ヒマラヤ山脈 概要

ヒマラヤ山脈

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/09 14:28 UTC 版)

概要

ヒマラヤ山脈の全景

ヒマラヤ山脈英語: Himalayan Range中国語: 喜马拉雅山脉チベット語: ཧི་མ་ལ་ཡ)は、アジアの山脈であり、パキスタン・インド・チベット(中華人民共和国領)・ネパール・ブータンの国境付近に位置する。西端はアフガニスタンのヒンドゥークシュ山脈へとつながる。ヒマーラヤहिमालय、himālaya)は、サンスクリット語で、hima(ヒマ「雪」)+ ālaya(ア-ラヤ「すみか」)から「雪の住みか」の意[1]

エベレスト(8,848メートル)、カンチェンジュンガ(8,586メートル)、ナンガ・パルバット(8,125メートル)をはじめ、世界でも有数の標高の高い山が数多く属している。

プレートテクトニクスによると、ヒマラヤ山脈は、インド亜大陸ユーラシア大陸への衝突により形成された。インド亜大陸の北上は続いており、ヒマラヤ山脈の成長も続いている。

各山々の標高には数説あり、エベレストは、ネパールと中国が共同発表した8,848.86メートルが最新データである。測量技術の向上と地殻変動による推移が関係している。注として、上記のデータには山頂の積雪3.5メートルは含まれない。

地理

シッキムのユムタン渓谷英語版

ヒマラヤ山脈の全長は西のナンガ・パルバット(パキスタン)から、東のナムチャバルワまで実に2,400キロに及ぶ。地理学的には、ヒマラヤ山脈は標高と地質によって平行に走る3つの山脈に分類される。3つのうちでもっとも後に形成された山脈は外ヒマラヤ(シワリク山地)と呼ばれ、およそ1,200メートルほどの高さの山で構成されている。この山脈はヒマラヤ山脈の成長にともなって発生した土砂の流出物によって形成されたと考えられている。

この山脈の北隣に平行に走る形で、小ヒマラヤがある。小ヒマラヤは2,000メートルから5,000メートルの標高の山々で形成され、マハーバーラト山脈とも呼ばれる。小ヒマラヤと大ヒマラヤの間にはカシミール盆地およびカトマンズ盆地という2つの肥沃な盆地があり、ここでは古くから高い文明が栄えていた。もっとも北にあるのが大ヒマラヤで、3つの山脈の中でもっとも古い山脈である。6,000メートル以上のピークを多数有し、世界でもっとも高いエベレスト、3番目に高いカンチェンジュンガがこの山脈に属している。

ヒマラヤは、東西にはおよそ5つに区分される。もっとも西寄りに位置するのがパンジャーブ・ヒマラヤであり、インダス川からサトレジ川までのインダス水系に属する山々である。行政的にはインドのジャンム・カシミール州ヒマーチャル・プラデーシュ州パキスタンギルギット・バルティスタンとなる。次いでその東に位置するのがガルワール・ヒマラヤ(クマオン・ヒマラヤ)である。インドのウッタラーカンド州に属する区域で、ガンジス川本流の源流域にあたる。ガンジス本流の源流とされるガンゴートリー氷河もここに属する。その東には、ネパール・ヒマラヤが広がる。行政的にはネパールに属する区域で、エベレストやダウラギリ、マナスルなど、ヒマラヤでもっとも高い山々がそびえる区域である。その東はシッキム・ブータン・ヒマラヤで、行政的にはインドのシッキム州ブータン王国の区域となる。もっとも東に位置するのがアッサム・ヒマラヤであり、行政的にはインドのアルナーチャル・プラデーシュ州となる。なお、この行政区域はすべてヒマラヤ南麓のものであり、ヒマラヤ北麓はすべて行政的には中国チベット自治区に属する[2]

