写真 歴史

写真

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/02 21:41 UTC 版)

歴史

カメラ・オブスクラの原理

写真発明以前

写真が発明される19世紀以前にも、光を平面に投影する試みは行われていた。写真の起源は、紀元前、古代中国春秋時代墨子や、アリストテレスの頃から知られていた、ピンホール現象にまでさかのぼる[16]。この現象を利用したカメラ・オブスクラの開発と、像を固定させる化学的処理のプロセスの発見が組み合わされ、写真術が誕生することになる[17]

画家達は、16世紀頃には立体の風景を平面に投影するために、デッサンの補助具としてカメラ・オブスクラを活用した[17]。これらの初期の「カメラ」は像を定着(写真用語の「定着」ではない)することはできず、単に壁に開いた開口部を通して暗くした部屋の壁に像を投影するだけのもの、つまり部屋を「大きなピンホールカメラにしたもの」だった。18世紀には、銀とチョークの混合物に光を当てると黒くなるというヨハン・ハインリヒ・シュルツェによる1724年の発見をはじめとして塩化銀やハロゲン化銀など化合物の一部は感光すると色が変わることが知られており遊戯などに用いられていたものの、これとカメラ・オブスクラなどを組み合わせる発想はなかった。

写真発明以降

“Un cheval et son conducteur”(馬引く男)、ニセフォール・ニエプス、1825年ごろに版画を撮影したものとされる
ニセフォール・ニエプスによって撮影された写真のひとつ(1826年〜1827年ごろ)

19世紀初めに、カメラ・オブスクラの映像と感光剤とを組み合わせ映像を定着させる写真の技術は、ほぼ同時に多数発明された[18]。このとき美術は新古典主義ロマン主義の並存する時期であった。また、大勢誕生した中産階級によって肖像画の需要が高まっていた。そして、石版画の技術が新聞図版や複製画などに活用され、広まりつつあった。

現存する世界最古の写真は、1825年ニセフォール・ニエプスが撮影した「馬引く男」(Un cheval et son conducteur)である。

現代の写真処理は1840年から最初の20年の一連の改良を基底とする。ニエプスによる最初の写真のあと、1839年にはダゲレオタイプが発表された。写真の誕生は同年、パリの科学と芸術の合同アカデミーで、科学者のフランソワ・アラゴーによって公式に宣言された[19]。直後にカロタイプも発表された。

写真の普及は肖像写真の流行、1851年湿式コロジオン法の発明、1871年ゼラチン乾板の発明へと続いた。1884年、ニューヨークのジョージ・イーストマンは紙に乾燥ゲルを塗布する方式を開発し、もはや写真家は乾板の箱や有毒な化学物質を持ち歩かなくて済むようになった。1888年7月、イーストマンの設立したコダックカメラが「あなたはボタンを押すだけ、あとはコダックが全部やります」との触れ込みで市場に参入した。こうして現像サービス企業が登場し、誰でも写真撮影が可能な時代となり、複雑な画像処理の道具を自前で持つことが必要ではなくなった。1901年にはコダック・ブローニーの登場により写真は市場に乗った。1925年ライカなどの登場で一般性、可搬性(カメラの持ち運びやすさ)、機動性、フィルム交換のしやすさが高まってスナップ写真が広まるなどした。20世紀以降、カラーフィルム(多色フィルム)やオートフォーカス(自動合焦:ただし必ず自動で合焦するわけではない)やオートエキスポーズ(自動露出)が広まった。画像の電子記録も広まっている。

現在ではデジタルカメラの液晶画面によるインスタントプレビューが可能であり、高画質機種の解像度は高品質の35mmフィルムのそれを越えているとも言われるようになった。コンパクトデジタルカメラの価格は大幅に低下し、写真を撮ることはより容易になった。しかし、もっぱらマニュアル露出、マニュアルフォーカスのカメラと白黒フィルムを使う撮影者にとって、1925年にライカが登場して以来、変わった点はほとんどないとも言える。2004年1月、コダックは「2004年末をもって35mmリローダブルカメラの生産を打ち切る」と発表した。フィルム写真の終焉と受け止められたが、当時のコダックのフィルムカメラ市場での役割は小さなものであった。2006年1月、ニコンも同様にハイエンド機F6とローエンド機FM10を除いたフィルムカメラの生産を打ち切ると発表した。同年5月25日キヤノンは新しいフィルム一眼レフカメラの開発を中止すると発表したものの、販売するフィルム一眼レフカメラが1機種になったのは2008年になってからであり、2004年1月のニコンの発表以降も4機種ものフィルム一眼レフカメラを供給していた。35mmカメラおよびAPSコンパクトカメラの値段は下落してきた。恐らく直接的なデジタルカメラとの競争と中古フィルムカメラ市場拡大が原因である[要出典]


