ラム酒
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/11/30 07:06 UTC 版)
製法
いずれの方法においても、複数回の蒸留を行って、エタノールの濃度を、製造段階で一旦80%程度に濃縮することが多い。ただし最高でもエタノールは95%未満にまでしか濃縮しない。もしここで95%以上にまでエタノールを濃縮してしまうと、中性スピリッツになってしまう。蒸留による濃縮後、熟成させる前に加水することもある。
熟成後は通常割り水され、だいたいアルコール度数が40%-50%くらいの酒になるように調整して出荷される。しかし、中にはアルコール度数75.5%で出荷される銘柄も存在する[注 1]。なお、酒のエタノールの濃度を指して"151プルーフ"(=アルコール度数75.5%をUSプルーフで表したもの)という表記がなされることがあり、出荷時に151プルーフという意味で名称に「151」が付けられる製品もある。例えば、ロンリコ151、バカルディ151などがそれである。
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フランスの海外県グアドループでのラムの発酵
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Millaquinの蒸留所(20世紀前半)
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ラムのための蒸留器
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熟成樽
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樽
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醸造原料別の違い
発酵させてできた醸造酒を蒸留し、エタノールの濃度を高めてから熟成させる工程は共通であるが、主に原料によってインダストリアル製法とアグリコール製法に分類される。
インダストリアル製法
インダストリアル製法は、サトウキビから砂糖を精製する際の副産物であるモラセス(廃糖蜜)を原料として作られるもの。この製法で作られたラムをインダストリアル・ラム(工業ラム)と呼ぶこともある。
この製法で作られたラムが、全世界的にはラムの総生産量の約97%ないし約98%を占める。
モラセスを貯蔵しておくことで、好きな時に醸造を開始することが可能なため、サトウキビの収穫時期に拠らず通年でラムの原料となる醸造酒の製造開始が可能であり、出来上がった醸造酒を次の蒸留工程へと送ることで、年中ラムを製造できる。また、モラセスを輸入してラムの原料となる醸造酒の製造をすることもできるため、サトウキビの生産地以外でも醸造工程からラムの製造ができる。
インダストリアル製法の中には、例外的に固形の黒砂糖を水に溶解させて用いる例がある。
アグリコール製法
アグリコール製法は、サトウキビの搾り汁から砂糖を精製せずに、搾り汁を直接、原料として醸造酒を作る点が異なっている。この製法で作られたラムをアグリコール・ラム(農業ラム)と呼ぶこともある。
登場はインダストリアル製法より新しく、また全世界的にもラムの総生産量の約3%ほどしかない。また、サトウキビは刈り取った瞬間から加水分解やバクテリア発酵が始まるため、栽培地の近くでないとこの製法は行えず、収穫時期以外はラムの原料となる醸造酒の製造を開始できない。
製法別の風味の違い
「ライト・ラム」と「ミディアム・ラム」と「ヘビー・ラム」では、風味と製法が異なる。
ライト・ラム
ライト・ラムは、モラセスと水を混ぜ、純粋酵母発酵させて醸造酒を作り、連続式蒸留器で蒸留。蒸留後、内面を焦がしていないホワイトオーク樽やタンクで短期間熟成される。樽熟成のままだとゴールドラムに、熟成後に活性炭で濾過するとホワイト・ラムになる。
弱い風味と味(比較的中性スピリッツに近いこと)が特徴である。このため、ラムの中では、このタイプのものがカクテルのベースとして多用される。
スペインの統治下にあったキューバ、プエルトリコなどに多くみられる。2022年に「キューバのライト・ラム・マスターの知識」はUNESCOの無形文化遺産に認定される[10]。
ヘビー・ラム
