ヘルメット 軍用ヘルメット

ヘルメット

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/28 11:37 UTC 版)

軍用ヘルメット

概要

PASGTヘルメットを着用したアメリカ軍兵士

戦闘に巻き込まれる可能性のある兵士達は軍用ヘルメットを着用するのが通例である。貫通力の高い小銃に対する防御は困難であるため第一次世界大戦前まではヘルメットは余り使用されず、一部で皮製ヘルメットが使われる程度であった。しかし第一次大戦中に榴弾榴散弾の破片から兵士の頭部を保護する必要性が生じ、各国軍で採用されだした。以降、ベトナム戦争の頃までは材料として主に鋼鉄が使われていたが、近年はケブラーなどの繊維を数十枚重ね、フェノール樹脂を含浸させて成形したものが主流である。繊維を使った現代の軍用ヘルメットは鋼鉄製のものと比べると軽量だが防弾性能自体はあまり向上しておらず、小銃弾の貫通を防ぐことは依然として難しい。

第一次大戦当時は各国ごとに形状にバリエーションが見られたが、第二次世界大戦後は冷戦により、東西両陣営国の軍隊がそれぞれアメリカ軍ソビエト連邦軍の軍制を取り入れ装備供与などを受けるようになると、西側陣営はアメリカ軍の、東側陣営はソ連軍の軍装の強い影響を受けヘルメットも統一されていく。

M1ヘルメット

アメリカ陸軍は当初イギリス陸軍と同じ皿形のブロディヘルメットを使用していたが、1942年に独自デザインのM1ヘルメットに変更する。このデザインは第二次大戦後に西側諸国の主流となった(例:陸上自衛隊66式鉄帽)。しかし、20世紀末には耳まで保護する旧ドイツ軍様式(シュタールヘルム)がより優れているとして、以降同デザインを使用するようになった(PASGTヘルメット、俗称「フリッツヘルメット[注 2]」)。アメリカ軍のこの制式採用と同時期に冷戦は終結し、アメリカ軍の影響がより強まったことで、この「フリッツヘルメット」は各国軍(例: 陸上自衛隊88式鉄帽)や特殊部隊に広まり、共産圏である中国人民解放軍でも採用された[注 3]。旧ソ連時代は東側諸国に影響を与えていたロシア連邦軍でも21世紀に入ってフリッツヘルメット(耳を覆う部分がアメリカ軍のものより若干耳から離れている)[17]が、また旧ソ連構成国カザフスタン軍や、アメリカとは敵対関係にあるミャンマー軍でもフリッツヘルメットが採用されている[18]ベトナム軍もフリッツヘルメットを採用していることが2010年の軍事パレードで確認された。このように、現代の主要国軍の主要装備ヘルメットはほとんどがフリッツヘルメットに移行、ないし移行中である(一例として韓国軍はM1ヘルメットを未だ使用している[19]が、フリッツヘルメットへの置き換えが進んでいる)。

第二次大戦の頃は木の枝や草を挿して擬装するためのネットやバンドを使っていたが、その後迷彩戦闘服が普及すると、帽体の上から迷彩服と同じ柄の迷彩カバーをかぶせることが多くなった。迷彩カバーにも木の枝葉を挿す為のボタンホール状の穴を有すものがある。なお、記録映像や写真などで主にアメリカ軍の兵士がヘルメットの顎紐を結ばず、垂らしたりヘルメットの縁に掛けている場合があるが、これは銃弾が当たった衝撃や、砲弾や爆弾の着弾により起こった爆風の風圧により、顎に掛けている顎紐に首を引っ張られて脊髄損傷するのを防ぐためである。紐を掛けていなければヘルメットが飛ぶだけで済むという配慮であった。なお当時のアメリカ軍では、M1ヘルメット顎紐用のオプションとして、強く引っ張られると自動的に外れるバックルも存在した。

日本軍・自衛隊のヘルメット

日本軍陸軍海軍)のヘルメット、九〇式鉄帽の帽体はクロムモリブデン鋼を用いた当時としては硬質で比較的高性能なものであった。これは当初、兵器に分類して「鉄兜(てつかぶと)」と称していたが、その後被服の分類に移された際「鉄帽(てつぼう)」に改称された。その名残で自衛隊では材質が鋼鉄からケブラーFRPに変わった現在でも、制式名称として「鉄帽(88式鉄帽)」と称している。

