ヘヴィメタル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/30 09:23 UTC 版)
ハードロックとヘヴィメタルとの境界は明確ではなく、ハードロックとヘヴィメタルとを一括してHR/HM(または「HM/HR」)と呼ぶこともある。「ヘヴィメタル」という用語自体は1970年代前半から存在したが、ハードロックが1970年代前半にピークを迎えた後、同時期に台頭したパンク・ロックのスピード感を加味して独自の成長を遂げたジャンルである。
代表的なヘヴィメタルバンドとして、レッド・ツェッペリン、ブラック・サバス、ジューダス・プリースト、アイアン・メイデン、スコーピオンズ、AC/DCなどが挙げられる。
概要
日本における基本的な略称はメタル。他にHM、ヘヴィメタ、ヘビメタ[注 1]など。
このジャンルに分類されるバンドのサウンドは、ハードロック[4]同様、エレクトリック・ギターのファズやディストーションを強調した、ラウドなものであるのが基本である。
ハードロック/ヘヴィメタルは1970年代半ばごろから、アリーナ・ロックや産業ロック的なバンドと、アルバム志向のヘヴィメタルバンドに分かれる傾向も見られた(後述)。
また、時代を経るにつれてシーンの細分化が進んだことから、ヘヴィメタルは様々なサブジャンルを持つようになった。
詳細
音楽的特徴
メンバー構成は、ロックバンド一般に見られるものとあまり変わらないことが多い。ギター、ドラム、ボーカル、ベースを主軸とする。ジャンル名のとおり音の「ヘヴィさ」が重視されるため、ギターやベースのチューニングを下げて通常より低い音が出せるようにしている場合がある。
ヘヴィメタルではギターソロが重視される場合が多く、たいていの場合は1曲の間にギターソロが挿入される。またドラムソロやベースソロも行われることも多く、歌よりも演奏で魅せるような曲やインストゥルメンタルの曲も多い。こういった傾向から、速弾きなどのテクニカルな演奏を得意とするプレイヤーを多く生み出しており、エフェクターなど音楽機材の進化と多様化に多大な影響を与えたとも言われている。 代表的なギタリストには、ジミー・ペイジ[5]、トニー・アイオミ、エドワード・ヴァン・ヘイレン、マイケル・シェンカー、アンガス・ヤング、イングヴェイ・マルムスティーン、スティーヴ・ヴァイらがいる。
通常は強いディストーションをかけ、リフはパワーコードを主体とした力強い音でミュートを効かせながら刻む場合が多い。ヘヴィメタルバンドにはギタリストが2人いることが多い。リードギター担当とリズムギター担当に分かれている場合と、2人が同じリフを弾いて重厚さを増す場合や、2人が交互にギターソロを弾くこともある。スケールにはペンタトニック、ハーモニック・マイナー・スケール[6]、フリジアン・スケールなどが用いられることが多い。
ヴォーカルは、1970年代のハードロックの頃から見られたように、高音域の金切り声でシャウトするもの、オペラのように朗々と歌い上げるもの、デスメタルではがなり立てたり、うめくようなデスヴォイス(グラウル、グラント)という歌唱法を用いるものなどがある。 代表的なヴォーカリストには、ロバート・プラント、オジー・オズボーン、ロブ・ハルフォード、ロニー・ジェイムス・ディオ、ブライアン・ジョンソンらがいる。
ベースは、ファンクのようにためのあるベースを強調することができず地味な脇役に徹し、リズムギターのリフにユニゾンして中音域の密度を上げ、重厚感の増幅に努めていることが多い。他ジャンルに比べ、強めのアタック音が特徴的なベーシストがしばしば見られる。 代表的なベーシストには、ブルース・ロックをやってもクラシック的な「白い」演奏を行うジョン・ポール・ジョーンズ[注 2]などがいる。
ドラムスは総じてテンポが速く、またBPMが高くなくても手数が極めて多い傾向があるが、逆に重圧感を出すために極端にテンポを落とす場合もある。バスドラムを2つセッティングしたドラムセット(ツーバス)や、左右の足で1つのバスドラムを連続的に叩ける器具(ツイン・ペダル)を用いて、キックペダルを高速で踏み続けるプレイスタイルが採用されることがある。 代表的なドラマーには、ジョン・ボーナム、コージー・パウエルらがいる。
文化的特徴