ヘビー・ラムは、モラセスを自然発酵させ単式蒸留器で蒸留する。蒸留する前にバガス(サトウキビ搾汁後の残渣)やダンダー(前回蒸留したときの残液)を加えることもある。蒸留後、内面を焦がしたオーク樽(バーボン樽を用いることもある)で熟成させる。長期間(3年以上)熟成されるとダーク・ラムになる。
エタノール以外の副生成分を多く含み、風味が強く、褐色をしているのが特徴。場合によっては濃い褐色の場合もある。なお、この分類をダーク・ラムと呼ぶこともある。
琥珀色を出す為に着色料(カラメル)を添加して作られる製品もある。色が濃い方が質が良いと誤解されている地域もあるため、過度の着色をされる場合がある。
イギリス連邦加盟国のジャマイカ、ガイアナ、トリニダード・トバゴなどに多くみられる。
ミディアム・ラム
ミディアム・ラムは、ヘビー・ラムと同様にモラセスを自然発酵させ醸造酒を造る。バガスやダンダーを加えることもある。蒸留は連続式蒸留器を使う銘柄もあれば、単式蒸留器を使う銘柄もある。また、ヘビー・ラムとライト・ラムをそれぞれ製造し、ブレンドするといった製法もある。このように、その製法は様々である。
ラムの風味と香りを持たせながら、ヘビー・ラムほど強い個性ではないのが特徴。ヘビー・ラムと同様に、カラメルなどを着色のために添加していることもある。
フランス系植民地で発展し、フランスの海外県のマルティニーク島やグアドループ島などによくみられる。
その他の製法
スパイスト・ラム
スパイスト・ラムには、インダストリアル・ラムにバニラなどの香辛料で香り付けを行ったものや、フルーツやハーブを漬け込んだものがある[11]。セント・マーティン島のグアバベリー・ラムリキュールは、輸入したラムの樽にグアバベリーを漬け込んでつくられている[12]。スパイスト・ラムは、一般的なラムと比較すると出荷時のアルコール度数が低い製品もあり、アルコール度数30度台の製品も存在する。なお、スパイスト・ラムはフレーバード・ラム(フレイバード・ラム、フレーバー・ラム)とも呼ばれる。
また、他のタイプのラムにも何らかの香りを付けることもある。
注釈
出典
- ^ [1]
- ^ 落合直文著・芳賀矢一改修 「らむ」「らむしゆ」『言泉:日本大辞典』第五巻、大倉書店、1928年、4906頁。
- ^ マグロンヌ・トゥーサン=サマ 著、玉村豊男 訳『世界食物百科』原書房、1998年、583頁。ISBN 4562030534。
- ^ [2]
- ^ フィリップ・ジャカン『海賊の歴史』創元社、2003年、129-130頁。
- ^ a b リチャード・プラット『知のビジュアル百科 海賊事典』あすなろ書房、2006年、45頁。
- ^ 洋酒物語, p. 93,97; 洋酒入門, p. 30.
- ^ “ジョニー・デップに英ラム酒メーカー感謝?「パイレーツ」影響で消費量激増”. 映画.com (2007年12月4日). 2014年12月4日閲覧。
- ^ “ラムの製法”. 日本ラム協会. 2017年4月12日閲覧。
- ^ “UNESCO - Knowledge of the light rum masters” (英語). ich.unesco.org. 2022年12月3日閲覧。
- ^ 日本ラム協会『ラム酒大全』誠文堂新光社、2017年、27頁。
- ^ 日本ラム協会『ラム酒大全』誠文堂新光社、2017年、107頁。
- ^ 銘酒事典, p. 49,186.
- ^ “香川の和三盆、ラム酒に 美馬産業が蒸留所 廃棄の糖蜜活用、甘さ上品 観光一体型 12月稼働”. 日本経済新聞. (2022年4月21日) 2022年8月30日閲覧。
- ^ “和三盆ラム酒を日本酒の木おけで仕込み 「絶対良いものになる」伝統×伝統の新取り組み 香川”. 瀬戸内海放送 (2021年8月11日). 2022年8月30日閲覧。
- ^ ジョセフ・M・カーリン 著、甲斐理恵子 訳『カクテルの歴史』原書房、2017年、27頁。
- ^ リチャード・フォス 著、内田智穂子 訳『ラム酒の歴史』原書房、2018年、35頁。
- ^ 洋酒物語, p. 95.
- ^ a b 洋酒物語, p. 98.
- ^ ジョセフ・M・カーリン『カクテルの歴史』原書房、2017年、49頁。
- ^ Vocabulary.com, groggy.
- ^ 洋酒物語, pp. 93–94.
- ^ ロイ・アドキンズ『トラファルガル海戦物語』 下、原書房、2005年。ISBN 978-4562039623。
- ^ 洋酒物語, pp. 93–94; 洋酒入門, p. 30.
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