空挺部隊・特殊部隊用ヘルメット

パラシュート降下を行う空挺部隊では、降下の際パラコードが引っかかって不開傘事故を起こすことを防ぐため周縁のつばの無いものを使う。他に降下時にフルフェイスのヘルメットを着用する例も見られる。 いずれにしてもヘルメットは重く、敏捷な動きを制限したり屋内などでの近接戦闘では邪魔になったりするので、野戦に従事しない特殊部隊では正規戦用のヘルメットを使わないことがある。そのような場合ではABS樹脂などの素材を用いた、防弾能力を持たない軽量な耐衝撃ヘルメットが使用されている。また登山用ヘルメットを流用する場合もある。

航空機乗員用ヘルメット

戦闘機パイロット用ヘルメット

軍用機乗員もヘルメットを着装する。こちらは野戦用と違い、基本的には操縦室など機内で頭部を周囲にぶつけたときに保護する目的である。第二次大戦時までは製または布製の頭巾が主流で、爆撃機などの大型機種ではスチールヘルメットも用いられたが、戦後はFRPなどプラスティック製のヘルメットを着用するようになった。 また、多くは強い日光や紫外線から目を保護する為の濃色バイザーが内蔵されている(現在では軽量化のため外付け式になっているものもある)ほか、無線電話用の支持アーム付きマイクや酸素マスクが付けられる作りになっている。特に戦闘機のパイロット用は加速度 (G) により増大するヘルメットの重量が首に負担を掛けるので軽量化が図られる一方で、パイロットの視界に直接情報を投影するヘッドマウントディスプレイ (HMD) を装備した物も登場している。

戦車乗員用ヘルメット

戦車装甲車乗員も車内での頭部保護用としてヘルメットを着装する。多くの製品は車外戦闘よりも、狭い車内での衝撃吸収や、車内通話用のヘッドホン・マイクの装備を主な目的としている。ロシアソビエト連邦)から技術供与を受けた国々やドイツ連邦軍では、独特の緩衝パッドが設けられた布製または革製のヘルメットを使用する。


注釈

  1. ^ 小説家のフランツ・カフカは、労働保険関係の職場にいた際、工場視察などでは安全のため軍用のヘルメットを着用した。これが作業用ヘルメット普及のきっかけになったとする説がある。フランツ・カフカ#保険局での仕事
  2. ^ “フリッツ”とはドイツ人一般への呼び方にちなむ。アメリカ人を“ジャック”、ロシア人を“イワン”と呼ぶのと同様。
  3. ^ 近年各国の消防吏員用のヘルメットもつばがやや広く突き出し耳を覆うデザインが主流となり、旧ドイツ軍様式のヘルメットとデザインが酷似する傾向が強い。

出典

  1. ^ 日本法令外国語訳データベースシステム  労働安全衛生法Industrial Safety and Health Act 別表第二参照。
  2. ^ PC-5 | 安全を創造し 未来を守る タニザワ - タニザワ
  3. ^ 道路交通法第63条の11
  4. ^ 京都府自転車の安全な利用の促進に関する条例-京都府ホームページ
  5. ^ Depreitere B, Van Lierde C, Vander Sloten J, Van der Perre G, Van Audekercke R, Plets C, Goffin J. "Lateral head impacts and protection of the temporal area by bicycle safety helmets." J Trauma. 2007 Jun;62 (6):1440-5. PMID 17563663
  6. ^ SHOEI HELMET SIZING, HANDLING, AND CARE(英語)
  7. ^ Shoei F.A.Q.(英語)HELMET WARRANTY(英語)
  8. ^ SGマーク Q&Aコーナー
  9. ^ ヘルメットのご使用にあたって (SHOEI) FAQ (ARAI)
  10. ^ 本会所定の服色及び帽について”. JRA. 2010年10月19日閲覧。
  11. ^ 美浦トレセンでの調教”. JRA. 2010年10月19日閲覧。
  12. ^ 安全な騎手用のヘルメットとは?”. JRA競走馬総合研究所. 2010年10月19日閲覧。
  13. ^ ケンタッキー州、騎手のヘルメット規制を撤廃”. 競馬国際交流協会. 2010年10月19日閲覧。
  14. ^ ケンタッキー州、騎手のヘルメットをルール化”. 競馬国際交流協会. 2010年10月19日閲覧。
  15. ^ 植木通彦のボートレースの秘密 ヘルメット - ボートレース公式YouTube・2019年12月6日
  16. ^ 衝撃的シーンで再び高まる“投手用ヘルメット”着用機運 2年前はダサくて広まらず
  17. ^ アーカイブされたコピー”. 2013年5月19日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年8月23日閲覧。
  18. ^ アーカイブされたコピー”. 2014年1月30日時点のオリジナルよりアーカイブ。2009年3月27日閲覧。
  19. ^ File:ROK_marines_with_K2_rifles_DM-SD-03-14422.jpg
  20. ^ マルチメディア共産趣味者連合






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