京都議定書 京都メカニズム

京都議定書

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/16 08:30 UTC 版)

京都メカニズム

国内での単なる排出量削減を除く植林活動や、国外での活動、削減量の国家間取引など、温室効果ガスの削減をより容易にするための規定で、柔軟性措置とも呼ばれる。一般に、クリーン開発排出量取引共同実施の 3つのメカニズムを指す[14]が、これに吸収源活動を含めることもある。

クリーン開発メカニズム

クリーン開発メカニズム (CDM: Clean Development Mechanism) とは、先進国開発途上国技術資金等の支援を行い温室効果ガス排出量を削減、または吸収量を増幅する事業を実施した結果、削減できた排出量の一定量を先進国の温室効果ガス排出量の削減分の一部に充当することができる制度である。

先進国は少ないコストで削減が可能となり、途上国は技術や資金の供与といった対価が望めるなどの効果がある。

排出量取引

排出量取引 (ET: Emissions Trading) とは、下記 4種類の炭素クレジットを取引する制度である[15]。「排出権取引」「排出許可証取引」「排出証取引」とも呼ばれる。

  • AAU (Assigned Amount Unit) - 各国に割り当てられる排出枠
  • RMU (Removal Unit) - 吸収源活動による吸収量
  • ERU (Emission Reduction Unit) - JI で発行されるクレジット
  • CER (Certified Emission Reduction) - CDM で発行されるクレジット

これらの炭素クレジットを 1t-CO2 単位で取引する。排出量を排出枠内に抑えた国や事業で発生したクレジットを、排出枠を超えて排出してしまった国が買い取ることで、排出枠を遵守したと見做されるものである。 温室効果ガス削減が容易ではない国は少ない費用で削減が可能となり、削減が容易な国は対価を求めて大量の削減が望めるという、2つの効果を念頭に置いている。

京都議定書は国家間での排出量取引のみを定めているが、より効果的な温室効果ガスの削減が可能な国内での排出量取引も行われつつある。しかしながら、排出量の上限を最初にどのように公平に割り振るかが問題であり、一律に割り振ると、既に省エネを徹底していた企業が損をするという問題がある。このため、オークション方式で排出権を購入する方式が広まりつつあるが、当初の購入資金が負担となることや、価格の変動による経営リスクが生じることが問題とされている。

なお、2001年のマラケシュ合意では、排出上の権利を与えるものではないとしており、欧州連合も排出の権利とは認めていない。本来この制度は、排出量の削減による取引上の利益により、さらなる削減意欲を生じさせることを意図したものであるが、逆に排出枠の設定方法によっては過去の排出量が既得権益のようになってしまったり、炭素クレジットの市場価格が化石燃料から再生可能エネルギーへの切り替えや省エネルギー等による排出量の削減にかかる費用よりも割安になってしまった場合に、本来必要な努力を減じさせるおそれもあると指摘されている。

また、近年は関心の高まりを受けて第三者機関が認証する排出削減量 (VER: Verified Emissions Reduction) が民間で取引されるようになったが(カーボンオフセットグリーン電力証書などを参照)これらは一般に京都メカニズムの枠外で行われる取引である。

共同実施

共同実施 (JI: Joint Implementation) とは、投資先進国(出資をする国)がホスト先進国(事業を実施する国)で温室効果ガス排出量を削減し、そこで得られた削減量 (ERU: Emission Reduction Unit) を取引する制度。つまり、先進国全体の総排出量は変動しない。

吸収源活動

吸収源活動とは、1990年以降の植林などで CO2 の吸収源が増加した分を、温室効果ガス排出量削減に換算し算入するもの。また、吸収源である森林が同年以降に都市化農地化などで失われた分は排出量増加として算入される。京都議定書 第3条で定められており、土地利用・土地利用変化及び林業部門 (LULUCF: Land Use, Land Use Change and Forestry) 活動とも呼ばれる。

具体的には次の活動が規定されている(京都議定書 3条3項)[16]

  • 新規植林(Afforestation、過去50年間森林がなかった土地に植林)
  • 再植林 (Reforestation、1990年より前には森林であったが同日時点では森林ではなかった土地に植林)
  • 森林減少(Deforestation、森林を他用途に転換)

