保育所 保育所の概要

保育所

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/10 13:14 UTC 版)

1960年代の東京の保育所

施設名を「○○保育園」とする場合も多いが、あくまでも「保育園」は通称であり、同法上の名称は「保育所」である[3]

なお、市区町村の条例で施設名を○○保育園と定める例がある。

概要

保育所における保育では、養護教育が一体となって展開される。ここでいう「養護」とは、子どもの生命の保持及び情緒の安定を図るために保育士等が行う援助や関わりであり、「教育」とは、子どもが健やかに成長し、その活動がより豊かに展開されるための発達の援助である。ただし、「教育」に関しては、「義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとしての満3歳以上の幼児に対する教育」は除かれている[4]

児童福祉法には、厚生労働省児童家庭局が管轄する「児童福祉施設」として、保育所(認可保育所)を次の通り規定している。

  • 保育所は、保育を必要とする乳児・幼児を日々保護者の下から通わせて保育を行うことを目的とする施設である。(第39条第1項)
    • 「乳児・幼児」とは、0歳から小学校入学前までの乳幼児。(第4条第1項)
  • 第6条の3第7項の「保育」の定義中の「教育」の規定により、「義務教育及びその後の教育の基礎を培うものとしての満3歳以上の幼児に対する教育」は行わない。(幼稚園等で行われる)
  • 例外的にそれ以上の年齢児童を保育することもある。(第39条第2項)
  • 社会福祉法では、第二種社会福祉事業として規定されており(第2条第3項)、地方自治体や社会福祉法人による経営が多い。

歴史

保育施設の誕生

社会的変動の進行により農村から都市へと農民が流入する一方、旧士族や旧職人層の分化が生 まれ、少しずつ形成されつつあったスラムと呼ばれる都市下層社会の一般的生活者、つまり、苦しい生活を余儀なくされた都市における新しい貧民層がつくられた。この対策として、1882 年に 貧困児童の為の学校とは異なる「遊戯場」、また、労働の為に子どもの養育が十分に行き届いてい ない母親の為の「簡易」な幼稚園として保育所の設立を文部省が奨励し、1887 年保育施設が誕生した。そして、1895 年には民間の力によって神戸に無料の善隣幼稚園が誕生し、その後、数々の貧困児童の為の保育施設が設立されていった。この中でも「貧困幼稚園」の典型として、1900 年 に二葉幼稚園(1916 年に二葉保育園と改称する。)が開設された。当時の保育時間は 1 日 7~8 時 間とし、保育内容を「遊嬉、唱歌、談話、手技」としていたが、主に遊戯・衛生・生活習慣などの生活指導に重点をおいた保育が行われていた。現在との違いとして、当時の園児は毎日一銭を持参し、うち五厘は本人の貯金の為、残り五厘は保育料としておやつ代に充てていた。また、1909 年に内務省はこれらの施設に助成金を交付し、これらを慈恵救済事業として組織化(この組織によって最初に創られたのは大阪市の鶴町託児所)し、米騒動以後に公立託児所の設置を行うなど 文部省の幼稚園とは異なる別系統の施設として位置づけられた。

戦後の保育

1946 年の生活保護法を皮切りに教育基本法学校教育法児童福祉法等の制定実施や厚生省に児童局を労働省に婦人少年局がそれぞれ創設され、多くの法律の制定や局の創設が行われる一方、戦争によって創り出された母子家庭の生活苦は高まり、足手まといとなる幼児の子守の為学童は長欠不就学を余儀なくされ、保育所や母子寮は超満員となった。これらを嘆いた母は署名運動を起こし、保育所設置を叫び、こうした社会情勢の激変は多くの民間保育団体を結成していく引き金となった。幼稚園と保育所は幼保一元化を思考しながら二次的に制度化していった一方、保育をする上では困難を極めていた。文部省では戦後の施設の質的低下を取り戻す為、新しい教育の内容や方法に相応しい施設づくりに向けたモデル幼稚園を指定した。

一方、厚生省は依然として保育所を「保育に欠ける」ことが入所の絶対条件とし、救貧的な施設として捉えていた。保育所の保育は母親が家庭において日常的に子どもの世話をする保護養育の保育とし、幼稚園で行われている様な教育をする保育ではないという保育観を持続していた為、保育内容に積極的に介入しなかった。この状況を背景として、1953 年に日本の保育に科学的な観点を導入しようと幼稚園・保育所の保育者を主力として「保育問題研究会」が発足された。これにより保育問題は多くの国民の問題となり、保育所づくり運動も単なる増設ではなく保育時間の延長や保育内容・条件の改善要求などを含めた運動へと発展していった。

高度経済成長~現在

70 年代には、地域の保育要求を組織すると共に、「国民的保育運動」 の形成の大切さを確認し、さらに運動の展開が図られていった。 そして、保育実践も次第に深まり始めた。今や幼稚園・保育園は国民生活に必要不可欠となり保育実践も着実に前進しつつある。幼稚園と保育園との制度的関係の改善や幼保一元化に向けての具体的な取り組みは緊急をようする課題であろう。

