出産
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 01:32 UTC 版)
「分娩」と比較して「出産」や「お産」はより一般的な語であり、社会的・文化的側面も含まれている。生物学的に言えば、出産は胎生の動物における雌の胎部から胎児が出ること、或いは出すことを指す語である。出産後の妊婦が元の状態に戻るまでの約6 - 8週間の期間を、産褥期(さんじょくき)」と呼ぶ[2][3]。
出産にまつわる用語・概念
性行為または不妊治療などの生殖医療の利用によって受精後平均266日、胎児が十分成熟して体外に出る場合を正期産と呼ぶ。正期産に至るまでの期間や出産時の成熟度は種によってまちまちである。標準より早い場合は「早産」、さらに事故に近い場合を「流産」、遅い場合は「過期産」と呼ぶ。
出産前、あるいは最中に羊膜が破れ、羊水が出ることを破水(はすい)という。出産後、胎盤などが排出されることを後産(あとざん・のちざん)という。
分娩が比較的楽な場合は「お産が軽い」(安産)、何らかの困難を伴う場合は「お産が重い」(難産)という言い方をする。カンガルーのようにごく小さく産む種では出産は軽いが、大型草食動物のように胎児を十分に成長させてから出産する場合や、ヒトのように骨盤底骨が発達している場合、骨盤下口が胎児とくらべて狭いので、胎児が大きい場合出産は重くなる。ヒトの中でも初産年齢や恥骨結合の状態などで異なる。
江戸時代における出産
江戸時代における出産に関する記録のなかで、産婆については「産婆にふさわしい人」として
- 穏やかで強情を張らない
- 物事に動じない
- 心身ともに元気
と記されている[4]。大名行列を横切ることも、出産の取り上げに向かっている産婆には特例として許されていた。産科の医者は存在していたが、全て男性だったため、恥ずかしさの余り医者に身を委ねる妊婦は少なかった。その為、産婆だけでも安全な分娩が出来る様に指導書が出版されていた[5]。また出産に関連する物として
- 『肩畳(かただたみ)』(出産の時に妊婦が寄り抱える様に設計されたという珍しい畳)[6]
- 『安神散(あんじんさん)』(婦人病や気つけに用いられる粉薬。「売薬資料館」(富山県)に実物がある)[7]
- 『力綱(ちからつな)』(縄を天井に張り、出産時にしがみつく縄。縄産綱【なわうみつな】ともいう)[8]
- 『竹刀(ちくとう)』(へその緒を切るのに使用)
- 『産籠(さんかご)』(漆塗りの椅子で、出産後の妊婦を座らせる。主に富裕層の人々が持っている「洛東遠芳館」(京都府)に実物がある)[7]
がある。そして、出産時は座らせて行っていた。そして出産後は「頭に血が上ってはいけない」という俗説から、座ったまま7日間不眠で過ごさなければならなかった(意識を失って死んでしまうのを恐れたため)[7]。
生物学的側面
出産は子供にとっては母親からの生理学的に独立した存在になることを意味する。これまでは胎盤を通じて母親から栄養を補給され、母親に排出物処理を依存し、酸素や二酸化炭素などのガス交換も胎盤を通じて行っていたものが、出産によって全て自分で処理しなければならなくなる。産まれた子がまず最初にしなければならないことが、肺への外気の吸入である。産声には、この活動を促進する意味があるとされる。
また、母胎の酸素分圧の低い血液から酸素を受け取るための胎児性赤血球は、数日のうちに通常の赤血球と置き換えられる。その際、赤血球の分解にともなって黄疸の症状が出る。
母親の側から見れば、出産は妊娠の終了と共に育児の開始である。生理的には胎盤から放出されていた女性ホルモンの分泌の停止と共に、妊娠状態は解除され、プロラクチンが放出され母乳の分泌が促進され、子への愛情が高まる(と同時に、子以外の人々への攻撃性が高まる)。
注釈
- ^ 日本語では「出産」に「する」をつけ加えれば、述語(動詞)的にも使えるが、英語では「~を出産する」という表現は「give birth to ~」或いは「deliver~」である。
出典
- ^ 広辞苑「出産」
- ^ “母子ともに健やかに…産後のすごし方|女性のための健康ラボ Mint+”. 女性のための健康ラボ Mint+. 2022年1月17日閲覧。
