交通 交通の概要

交通

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/07 13:26 UTC 版)

エジプトの海上交通

「交通」は人や物の場所的な移動のことを指す言葉で、空間的に離隔された地理的な障壁を乗り越える行為だとも言われている[1]。交通は、人間の生活を営む上であっては当たり前の存在であり、人間社会の発展のためには必要不可欠な存在でもある[1]。技術の進展に伴い交通機関も進化してきており、移動できる範囲は大きく広がってきている[1]。交通という経済活動は、物を移動する必要性という交通需要とそれを移動させる交通労務の供給の上に成立するとされる[3]

交通は移動の対象から旅客交通と貨物交通に分けられる[3]。旅客交通における交通需要としては、日常的な通勤通学・通院などから観光まで様々なものがある。また、交通は移動の場所から陸上交通、水上交通、航空交通に分けられる[3]

交通機関

交通の手段・方法として整備された体系を交通機関または交通システムと呼ぶ。交通機関は、人間社会の発達に従って、より高度な手段を提供するように発達してきた。逆に交通機関における技術革新が人間社会の姿を大きく変化させてきた側面もある。

交通機関の要素

交通機関には、通路、運搬具、動力の三要素があるとされる[4]

通路
鉄道路線道路航路航空路などを指す。鉄道の線路・舗装路・運河のように著しい工事が必要なものと航路や航空路のようにほぼ自然のままのものとがある[4]。単一もしくは複数の交通機関によって網の目のようにめぐらされた交通路を交通網(交通ネットワーク)という。またこうした通路は鉄道や道路のように大規模なインフラ整備が必要であるものが多く、通路自体の建設の必要ない海運や空運においても、発着点および他の交通機関へのアクセスポイントとして港湾や空港の整備は必須であるため[5]、多くの場合こうした交通インフラには公的機関による直接整備が行われ、民間によって建設される場合においても国や地方公共団体による指導や統制が行われることが多い[6]
運搬具
現代の交通機関の代表例として車両航空機船舶などがある。
動力
交通機関の動力としては、人力・畜力・風力・水力など自然的なものと、蒸気力・石油燃焼爆発力・電力など人工的なものとがある[4]。歴史的には交通機関は動力面において馬車から蒸気機関車・電車などへ、帆船から蒸気船・モーターボートなどへと機械化が進んだ。

かつて交通手段は人足、牛馬、ラクダといったもので運搬具と動力が未分化であったが、運搬具と動力源の分離によって自然的制約を受けることが少なくなり交通の発達に画期的な進歩をもたらしたとされる[4]

今日の交通機関は、ITS鉄道の運行計画、道路の信号制御、航空管制などを代表とする運行制御システム、また、運賃、収益管理、マーケティングなどの営業システムの点で著しい発達を遂げている。

交通機関の特性

交通機関には次のような特性がある。

公共性
交通網が高度に発達した現代社会においては人や物は交通網を利用して円滑に移動することを前提とするようになった。交通機関の一部がストップするだけでも社会問題となるのは、多くの人が通勤・通学といった日常生活や業務を交通機関に頼っているからである。交通は人間生活の根幹にかかわる重大事であり、ここに交通の公共性が認められ、交通業に対する保護・助長・監督・統制あるいは交通の秩序と安全の維持といった交通政策・交通行政が行われる[3]
投資規模
一般に交通機関を整備するには巨額の費用がかかる。空間的に移動することが交通の目的であるため、広域な設備が必要になる。また、通勤ラッシュのように集中的な需要も発生するため、大容量の確保が過剰な投資に繋がりやすい。更に、これらの施設や交通具は、他の用途への転用が難しいため、埋没費用が大きくなる。
耐用年数
一般に交通機関に使用される施設の耐用年数は長い。コンクリート盛土などの材料でできた施設は、長い将来にわたって使用されることになる。将来の需要予測には大きな不確定要素が伴うので、投資の意思決定が困難になる。

