割礼 割礼と病気

割礼

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/02 04:24 UTC 版)

割礼と病気

性感染症

性病は、包皮切除をしていれば症状が発生しにくい。この原因としては「包皮が取り除かれ、亀頭粘膜が角質化するため」、「性交後に膣分泌液が包皮の裏に残らなくなるため」、「性器が乾きやすくなるため、ウイルスが粘膜上で生存する可能性が低減される」、「包皮には 性感染症の標的となる細胞が多数存在するのだが、包皮を切除することによってその標的細胞の数が減るため」といった理由が考えられている。

だがいずれも複数の人間との無分別な性行為をしなければ感染のリスクは低い。また、包皮の有無に関わらず多くの性病に関しては陰茎の洗浄を行っているかが重要である。ただし、複数の異性との無思慮な性行為を常とする男性の場合には、性行為に伴う性病感染予防の観点からは利点は存在する。ウイルスが表面上に滞在する期間によって感染率が異なるのであれば、性行為後に念入りな洗浄を行えば包皮の有無は関係しなくなる。

また、性感染症のリスクは感染源のウイルスを持つ女性器への挿入時間によっても大きく異なることになるが、一般に包皮を持つ男性は亀頭が刺激に慣れていないため包皮が無い男性に比べて射精までの時間が短いと言われている。つまりウイルスの滞在期間や滞在箇所の湿度、環境にのみ観点を置く限りは包皮の有無と性感染症の関連性を実証出来ない。

AIDS

包皮切除(割礼)を受けている男性は、受けていない男性よりも大幅にHIV陽性率が低い、もしくはエイズ罹患率が低いという話もある。現在イスラム圏である西アフリカのエイズ罹患率が南部アフリカよりも大幅に低いのは、割礼(包皮切除)を受けている男性の割合が高いことが一因であるという研究もある。この原因はHIVの対象となるCD4陽性T細胞ランゲルハンス細胞が包皮に多くあり、それが切除されるためと言われている。

ベルトラン・オヴェールの研究(成人に割礼を行わせ、「受けた群」と「受けない群」の2群を比較した)などを見る限り、割礼はエイズ感染に何らかの予防効果を持つ。ただ、オヴェール自身は安易にその事実を持ち出して割礼を受けさせる事は、複数人との安易な性行為の増加につながりかねないという警告を同時に行っている。現にアフリカではこの研究結果を信じて、コンドームを着けない人が増えたため、更にエイズが拡散されるという事態に陥っている。この研究結果をどれだけよく見積もったとしても、最大で60%の効果しかないので、結局はコンドームをつけないとエイズは防げない。(Westercamp 2010)。

インドでは 1993年から2000年にかけて HIV 未感染の男性2298人についての追跡調査が行われた。約1年間の調査期間中に感染が見られたのは割礼を受けている191人中では2人であったが、受けていない 2107人では165人に感染であった。 介入試験ではフランス国立エイズ研究機関 (ANRS) により南アフリカで男性3000人に対して実施された試験では感染率は約1/3になるとされ、イリノイ大学によりケニアで男性2784人を対象に行われた試験では60%のリスク低減が、ジョンズ・ホプキンス大学によりウガンダで男性4996人を対象に行われた試験では51%のリスク低減が判明している。これらの試験はいずれも途中で、試験の中止および被験者全員への割礼が勧告されている。 これらの研究から、衛生的・医学的に行われた男性割礼はエイズ感染を予防する有用な方法として認められ[14]UNAIDSを中心に特に東部・南部アフリカでの自発的医学的男子割礼 (VMMC : voluntary medical male circumcision) によるエイズ感染予防策が推進されている。


しかし一方で、いくつかの研究から割礼ではエイズ感染を防ぐことができないとする研究者もいる(Connolly 2008)。また結果が判明する前に試験が中断されるなど、これらの調査方法におけるいくつもの欠陥を指摘する研究者も多い。例えば、アフリカで実施された研究では男女間での性交のエイズのリスクしか調査対象になっておらず、同性間での性交、注射器のうち回しによるエイズのリスクが考慮されていない。そして試験が行われた土地の範囲が狭く、エイズのリスクが軽減したという報告する試験結果もまだ3件しかないので、未だ定説には至っていない。一方で、パートナーの男性が割礼済みであっても、性交をする相手の女性や男性のエイズ感染のリスクが下がることはないことも指摘されている(Wawer 2009, Jameson 2009)。[15]


  1. ^ a b 『宗教学事典』丸善出版、2010年、626頁。 
  2. ^ 『宗教学事典』丸善出版、2010年、627頁。 
  3. ^ 定義には諸説あるが、イスラエルの帰還法においては、ユダヤ人の母を持つかユダヤ教に改宗したものが「ユダヤ人」であると定義されている
  4. ^ 「スンナ」としての解釈は一定ではない
  5. ^ ただし『出エジプト記』の第4章第24-26節では、(長い間エジプトに住んでいたうちにこの風習が廃れたらしく)モーセでさえ息子の割礼をしないでいて、妻ツィポラ(アブラハムの子孫だがイスラエルとは別系統の民族出自)がしたとか、『ヨシュア記』第5章第2-6節でも出エジプトの時にいったん全員やっていたもののその後40年間やらなかったといった記述がある。
  6. ^ 『新聖書辞典』いのちのことば社出版部、1985年9月20日、304頁。 
  7. ^ 禁止自体は第1の1:48、具体的な刑罰例は第2の6:10にある。
  8. ^ より正確には3代前のドミティアヌス皇帝の出した「去勢を(未来の子供に対する)殺人に準じたものとして禁ずる」法律があり、ハドリアヌスの代でそれは拡大解釈され生殖器を傷つける行為全般が禁止になった。
  9. ^ E・シューラー『イエス・キリスト時代のユダヤ民族史II』、古川陽 訳、株式会社教文館、2012年、P318-319・P342-344注訳
  10. ^ デイヴィッド・ライマーを参照
  11. ^ ユダヤ教とイスラム教が割礼保護で共闘、ドイツで異例の合同デモ”. ロイター. 2012年9月13日閲覧。
  12. ^ “「割礼」揺れるドイツ 宗教と法律”. msn産経ニュース. (2013年1月14日). http://www.sankei.com/west/news/130114/wst1301140033-n1.html 2014年1月15日閲覧。 
  13. ^ 白濱亜嵐、10歳で衝撃の割礼体験を語る 「ハサミでジョキンッて切られて…」”. fumumu (2021年12月1日). 2022年7月6日閲覧。
  14. ^ WHO/UNAIDS New Data on Male Circumcision and HIV Prevention: Policy and Programme Implications” (PDF). unaids.org. 2011年1月6日閲覧。
  15. ^ More Circumcision Myths You May Believe: Hygiene and STDs


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