攻撃的な音楽性に合わせ、歌詞の内容もやはり攻撃的なものが目立つ。一般社会では悪魔崇拝やオカルト、犯罪、麻薬についてなどが問題視され、特にキリスト教会や若者の親世代から批判の対象になることがある。これはこのヘヴィメタルのルーツ・バンドの一つであるブラック・サバスと、そのヴォーカリスト、オジー・オズボーンなど、複数のバンドのイメージによるところが大きい[7]。
ヘヴィメタルバンドの歌詞には、フォーク・メタルのように民俗音楽・民族音楽の影響を受けて歴史的事象を取り上げたものや、ユーライア・ヒープののアルバム『悪魔と魔法使い』の歌詞などファンタジーを感じさせるものなど様々なものがある。退廃的・反社会的な内容の歌詞でも、ブラック・サバスもそうだが単に衆目を集めるための「営業用」のものも多い。ブラックメタルやマリリン・マンソンのように、本格的に反キリスト思想を音楽活動の指針とし、歌詞にもその主張を取り入れているバンドも存在するが、その一方でストライパーのようなクリスチャン・メタルと呼ばれるバンドもある。また、ヘヴィメタルバンドの歌詞やパフォーマンスを、マチズモと結びつける者もある[8]。
思想信条
政治的な思想信条や政党支持については、当然ながらミュージシャン個人によって異なる。アメリカのヘヴィメタルのミュージシャンの中には共和党の支持者もおり、ジョー・ペリー[9]、テッド・ニュージェント[注 3]、ジーン・シモンズ[注 4]、アリス・クーパー[注 5]、トム・アラヤ(スレイヤー)[10]、デイヴ・ムステイン(メガデス)、サリー・エルナ(ゴッド・スマック)らがいる(HMではないが、キッド・ロックも共和党とドナルド・トランプの熱心な支持者である)。一方で、ジョン・ボンジョヴィは反共和党で、民主党支持である[11]。日本においては、GALNERYUSの小野正利も靖国神社に参拝し竹島問題について言及している[12]。しかし、日本の場合は特に1980年代以降、音楽と政治思想を切り離そうと考える傾向が強まり、へヴィメタルに限らず、積極的に政治的な思想信条や支持政党を表明するミュージシャンは少なくなっている。
ファッション
ヘヴィメタルのファッションを端的に表した言葉としては、「レザー&スタッズ」がよく知られる。革(レザー)のジャケットに鋲(スタッズ)を大量に打ち込んだものである。 また、ステレオタイプなヘヴィメタルファッションとして、長髪、バンドロゴやアルバムジャケットをプリントした黒系のTシャツ、ジューダス・プリースト[13]のような皮のジャンパーや皮ブーツ、細身ジーンズとスケーターシューズの合わせ、迷彩柄のカーゴパンツ、衣類に打たれたスタッド(鋲)やスパイク、バンドロゴのワッペンや缶バッジを大量に付けたジャケット(パッチGジャン)などが挙げられる。
反キリスト的なコンセプトのあるバンドでは、逆十字やペンタグラムをかたどったアクセサリーを身につけたり、白粉をベースにおどろおどろしい模様をつけた化粧(コープスペイント)などを施すこともある。マリリン・マンソンは全身をキャンパスにしてメイクと変装を施し、「アンチクライスト・スーパースター」と自称したことで知られる。
しかし、例えば皮製のファッションは、ロブ・ハルフォードのSMファッションが由来であり[14]、他の例として黒人音楽を取り入れたコーンのようなニュー・メタルバンドでは、Bボーイファッションやストリート系ファッションを取り入れたり、スリップノットのようにマスクとユニフォームに身を包むなど、バンドやプレイヤー個人ごとのアイディアや音楽性、信条などから多様化しているのが実際である。
ヘッドバンギングした際の見栄えを良くするために長髪にしている者もいるが、HMは伝統的に長髪にするという側面もある。1990年代後半以降のジェイムズ・ヘットフィールドやフィル・アンセルモのように短髪の場合もある。ミュージシャンの高齢化により長髪を維持できずに短髪もしくは坊主頭にする者もいる。また、近年ではメタルコアやブルータル・デスメタルといったジャンルのミュージシャンやファンには長髪より短髪が多く目立ち、一見着ているバンドTシャツやキャップを見ない限りメタルファンかパンクスか見分けがつかない事もある。
ステージパフォーマンス
