ポリプロピレン ポリプロピレンの概要

ポリプロピレン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/10/15 09:23 UTC 版)

ポリプロピレン
識別情報
CAS登録番号 9003-07-0
日化辞番号 J203.594D
ChEBI
RTECS番号 UD1842000
特性
化学式 (C3H6)x
外観 半透明 固体
密度 0.855 g/cm3, 非晶
0.946 g/cm3, 結晶
0.90 - 0.92 g/cm3, 成型品
融点

~ 165 °C

への溶解度 0
危険性
主な危険性 可燃性
NFPA 704
1
0
0
引火点 >300 °C
特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

ポリプロピレンは汎用樹脂の中で、最高の耐熱性を誇り、比重が最も小さくて水に浮かぶという特徴を有する。さらに汎用樹脂としては比較的、強度が高く、耐薬品(アルカリを含む)性に優れ、吸湿性が無いといった特長も有している。しかし、染色することが困難であり、さらに耐光性が低い為、ファッション性の高い服地の繊維用途には向かない。

工業的に製造が可能であり、文具、紙幣、自動車部品、包装材料、繊維製品、プラスチック部品、種々の容器、実験器具[注釈 1]、スピーカーのコーン[注釈 2]など幅広い用途を持っている。

2011年の全世界の生産能力、生産実績、総需要は、62,052千トン、50,764千トン、49,366千トンであった[1]。一方、2012年の日本国内総需要は、2,297,562トンであった。同年の生産・輸入・輸出は、2,390,256トン(415,809百万円)、302,133トン(51,258百万円)、308,229トン(41,035百万円)であった[2]

構造と物性

立体規則性

アイソタクチック (上) とシンジオタクチック (下)

ポリプロピレンの立体規則性は、ポリプロピレンの構造と物性を理解する上で非常に重要な概念である。隣り合うメチル基(右の図中のCH3)の相対的配置が、最終ポリマーの結晶形成に強く影響を与える。なぜなら、各メチル基が空間配座を決めるからである。

立体規則性の違いにより、アイソタクチック(イソタクチック)、シンジオタクチックアタクチックの立体規則性(タクティシティー)の異なったポリプロピレンが合成される。

アイソタクチックとは、不斉炭素が同じ絶対配置を持つような構造である。具体的には、プロピレン側鎖のメチル基が全て同じ方向を向いていて、かつ、プロピレンが頭-尾結合している構造である。一方、シンジオタクチックとは、不斉炭素の絶対配置が交互に並ぶ構造である。絶対配置がランダムな構造をアタクチックと言う。なお、アタクチックポリマーは通常、結晶化しない。

大部分の工業的に入手可能なポリプロピレンは、結晶性のアイソタクチックポリマーを主成分とし、0.5%から2%程度のアタクチックポリマーを含んでいる。アタクチックポリマーは、キシレンなどの有機溶媒に可溶なので、この性質を用いて市販のポリプロピンから分離することが可能である。

タクティシティーは、13C-NMR(C13 Nuclear Magnetic Resonance: 炭素13核磁気共鳴)を用いて、メチル基のシン配置(隣り合うメチル基が同側)と、トランス配置(隣り合うメチル基が反対側)の分率を測定することにより得られる。

結晶構造

アイソタクチックポリプロピレン、シンジオタクチックポリプロピレンは、結晶性の樹脂である。

アイソタクチックポリプロピレンの結晶構造は、3/1螺旋鎖を基礎とする、α晶、β晶、γ晶、スメクチック晶などの結晶構造を取ることができる。支配的な結晶構造は、α晶(単斜晶)であり、これは、αI(空間群C2/c)とαII(空間群P21/c)に分けられる。α晶は、ラメラ構造が特異であり、親ラメラにほぼ直角方向に娘ラメラが成長したクロスハッチ構造を形成する。

β晶は、六方晶であり、ラメラ構造は通常のα晶のようなクロスハッチ構造はとらない。

γ晶は、三斜晶である。通常工業的に用いられる加工条件では、発現しない。

スメクチック晶は、工業的には、フィルム成形での急冷によって現れる。

シンジオタクチックポリプロピレンの結晶構造は、8/1螺旋鎖を基礎とする斜方晶である。

共重合

ポリプロピレンは、コモノマー(主としてエチレン)との共重合の形態において3種に分類される。すなわち、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーである。

ホモポリマー

ホモポリマーは、プロピレンだけによる単独の重合体である。プロピレンと連鎖移動剤としての水素のみを用いて重合する。上述の立体規則性の他、分子の1次構造の違いは、末端のメチル基の挿入による違いにより、n-ブチル基あるいはi-プロピル基になる。メタロセン触媒により得られるポリマーでは、2,1挿入や1,3挿入により見かけ上エチレンが共重合された構造となる。

