冪乗 歴史

冪乗

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/23 07:50 UTC 版)

歴史

歴史上に冪が現れたのは非常に古く、B.C.16世紀ごろに作成された粘土板には平方数表、平方根表、立方根表や三平方の定理について書かれており[1]、エジプト、インド、ギリシアなどでも冪の概念は明示されている。一方で、指数法則に言明する文献は見当たらず「指数概念」には未だ到達していないと考えるべきであるが、冪を意味する英単語 "power" はギリシアの数学者エウクレイデス(ユークリッド)が直線の平方を表すのに用いた語に起源がある[2]。また、「原論」において指数法則 am × an = am+n に相当する命題に言及している[1]が、この時代には算式は発明されておらず、すべて言葉で表現していた[1]

記法

アルキメデス10 の冪を扱うために必要となる指数法則 10a • 10b = 10a + b を発見し、証明した(『砂粒を数えるもの』を参照)。9世紀に、ペルシアの数学者アル゠フワーリズミは平方を mal, 立方を kab で表した。これを後に中世イスラムの数学者がそれぞれ m, k で表す記法として用いていることが、15世紀ごろのアル゠カラサディ英語版の仕事に見ることができる[3]

16世紀後半、ヨスト・ビュルギは冪指数をローマ数字を用いて表した[4]

17世紀初頭、今日用いられる現代的な冪記法の最初の形は、ルネ・デカルトが著書 La Géométrie の一巻において導入した[5]

アイザック・ニュートンなど一部の数学者は冪指数は 2 乗よりも大きな冪に対してだけ用い、平方は反復積として書き表した。例えば、多項式を ax + bxx + cx3 + d のように書いた。

用語

15世紀にニコラ・ショケ英語版は冪記法の一種を用い、それは後の16世紀にハインリヒ・シュライベル英語版およびミハエル・スティーフェル英語版が用いている。

16世紀にロバート・レコードは、square(二次), cube(三次), zenzizenzic(四次), sursolid(五次), zenzicube(六次), second sursolid(七次), zenzizenzizenzic(八次英語版)の語を用いた[6]。4 乗については biquadrate(複二次)の語も用いられた。

歴史的には "involution" が冪の同義語として用いられていた[7]が現在では稀であり、別の意味(対合)で用いられているので混同すべきではない。

冪指数

冪の肩に書かれる数のことを冪指数と呼ぶ[8]が、冪指数を意味する用語として、英語ではしばしば exponent と index が同義語として用いられる。この用語選定は18世紀、19世紀を通じて極めて曖昧で個人の嗜好に委ねられていた[9]。しかし、ガウスは、その著書 Disquisitiones Arithmeticae において通常の冪指数と数論的な指数を峻別する必要性から exponens は通常の冪指数、index は数論的な指数を表すものとして明確に区別し使い分けて解説に使用しており、この使い分けはディリクレ、デデキント、ヒルベルトを通じて数論の世界での標準となった[9]

もとをたどれば、1544年にミハエル・スティーフェルがラテン語: "exponens" を造語し[10][11]、対して1586年にラザルス・シェーナーが数学者ペトルス・ラムスの書籍への補注としてラテン語: "index" を(スティーフェルが exponens と呼んだものと同じものを指す意味で)用いた[12]のがそれぞれの語源と考えられる。exponent と index はこれらの英語翻訳であり、例えば index はサミュエル・ジーク英語版が1696年に導入した[2]

exponentindex の微妙な使い分けと併用の時代はここから始まり、その併用のされ方は国と時代だけでなく個人によっても異なった。イギリスは当初 index が優勢であり、これは聖バーソロミューの大虐殺で殉死したラムスの著作がプロテスタント諸国で非常に人気を集めたからだとの指摘がある[13]

日本語「冪」

『冪』の字義は「覆う、覆うもの」であって、『』と同音同義である。江戸時代和算家は「冪」の略字として「巾」を用いていた[14]

第二次世界大戦後の漢字制限政策のもと、これらの字は常用漢字当用漢字に含まれず、1950年代以降の学習参考書などの出版物では仮名書きで「べき乗」または「累乗」への書き換えが進められ、結果として初等数学の教科書ではもっぱら「累乗」が用いられた。

冪集合」、「冪級数」などの高等学校以下で扱われない多くの概念に対しては、「冪」の部分が置き換えられることはなく、例えば「べき乗集合」や「累乗集合」などといった表現はあまり生じていない。


  1. ^ 単に「指数」と呼ぶ場合、"exponent" に限らず、(数学に限っても)種々の index を意味する場合も多く、文脈に注意を要する(たとえば部分群の指数)。また、(必ずしも冪指数のことでない)"exponent" の訳として冪数が用いられることもある(たとえば群の冪数)。
  2. ^ このような実函数の複素解析的延長は一意に定まる。
  3. ^ 乗算回数は、 を計算するのに 5 回、 に 3 回の、合計 8 回かかる。
  4. ^ この場合の乗算回数も、下位桁から計算するのと同じく合計 8 回かかる。





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