音楽面では、例えば速弾きや特殊な奏法などを用い、スタジオ版よりも長時間に及ぶギター、ドラム、ベース各パートのソロタイムが設けられることが多く、曲中にギター同士やギターとキーボードで競い合うようにソロを弾いたりといったものがしばしばある。ステージ下手・中央・上手のメンバーがフォーメーションを取りリズムに合わせてヘッドバンギングしながら演奏をするのも、メタルらしい演出のひとつである。 バンドごとに見られる演出としては、
- ジューダス・プリーストはハーレーダビッドソンに乗ってステージに登場する[15]。
そのほかに
- スレイヤーは「レイニング・ブラッド」演奏中に曲名通りの血の雨を降らせる。
- ハロウィンはジャックオーランタンの風船を飛ばす。
といった、画期的なものも見られる。他にもラムシュタインのような火吹きパフォーマンス、キッスのような花火や、キング・ダイアモンドのような巨大な舞台装置など、ライブでは派手なものが広く見られる。
ファンもこうしたパフォーマンスや演奏に応えてヘッドバンギングをしたり、指でメロイック・サインを組みながら腕を振ったりする(フィストバンギング)。更には激しく身体をぶつけ合う者(モッシュピット)、ステージからダイブする者、集団でアリーナを輪になって駆け抜ける者(サークルピット)など、ヘヴィメタル・バンドのコンサートでは、しばしば会場に激しい興奮と狂乱状態が見られ、時折それが原因で事故が発生することもある。
バンドロゴ、アルバムジャケット、アートワーク
アイアン・メイデンをはじめとする正統派メタルバンドの作品ではデレク・リッグス、スラッシュメタルのカバーアートではエド・レプカ[16]、メロディックデスメタルやブラックメタルの作品ではクリスティアン・ヴォーリン[17]などのように、著名なアーティストも存在している。また、セプティックフレッシュのSeth[18]やバロネスのJohn Baizleyのように自身もメタルミュージシャンでありながら、アートワークを手がけるものもいる[19]。
バンドロゴでは、7000以上のバンドのロゴをデザインしてきたクリストフ・シュパイデルが著名なアーティストとして挙げられる[20]。
語源
名詞であるヘヴィメタルが使用されたのは、ビートニク作家であるウィリアム・S・バロウズの著作『ソフト・マシーン』(1961年)の中であり、彼はのちの作品『ノヴァ急報』でこのテーマを追求し、ヘヴィメタルという単語を依存性の強い薬物のメタファーとして用いている[21]。また、『ローリング・ストーン』誌の音楽ジャーナリスト、レスター・バングスは1970年代の初頭にレッド・ツェッペリンやブラック・サバスに対する論評でこのヘヴィメタルという言葉を使い、この言葉が広まるきっかけとなったという[22]。ただし、バンドの音楽性としてヘヴィメタルという形容を明示的に使ったのは、音楽プロデューサー、サンディ・パールマンが、自らプロデュースしていたブルー・オイスター・カルトに対してである。また、これには、バロウズと親交が深く、かつ、ブルー・オイスター・カルトのメンバー、アラン・レイニアの恋人でもあったパティ・スミスの影響もあったとされる。他に、「ロック(岩)よりもハード(硬い)」もしくは「ロック(岩)よりもヘヴィ(重い)」だからヘヴィメタルという説など、諸説ある。
注釈
- ^ ただし、日本においてヘヴィメタルを「ヘビメタ」と略すのは侮辱的な意味が含まれる場合もあるとして、ヘヴィメタルファンからは好まれないこともある[3]。これは80年代のお笑い番組(元気が出るテレビなど)でヘヴィメタルのファッションスタイル(金髪、レザー&スタッズなど)や音楽性を馬鹿にして笑いを取る手法が多く見られたため。
- ^ 中流階級出身でクラシック音楽の素養がある。
- ^ ドナルド・トランプからホワイトハウスに招待され出席している。
- ^ ドナルド・トランプから就任式への出席を招待され、本人はその気だったが、家族に猛反対され出席を断念した
- ^ 共和党支持者だが、民主党支持のトム・ハンクスが大統領に適任と発言したこともある
出典
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- ^ Du Noyer (2003), p. 96; Weinstein (2000), pp. 11–13.
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- ^ [2]
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