光ファイバー 素材による分類

光ファイバー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/04/28 14:57 UTC 版)

素材による分類

プラスチック製・光ファイバー

プラスチック製・光ファイバー(Plastic optical fiber)は、ガラス製の物に比べて以下の点で特徴がある。

  • 伝送損失が大きく、長距離高速伝送に向かない。
  • 安価である。
  • コア径が太く曲げに強い。
  • 光ファイバー同士の接続や光ファイバーと機器との接続が比較的容易である。
  • 比重が小さく軽量である。

そのため、近距離の伝送に用いられる。

プラスチック製・光ファイバーの材料

クラッド材料には、低屈折率をもつフッ素系ポリマーが用いられる。コア材料には、高屈折率、透明性、強度などが必要とされる。以下のものがよく用いられている。

完全フッ素化ポリマー
完全フッ素化ポリマーは、C-H結合をC-F結合に完全に置換し振動吸収を長波長側へ変化させ、光学損失を軽減するために用いられる。GI型で用いられていて、光学特性の面から注目されている。
ポリメタクリル酸メチル系
ポリメタクリル酸メチル(PMMA)系物質は、以下の特性からSI型で用いられている。
  • 安価
  • 機械的特性が良好
  • 可視光の透過性が良好
  • 原料からファイバ製品まで完全密閉で連続製造可能。
ポリカーボネート
ポリカーボネートは、PMMAに比べて耐熱性が高いため、自動車用などに用いられる。
ポリスチレン
ポリスチレンは、ベンゼン環を有するため可視領域での損失が大きい。
含重水素化ポリマー
重水素ポリマーは、C-H結合をC-D結合に一部置換し振動吸収を長波長側へ変化させ、光学損失を軽減するために用いられる。強度特性の低下はないが、吸水による光学特性の劣化が大きくなる。

プラスチック製・光ファイバーの製造法

  1. モノマー製造:
  2. モノマー精製: モノマーの純度を上げて特性の低下を防ぐ。
  3. 重合: 一定の分子量になるように反応させる。
  4. 溶融紡糸: 溶融した状態で、コアを内層・クラッドを外層とする糸にする。
  5. 被覆: 表面に別の高分子を付着させ保護層とする。

ガラス製・光ファイバー

MCVD法
OVD法
VAD法
光ファイバー線引き装置

ガラス製・光ファイバー(Glass optical fiber)は、コア、クラッド共に石英ガラス(シリカ・ガラス)が用いられる。光を閉じこめて伝播させるにはコアとクラッドに屈折率差が必要なため、コアには屈折率を上げるためにGe(ゲルマニウム)やP(リン)、クラッドには屈折率を下げるためにB(ホウ素)やF(フッ素)などが添加される。プラスチック製・光ファイバよりも伝送損失が小さいため、長距離伝送用の光ファイバーとしてよく用いられる。通信に用いる場合、伝送損失を下げる必要があるため、コア材料は最大の透明度が得られるように高純度のシリカ・ガラスが使われている。特に含水量(OH基)は数ppmまでに低減させている。これにより、伝送損失は0.3 dB/km以下に抑えられている。

ただし、海底ケーブルは長距離であるため、シリカ・ガラスよりもさらに伝送損失が小さいフッ化物ガラスが用いられる。

プラスチック製光ファイバーに比べて以下の特徴がある。

  • 伝送損失が小さく特性が良いので、長距離高速伝送に適合する。
  • コア径が細く曲げに弱い。
  • 光ファイバー同士や光ファイバーと機器との接続に、正確な軸あわせのできる特殊工具や機械的強度のある接続器具が必要である。
  • 比重が大きく重い。
  • 高価である。

