ピッケル ピッケルの概要

ピッケル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2014/03/16 04:17 UTC 版)

ピッケル

その用途は幅広く、氷雪の斜面で足がかりを作るのに用いるほか、確保の支点(ビレイピン)、滑落時の滑落停止、グリセード時の制動及び姿勢の維持、アイスクライミング時の手掛かり[1]、杖代わり、時には雪上でテントペグとして使ったりもする。

山岳地帯での縦走用には柄が真っ直ぐで比較的長い60-70cm程度のものが用いられるが、氷壁などの突破用には30-40cm程度と短めのものが用いられる。氷壁用のものは、オーバーハングしている局面を考えて柄がカーブしているものもある。

かつて近世-戦前程度には杖としての使用局面が多かったらしく100cm程度あったが、現在はストック[2]を別に用意することも多く、シビアな局面だけで利用されることが増えたため短めのデザインとなっている。

各部名称

柄の部分をシャフト、柄の上端に付いている頭部をヘッド、ヘッドの両側に付いた刃のうち細く尖った方の刃をピック、広がった方の刃をブレード[3]、柄の下端に付いた尖った部分をシュピッツェまたは石突き(いしづき)という[4]

シャフトは1970年代頃迄は通常ヒッコリーで、他にタモや合竹なども一部に使われていたが、耐久性や軽量であることなどから徐々に現在のような金属製に置き換わるようになった。

カバーを付けたピックとブレード

素材は通常鋼鉄であるがアルミニウム合金、チタン合金などで製造されたものもある[5]

各先端部分は用途上非常に鋭く作られ刃物そのものであり、そのため輸送時は合成樹脂製のカバーを取り付けなければ危険である。またリュックサックの外側に取り付けて歩くと危険であるため、使用しない時は中に収納して運ぶことが勧められる。

バイル

ピッケルからアイスクライミング用に特化したバイル(アイスハンマー)などの派生物もある。現在では略されて単にバイルと呼ばれることもあるが、正式にはアイスバイルすなわち氷用のトンカチと思えばよい。詳細はアイスバイルの項目を参照。現在アイスクライミングで使うピッケル類はアックスと称されるようになり、従来のピッケルおよびアイスバイルとはだいぶ違うものである。総じてシャフトが短くなってピック側に曲がり、ピックの部分もシャフト側に曲がり、軽量化され、ピックの刃が鋭く研磨されるという傾向を持つ。

バイルには、ピッケルにあるブレードの代わりにハンマーが付けられている。これは、氷壁や岩場に足場やビレイ(安全確保)点となるピンやハーケンを打ち込むためのものである。

歴史

初めて使われたのは1840年頃とされている。

戦前よりスイス製のベント、シェンク、ウィリッシュなど銘品が輸入され、非常に高価であったが、徐々に国産化もなされた。初期の国産ピッケルは金剛杖に鳶口と石突を取り付けた程度のもので、ほとんど杖に近いものだった。1895年に厳冬期の富士山に登頂した気象学者の野中至は鳶口や鶴嘴をピッケルの代用として使用している[6]

1929年に仙台の鍛冶職人、山内東一郎が数年前から試作を繰り返していた独自のピッケルを商品化し、これが国内における本格的なピッケルの草分けとなる。 1930年には札幌の農具鍛冶職人、門田直馬が学生に請われた事がきっかけでピッケルの生産を開始[7]。 門田、山内は多くの岳人に愛用された。

戦後はフランス製ではシモン、シャルレなども人気があり、国産では森谷がマナスルや南極大陸の遠征で使われたほか、ダイナミックスノーマンや東京トップなども多く愛用された。先鋭的な登山家は鍛冶職人と二人三脚で自分専用のものを作り上げることもあり、特に二村のピッケルは長谷川恒男田部井淳子といった登山家に信頼を寄せられていた。

ピッケルは古くから「岳人の魂」などと呼ばれ充分な手入れを行ない磨き込まれて愛用されてきたが、現在では単なる登攀用具の一部となり、かつてのような「こだわり」をもって愛用する登山者は多くはない。

太平洋戦争中は気軽に登山できる状況ではなくなったが、戦地に赴く若者の中には自らのピッケルを後輩に託し生きて帰るまで「預かってくれるよう」言い残し二度と帰らなかった岳人も多かった。


  1. ^ 2つ持つのでこの手法をダブルアックスという。
  2. ^ 折りたたみ式のスキーストックに近い。
  3. ^ 英語では"Adze"という。
  4. ^ 英語では"Spike"という。
  5. ^ 素材についての相違はアイゼンの項を参照のこと。
  6. ^ 山と渓谷 2006年4月号
  7. ^ 山と渓谷 2006年4月号


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