不発弾 不発弾の概要

不発弾

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/30 14:30 UTC 版)

不発で発見されたイラク軍の砲弾
  • 発射薬に関する異常で発射されなかった弾薬類も、一般には不発弾と呼ばれるが、専門的には不発射弾と呼ばれる。不発射弾については後述。
  • 転じて、何等かの効果が期待されて行われた動作や興行などが、期待された効果を生まなかった場合に、不発弾不発と形容される。

概要

川床から不発弾として発見された第二次世界大戦期の4,000ポンド爆弾。ブロックバスターとも呼ばれる大型爆弾で、名前の通り街の1ブロックの建造物を焼失させる威力を持っていた(2011年コブレンツ

不発弾は、火工品である弾薬が正常に機能しなかったという点で、広義の不良品である。元来、人や物品、施設に損害を与えるのが目的である以上、一定の破壊力を有しているため、後々になって何らかのきっかけにより動作した場合には、本来の目標とは異なる対象を破壊してしまうこともあり、特に戦闘が終結したあとに残された不発弾で問題とされる。

不発弾の原因のほとんどは、信管の動作不良によるものだが[2]、外見から原因を断定するのは困難であり、取り扱いには注意を要する。原因の一例を挙げれば以下のようなものがある。

  • 柔らかい土壌に落下して着発信管に適切な衝撃が加わらないなど、起爆に必要な条件が満たされなかったもの
  • 起爆薬・伝爆薬・炸薬いずれかの劣化による作動不良
  • 安全機構の解除に必要な遠心力などの外力が、なんらかの原因で得られなかったもの
  • 近接信管レーダーなど、電気的な部品の作動不良によるもの

この他にも様々な要因によって不発弾は発生し得る。効果の遅延、長期化を狙って時限信管の起爆タイマーが数百時間にセットされた物もあり、外見から不発弾と区別することは不可能である。

炸裂機能のある弾薬類は基本的に、先端・後端または両端に取り付けられた非常に敏感な信管が先に炸裂し、鈍感だが威力の高い炸薬を誘爆させる構造になっている。信管は、衝撃などで作動する撃針が、敏感だが威力の弱い起爆薬を爆発させ、やや感度は劣るが威力の高い伝爆薬を誘爆させる構成が一般的で、このような弱い爆薬から強い爆薬へと連鎖反応的に誘爆させていく機構を炸薬系列と呼ぶ。通常は、この炸薬系列にカムタイマー電池、レーダーなどを組み合わせた安全機構を組み込んで、無用に爆発しないような状態で貯蔵・運搬される。使用される際に、この安全装置を外し忘れるといった人為的な原因でも不発弾は発生する。

19世紀後期以降に開発された高射砲艦載砲野戦砲の多くは、用途や標的の種別に応じて砲弾の信管を変更して発射できることが一般的であり、砲弾の先端には信管を取り付けるためのねじ山である信管孔(しんかんこう)[3]が切られている。こうした砲弾は、平時は内部の炸薬の保護や玉掛けなどでの輸送のために、弾頭栓(だんとうせん)[3][注釈 1]と呼ばれる製やベークライト製などの保護栓や、揚弾栓(ようだんせん)[3]と呼ばれる取っ手(またはアイボルト)付きの金属栓が取り付けられており、こうした弾頭栓の外し忘れや、弾頭栓取外し後の信管の取付け忘れなどの人的ミスにより、信管が取り付けられていない状態の砲弾が発射されることがある。こうした砲弾は信管が無いため、着弾しても炸裂できず不発弾となる。

不発射弾

多くの弾丸、特に銃弾は弾頭と発射薬(装薬)、銃用雷管薬莢に組み付けられた装弾実包)の形態で使用者に供給されることが多い。また、大砲でも比較的小口径のものの場合には、銃弾と同様の形態で砲弾が供給される場合がある。

こうした構造の弾丸の場合、何らかの原因[注釈 2]で雷管が不発火、あるいは雷管が発火しても装薬が不発火することにより、不発(不発射弾)が発生する場合がある。砲弾の場合にはたとえ雷管が発火して発射されても、着弾後の信管の不発火により結果として不発弾が発生しうる。

小火器の弾丸の場合、作動不良を起こした弾丸を銃器から抜き出さないと次の弾丸を発射できない構造の物も多い。特に、発射薬の燃焼エネルギーの一部を利用して自動的に再装填を行う機関砲機関銃短機関銃自動拳銃などの自動火器ではそこで連続発射が停まってしまう物もあるため、発射トラブル(排莢不良/ジャム)となる。チェーンガンないしガトリング砲のように外部から動力を得ている物は、空薬莢も不発弾も区別なく強制的に捨てられるため、動作不良の原因になることはない。

