マツ 生態

マツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/04/13 15:54 UTC 版)

生態

アカマツやクロマツなどといった温帯地域のマツは一般に春から初夏にかけて主軸と枝が一節ずつ伸びて(俗に「みどり」と言われる部分)、夏には成長を止める成長様式を見せるものが多い。しかしながら、特に亜熱帯や熱帯に分布する種類では1年間に多節成長するものがある[4]

バンクスマツ(P. banksiana)やリギダマツ(P. rigida)早い種類では発芽後数年で花を付け始め、特に雌花の形成が早いという[5]。マツ類は雌花において受粉した後に、胚珠が受精完了するまでの期間が長く、翌年の春から夏になって受精に至る。受精後に球果は急激に成長し同年の秋には熟すというパターンが多い。例外的にメキシコに分布するP. nelsoniiは受粉後に年内に受精し球果が成長を始める他、イタリアカサマツP. pinea)のようにさらに1年かかり、受粉後3年目の秋に球果の成熟を迎える種もある[6]。 球果が開くタイミングは種によって異なる。アカマツやクロマツは種子が成熟すると、すぐに種鱗が開くようになり湿度に応じて開閉を繰り返す。一方で成熟後数年間開かない、もしくは好適な条件下にならないと開かない(晩生球果、serotinous coneなどと呼ばれる)仕組みを持つものもあり、特に火災時に種を散らす仕組みを持つものが多い。また、チョウセンゴヨウやP. cembraなどのように樹上からは落果するものの自然には決して開かず、動物による摂食、もしくは球果が腐敗することによって種子の散布、発芽へとつながる種もある。

陽樹であり、遷移が未発達の厳しい場所に生えるというイメージが強いが、チョウセンゴヨウP. koraiensis) のように動物による種子散布を期待する種は実際に動物が生息するようなある程度遷移の進んだ森林においても苗が成長する。一方で火災によって種子を散布するような種は極めて耐陰性や耐病性が低く、遷移の進んだ状態では更新できないものが多い。厳しい環境下でも生育できるようにマツ属は自身の根に菌類の菌糸を侵入させた、特別な根である菌根を形成する。マツは菌類を通じて土壌中の栄養分や水分の吸収を助けてもらっており、逆に菌類に対しては光合成によって得られた同化産物を分け与えているという共生関係にある[7]。マツと共生して菌根を形成する菌類は多数知られている。「キノコ」として我々が利用できる種も多く、日本ではマツタケ(松茸)、ショウロ(松露)、アミタケなどが特に有名。

マツは様々な動物に利用される。昆虫に対しては餌や隠れ家を提供する。葉は蛾の幼虫やハバチ、樹液はアブラムシカイガラムシ、木材はカミキリムシゾウムシキクイムシやキバチなどの餌として利用される。球果に侵入して中の種子を食べる昆虫もいる。これらのマツに集まる昆虫を目当てにサシガメなどの肉食性昆虫、アリや寄生蜂なども集まってくる。鳥や獣に対しては営巣場所を提供する。カートランドアメリカムシクイSetophaga kirtlandii)とバンクスマツ(P. banksiana)のように密接な関係を持つものから、何種もの木の中からマツ類を営巣場所に選ぶと言った程度のものまで様々である。また、種子は餌として利用され、特に一部のマツでは顕著である。マツの方でも動物を利用して種子の散布を計ろうとするものが知られている。

微生物や菌類にもマツを利用して生きていく種は多い。前述のように菌類には菌根を形成してマツと共生関係を築くものもある。一方でマツに一方的に被害を与える微生物も多い。何種ものサビキン類やある種の線虫、菌類であってもマツノネクチタケ類ツチクラゲナラタケ類Armillaria sp.)などは一方的にマツの生体を攻撃して時に枯死させる。

マツを利用する動物の中には菌類や微生物の中には移動能力に乏しく動物を利用するものが知られている。逆に菌類や微生物によって衰弱したマツを昆虫が利用するということも知られており、両者は共生関係にあるとも言える。例えば我が国のマツに大きな被害を与えているマツ材線虫病はマツノザイセンチュウによって引き起こされる病気である。この病原の媒介者であるマツノマダラカミキリは、健全なマツよりも衰弱しているマツに好んで産卵する。線虫の感染によって材線虫病を発症し、衰弱したマツにカミキリは産卵、センチュウはカミキリが羽化する際にカミキリと共に次のマツへと移る。カミキリは線虫の病原性によって産卵場所の増加が、線虫はカミキリによって分布の拡大が利益になる。オーストラリアニュージーランドで大きな被害を出したノクチリオキバチSirex noctilio)の場合も同様の関係があるが、共生菌はマツを衰弱させるだけでなく、キバチの幼虫の餌としても利用される。キクイムシの仲間も同様の関係を持つものが多い。

更新は一般に実生による。萌芽更新や伏条更新[注釈 2]といった栄養繁殖は多くの種類では一般に行わない。ただし、火災が頻発するような地域に分布する一部の種は萌芽力が発達しており、火災で焼損しても枯死せずに萌芽で再生することがある。また、ハイマツ (P. pumila)のように伏条更新を行うものも知られている。

人工的に繁殖させる場合、挿し木接ぎ木による繁殖も考えられる。しかし、マツ類は接ぎ木はともかく、挿し木が困難なグループとして昔から知られている[8]。特に挿し穂を採取する母樹の樹齢が高い場合は極めて発根しにくいという報告が多い。挿し木の一種として、挿し穂として長枝ではなく、短枝を使う方法もありハタバザシ(葉束挿し)と呼ばれる。発根はするものの、地上部が成長せずに結局枯れるなどという報告もあるが、地上部の成長に成功している場合もある[9]