これらの英頭文字を取って ARD活動 とも呼ばれる。

これに加え、マラケシュ合意では「森林管理」「放牧地管理」「植生の管理」を利用することも許容された(京都議定書 3条4項)。このため、既存の森林についても 1990年以降に適切な管理を行うことで、その森林を吸収分として算入できるようになった。これは、義務達成を難しいと考え、しかも緑被率の比較的高い国である日本、カナダが主張し、採用されたものである。


注釈

  1. ^ スウェーデンの数値はEU域内で割り当てた目標値である。なお、同国ではそうしたEU諸国の理解に甘んじることなく、たとえば南部のベクショーでは 2010年までに 1993年比50%削減といった目標を、コミューンが独自に掲げて取り組むといった努力が続けられている。[要出典]
  2. ^ アル・ゴア副大統領は批准を推進するも、自動車電力(米国での発電には未だに石炭も多く使われている)など産業界からの反対を受けクリントン大統領が批准を断念、次いで大統領選挙に臨んだブッシュは削減義務受け容れを訴えて当選するが、後にこれを覆し、京都議定書を拒絶した(後述の米WGBH報道番組で詳説)。特に世界最大の排出国である米国のブッシュ政権は強硬に反対していたため、国内世論およびEUなど削減に努める向きから批判されていたが、最近ようやくその政策が変化はじめたと指摘する向き(次の参考記事など)もある。[要出典]

出典

  1. ^ 飯田 (2000) [要ページ番号]
  2. ^ ノルゴーら (2002) [要ページ番号]
  3. ^ [グリーンタイムズ 6巻5号]、NEDO
  4. ^ 飯田 (2000), p. 84.
  5. ^ 気候変動枠組条約第7回締約国会議(環境省)
  6. ^ CGER ココが知りたい温暖化 排出削減目標を達成できない場合(国立環境研究所 地球環境研究センター 久保田泉)
  7. ^ 馬場未希 (2007年4月17日). “政府が初めて温暖化ガス排出権を122億円で購入 京都議定書を守る費用は今後数兆円に上る可能性も”. 日経ビジネスオンライン. 日経BP社. 2009年1月18日閲覧。
  8. ^ 気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)について 京都議定書発効の要件(環境省)
  9. ^ ホッキョクグマ、米が絶滅危惧種に提案 温暖化政策変化(朝日新聞、2006年12月28日)
  10. ^ BS世界のドキュメンタリー『アメリカ 石油依存の構図 〜遅れる温暖化対策〜』(原題 "Hot Politics"、米WGBH制作)
  11. ^ ラッド豪首相、初仕事は京都議定書批准 新内閣が発足(朝日新聞、2007年12月 3日)
  12. ^ 京都議定書の署名国と締約国”. 気候変動枠組条約・京都議定書. 環境省. 2013年11月23日閲覧。
  13. ^ Status of Ratification of the Kyoto Protocol” (英語). 気候変動枠組条約事務局. 2013年11月23日閲覧。
  14. ^ 気候変動枠組条約第6回締約国会議(COP6)について 京都メカニズムの概要(環境省)
  15. ^ (PDF)京都メカニズムの仕組み(環境省)
  16. ^ 吸収源対策としての森林整備について(林野庁)
  17. ^ 2012年度(平成24年度)の温室効果ガス排出量(確定値)について”. 報道発表資料. 環境省 (2014年4月15日). 2016年8月3日閲覧。
  18. ^ 京都議定書第一約束期間(2008~2012年)の目標はどうなっていたの?”. 林野庁. 2018年5月7日閲覧。
  19. ^ 附属書 I 国の温室効果ガス排出量と京都議定書達成状況(2013年提出版(2011年値)”. 国立環境研究所. 2013年11月23日閲覧。
  20. ^ 石井 (2004), p. 19.
  21. ^ 石井 (2004), pp. 34-36, 40.
  22. ^ 京都議定書後の地球温暖化問題に関する国際枠組構築に向けて2007(日本経済団体連合会)
  23. ^ 石井 (2004), p. 58.
  24. ^ 改正京都議定書条文” (PDF) (英語). 気候変動枠組条約事務局. 2013年11月23日閲覧。
  25. ^ Doha Amendment” (英語). 気候変動枠組条約事務局. 2021年9月1日閲覧。






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