交通の分類

交通にはさまざまな分類が存在する。まず、輸送する対象によって、旅客交通と貨物交通に分類される。旅客交通はさらに、個人が私的に移動する私的交通と、公共交通とに分けられる。公共交通はさらに貸切輸送と乗合輸送に分けられるが、通常は公共交通と言えば乗合輸送のことを指し、貸切輸送は広義の場合にのみ公共交通に含まれる[7]

旅客輸送

旅客輸送は、短距離交通と長距離交通とに大きく分けられ、様相を異にする。短距離交通でもっとも大きな割合を占めるものは自家用車であり、公共交通の整備されていない地方部ではさらにその割合は増加する。一方で、とくに都市部においては大量輸送が必須となるため自家用車の割合は減り、鉄道や地下鉄、バスといった公共交通機関の割合が増加する。長距離輸送に関しては、バスを含む自動車の優位性は距離とともに逓減していく一方、300kmから500km程度の都市間輸送においては鉄道、とくに高速鉄道が優位性を示すようになる[8]。700km以上の旅客輸送においては、主要交通機関の中で最も高速な飛行機の優位性が確立している[9]。船舶は低速であるため、特殊な場合を除き旅客輸送においては重要性を持たない。ただし小規模離島においては船舶以外の交通手段は存在しないことが多い[10]

貨物輸送

貨物輸送においては、近距離輸送では自動車(トラック)輸送が非常に優位である。トラックは出荷から配送までを直接行うことができるため積み替えが最小限で済み、また状況に応じ弾力的な運用が可能であるなど利便性が高い[11]。大量の物資の長距離輸送では自動車より鉄道に優位性があるが[12]、末端部の輸送においては自動車との連携がほぼ必須である[13]。長距離・大量の貨物輸送において最も大きな割合を占めるものは船舶であり、運行コストが非常に安価であるため広く使用される。飛行機は運行コストが高いため、高価かつ迅速な輸送が求められる貨物に使用される程度である[13]。また、複数の交通機関を積み替えなしで一貫輸送する、いわゆるインターモーダル輸送が推進されており、輸送の貨物コンテナ化が進んだ[14]