ネパールとブータンの国土のほとんどがヒマラヤ山脈である。パキスタンのバルティスターン、インドのジャンムー・カシミール州などの北部の地域がヒマラヤ山脈の中にある。チベット高原の南東部もヒマラヤ山脈に接しているが、チベット高原そのものは地理学的にはヒマラヤ山脈とは別の山系に分類される。

自然

ヒンドスタン平野
西ヒマラヤ亜高山帯針葉樹林(インドヒマーチャル・プラデーシュ州)

ヒマラヤ山脈の植物相と動物相は、気候、雨量、高度と地質によって分類することができる。気候は山脈の麓にある熱帯から始まり、氷床と雪に覆われた高山帯まで変化する一方、年間降水量は西より東の地域の方が多い傾向がある。気候、高度、雨量と地質の複雑な変化が多様な生態系を育んでいる。

低地森林帯

ヒマラヤ山脈とデカン高原の間にはインダス川とガンジス川が流れる広い平野がある。この平野はヒンドゥスターン平野(またはインダス-ガンジス平原(en:Indo-Gangetic plain))と呼ばれ、森林地帯が広がっている。この平原の西部は乾燥しているが東部は雨量が豊富であるため、東西で植生が異なっている。北西部のパキスタンとインドにまたがるパンジャブ平野は有刺低木林に覆われている。インド東部のウッタル・プラデーシュ州のガンジス上流域にはガンジス上流域湿性落葉樹林帯英語版ビハール州西ベンガル州にまたがるガンジス平原にはガンジス下流域湿性落葉樹林帯英語版が広がっている。これらのモンスーン気候の落葉樹林は乾季になると落葉する。アッサム平野は湿性のブラマプトラ流域半常緑樹林英語版に覆われている。

テライ・ベルト(Terai belt)

粘土からなる沖積平野にはテライ・ベルトと呼ばれる湿地帯が広がっている。テライ英語版とは季節的に湿性になる草地のことである。テライ・ベルトはモンスーンになると冠水し、肥沃な土砂が堆積する。乾季には水が引くが、ヒマラヤから流れてくる地下水で高い地下水位がある。テライ・ベルトの中心部にはテライ-デュアサバンナ・大草原地帯英語版がある。ここには世界でもっとも背の高い草で覆われた草原と、サバンナ、落葉樹林、および常緑樹林がモザイク状に広がっている。またテライ・ベルトはインドサイの生息域である。

ババール・ベルト(Bhabhar belt)

テライベルトの標高の高い地域には、ヒマラヤ山脈から流れてきた岩石が堆積してできたババール英語版・ベルトと呼ばれる地域がある。ババールと低シワリク山脈は亜熱帯気候に属しており、この亜熱帯地域の最西部にはおもにヒマラヤマツ英語版(Chir Pine)を主植生とするヒマラヤ亜熱帯針葉樹林英語版がある。低シワリク山脈の中央部にはサラノキを主植生とするヒマラヤ亜熱帯広葉樹林英語版が広がっている。

山地森林帯(Montane forests)

ヒマラヤ山脈の中高度の地域には亜熱帯の森に代わって温帯性混交広葉樹林英語版がある。この地域の西部は西ヒマラヤ落葉樹林英語版と呼ばれ、東部のアッサム州およびアルナーチャル・プラデーシュ州の森は東ヒマラヤ落葉樹林英語版と呼ばれる。これらの広葉樹林より標高の高い地域には西ヒマラヤ亜高山帯針葉樹林英語版および東ヒマラヤ亜高山帯針葉樹林英語版が広がっている。

高山帯(Alpine shrub and grasslands)

森林限界より標高の高い地域には北西ヒマラヤ高山灌木草原帯英語版西ヒマラヤ高山灌木草原帯英語版、および東ヒマラヤ高山灌木草原帯英語版がある。この地域より標高が高くなるとツンドラ地帯となる。高山草原地帯は絶滅の危機にあるユキヒョウの夏の生息域となっている。ヒマラヤ山脈の最上部は万年雪に覆われている。