迫撃砲の不発射の場合、信管は作動していないが発射装薬が活きている状態となる[注釈 3]。しかも、砲身の一番下にある砲弾を専用工具などを用いて砲口から取り出す[注釈 4]という特殊な作業が必要になる。富士総合火力演習にて迫撃砲の不発射が観客の目の前で起きたことがあり、以後は安全策として観客席から離れた位置からの射撃に変更となっている。

戦車のように密閉された場所の場合、狭い車内で砲弾を安全に薬室から取り出した後に狭いハッチから外に出し、車体上から地面まで降ろさなくてはならないため、不発射弾の処理には大きな危険が伴う。

無反動砲のような火砲の場合、撃針で雷管を叩いて不発射となった場合、後述の遅発が疑われるため、一定の時間射撃姿勢を維持して射出に備え、定められた時間が経過した後に砲手および副砲手・安全係などが、射場指揮官の統制のもと、不発弾を安全な方法で回収し処理部隊に後送している。弾頭と発射薬が分離されている大型の榴弾砲などで、装薬の不具合が原因の場合、一定時間経過後に装薬を交換して射撃する場合もある。

無反動砲の縮射弾射撃の場合、操作ミスにより不発弾が発生してしまう場合が存在するが、基本的にその場で処理される。84mm無反動砲の場合は、64式7.62mm小銃を携行して、不発射となった弾薬を射撃処理する。60式106mm無反動砲の場合は、12.7mm重機関銃M2スポットライフルを用いて処理する。

遅発

撃針の打撃と同時に発火しなかった雷管または発射薬が、時間を置いてから発火する事象は遅発と呼ばれる。不発射弾が薬室に装填されたままの状態で遅発が起きた場合、通常の射撃同様の威力で弾丸が発射されるため、暴発誤射などの重大な人身・物損事故の原因となりうる。 日本における狩猟射撃競技用のライフル銃散弾銃の取扱要領[4]においては、不発射弾は不発であると同時に遅発(ちはつ)であることも想定して事後処理を行うことが推奨されている。

上記取扱要領においては、引金を引いて撃鉄を落とした際に不発射弾が発生した場合には、遅発に備えて薬室をすぐに解放せず、銃口を安全な方向[注釈 5]に向けた上で、その射撃姿勢を10秒程度維持し、遅発が発生しなかったことを確認してから銃の薬室から不発射弾を取り出し、速やかに銃砲店に不発射弾の廃棄を依頼することとされている。

資料によっては、遅発は

  • 長期間保存した古い実包
  • 湿気を帯びた実包
  • に濡れた実包

などにおいて多く見られるともされている[5]

遅発は、上記の時間を遥かに超えてから発生する場合もある。64式7.62mm小銃の開発者の一人である伊藤眞吉の著述[6]によると、科学警察研究所にてあさま山荘事件で犯人側凶器として使用された散弾銃[注釈 6]および紙ケース製実包を、殺傷能力鑑定のために立て篭もり当時の状況[注釈 7]を再現して実射試験を重ねていた際に、1発の実包の不発火が発生。技官がその不発射弾を室内射撃場の床の上に安置して試験を継続した後に帰宅したところ、不発射弾であった実包が夜間に遅発して射場内に散弾がバラバラに飛散していたことが翌朝になって確認された事例があったという。伊藤はこの件について不発火から遅発発生までの正確な所要時間は不明なものの、計測を行っていれば恐らく遅発の世界最長記録となっていただろうと記述している。

かつて小銃・散弾銃実包が黒色火薬による品質のバラツキの大きいハンドロードが主流であった時代には、元折式散弾銃においては撃鉄が機関部の外に露出した有鶏頭と呼ばれる構造(いわゆるオープンハンマー)が存在したため、によっては不発射弾を装填したまま撃鉄を起こし、再度雷管への打撃を行うことで撃発を期すこともあった。特にアメリカ軍ではボルトアクションM1903小銃や、セミオートマチックのM1ガーランドまでは薬室を閉鎖したまま撃茎や撃鉄を起こすことが可能であったため、小火器操典上[7]においても、不発火の際には遅発に備えた待機の後の不発射弾排除よりも、雷管の再打撃が優先される場合があったが、第二次世界大戦前後には多くの国家において、無煙火薬による品質の安定した工場装弾が主流となったため、ほとんどの銃が撃鉄が機関部に内蔵されたことで独コッキングが行えなくなった無鶏頭と呼ばれる構造(インナーハンマー)に移行し、再打撃による発火の試行は不発火に対する対処法の主流では無くなっていった[6]


