撲滅を目指した先人の歩みを調査研究◇日本経済新聞』朝刊2021年11月10日(文化面)同日閲覧
  3. ^ 長与健夫「医学教育制度の変革・漢方から洋学へ:浅井国幹と長与専斎の相剋を中心にして」『日本医史学雑誌』第43巻第4号、1997年、p.p.92-95。 
  4. ^ a b c Training to become a doctor”. 国民保健サービス. 2015年8月1日閲覧。
  5. ^ a b 医師法第6条
  6. ^ 医師法第7条
  7. ^ 日本専門医機構公式HP
  8. ^ 患者の医師選びはどう変わる ~新しい専門医制度によるメリットを探る~|「医」の最前線”. 時事メディカル. 時事通信社 (2021年8月24日). 2022年1月1日閲覧。
  9. ^ 「あやしい医者総検診 風評をもとにチェック」『朝日新聞』昭和47年(1972年)1月15日朝刊、13版、23面
  10. ^ a b c d 平成24年医師・歯科医師・薬剤師調査 (Report). 厚生労働省. 2013-12. GL08020102。 {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  11. ^ 2004年医師・歯科医師・薬剤師調査の概況(厚生労働省)
  12. ^ (コラム)女性医師の仕事と育児の両立支援(内閣府 平成18年版 少子化社会白書 第3章 第1節 2 産科・小児科医療体制の確保)
  13. ^ MD, Robert H. Shmerling (2022年2月17日). “Does the sex of your surgeon matter? A new study says yes” (英語). Harvard Health. 2022年2月17日時点のオリジナルよりアーカイブ。2022年2月17日閲覧。
  14. ^ a b c d e f 医師の働き方改革の推進に関する検討会 (2019-03). 医師の働き方改革に関する検討会 報告書 (Report). 厚生労働省. {{cite report}}: |date=の日付が不正です。 (説明)
  15. ^ 「医師の労働実態調査」日本医療労働組合連合会[リンク切れ]
  16. ^ a b c d e 里見清一『医者とはどういう職業か』幻冬舎〈幻冬舎新書〉、2016年9月30日。ISBN 978-4344984295 
  17. ^ a b 太医署. コトバンクより。
  18. ^ 土屋, 悠子. “明代太医院制度の研究”. 2023年8月19日閲覧。
  19. ^ 小林雅夫「古典古代の奴隷医師」『地中海研究所紀要』第6巻、早稲田大学地中海研究所、2008年、45-54頁、ISSN 1348-2076NAID 40015988955 
  20. ^ Elliott, ジェイムズ・サンヅ・エリオット James Sands. “ギリシャおよびローマ医学の概観”. www.aozora.gr.jp. 青空文庫. 2022年10月11日閲覧。
  21. ^ The Medical Organization at the Ottoman Court”. Muslim Heritage (2009年3月26日). 2022年10月12日閲覧。
  22. ^ メディチ家』 - コトバンク
  23. ^ 「やぶ医者」実は名医のブランドだった…地に落ちた名声の理由、常識覆す語源説”. 読売新聞オンライン (2021年10月5日). 2023年8月13日閲覧。
  24. ^ a b 医者の不養生』 - コトバンク
  25. ^ doctors make the worst patients”. www.hmpgloballearningnetwork.com. 2023年8月13日閲覧。
  26. ^ Fferring, Sue (2006-04-01). “Doctors do make the worst patients” (英語). Journal of Family Planning and Reproductive Health Care 32 (2): 131–131. doi:10.1783/147118906776276224. https://jfprhc.bmj.com/lookup/doi/10.1783/147118906776276224. 
  27. ^ https://www.facebook.com/mainichishimbun.+“栄えある「やぶ医者大賞」に佐賀と福井の医師2人 兵庫・養父市”. 毎日新聞. 2023年8月13日閲覧。
  28. ^ やぶ医者大賞・プロジェクト事業”. www.city.yabu.hyogo.jp. 2023年8月13日閲覧。






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