健康保険 保険料

健康保険

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/29 09:32 UTC 版)

保険料

一般の被保険者に係る保険料は、厚生年金保険料と同様、事業主と被保険者とで保険料を折半して負担する(第161条1項)。事業主は、その使用する被保険者及び自己の負担する保険料を納付する義務を負い(第161条2項)、被保険者に支払うべき報酬がなくても、事業主は被保険者分も含めた全額の支払い義務を負う(昭和2年2月18日保理578号)。事業主は原則として被保険者の負担すべき前月分(月の末日に退職し、報酬もその月に支払われる場合については前月分及び当月分)の標準報酬月額に係る保険料を報酬から控除することができる(第167条)。支払期日は翌月末日(前納不可)である。

任意継続被保険者に係る保険料は、本人が全額負担しなければならず、支払期日はその月の10日(初めて納付すべき保険料については、保険者が指定する日)である(第164条)。なお、任意継続被保険者は将来の一定期間(1年又は6か月)の保険料を前納することができる(第165条)。

健康保険組合は、規約で定めるところにより、一般保険料、介護保険料とも事業主の負担割合を増加させることができ(第162条)、協会けんぽに比べ保険料率が低い組合が多いが、中には協会けんぽの保険料率を超える財政基盤の脆弱な組合が存在する。なお事業主が負担割合を増加させた場合、その増加割合相当額は「報酬」には含まれない。

保険料は被保険者の標準報酬月額及び標準賞与額に保険料率を乗ずることにより計算される(第156条)。

一般保険料額 = 標準報酬月額 × 一般保険料率
(介護保険第2号被保険者については、これに介護保険料額(標準報酬月額 × 介護保険料率)が加算され、あわせて徴収される)

保険料率

  • 一般保険料率:特定保険料率と基本保険料率との合算。
  • 特定保険料率:高齢者医療を支えるために使われる費用に充てる保険料(協会けんぽでは2019年度は全国一律3.51%)。
  • 基本保険料率:高齢者医療以外の健康保険事業に要する費用に充てる保険料(協会けんぽでは都道府県ごとに設定)。
  • 介護保険料率:保険者が納付すべき介護納付金に基づいて設定する(協会けんぽでは2019年度は全国一律1.73%)。
  • 調整保険料率:組合健保の財源の不均衡を調整するため、組合が連合会に拠出する費用に充てる保険料。

政管健保が2008年(平成20年)10月より全国健康保険協会に移管され、それに伴い全国一律だった一般保険料率も医療費に応じて各都道府県を単位に3.0%~13.0%(当初は3.0%~10.0%、平成28年3月までは3.0%~12.0%)の範囲内で協会が決定することとなった[9]。ただ、地域の医療格差のみが反映されるようになっていて、年齢構成や所得水準の違いに起因する都道府県ごとの財政力の差については都道府県間で調整されるので保険料率には反映されない。協会が保険料率を変更するには厚生労働大臣の認可が必要で、大臣は保険料率が不適当であり事業の健全な運営に支障があると認めるときは協会に変更の認可を申請するよう命ずることができる(第160条)。

実際には2009年9月より各都道府県別の保険料率となり、8.26%(北海道)〜8.15%(長野県)と定められた。更にその半年後の2010年3月には全国平均で1.14%の大幅な保険料率引き上げが行われ、9.42%(北海道)〜9.26%(長野県)となり、その後も保険料率の引き上げが続いている。2018年4月以降については、10.75%(佐賀県)〜9.63%(新潟県)となっている[10]

健康保険組合においても、一般保険料率は3.0〜13.0%の範囲内で組合ごとに決定し、変更に際しては原則として厚生労働大臣の認可を受けなければならない[* 20]。合併によって設立された健康保険組合においては、合併の翌5年度に限り、厚生労働大臣の認可を受けて不均一の一般保険料率を設定することができる。

保険料の徴収

保険料は原則として被保険者資格取得月から資格喪失月の前月まで徴収されるが、資格取得月にその資格を喪失した場合は、その月の保険料は徴収される。同一月に2回以上の資格の得喪があった場合は、1月につき2月分以上の保険料の徴収がありうる。

保険料は、以下の場合は納期前であってもすべて徴収することができる(繰上徴収、第172条)。

  • 納付義務者が以下のいずれかに該当する場合
    • 国税、地方税その他の公課の滞納によって、滞納処分を受けるとき
    • 強制執行を受けるとき
    • 破産手続き開始の決定を受けたとき
    • 企業担保権の実行手続の開始があったとき
    • 競売の開始があったとき
  • 法人である納付義務者が、解散をした場合
  • 被保険者(日雇特例被保険者を含む)の使用される事業所が廃止された場合(事業主の変更があった場合を含む)

保険料の免除

前月から引き続き一般の被保険者である者が少年院刑事施設労役場その他これらに準ずる施設に収容・拘禁された場合、その月以降該当しなくなる月の前月までの保険料は徴収されない(第158条)。ただし同月中に収容等されなくなった場合は保険料は徴収される。事業主は、被保険者がこれらに該当する(しなくなった)場合は、「第118条1項該当届(非該当届)」[* 21] を5日以内に機構又は組合に提出しなければならない。

育児休業等(育児介護休業法による育児休業もしくは同法による育児を理由とする所定労働時間の短縮等の措置等をいう。以下同じ[* 22])をしている一般の被保険者が使用される事業所の事業主が保険者等に申し出たときは、育児休業等開始日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料は徴収されない(第159条)。被保険者が育児休業等期間を変更したとき、または育児休業等終了予定日の前日までに育児休業等を終了したときは、速やかに機構又は組合に届出なければならない。法人の代表取締役・専任役員たる被保険者は育児休業等による保険料免除は認められない(育児介護休業法は対象を「労働者」に限っているため。平成21年12月28日雇児発1228第2号)。なお労使協定により子が3歳に達する日以降の育児休業等を定めている場合であっても、免除は3歳未満の子を養育するための育児休業等に限られる。

平成26年4月30日以降に産前産後休業が終了となる一般の被保険者が使用される事業所の事業主が保険者等に申し出たときは、産前産後休業開始日の属する月から、終了日の翌日が属する月の前月までの期間、当該被保険者に関する保険料は徴収されない(第159条の3)。被保険者が産前産後休業期間を変更したとき、または産前産後休業終了予定日の前日までに産前産後休業を終了したときは、速やかに「産前産後休業取得者変更(終了)届」を機構又は組合へ提出する。育児休業等とは異なり、法人の代表取締役・専任役員たる被保険者も産前産後休業による保険料免除が認められる。

免除は事業主負担分、被保険者負担分双方について行われる。なお、任意継続被保険者、特例退職被保険者については免除は行われない(これらに該当しても保険料は徴収される)。

滞納に対する措置

保険料その他健康保険法の規定による徴収金を滞納する者があるときは、保険者等は期限を指定して督促しなければならない。督促状により指定する期限は、督促状を発する日から起算して10日以上経過した日でなければならない(第180条1項~3項)。なお督促は規則に定められた様式の督促状(様式第20号)で行われ、口頭、電話または普通の書面で行われることはない(規則第153条)。繰上徴収に該当する場合であっても、既に納期の過ぎた分の保険料については督促しなければならない(この場合延滞金は徴収されない)。

保険者等は督促を受けた者がその指定の期限までに保険料その他この法律の規定による徴収金を納付しないときは、国税滞納処分の例によってこれを処分し、又は滞納者の居住地若しくはその者の財産所在地の市町村に対して、その処分を請求することができる(第180条5項)。市町村は市町村税の例によりこれを処分したときは徴収金の4%相当額が厚生労働大臣から当該市町村に交付される(第180条6項)。機構・協会・組合が滞納処分を行う場合は、あらかじめ厚生労働大臣の認可を受けなければならない。また滞納者が悪質な場合には当該権限を財務大臣を通して国税庁長官に委任することができる。「悪質な場合」とは、以下のいずれの要件も満たす場合とされる。

  • 納付義務者が24月以上保険料を滞納している。
  • 納付義務者が執行を免れる目的でその財産を隠蔽しているおそれがある。
  • 納付義務者が滞納している保険料その他の徴収金の額が5,000万円以上。
  • 納付義務者が納付について誠実な意思を有すると認められない。

督促したときは、やむを得ない事情がある場合、公示送達による督促の場合等を除き、保険者等は、徴収金額(1,000円未満の端数は切り捨て)に、納期限の翌日から徴収金完納または財産差し押さえの日の前日までの期間の日数に応じて、年14.6%(督促が保険料に係るものである場合は、納期限の翌日から3月を経過する日までの期間については年7.3%)の割合を乗じて計算した額の延滞金(100円未満の端数は切り捨て)を徴収する(第181条)。なお現在の低金利の状況では年14.6%の延滞金は高すぎるとの問題意識から、事業主の負担軽減等を図るべく、当分の間特例が設けられ、各年の特例基準割合租税特別措置法第93項2項の規定に基づき、「前々年10月から前年9月までの各月における銀行の新規の短期貸出約定平均金利の合計を12で除して得た割合」として財務大臣が告示した割合に年1%の割合を加算)が年7.3%に満たない場合は、

  • 「年7.3%の割合」とされる期間については、特例基準割合に年1%を加算した割合(加算した割合が年7.3%を超える場合は、年7.3%)
  • 「年14.6%の割合」とされる期間については、特例基準割合に年7.3%を加算した割合

とされる。令和3年の場合、特例基準割合は年1.5%(告示割合年0.5%に年1%を加算)とされたので[11]、実際には以下のようになる。

  • 「年7.3%の割合」とされる期間については、年2.5%の割合
  • 「年14.6%の割合」とされる期間については、年8.8%の割合

保険料等の先取特権の順位は、国税及び地方税に次ぐものとする(第182条)。

国庫の負担・補助

国庫は、毎年度、予算の範囲内において、健康保険事業の事務の執行に要する費用を負担する(第151条)。したがって事務費は全額国庫負担である。また、健康保険組合に対して交付する国庫負担金は、各健康保険組合における被保険者数を基準として、厚生労働大臣が算定することとされ、この国庫負担金については、概算払をすることができる(第152条)。

協会けんぽに対しては、主な保険給付の支給に要する額に給付費割合を乗じて得た額の合算額の13~20%を国庫が補助することとされ(第153条1項)、当面の間国庫補助率は16.4%とされる(附則第5条)[* 23][* 24]

これらのほか、国庫は、予算の範囲内において、健康保険事業の執行に要する費用のうち、特定健康診査及び特定保健指導の実施に要する費用の一部を補助することができる(第154条の2)。


