ヘルメット (オートバイ) ヘルメット (オートバイ)の概要

ヘルメット (オートバイ)

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/02 08:48 UTC 版)

起源

19世紀後半にオートバイが発明され、20世紀初頭から使用が始まったが、ヘルメットを着用するという習慣は長らく無く、事故に対する研究もされてこなかった。しかし、アラビアのロレンスで知られるトーマス・エドワード・ロレンスがオートバイ乗車中に事故に遭い頭部外傷により死亡したことから、治療チームの一員であった外科医のヒュー・ケアンズはオートバイ乗車中の事故による負傷の研究を始め、ヘルメットを使用することが死者数を大幅に減らすという結論を得た。これがヘルメットの有効性を示す最初期の研究である[1]。その後、世界各国でオートバイが普及する中で死亡事故の増加が問題視され、各国で規格化・義務化されるようになった。

形状による違い

オートバイ用ヘルメット(左から順にオープンフェース形・フルフェース形・フリップアップ形)

形状による分類は、次の通りである。

ハーフ形
半球形、半キャップ、お椀形とも呼ばれる。気軽に被れ、価格が安いのが利点であるが、保護範囲が狭いのが欠点であり、特に側頭部への衝撃が致命傷になりやすい(耳の上方にあたる部分の頭蓋骨は比較的薄い)。耳を露出しているため、高速走行時には風切り音のノイズのせいで周囲の音が聞こえにくくなるという問題もある。
日本では排気量125ccまでのオートバイ用規格で製造されている。
スリークォーターズ形
ハーフ形よりも側頭部の保護範囲が耳を半分覆う程度まで広げられており、ハーフ形とオープンフェース形(ジェット形)の中間的形状であるところからセミジェット形とも呼ばれる。業務用オートバイでの使用が多い。シールドが装着できるものもあり、シールドがないと顔面から転倒するような場合には顔を傷つける恐れがある。ただしシールドがあっても顔面を保護できるが顎を損傷する恐れがある。
日本では排気量125ccまでのオートバイ用規格で製造されているものがほとんどである。
オープンフェース形
側頭部と後頭部のほぼ全てを覆うが顔面は露出しているタイプ。昔のジェット戦闘機の操縦士が装着していたヘルメットの形状からジェット形とも呼ばれる。上記二つと比べて安全性が高いほか、視野の広さ、開放感、利便性(顔を隠さないので、ヘルメットを被ったまま水を飲んだり会話できる)を損なわない。シールドが装着できるものもある。
日本ではほぼ全排気量のオートバイ用規格で製造されている。
フルフェース形
インテグラル形とも呼ばれる。オープンフェース形にチンガード(顎の部分の覆い)を付けたもの。視界を確保する部分以外は覆われることになる。より高い安全性(顔面から転倒するような場合)が最大の利点であり、また、風を巻き込みにくいため特に高速走行時の快適性に優れている。顔面や頭部への損傷は防ぐことができるが、頸部への負荷がかかりやすく脊髄損傷や呼吸困難などを引き起こす恐れもある。また、口元が覆われていることで気道確保等の救命措置を妨げることがあり、そのため、ヘルメットリムーバーと呼ばれる事故発生時にすぐにヘルメットを外せるような構造のものもある。スペインのヘルメットメーカーであるAPCシステムズからエアバッグ内蔵のヘルメットが開発されている。さらに頸部への負荷を軽減するためエアバッグジャケットやネックブレースシステムなどと組み合わせることで安全性は上がる。基本的に全排気量のオートバイ用規格で製造されている。SKULLYをはじめBikesystems、BMWなどがHUD内蔵のヘルメットを開発している。