- ^ “産褥期の概要 - 22. 女性の健康上の問題”. MSDマニュアル家庭版. 2022年1月17日閲覧。
- ^ タイムスクープハンター(NHK総合1ch 11:30~0:00)2013年5月4日放送分 第5話『守れ命!奇跡の出産記録』番組内説明に登場する資料→『婦人寿草(ふじんことぶきぐさ)』(江戸時代の医学書)より。
- ^ タイムスクープハンター(NHK総合1ch 11:30~0:00)2013年5月4日放送分 第5話『守れ命!奇跡の出産記録』番組内説明に登場する資料→1830年『坐婆必研(ざばひっけん)』助産技術が記された産婆のための指導書。(国立国会図書館 所蔵)
- ^ タイムスクープハンター(NHK総合1ch 11:30~0:00)2013年5月4日放送分 第5話『守れ命!奇跡の出産記録』番組内説明に登場する資料→『風俗画報二号』(国立国会図書館 所蔵)より。
- ^ a b c タイムスクープハンター(NHK総合1ch 11:30~0:00)2013年5月4日放送分 第5話『守れ命!奇跡の出産記録』番組内説明
- ^ タイムスクープハンター(NHK総合1ch 11:30~0:00)2013年5月4日放送分 第5話『守れ命!奇跡の出産記録』番組内説明に登場する資料→『婦人寿草』より。
- ^ 男も知らないとヤバイ「産活」事情:PRESIDENT Online PRESIDENT 2010年3月15日
- ^ “産活”市場女性の体をサポートするサービスに商機 ドラッグストアニュースPick-Up ダイヤモンド・オンライン 2010年8月12日
- ^ ブリタニカ国際百科事典「自然分娩」
- ^ a b “コンドーム1つでできる驚きの命の救い方”. m3.com (2020年12月28日). 2021年1月14日閲覧。(要登録)
- ^ “(1)弛緩出血”. 日本産婦人科医会. 2021年1月14日閲覧。
- ^ “世界で最年少の母親、5才のリナ・メディナ”. マイナビウーマン (2014年11月18日). 2023年10月28日閲覧。
- ^ “73歳女性が双子を出産、最高齢か インド”. CNN (2019年9月7日). 2023年11月3日閲覧。
- ^ “ギネス記録の9つ子ちゃん 元気に2歳のお祝い 集合写真も一苦労”. テレ朝news (2023年5月10日). 2023年10月28日閲覧。
- ^ 「自宅出産は死亡率3倍」 論文の警告に耳傾けて Archived 2011年1月28日, at the Wayback Machine.
- ^ a b 厚生労働省>審議会>社会保障審議会>医療分科会>福祉行政報告例>9ページ>出産場所
- ^ 厚生労働省>審議会>社会保障審議会>医療分科会>福祉行政報告例>35ページ>妊産婦死亡率の年次推移
- ^ 厚生労働省>審議会>社会保障審議会>医療分科会>2008年11月>1~2ページ>妊産婦死亡率の年次推移
- ^ 厚生労働省>平成22年人口動態統計の概況>死産率・周産期死亡率
- ^ 厚生労働省>審議会>社会保障審議会>医療分科会>福祉行政報告例>37ページ>死産率の年次推移
- ^ 厚生労働省>審議会>社会保障審議会>医療分科会>2008年11月>4ページ>周産期死亡率の年次推移
- ^ 厚生労働省>審議会>社会保障審議会>医療分科会>福祉行政報告例>38ページ>新生児死亡率の年次推移
- ^ WHO>World Health Statistics 2012>63~83ページ>Cause-specific mortality and morbidity>Maternal mortality ratio
- ^ WHO>World Health Statistics 2012>51~61ページ>Life expectancy and mortality>Stillbirth rate , neonatal mortality rate
- 1 出産とは
- 2 出産の概要
- 3 社会的・文化的側面
- 4 脚注
出産と同じ種類の言葉
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