注釈

  1. ^ 弾頭仮栓とも。日本軍では弾頭換栓とも表記
  2. ^ 雷管内の爆薬の劣化や、火器側の撃針の打撃強度不足に起因する不発火など
  3. ^ 81mm迫撃砲 L16では不可能だが、120mm迫撃砲 RTではりゅう縄と呼ばれる綱を引くことで撃針を操作し不発の時点で当該操作を行い発射を試みることが多い
  4. ^ 120mm迫撃砲RTの場合は底板付近の操作で弾が取り出せる構造になっており、創立記念などでは、この機能を用いて擬製弾を砲口から落とした後に下から回収し、再び副砲手に弾薬を渡すといった様子が確認できる
  5. ^ 標的やバックストップ(安土)がある方向で、着弾点の安全が確認可能かつ跳弾が発生しない場所
  6. ^ SKB工業製12番自動散弾銃を改造したソードオフ・ショットガン
  7. ^ 多量の放水と催涙ガスを浴びて湿った状態
  8. ^ 姫路城天守の最上階に落ち、奇跡的に発火しなかったため焼失を免れた例など

出典

  1. ^ 那覇市. “不発弾”. 2016年8月8日閲覧。
  2. ^ a b 日本物理探鑛株式会社. “不発弾とはどういうもの?”. 2016年8月8日閲覧。
  3. ^ a b c 防衛省規格 NDS Y0001D 弾薬用語” (PDF). 防衛省 (2009年5月13日). 2012年3月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2012年10月22日閲覧。
  4. ^ 『狩猟読本』 社団法人大日本猟友会、2010年、192頁
  5. ^ 『猟銃等取り扱いの知識と実際』 社団法人全日本指定射撃場協会、2010年、80頁
  6. ^ a b 伊藤眞吉 「鉄砲の安全(その3)」『銃砲年鑑』08-09年版、180-181頁、2008年
  7. ^ 『TM 9-1990: Small-Arms Ammunition--September 1947』 US War Department、1948年、37頁
  8. ^ “第一次世界大戦:不発弾1億発、処理に700年…フランス”. 毎日新聞. (2014年8月2日). オリジナルの2014年8月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20140803032702/http://mainichi.jp/select/news/m20140802k0000m030087000c.html 2014年8月2日閲覧。 
  9. ^ 山火事で第2次大戦の不発弾が多数爆発 ベルリン近郊”. CNN (2018年8月25日). 2018年8月25日閲覧。
  10. ^ 沖縄県 (2014年8月27日). “不発弾発見時の事故防止に対する周知について”. 沖縄県. 2016年8月8日閲覧。
  11. ^ 警察庁生活安全局保安課長 (2014年12月25日). “不発弾等の取扱いについて(通達) 警察庁丁保発第205号” (PDF). 警察庁. 2016年10月6日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月8日閲覧。
  12. ^ 沖縄タイムス (2011年6月17日). “修学旅行生が不発弾らしき金属物所持 那覇空港で発見”. 47NEWS. 2011年8月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2015年8月5日閲覧。
  13. ^ 不発弾か 修学旅行生が銃弾所持 - 琉球朝日放送、2011年6月17日
  14. ^ 「海岸で拾った不発銃弾は危険」 那覇空港が機内持ち込みで「異例の放送」 - J-CASTニュース、2011年7月11日
  15. ^ 聖マタイ幼稚園の不発弾爆発40年 負の記憶、後世に - 琉球新報、2014年3月2日
  16. ^ 薩摩川内市 (2014年3月). “不発弾処理マニュアル”. 薩摩川内市. 2016年8月18日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月8日閲覧。
  17. ^ 沖縄県 (2012年). “不発弾” (PDF). 沖縄県. 2016年8月26日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年8月8日閲覧。
  18. ^ 住宅の建築予定地から不発弾が見つかったらどうなる”. Yahoo!不動産 おうちマガジン (2016年10月17日). 2018年12月10日閲覧。
  19. ^ 沖縄不発弾等対策協議会 専門部会 ワーキングチーム 報告書(案)《抜粋》”. 内閣府沖縄総合事務局 (2015年). 2020年3月10日閲覧。
  20. ^ 「ドンッ」沖縄戦の不発弾、民家敷地で爆破処理 住民7時間避難”. 沖縄タイムスプラス (2018年12月10日). 2018年12月10日閲覧。
  21. ^ 大阪・浪速区の不発弾 撤去「支払い不当」 地主、返還求め市を提訴 毎日新聞 2016年5月26日
  22. ^ 大阪・浪速区の不発弾訴訟 国も提訴 処理費負担で土地所有者ら 毎日新聞 2016年12月9日
  23. ^ “不発弾処理、所有者ら敗訴 大阪市と国の負担認めず 大阪地裁”. 産経新聞. (2018年2月26日). https://www.sankei.com/article/20180226-OZTIG5NEGJJSXDOJYWOGBLSEZM/ 2018年8月3日閲覧。 


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