  1. ^ Definition of Himalayas”. Oxford Dictionaries Online. 2011年5月9日閲覧。
  2. ^ 辛島昇・前田専学・江島惠教ら監修『南アジアを知る事典』p594 平凡社、1992.10、ISBN 4-582-12634-0
  3. ^ C. R. Krishna Murti; Gaṅgā Pariyojanā Nideśālaya; India Environment Research Committee (1991). The Ganga, a scientific study. Northern Book Centre. p. 19. ISBN 978-81-7211-021-5. https://books.google.co.jp/books?id=dxpxDSXb9k8C&pg=PA19&redir_esc=y&hl=ja 2011年4月24日閲覧。 
  4. ^ "Ganges River". Encyclopædia Britannica (Encyclopædia Britannica Online Library ed.). 2011. 2011年4月23日閲覧
  5. ^ Penn, James R. (2001). Rivers of the world: a social, geographical, and environmental sourcebook. ABC-CLIO. p. 88. ISBN 978-1-57607-042-0. https://books.google.co.jp/books?id=koacGt0fhUoC&redir_esc=y&hl=ja 2011年4月23日閲覧。 
  6. ^ Sunderbans the world's largest delta”. gits4u.com. 2013年2月19日閲覧。
  7. ^ Vanishing Himalayan Glaciers Threaten a Billion”. Planet Ark (2007年6月5日). 2009年4月17日閲覧。
  8. ^ Glaciers melting at alarming speed”. People's Daily Online (2007年7月24日). 2009年4月17日閲覧。
  9. ^ Drews, Carl. “Highest Lake in the World”. 2010年11月14日閲覧。
  10. ^ Devitt, Terry (2001年5月3日). “Climate shift linked to rise of Himalayas, Tibetan Plateau”. University of Wisconsin–Madison News. http://www.news.wisc.edu/6138 2011年11月1日閲覧。 
  11. ^ 「世界地理4 南アジア」p385 織田武雄編 朝倉書店 1978年6月23日初版第1刷
  12. ^ 辛島昇・前田専学・江島惠教ら監修『南アジアを知る事典』p863 平凡社、1992.10、ISBN 4-582-12634-0
  13. ^ 「ビジュアル・データ・アトラス」p541 同朋舎出版 1995年4月26日初版第1刷
  14. ^ “水力発電はブータンの「白色金」、2020年までにGDPの5割を目指す”. AFP. (2013年7月8日). https://www.afpbb.com/articles/-/2954758 2014年12月29日閲覧。 
  15. ^ 「ヒマラヤ世界」pp138-139 向一陽 中公新書 2009年10月25日発行
  16. ^ http://j.people.com.cn/n/2014/1124/c95952-8813117.html 「チベット初の大型水力発電所、正式に稼働開始」人民網日本語版 2014年11月24日 2014年12月29日閲覧
  17. ^ “チベット自治区最大の水力発電所が稼働開始、中国”. AFPBB. (2014年11月25日). https://www.afpbb.com/articles/-/3032619 2019年7月27日閲覧。 
  18. ^ “エベレスト登山者にごみ収集を義務化へ、ネパール”. AFPBB. (2014年3月4日). https://www.afpbb.com/articles/-/3009742 2014年12月29日閲覧。 
  19. ^ 「情報も写真も無し、ヒマラヤ未踏峰に世界初登頂 早大隊」『朝日新聞』朝刊2017年11月8日(スポーツ面)
  20. ^ Dallapiccola, Anna (2002). Dictionary of Hindu Lore and Legend. ISBN 0-500-51088-1 
  21. ^ Pommaret, Francoise (2006). Bhutan Himlayan Mountains Kingdom (5th ed.). Odyssey Books and Guides. pp. 136–7. ISBN 978-9622178106 
  22. ^ “Tibetan monks: A controlled life”. BBC News. (2008年3月20日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/asia-pacific/7307495.stm 
  23. ^ “Mosques in Lhasa, Tibet”. People's Daily Online. (2005年10月27日). http://english.peopledaily.com.cn/200510/27/eng20051027_217176.html 






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