[5]

保育の内容および機能

児童福祉施設最低基準[6]及び保育所保育指針[7]に基づき、年齢や子どもの個人差などを考慮した上で保育を行う。内容としては、養護に相当する「生命の保持」及び「情緒の安定」、並びに教育に相当する5領域(「健康」、「人間関係」、「環境」、「言語」、「表現」)を根本にしている。保育所では、子どもの生活や遊びを通してこれらが相互に関連を持ちながら、総合的に展開される。

保育の方向、ねらい、季節、行事などを織り交ぜて一ヶ月の保育内容をまとめた月案、一週間の保育内容をまとめた週案、一日の保育の流れをまとめた日案を保育士が作成し、それらに沿って保育を進めていくのが一般的である。

保育可能な時間は、保育所や自治体により異なる。7時から19時までが一般的であるが、22時まで開所する例も増えている。盆休み年末年始を開所するかどうかの対応も保育所や自治体により異なる。

少数ではあるが、放課後児童健全育成事業実施要綱[8]に基づく放課後児童健全育成事業が保育所施設内で運営(2008年5月1日現在で放課後児童クラブ全体の5.5%)されている場合がある。

近年では地域の子育て支援センターが併設されているケースもあり、園庭開放やイベントや子育て相談を行っている。また入所していない児童を一時的に預かる一時保育も実施されている(詳細は保育の記事参照)。


注釈

  1. ^ NHK放送文化研究所・編『ことばのハンドブック 第2版』P.103では「 - しょ」「 - じょ」2通りの読みを認めている。(「放送研究と調査」2018年12月号 P.75 (PDF) による)

出典

  1. ^ 『広辞苑 第七版』、コトバンクによる読み方。
  2. ^ 厚生統計要覧(児童)”. 厚生労働省. 2019年8月29日閲覧。
  3. ^ 児童福祉法 - e-Gov法令検索
  4. ^ 児童福祉法(昭和二十二年十二月十二日法律第百六十四号)第6条の3第7項
  5. ^ 加藤 静・宮本 康子・山下 祐依 (2009). “明治から昭和初期における保育と現代の保育”. 中村学園大学短期大学部「幼花」論文集 Vol.1 (2009), Page 24 - 36.: 25-29. 
  6. ^ 厚生労働省 厚生省令第63号 (2008年4月1日). “"児童福祉施設最低基準"” (PDF). 2009年2月7日閲覧。
  7. ^ 厚生労働省 厚生労働省告示141号 (2008年3月28日). “"保育所保育指針"” (PDF). 2009年2月7日閲覧。
  8. ^ 厚生省児童家庭局長通知 児発第294号 (1998年4月9日). “"放課後児童健全育成事業実施要綱"”. 放課後児童健全育成事業の実施について. 2009年2月11日閲覧。
  9. ^ 厚生労働省児童家庭局長 通知 児発第295号 (2002年3月30日). “"保育所の設置認可の指針"”. 保育所の設置認可等について. 2009年2月7日閲覧。
  10. ^ 厚生労働省児童家庭局長 通知 児発第296号 (2002年3月30日). “"小規模保育所の設置認可の指針"”. 小規模保育所の設置認可等について. 2009年2月7日閲覧。
  11. ^ 厚生労働省児童家庭局長 通知 児発第298号 (2002年3月30日). “"夜間保育所の設置認可の基準"”. 夜間保育所の設置認可等について. 2009年2月7日閲覧。
  12. ^ 2010年4月13日の参議院総務委員会における山下芳生の質疑
  13. ^ 厚生労働省>報道・広報>報道発表資料>報道発表資料2012年9月>2012年9月28日(金)掲載>保育所関連状況取りまとめ(平成24年4月1日) (PDF)
  14. ^ 厚生労働省 雇用均等・児童家庭局 保育課 保育係 (2009年9月7日). “"保育所の状況(平成21年4月1日)等について"”. 2009年9月25日閲覧。
  15. ^ 内閣府>審議会・懇談会等>規制改革>会議情報(平成25年1月〜)>規制改革会議(平成25年3月21日) 議事次第>資料3 厚生労働省提出資料>待機児童の速やかな解消に向けて (PDF)
  16. ^ 横浜市>こども青少年局>保育対策課>横浜市の待機児童対策>(平成25年5月20日)平成25年4月1日現在の保育所待機児童数について (PDF)
  17. ^ 『障害児保育の理論と実践~インクルーシブ保育の実現に向けて~』ミネルヴァ書房、2010年4月20日、2,28-29,55頁。 
  18. ^ 把握難しい保育士の性暴力 犯歴あっても取り消しなしも”. 朝日新聞 (2021年6月22日). 2021年7月2日閲覧。





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