ガラス製・光ファイバーの製造法

ガラス製・光ファイバーの製造は母材製造(プリフォーム)と線引きの2段階よりなる。

母材製造
MCVD法(Modified chemical vapor deposition method)
天然水晶から精製された石英ガラス管内にO2ガスによって気化したSiCl4、GeCl4、POCl3ガスを混合して送り込む。この管の外側から水素・酸素バーナーによって、摂氏1,600-1,800度まで加熱すると、送り込まれた酸化物ガスは一度「スート」(Soot)と呼ばれるガラス微粒子の集合体になって回転している石英ガラス管の内面に堆積してゆく。スートはバーナーからの熱を受けてより高温になって透明ガラスの層に変化する。このような堆積操作を100回程度行い、最後に管の内側に所要のガラス層が積層された石英管をさらに加熱し、中心部をつぶして母材とする。
OVD法(Outside vapor deposition method)
MCVD法と同様にArガスを使ってSiCl4とGeCl4などのガラス原料ガスの蒸気を作りH2とO2のガスで加熱したターゲットロッドの側面に吹き付けてスートを堆積させる。スートが十分に成長すれば、ターゲット・ロッドをスートの管状堆積体(スート母材)から引き抜き、次にスート母材を高温加熱によって焼結して、管状で透明な光ファイバー母材を得る。
VAD法(Vapor phase axial deposition method、気相軸付け法)
水素酸素混合気体の火炎中で、高純度のSiCl4や屈折率に変化を持たせるGeCl4などを燃焼させることにより、不純物の少ないガラスを精製し、種となる棒の上に積もらせ、棒を移動させることにより長くしていく方法である。内周部と外周部で添加物の種類や濃度を変えることによりGI型のコアの形成やコアとクラッドの同時形成ができる。大型の母材を精製することができるため、低コストで光ファイバー芯線を製造することができる[4]
上記3つの代表的なガラス製・光ファイバーの製造方法では、ガス化した原料の使用によって送り込む添加物の種類や濃度をコントロールすることが容易であるため、屈折率分布が複雑なファイバーや、特殊な元素をドープしたファイバーを比較的容易に製造することができる。
線引き
製造された母材を縦方向にして約2000℃にした電気炉にいれ、石英が溶けて自重で糸状に引き伸ばされて垂れてきたものを、保護樹脂で被覆して巻き取り、光ファイバー素線とする。

フッ化物ガラス製・光ファイバー

石英系のガラス製・光ファイバーと主要組成が異なり、ZrF4(フッ化ジルコニウム)やAlF3(フッ化アルミニウム)などを主成分とする光ファイバー。製造および加工が非常に難しく、製品化できている企業は世界で数社しかない。石英系のガラス製・光ファイバーと比べて以下のような特徴があるので、伝送用以外の用途で使用されている。

  • AlF3系は3.5 μm、ZrF4系は4.0 μmまで損失の増大がない。
  • 希土類元素を添加した際の優れた発光特性。

注釈

  1. ^ 「clad」は基本的に日本国内で用いられる呼称。英語圏では「外装」を意味する「cladding」が用いられる
  2. ^ 以下、損失は dB/km の単位を用いて記す。
  3. ^ TOSLINKは東芝が開発した光デジタル音声端子の規格である。

出典

  1. ^ 斎藤和彦, 「プラスチック光学繊維」『高分子』 1973年 22巻 8号 p.436-441, doi:10.1295/kobunshi.22.436
  2. ^ 世界初の標準外径19コア光ファイバを開発し、伝送容量の世界記録を更新”. プレスリリース・ニュースリリース配信シェアNo.1|PR TIMES. 2023年4月28日閲覧。
  3. ^ 大河原 2008
  4. ^ a b c 須藤, 横浜 & 山田 2006
  5. ^ 岩崎 & 福井 2006, p. 126
  6. ^ 光ファイバ、dB、減衰および測定の概要シスコシステムズ、2008年1月24日
  7. ^ 関 壮夫、根岸 博、「光線通信方式ノ改良」、特許第125946号
  8. ^ http://www.sikhfoundation.org/people-events/dr.-narinder-kapany-the-man-who-bent-light/
  9. ^ Prathap, Gangan (March 2004), “Indian science slows down: The decline of open-ended research”, Current Science 86 (6): 768-769 [769] 
  10. ^ Bellis 1998
  11. ^ 板垣 2008
  12. ^ a b 高山 2017.
  13. ^ The Royal Swedish Academy of Sciences 2009, p. 3
  14. ^ The Nobel Prize in Physics 2009”. Nobel Foundation. 2009年10月6日閲覧。
  15. ^ DE patent 1254513, Dr. Manfred Börner, "Mehrstufiges Übertragungssystem für Pulscodemodulation dargestellte Nachrichten.", issued 1967-11-16, assigned to Telefunken Patentverwertungsgesellschaft m.b.H. 
  16. ^ US patent 3845293, Manfred Börner, "Electro-optical transmission system utilizing lasers" 
  17. ^ a b NTT 2007
  18. ^ NAS 1996
  19. ^ 長井 2006
  20. ^ VAD法の開発”. NTT技術資料舘. 2011年2月2日閲覧。
  21. ^ 光増幅器”. 映像情報メディア学会. 2018年2月12日閲覧。
  22. ^ Mears & Reekie 1987
  23. ^ 日本セラミックス協会 2006
  24. ^ 総務省 昭和60年版 通信白書
  25. ^ 光ファイバ接続の基礎知識”. 住友電工 Optigate. 2019年9月10日閲覧。
  26. ^ [ http://www.kuraray.co.jp/products/plastic/psf.html 放射線検出用光ファイバー]
  27. ^ The Top 10 Competitiveness Enterprises in the Optical Communications Industry of China & Global market in 2019” (英語). 2022年2月12日閲覧。
  28. ^ 【2022年版】光ファイバーケーブル製造メーカー12社一覧”. メトリー. 2022年2月12日閲覧。 “一部商社などの取扱い企業なども含みます”






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