  1. ^ a b c d e f g 峯岸邦夫編著『トコトンやさしい道路の本』日刊工業新聞社〈今日からモノ知りシリーズ〉、2018年10月24日、10 - 11頁。ISBN 978-4-526-07891-0 
  2. ^ 生田保夫「私的交通の意味」『流通経済大学論集』第14巻第1号、流通経済大学、1979年7月、48-72頁、ISSN 03850854NAID 1100071880492021年3月18日閲覧 <
  3. ^ a b c d e 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.212 1951年 古今書院
  4. ^ a b c d 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.213 1951年 古今書院
  5. ^ 「新版 交通とビジネス【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール1)p5 澤喜司郎・上羽博人著 成山堂書店 平成24年6月28日改訂初版発行
  6. ^ 「地域交通の計画 政策と工学」p22-23 竹内伝史・川上洋司・磯部友彦・嶋田喜昭・三村泰広共著 鹿島出版会 2011年10月10日発行
  7. ^ 「地域交通の計画 政策と工学」p20 竹内伝史・川上洋司・磯部友彦・嶋田喜昭・三村泰広共著 鹿島出版会 2011年10月10日発行
  8. ^ a b 「交通工学総論」p10 高田邦道 成山堂書店 平成23年3月28日初版発行
  9. ^ 「交通工学総論」p11 高田邦道 成山堂書店 平成23年3月28日初版発行
  10. ^ 「新版 交通とビジネス【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール1)p144 澤喜司郎・上羽博人著 成山堂書店 平成24年6月28日改訂初版発行
  11. ^ 「交通市場と社会資本の経済学」p108-109 杉山武彦監修 竹内健蔵・根本敏則・山内弘隆編 有斐閣 2010年10月1日初版第1刷発行
  12. ^ 「交通市場と社会資本の経済学」p68 杉山武彦監修 竹内健蔵・根本敏則・山内弘隆編 有斐閣 2010年10月1日初版第1刷発行
  13. ^ a b c 「交通工学総論」p10-11 高田邦道 成山堂書店 平成23年3月28日初版発行
  14. ^ 「交通市場と社会資本の経済学」p257-258 杉山武彦監修 竹内健蔵・根本敏則・山内弘隆編 有斐閣 2010年10月1日初版第1刷発行
  15. ^ 靑野寿郎・保柳睦美監修『人文地理事典』 p.266 1951年 古今書院
  16. ^ 「観光旅行と楽しい乗り物」(交通論おもしろゼミナール5)p107-111 澤喜司郎 成山堂書店 平成22年12月28日初版発行
  17. ^ 「物流ビジネスと輸送技術【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール6)p27-30 澤喜司郎 成山堂書店 平成29年2月28日改訂初版発行
  18. ^ 「都市交通の世界史 出現するメトロポリスとバス・鉄道網の拡大」p8-13 小池滋・和久田康雄編 悠書館 2012年4月10日第1刷発行
  19. ^ 「図説 人類の歴史 別巻 古代の科学と技術 世界を創った70の大発明」p151 ブライアン・M・フェイガン編 西秋良宏監訳 朝倉書店 2012年5月30日初版第1刷
  20. ^ 「物流ビジネスと輸送技術【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール6)p181-182 澤喜司郎 成山堂書店 平成29年2月28日改訂初版発行
  21. ^ 「物流ビジネスと輸送技術【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール6)p233-234 澤喜司郎 成山堂書店 平成29年2月28日改訂初版発行
  22. ^ 「交通工学総論」p28-29 高田邦道 成山堂書店 平成23年3月28日初版発行
  23. ^ 「大帆船時代 快速帆船クリッパー物語」p194 杉浦昭典 中公新書 昭和54年6月25日発行
  24. ^ 「新版 交通とビジネス【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール1)p138 澤喜司郎・上羽博人著 成山堂書店 平成24年6月28日改訂初版発行
  25. ^ 「新版 交通とビジネス【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール1)p135 澤喜司郎・上羽博人著 成山堂書店 平成24年6月28日改訂初版発行
  26. ^ 「新版 交通とビジネス【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール1)p138-140 澤喜司郎・上羽博人著 成山堂書店 平成24年6月28日改訂初版発行
  27. ^ 「地域交通の計画 政策と工学」p2-4 竹内伝史・川上洋司・磯部友彦・嶋田喜昭・三村泰広共著 鹿島出版会 2011年10月10日発行
  28. ^ 「最底辺の10億人 最も貧しい国々のために本当になすべきことは何か?」p92-96 ポール・コリアー 中谷和男訳 日経BP社 2008年6月30日第1版第1刷発行
  29. ^ 「グローバル時代のツーリズム」p93-95 呉羽正昭(「グローバリゼーション 縮小する世界」所収 矢ヶ﨑典隆・山下清海・加賀美雅弘編 朝倉書店 2018年3月5日初版第1刷)
  30. ^ https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-52217073 「【図表で見る】 封鎖される世界 新型ウイルス対策に各地で行動制限」BBC 2020年4月9日 2021年3月30日閲覧
  31. ^ 「エネルギーの未来 脱・炭素エネルギーに向けて」p33 馬奈木俊介編著 中央経済社 2019年3月10日第1版第1刷発行
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  33. ^ 「地域交通の計画 政策と工学」p14-15 竹内伝史・川上洋司・磯部友彦・嶋田喜昭・三村泰広共著 鹿島出版会 2011年10月10日発行
  34. ^ 「地域交通の計画 政策と工学」p15-16 竹内伝史・川上洋司・磯部友彦・嶋田喜昭・三村泰広共著 鹿島出版会 2011年10月10日発行
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  54. ^ 「交通工学総論」p16 高田邦道 成山堂書店 平成23年3月28日初版発行
  55. ^ 「新版 交通とビジネス【改訂版】」(交通論おもしろゼミナール1)p71 澤喜司郎・上羽博人著 成山堂書店 平成24年6月28日改訂初版発行


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