注釈

  1. ^ 国保(こくほ)と呼ばれる地域保険
  2. ^ 平成14年の改正により、条文上の表記が「被保険者」から「労働者」に改められた。
  3. ^ 健康保険法において「出産」とは妊娠4月(85日)以上の分娩をいい、それが正常分娩であると死産、早産、流産人工妊娠中絶であるとを問わない(昭和27年6月16日保文発2427号)。
  4. ^ 被保険者が副業として行う請負業務中に負傷した場合や、被扶養者が請負業務やインターンシップ中に負傷した場合などが考えられる(平成25年8月14日事務連絡)。
  5. ^ 労災保険法における業務災害については健康保険の給付の対象外であり、また、労災保険法における通勤災害については労災保険からの給付が優先されるため、健康保険の保険者は、まずは労災保険の請求を促し、健康保険の給付を留保することができる。ただし、保険者において、健康保険の給付を留保するに当たっては、関係する医療機関等に連絡を行うなど、十分な配慮を行うこと(平成25年8月14日事務連絡)。もっとも、法人の役員としての業務の執行に起因する疾病等については原則として引き続き健康保険の対象にも労災保険の対象にはならない(健康保険法53条の2)。
  6. ^ 都道府県を越えて事業所所在地が移転した場合には管轄の全国健康保険協会の支部が変わるので保険証を交換する。その他、同一都道府県内での事業所所在地の移転や、被保険者が(都道府県を越えるか否かに関係なく)転勤する場合には、基本的には保険証は交換しない。
  7. ^ 厚生年金ではさらに、「船員法第1条に規定する船員として船舶所有者に使用される者が乗り組む船舶」も強制適用事業所とされる。
  8. ^ 平成18年の時点で、一括適用事業所の承認を受けている企業は約440社にとどまる。
  9. ^ 変更後の事業主が届出る。従来は変更前・変更後の両事業主が連署で届出ることとされていたが、法改正により変更後の事業主のみに届出義務が課されることになった。
  10. ^ 単に「被保険者」といった場合、健康保険法の条文上では4種類すべての被保険者を指すため、条文上「被保険者(日雇特例被保険者、任意継続被保険者及び特例退職被保険者を除く)」という表記を簡略化してある。
  11. ^ 資格喪失届の場合はこれらの番号の記入は不要である。
  12. ^ 「法人の役員としての業務」とは、法人の役員がその法人のために行う業務全般を指し、特段その業務範囲を限定的に解釈するものではない(平成25年8月14日事務連絡)。
  13. ^ 昭和55年6月6日付け厚生省保険局保険課長・社会保険庁医療保険部健康保険課長・社会保険庁年金保険部厚生年金保険課長内かん。平成28年10月にこの内かんは廃止された。
  14. ^ 海外赴任中に現地で結婚した配偶者の血族(被保険者の姻族)は、海外赴任後に被保険者の姻族という身分のみを以て発行されるビザがなく、今後日本で生活する蓋然性が高いとは言えないことから、配偶者と異なり、国内居住要件の例外としては位置づけない。ただし、配偶者の連れ子については、海外赴任後に「定住者」等の在留資格により日本で生活すると予定されているなど、今後日本で生活する蓋然性がある場合には、国内居住要件の例外に該当するものとして差し支えない。ただし、この場合においても、日本で結婚した配偶者の連れ子と同様に、被保険者と同居していることが必要となる(「国内居住要件に関するQ&A」)。
  15. ^ 「一時的」の判断基準は、ビザに有効期限がある場合は、原則として「一時的」と判断して差し支えない(「国内居住要件に関するQ&A」)。
  16. ^ リタイアメントビザやロングステイビザなどで長期渡航する家族は、基本的に一定の資産や収入が基準となっているため、そもそも生計維持要件を満たさない可能性が高いことが考えられる(「国内居住要件に関するQ&A」)。
  17. ^ 留学等の国内居住要件の例外として認められる海外在住の被扶養者に子どもが生まれた場合(例:被保険者の孫)については、一般的には、子が生まれた被扶養者は新たな世帯を形成することが想定されるが(その時点で当該被扶養者の帰国の蓋然性や被保険者との生計維持関係を満たす可能性が低くなることが考えられる)、その子(被保険者の孫)についても、配偶者の就労実態や経済的援助の状況を踏まえ、被扶養者及びその配偶者がともに現地で就労できないビザで滞在しているなど、被保険者が扶養する必要がある特別な事情があり、「日本人の配偶者等」、「定住者」、「家族滞在」等の在留資格により日本で生活すると予定されているなど、今後日本で生活する蓋然性が高いと認められる場合には国内居住要件の例外として認めて差し支えない。(「国内居住要件に関するQ&A」)。
  18. ^ 海外在住等で証明書等の提出が困難な場合においては、現況申立書の提出が必要となる(平成30年3月22日保保発0322第1号)
  19. ^ 大きな被害が発生した地震などの際に厚生労働省から、被保険者からの申し出により、その資格の復活を認めるよう通知が保険者に出される。最近では新潟県中越沖地震2007年)、岩手・宮城内陸地震2008年)、宮崎県における口蹄疫の流行2010年)の際に出された。
  20. ^ 例外として、一般保険料率と調整保険料率とを合算した率の変更が生じない一般保険料率の変更については、組合は変更後の一般保険料率を厚生労働大臣に届け出ることで足りる。
  21. ^ これらの者は第118条1項により、保険給付が制限されるため、このような名称となる。
  22. ^ 同法による介護休業もしくは介護を理由とする所定労働時間の短縮等の措置等の場合は対象とならない。
  23. ^ 協会けんぽへの財政支援措置の一つとして、協会けんぽの財政基盤の強化・安定化のため平成22年度から3年間の時限措置として行われたものであるが、2年間延長され、さらに法改正により期限の定めなく実施されることとなった。
  24. ^ 法改正により、後期高齢者支援金の納付に要する費用の額の国庫補助は平成29年4月から、協会が拠出すべき介護納付金の納付に要する費用の額の国庫補助は平成30年4月からは行われない。
  25. ^ 「埋葬費」は実務上の用語であり、法文上は「埋葬に要した費用に相当する金額」。
  26. ^ 「全部又は一部」とは、偽りその他の不正行為により受けた分が、その一部であることが考えられるので、全部又は一部としたものであって、詐欺その他の不正行為によって受けた分はすべてという趣旨である(昭和32年9月2日保発123号)。

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