マツは五葉マツ類発疹さび病マツ材線虫病といった世界的に流行している病害への対策や、他の優良形質の固定も含めて、接ぎ木よりも効率的なクローン技術である挿し木の研究が古くから研究されてきた。前述のように若い個体は発根率が良いことが知られている。しかしながら、若い個体は挿し穂に出来る枝が少ないことから優良個体を量産するには課題があった。近年、植物ホルモンの一種、サイトカイニンを投与することでマツの不定芽を活性化され、若い個体でも多数の挿し穂を確保できる技術が開発され、これを利用した挿し木量産技術が確立されつつある。日本ではこれをマツ材線虫病の抵抗性育種に応用することが考えられており、抵抗性の親木から得られた実生苗に病原であるマツノザイセンチュウを接種、接種試験によって枯死しなかった苗にサイトカイニンを投与して、材線虫病抵抗性の挿し穂・挿し木苗を量産することが考えられている。


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注釈

  1. ^ 1つの株に雄蕊のみを持つ雄花、雌蕊のみを持つ雌花という2種類の花を付けること
  2. ^ 地面に近い枝が接地することで発根し、それが新しい個体へと成長する更新様式
  3. ^ 病名和名は「林業技術ハンドブック(2001)全国林業改良普及協会」を参考にした

出典

  1. ^ 酒井昭・倉橋昭夫(1975)日本に自生している針葉樹の耐凍度とそれらの分布との関係. 日本生態学会誌25(4), 192 -200.
  2. ^ 大畠誠一(1995)マツ属における適応と種分化(2)―地理分布圏と分布の様相―. 生物科学47(2).
  3. ^ a b c d 石井盛次(1968)マツ属の基礎造林学的研究 特にその分類学的ならびに地理学的考察. 高知大学農学部紀要19号
  4. ^ a b c 大畠誠一(1995)マツ属における適応と種分化―(1)―マツ属の多様な形質と性質. 生物科学47(1), 32 -39.
  5. ^ Andresen, J. W. (1957) Precocity of Pinus rigida Mill. Castanea 22:130-134.
  6. ^ 石井盛次(1952)マツ属の分類学的研究. 高知大学研究報告 自然科学2(2), 103 -123.
  7. ^ 二井一禎・肘井直樹(2000) 森林微生物生態学. 朝倉書店. 東京.
  8. ^ 戸田良吉(1953)マツ類のサシキについて―綜合妙録―. 研究報告65号
  9. ^ 石川博隆・草下正夫(1959)マツ類のさし木に関する研究(第1報)―クロマツのハタバザシ法について―研究報告116号
  10. ^ a b c 柴田圭太(編).1957. 資源植物事典. 北隆館. 東京.
  11. ^ a b 堀田満・緒方健・新田あや・星川清親柳宗民・山崎耕宇.(1989). 世界有用植物事典. 平凡社. 東京.
  12. ^ a b 日本林業技術者協会 (編). (1993) 新版林業百科事典. 丸善. 東京.
  13. ^ 佐藤為三郎(編).(1886)『現今児童重宝記 : 開化実益』
  14. ^ 『信州の民間薬』全212頁中55頁医療タイムス社昭和46年12月10日発行信濃生薬研究会林兼道編集
  15. ^ Mirov N. T.(1967)The genus Pinus. The Ronalld Press Company, New York.
  16. ^ a b c d 清原友也・徳重陽山(1971)マツ生立木に対する線虫Bursaphelenchus sp.の接種試験. 日本林學會誌 53(7), 210-218
  17. ^ a b c d e 米倉浩司・梶田忠 (2003-) 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList),http://bean.bio.chiba-u.jp/bgplants/ylist_main.html(2015年1月16日).[要ページ番号][リンク切れ]
  18. ^ a b 初島住彦・中島邦夫. (1979) 琉球の植物. 講談社. 東京.
  19. ^ 佐竹義輔・原寛・亘理俊次・冨成忠夫 編著 (2001) 日本の野生植物木本1. 平凡社. 東京.
  20. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t 豊国秀夫 編著(2009) 復刻・拡大版植物学ラテン語辞典. ぎょうせい. 東京.
  21. ^ 松脂の採れる事世界一の新高赤松 約三百万円の輸入も防遏か 意義ある中研の新事業. 台湾日日新報 1936年10月7日付け.
  22. ^ 中野秀章(1962)岩手・宮城両県下防潮林のチリ地震津波時における実態・効果と今後のあり方.林業試験場研究報告140
  23. ^ a b c 大畠誠一.(1993). マツ属における種分化と地理分布の研究 : 亜節の位置づけ. 京都大学農学部演習林報告(65) 36-49.
  24. ^ a b c d 平井信二(1998)木の大百科―解説編―. 朝倉書店, 東京
  25. ^ Taxonomy, History, and Biogeography of the Contortae (Pinus spp.)
  26. ^ a b 中井勇(1990)バージニアマツとクラウサマツの雑種.日本林學會誌 72(4), 335-338.
  27. ^ 朝日新聞社(1997)朝日百科 植物の世界11 種子植物3 単子葉類・裸子植物. 朝日新聞社, 東京.
  28. ^ J. T. Blodgett and K. F. Sullivan (2004) First Report of White Pine Blister Rust on Rocky Mountain Bristlecone Pine. plant disease 88(3), 311






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