アイソタクチックポリプロピレンのDSC(Differential Scanning Calorimeter: 示差走査熱量計)によって測定される融点は、約165 ℃である。一方で、平衡融点は、187.5 ℃とされる。なお、融点は、タクティシティーが高いほど、つまり、ポリマーの分子構造が立体的に規則的であるほど上昇する。

ランダムコポリマー

ランダムコポリマーは、エチレンを通常は4.5重量パーセント以下の割合で、共重合体中に含有する。エチレンに加えてブテン-1も共重合した3元共重合体(ターポリマー)も工業的に合成可能である。また、プロピレンとブテン-1の2元共重合体(エチレンを含まないコポリマー)も工業的に合成可能である。

「ランダム」とは、統計的にランダムであるということを必ずしも意味しない。エチレンのポリプロピレン主鎖中の分布(ランダムネス)は、共重合反応をさせる際に用いる触媒の種類によって異なる。

必ずしも全ての分子量分画において、エチレンの分率が等しいという訳ではなく、低分子量鎖と高分子量鎖では、エチレンの含有率が異なっている。すなわち、エチレン含有量に分布(共重合組成分布)が存在する。メタロセン触媒を用いて得られるポリマーは、固体触媒を用いた場合より共重合組成分布が狭く、均一である。

ランダムコポリマーは、ホモポリマーより結晶性が低く、比較的透明で、靭性に優れ柔軟なポリマーである。ただランダムコポリマーの透明性は、ポリスチレンアクリル樹脂などの非晶性ポリマーほどではない。

コモノマー(共重合されるモノマー)の含有率が多いほど融点が低くなる。

ブロックコポリマー

ブロックコポリマーは、インパクトコポリマー、異相共重合体(heterophasic copolymer)とも呼ばれる。これは、ホモポリマーの重合に続き、後続の反応槽でエチレンが共重合された、エチレン-プロピレン重合体を含有する組成物を意味する。ブロックコポリマーは、ホモポリマーの「海」の中にエチレン-プロピレン重合体の「島」が点在した構造(海島構造)をしている。この「海島構造」は、エチレン-プロピレン重合体のエチレン分率・分子量、および、ホモポリマーの分子量により制御可能である。

ポリプロピレンにおける「ブロック」の語は、特に断りのない限り通常の「ブロックコポリマー」を意味しない。すなわち、ホモポリプロピレン連鎖とエチレン-プロピレン共重合体連鎖が化学的に結合されていることを意味しない。

エチレン-プロピレン共重合体の含有率を40 - 50重量パーセントあるいはそれ以上に高くしたブロックコポリマーを、リアクターメイドTPO(ThermoPlastic Olefin)あるいは、リアクターTPOまたは、単にTPOと呼ぶことがある。

ブロックコポリマーはホモポリマーより耐衝撃性に優れる一方で、ホモポリマーと比べて透明性に劣る。

平均分子量

ポリプロピレンの単独重合体(ホモポリマー)と共重合体(コポリマー)いずれも、その平均分子量は、連鎖移動剤として作用する水素の濃度によって制御される。ただし、同じ水素濃度であっても、反応に使用した触媒によって水素の応答が異なるため、同じ分子量を与えるとは限らない。

ポリプロピレンの平均分子量は、MFRや粘度を指標に知ることができる。

MFR

MFR(Melt Flow Rate: メルトフローレート)が、ポリプロピレンの平均分子量の指標として用いられる。MFRが高いほど平均分子量が小さい。

またMFRは、溶融した原材料が成型時に、どの程度良く流れるかを表すのにも役立つ。MFRの高いポリプロピレンは、金型への充填が容易なため、射出成形に適している一方で、耐衝撃性などの物性が低下する欠点が出てくる。逆にMFRの低いポリプロピレンは、押出機のダイから出た溶融樹脂が垂れにくいため、押出成形に適している。

固有粘度

ポリプロピレンの平均分子量のより基本的な指標は、固有粘度(IV: Intrinsic Viscosity)であり、ポリプロピレンの粘度は、通常はデカリン(デカヒドロナフタレン)またはテトラリン(テトラヒドロナフタレン)溶媒中で測定される。

分子量分布

ポリプロピレンにとっては、分子量分布も重要な指標である。ポリプロピレンの分子量分布は、GPC(Gel Permeation Chromatography: ゲル浸透クロマトグラフィー)を用いて測定される。

分子量分布が広いと射出成型品の剛性は、分子鎖の配向により向上するが、「そり」は増大する傾向にある。

分子量分布を制御する方法は、主として3つの手法がある。1つ目は、2つ以上の重合槽または重合領域を用い、異なった重合条件を適用することにより分量分布を広げる方法。2つ目は、広いまたは狭い分子量分布を与える特性を持った触媒を用いて重合する方法。3つ目は、有機過酸化物を用いてポリプロピレンの分子切断を行うことによって、分子量分布を狭くする方法である。いずれの手法も、工業的に広く用いられている。

化学的性質

耐薬品性

ポリプロピレンは、アルカリ、沸騰した水、鉱物油など、多くの薬品に対して侵されないという優れた耐薬品性を有している。

劣化

酸化劣化

重合されたままの何も添加されていないポリプロピレンは、空気中の酸素により酸化されやすい。ポリプロピレンの3級炭素上に発生しやすいラジカルは、さらに酸素と反応してヒドロペルオキシドを生成し、連鎖的に劣化反応が起こる。温度が上昇すると、さらに酸化が起こりやすくなるため、ポリプロピレンを高温に曝す必要のある成型時に、この酸化劣化が特に問題となる。

よって、酸化劣化を防ぐために、ポリプロピレンには一般に抗酸化剤が添加される。すなわち、ヒンダードフェノール、ヒンダードアミン、フォスファイト、チオ化合物を添加することで、ポリプロピレンを成型の加熱には充分に耐えられる程度に安定化できる。

紫外線による劣化

屋外の使用においては、太陽光に含まれる紫外線(UV)照射による分子鎖の切断による劣化が避けられない。このような用途にはUV吸収剤(ベンゾフェノンやベンゾトリアゾールなど)が必ず添加される。カーボンブラックのような黒色顔料もUV吸収剤として作用する(自動車用バンパー基材などではすでに広く用いられている)。しかし、いずれも完全に紫外線による劣化を防げるわけではなく、ポリプロピレンは紫外線に当たり続けると、他の樹脂プラスチックと同様、いずれ劣化する。

表面特性

ポリプロピレンは表面自由エネルギーが低いため、接着性、印刷性に劣る。印刷する場合には、表面処理(コロナ処理)などを行った後、印刷を行う。


注釈

  1. ^ 耐薬品性に優れている点を活かしている。特に実験器具では、この性質が遺憾なく発揮される。
  2. ^ 強度がある上に、比重が軽いことを活かしている。スピーカーのコーン(振動板)は、なるべく軽い方が音の放射に有利である。しかし、強度が低いと壊れてしまう。
  3. ^ エチレンを重合させることで、ポリエチレンが合成される。

出典

  1. ^ 世界の石油化学製品の今後の需給動向(2013年4月30日)
  2. ^ 石油化学工業会, 統計資料
  3. ^ Polymer Pioneers p. 76
  4. ^ Innovene PP
  5. ^ エクソン・モービルのプロセス
  6. ^ 住友化学の気相プロセス
  7. ^ UNIPOL PP
  8. ^ Horizone PP
  9. ^ Borstar PP
  10. ^ Hypol
  11. ^ Spheripol
  12. ^ Spherizone
  13. ^ Novolene
  14. ^ 厚生省告示370号(昭和34年厚生省告示370号)
  15. ^ Code of Federal Regulations Title 21 Sec. 177.1520 Olefin polymers
  16. ^ 危険物の規制に関する政令 - e-Gov法令検索
  17. ^ 関税定率法 - e-Gov法令検索別表(関税率表)第39類注4
  18. ^ 輸入統計品目表(実行関税率表”. 税関. 2020年1月15日閲覧。
  19. ^ 日本プラスチック工業連盟『樹脂ペレット流出防止マニュアル』1993年2月
  20. ^ 一般社団法人プラスチック循環利用協会『2018年 プラスチック製品の 生産・廃棄・再資源化・処理処分の状況』2019年12月
  21. ^ コークス炉化学原料化
  22. ^ ポリオレフィンフィルムのリサイクル事例
  23. ^ 一般社団法人プラスチック循環利用協会 『プラスチック製容器包装の処理に関するエコ効率分析』 2006年9月
  24. ^ CO2換算量共通原単位データベース
  25. ^ Waste Online Archived 2010年7月22日, at the Wayback Machine.
  26. ^ 経済産業省,3R政策
  27. ^ COMMON CHEMISTRY®
  28. ^ 化学物質総合情報提供システム(CHRIP)






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