また、上記各形状には以下の部分形状変更や機構が組み込まれている場合がある。

ベンチレーションシステム
フルフェース形やオープンフェース形では通気口が設けられているものがあり、そういったタイプでは見た目に反して走行中は涼しく快適になっている。最近は、女性向けにシールドにUVカットを施したり、サイドシールドの風の巻き込みを低減させたりして軽さを重視した構造のものもあり、ファミリー形と呼ばれている。
ハーフ形は一見涼しそうに見えるが、ベンチレーションシステムが無く、通気性がないために夏場は中が蒸れ、冬は露出部の多さで顔が凍えるように寒くなる。そういった点ではジェット形やフルフェース形よりも不快である。
オフロード向けの改良
オフロード専用に作られたフルフェース形はモトクロスをはじめとしたレース用として作られているため視界は悪い。そのため、シールドを外してゴーグルを着用することもある。最近はフルフェース形でありながらフェースガード部分をシールドごと開閉出来たり、帽体との分割・合体が自在な構造のものもあり、フリップアップ形(システム形)と呼ばれている。ノーラングループが製造しているクロスオーバー形は状況に応じてチンガードが着脱できたり、バイザーも交換できる。
オフロード走行ではフロントアップやアクセルターンなどボディアクションが大きく体力消費が大きいので、呼吸が少しでも行いやすいようにチンガードが前方に伸びている。また、自車や周囲の車両により泥が跳ね上げられる為、バイザーが取り付けられている。それでも多少なりゴーグルが汚れ視界が塞がるため、複数枚重ねた使い捨てフィルムや巻取り装置付きのフィルムを併用する場合もある

使用限度

ヘルメットは製造後時間が経つにつれ、シェルや衝撃吸収ライナーが劣化してくる。見た目での劣化状況は分かり辛いが、新品購入時よりも緩くなれば寿命の目安とされる[2]。日本のヘルメットメーカー二社は北米市場で購入後五年、製造後七年の品質保証を付けて販売しているが[3]、日本市場ではSGマークの表示有効期間[4] が乗車用ヘルメットでは使用開始後(購入後)三年となるため、期限内での交換を推奨している[5]

また、ヘルメットは衝撃に対して潰れることで頭部を保護しているため、一度でも強く衝撃を受けたものは外見上大きな損傷が見られなくても保護能力を失っており、交換が必要になるとされている。ただし、手で持った状態あるいはオートバイのシートからコンクリート面に落とした程度では「強い衝撃」には当たらないとされている。[1]


  1. ^ Lawrence of Arabia, Sir Hugh Cairns, and the origin of motorcycle helmets.(英語)
  2. ^ SHOEI HELMET SIZING, HANDLING, AND CARE(英語)
  3. ^ Shoei F.A.Q.(英語)HELMET WARRANTY(英語)
  4. ^ SGマーク Q&Aコーナー
  5. ^ ヘルメットのご使用にあたって (SHOEI)FAQ (ARAI)
  6. ^ a b 乗車用ヘルメットの規格と技術変遷 (PDF) 社団法人 自動車技術会
  7. ^ バイクのヘルメット義務化反対の米議員が事故死、着用して”. CNN (2016年9月16日). 2020年7月20日閲覧。
  8. ^ ベトナムでヘルメット義務化10年、着用率9割に”. SankeiBiz(サンケイビズ) (2018年1月5日). 2021年9月19日閲覧。
  9. ^ a b 消費生活用製品安全法の概要 経済産業省
  10. ^ a b c 特定製品・特別特定製品とは 財団法人 製品安全協会
  11. ^ MFJ競技用ヘルメット公認に関する規則 - 2009年10月現在
  12. ^ 根本学, 佐藤陽二, 後藤英昭 ほか、「二輪車事故におけるヘルメットの保護性能についての報告 特に日本工業規格(JIS規格)A種ヘルメットの危険性について」 『日本救急医学会雑誌』 1999年 10巻 12号 p.717-724, doi:10.3893/jjaam.10.717
  13. ^ PSCマークのない「乗車用 ヘルメット」にご注意下さい - 経済産業省-
  14. ^ SNELL MEMORIAL FOUNDATION(英語)
  15. ^ アライヘルメット・規格について
  16. ^ ショウエイの新ヘルメット『X-SPR Pro』がFIM公認に。MotoGPライダーがテストで使用 - オートスポーツ・2022年2月17日
  17. ^ Helmets - FIM RACING HOMOLOGATION PROGRAMME
  18. ^ 2010 STANDARD FOR PROTECTIVE HEADGEAR(英語)


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