注釈

  1. ^ ピンホールのように絞ってしまうと、像の絶対的な暗さのために、回折現象による像のボケ(いわゆる小絞りボケ)によって結局ピンボケ的な像になってしまうため、この目的のための適切な絞りは各種の諸元に基づいた、ある程度の値となる。目安の一つは、多くの製品ではそれに組み込まれている絞りの最小設定値である(顕微鏡など、絞らない状態で最適になるよう設計される機器もある)。一般的には、フォーカスを適切に設定した上で、ピントを合わせたい範囲の最近接距離と無限遠における錯乱円が、意図する許容範囲に入る所まで絞り込む。
  2. ^ ジョージ・ガーシュウィンの従兄弟で、レオポルド・ゴドフスキーの息子である。
  3. ^ 感光樹脂は貯蔵中に劣化が避けられない。
  4. ^ 例:レンズが通常のものだったか広角だったか、どのフィルターを使ったかなど。
  5. ^ 例:撮影時にカメラが斜め視点から撮影してたので、プリント時に修正した。
  6. ^ アナログ写真でプリントだけではなく「ネガフィルムの提出」を求められるのと同様である。
  7. ^ 元々35mmフィルムは映画用フィルムであり、このフォーマットは映画フィルムの1フレームサイズであるため「シネマ版=シネ版」であったが35mmフィルムを写真用として定着させたライカ版を「35mmフルサイズ」とする考え方から写真用途においては「ハーフサイズ」として定着している。
  8. ^ ドガはアングルを尊敬していたことも知られている。

出典

  1. ^ 日高優 編 2016, p. 24.
  2. ^ 増井金典『日本語源広辞典』ミネルヴァ書房
  3. ^ 日高優 編 2016, p. 27.
  4. ^ 「星男ルポ 冷却カメラひとすじ古田俊正さん」『天文ガイド別冊 天体写真NOW』第1号、誠文堂新光社、1977年、54頁。 
  5. ^ Benjamin S. Beck (2011年12月14日). “First colour photo” (英語). 2012年1月8日閲覧。
  6. ^ 日本写真学会 編『写真工学の基礎』(非銀塩写真編)コロナ社、1982年12月。ASIN B000J7IV3CNCID BN0137506XISBN 4-339-06564-1、ISBN-13:978-4-339-06564-0、全国書誌番号:83010853 
  7. ^ 菊池眞一、「電気化学と写真化学の間」『生産研究』 1969年 21巻 8号 479-486頁, 東京大学生産技術研究所
  8. ^ 『有機系非銀塩感光材料』学会出版センター、1992年1月。ISBN 4-7622-5711-7、ISBN-13:978-4-7622-5711-7。 
  9. ^ 高分子学会 編『光機能材料』共立出版〈高分子機能材料シリーズ ; 第6巻〉、1991年6月。ISBN 4-320-04281-6、ISBN-13:978-4-320-04281-0。 
  10. ^ 笹井明、「非銀塩写真の動向」 『テレビジョン』 1965年 19巻 11号 p.795-799, doi:10.3169/itej1954.19.795
  11. ^ a b アサヒカメラ』、朝日新聞社、2006年6月。 
  12. ^ 300年データを保つゴールドディスク - ITmedia NEWS
  13. ^ 金の反射膜で寿命2倍 長期保存用DVD-R、三菱化学メディアが発売 - ITmedia NEWS
  14. ^ N・E・ゲンジ(N,E.Genge) 著、安原和見 訳 『犯罪現場は語る 完全科学捜査マニュアル』株式会社河出書房新社、2003年、ISBN 4-309-20394-9、p.275-277、300-301「デジタル写真を法廷証拠にするための注意事項」
  15. ^ N・E・ゲンジ(N,E.Genge) 著、安原和見 訳 『犯罪現場は語る 完全科学捜査マニュアル』株式会社河出書房新社、2003年、ISBN 4-309-20394-9、p.280-285
  16. ^ 日高優 編 2016, p. 28.
  17. ^ a b 日高優 編 2016, p. 29.
  18. ^ 日高優 編 2016, p. 31.
  19. ^ 日高優 編 2016, p. 25.
  20. ^ a b 日高優 編 2016, p. 36.
  21. ^ 日高優 編 2016, p. 31-32.
  22. ^ a b 日高優 編 2016, p. 33.
  23. ^ 日高優 編 2016, p. 30.
  24. ^ a b 日高優 編 2016, p. 32.
  25. ^ 日高優 編 2016, p. 35.
  26. ^ 写真工業出版社『ファインプリントテクニック:高品質モノクロプリントのすべて』写真工業出版社〈Photo expert〉、1992年。ISBN 4-87956-029-4OCLC 675466171全国書誌番号:93030321 






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