ベンゾジアゼピン 副作用

ベンゾジアゼピン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/12 15:03 UTC 版)

副作用

薬物の依存性と有害性[67]

ベンゾジアゼピンの最も一般的な副作用は、鎮静作用と筋弛緩作用に関するものである。具体的には眠気、めまい、覚醒と集中力の欠如などがある。姿勢制御の欠如によって転倒や怪我を招くことがあり、とりわけ高齢者に多い[68][69][70] もう一つの問題は運転操作の支障であり、交通事故の可能性を増加させる。[71][72] 性欲の減衰や勃起の問題は一般的な副作用である。抑うつや脱抑制が起こることがある。静脈注射の場合は、低血圧や呼吸抑制が起こることがある。[68][69]少数のケースでは、吐き気、食欲の変化、目のかすみ、混乱、幸福感、離人症、悪夢などがある。非常にまれなケースで肝毒性がある[73][74]

奇異反応

奇異反応として、てんかん発作[75]、攻撃性、暴力、衝動性、易刺激性、自殺行動などの奇異反応が時に生じる。 これらの反応は、脱抑制の影響、それに続く、社会的に容認できない行動の制御不能と解釈されている。奇異反応の一般集団における発生率は1%以下であり、偽薬と同等の稀なものである。[5][76]しかし、娯楽的乱用や、境界性パーソナリティ障害の患者、子供、高用量の投与計画下の患者ではより高い頻度で生じる[77][78]。これらの集団においては、衝動の制御の問題が、おそらく脱抑制における最も重要な危険因子である。学習障害や神経障害もまた大きなリスクである。脱抑制に関するほとんどの報告は、高力価のベンゾジアゼピンの高用量に関している。[76]奇異反応は慢性的なベンゾジアゼピンの使用においても生じる[79]

認知的な作用

ベンゾジアゼピンの短期的な使用は、認知機能に様々な悪影響を及ぼし、最も顕著なことは新たな記憶の形成と統合を妨げたり、完全な前向性健忘症を誘発することである[68]。しかし研究者らは、長期投与の影響に関する逆の意見を持っている。ある見解では、多くの短期間の影響が長期的に続く上にさらに悪化し、ベンゾジアゼピンをやめても解消しないということである。別の見解は、慢性的なベンゾジアゼピン使用者での投与後の短期間にのみ生じる認知障害とか、あるいは不安障害がその原因であると主張する。

決定的な研究はないが、前者については、13の小規模研究の2004年のメタ・アナリシスの支持に裏付けられている[80][81]。このメタ・アナリシスは、ベンゾジアゼピンの長期的な使用が、認知のすべての領域において、中等度から大きな有害な影響に結びついていることを見出しており、視空間記憶が最も一般的に発見された障害であった。一部のほかの障害は、知能指数(IQ)、視覚運動協調、情報処理、言語学習と集中力の低下である。メタ・アナリシスの執筆者[80]、また後の評論[81]は、ほとんどは離脱専門病院から被験者を獲得しているためこのメタ・アナリシスの妥当性は制限されると注記している。併用薬、アルコールの使用、また精神障害は明示されていない。また、含まれた研究のいくらかは、離脱期間中に認知を測定している。

胎児への影響

アメリカ食品医薬品局(FDA)による胎児危険度分類では、ベンゾジアゼピンは、胎児への有害事象への可能性がある、カテゴリDまたはXに分類されている。いくつかの研究の論争での結論で、妊娠中の胎児に口蓋裂(0.06〜0.07%まで)のリスク増加と関連していると結論づけた。

長期的影響

FDAはベンゾジアゼピンの長期処方についてなにも規制していない。ベンゾジアゼピンの長期的悪影響には、精神的、身体的機能の劣化があり、時間とともに増加する傾向にある。万人に該当することではないが、長期使用では問題が発生するとされる。副作用には認知障害だけでなく、情動と行動の問題、混乱の感情、建設的思考困難、性欲減退、広場恐怖症と社会恐怖の損失、不安や抑うつの増加、楽しみの追及と利益への関心の喪失、感情や経験の表現喪失がある。[9][82]さらに、自分と周囲環境との関係について認識変化がおこる可能性がある[81]

複数の研究結果を分析したメタアナリシスは、認知症とベンゾジアピンの使用とが関連していることを見出している[83][84]

眼瞼痙攣は、まぶしい、目が開かないといった症状を呈し、ベンゾジアゼピン系など同類の薬剤の特に長期使用によって起こる可能性があり、ベンゾジアゼピン眼症として提案されている[85]

離脱症候群

処方が2週間未満の者については直ちに断薬が可能であるが[86]、長期処方者については困難となりえる。半減期の短い薬剤ほど依存性が高くなり、症状発現率40%との報告もある。高齢者ほど出現頻度が高く、また4か月以上の長期服用時に出現することが多い。半減期の長短にかかわらず常用量でも依存や反跳症状を生じる可能性が最近知られるようになった。1ヶ月の連用で約半数が依存形成され断薬が困難になる[87]。離脱の最も一般的な身体的症状は、筋肉の緊張、衰弱、痙攣、痛み、インフルエンザ様症状(発汗や震え)、(足などが)痺れてぴりぴりする感覚など。最も一般的な精神的離脱症状は、不安とパニック障害、不穏、食欲不振、頻脈、視力障害、視覚障害、口渇などがあり、耳鳴り、眠気など。それから離人感(周囲が現実ではないと感じる)。知覚の障害は比較的一般的であり、尋常性聴覚から光恐怖症、感覚異常までの範囲である。これらの症状は特徴的ではないが、ベンゾジアゼピン離脱の特徴である。発作は非常に一般的。特に、いきなり断薬した場合には。重度の離脱症状には、妄想思考、幻覚、脱個体化、および退行性せん妄が含まれる[87]

耐性・依存と離脱

ベンゾジアゼピン系薬物の慢性的な使用における主な問題は、耐性身体依存の形成である。耐性は薬理作用の減少として生じ、ベンゾジアゼピンの鎮静、催眠、抗てんかん、また筋弛緩作用に対して比較的急速に形成される。抗不安作用への耐性はよりゆっくりと形成され、4〜6か月以上の継続的な使用において有効性が継続するという証拠ほとんどない。[8]一般に、健忘作用に対する耐性は生じない[88]。しかし、抗不安作用に対する耐性については議論があり、ベンゾジアゼピンが効力を保つといういくらかの証拠と[89]、高い頻度で耐性が生じることを示す論文のシステマティック・レビューによる反証や[21][28]、長期的な使用により不安が悪化するといういくつかの証拠が存在する[8]。いくらかの証拠は部分的な耐性は生じないことや、記憶障害は投与から90分以内であることを示唆している[90]

離脱症状の管理

ベンゾジアゼピン系薬からの離脱による最も多い症状は、不眠、消化器問題、震え、恐怖、激越、筋痙攣である[90]。それほど多くはないが易刺激性、発汗、離人症、現実感喪失、刺激への過感受性、抑うつ、自殺行動、精神病発作振戦せん妄が生じることもある[91]。重篤な症状は、たいてい突然あるいは急速すぎる離脱によって生じる。突然の断薬は危険であるため、徐々に減量する処方計画が推奨される[7]。WHOのガイドラインでは、離脱は長期作用型のベンゾジアゼピンに置換し8-12週間かけて行うとしている[25]

症状は徐々に減量している期間中にも生じる可能性があるが、一般的にあまり重症にはならない。また一部では断薬後も何カ月も遷延化した離脱症状が続く[92]。離脱症状を経験した患者の約15%は顕著な遷延性離脱症候群(protracted withdrawal syndrome)を経験し、それは何ヶ月も、場合によっては1年以上にわたり持続する[86]。長期化する症状は、離脱の最初の数ヶ月に見られるものと似ているが、たいていは重篤な急性離脱症状の下位の水準である。このような症状は時間と共に徐々に弱まり、最終的に完全に消失する[93]

ベンゾジアゼピンの離脱は重篤でトラウマになるような離脱の原因になると患者も医師も噂するが、しかしその大部分は離脱の経過が不適切に管理された場合である。急速すぎる離脱は、離脱症状の重症さを増すことにつながり失敗率も上げる。個々に合わせゆっくりかつ徐々に離脱すること、また必要であれば心理的な支援が提供されれば、離脱を管理する方法として最も効果的である。離脱の完了に必要な期間については、4週間から数年間までの幅広い意見がある。6ヶ月未満の目標が提案されているが[7]、しかしベンゾジアゼピンの種類と服用量、処方の理由、生活習慣、性格、環境的なストレス、得られる支援の量といった要因によって、離脱には1年かそれ以上を要することもある。[8][94]

身体的依存を、等価換算した用量のジアゼパム(セルシン)に移行することが、離脱の管理として最良である。なぜならジアゼパムは全てのベンゾジアゼピンの中で最も長い半減期であり、長時間作用の活性代謝産物となって代謝され、効果の弱い錠剤の種類もあり、これをより細かな用量へと4分割することもできる。[95]さらに液剤もあり、さらに細かく減量できる[7]クロルジアゼポキシド(コントール)も長い半減期をもち長時間作用の活性代謝産物にもなるため、替わりに用いることができる[95][96]

非ベンゾジアゼピン系はベンゾジアゼピン離脱期間中には禁忌である。ベンゾジアゼピンと交差耐性があり依存を引き起こすためである。[8]アルコールにもベンゾジアゼピンとの交叉耐性があり、毒性もより大きいため、依存が置き換わってしまうことを避けることへの注意が必要である。離脱期間中は、できればフルオロキノロン系の抗生物質を避けるのが最善である。それはベンゾジアゼピンを結合部位から外してGABA機能を減少させ離脱症状を悪化させることがある。[95]抗精神病薬は、ベンゾジアゼピン離脱時(その他の中枢神経抑制剤の離脱状態においても)には推奨できない。特に注意が必要なのはクロザピンオランザピン、あるいは低力価のクロルプロマジンといったフェノチアジン系である。それらは発作閾値を下げ、離脱の影響を悪化させるため、用いる場合は細心の注意が必要である。[97]

長期間のベンゾジアゼピン使用者の離脱は、多くの場合有益である[79]。ベンゾジアゼピン長期服用者の離脱は一般的に身体・精神の健康の改善につながる。これは高齢者において顕著である。いくつかの長期利用の報告がベンゾジアゼピンの継続的な利益を報告しているが、これは離脱の影響が抑えられているためである可能性がある。[8][9]


  1. ^ 世界保健機関(WHO)による規定1日用量 N05BA N05CD
  2. ^ 3mg Kinder DDD





英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ベンゾジアゼピン」の関連用語

ベンゾジアゼピンのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ベンゾジアゼピンのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのベンゾジアゼピン (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS