ヒスタミン ヒスタミンの概要

ヒスタミン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/05 09:43 UTC 版)

ヒスタミン
識別情報
CAS登録番号 51-45-6
KEGG C00388
特性
化学式 C5H9N3
モル質量 111.15 g mol−1
外観 無色固体
融点

83–84 ℃ ([1])

沸点

209–210 ℃ (at 18 mmHg[1])

特記なき場合、データは常温 (25 °C)・常圧 (100 kPa) におけるものである。

合成・代謝

ヒスタミンは食物から直接体内に取り込まれるほか、生体内で合成される。

体内での合成

ヒスチジン脱炭酸酵素によるヒスチジンからヒスタミンへの合成

ヒスタミンはヒスチジン脱炭酸酵素英語版[3] [4] (HDC) により必須アミノ酸であるヒスチジンから合成され、主にヒスタミン-N-メチル基転移酵素[5] [6]ジアミン酸化酵素[7] [8]等で分解され、その後、イミダゾール酢酸[9]となり排出される。肥満細胞中に高濃度で存在し、肝臓粘膜・大脳にも存在し、それぞれの生理機能を担っている。

ヒスチジン脱炭酸酵素の補酵素としては、ビタミンB6の活性型であるピリドキサールリン酸がある。また、ヒスタミン合成を防ぐものとしては、ヒスチジン脱炭酸酵素の阻害を行うカテキン類、メシアダノール英語版ナリンゲニントリトクアリン[10]などが存在する。一部の真菌はヒスタミン遊離を促し、アトピー性皮膚炎を亢進する[11]。一方リンゴポリフェノールは、ヒスタミン遊離を抑制し、アレルギー性鼻炎の症状を緩和する[12]

なお、ヒスタミンの前駆物質であるヒスチジンには、抗酸化作用などの効果があるとされる。また、ヒスタミン前駆物質のヒスチジンはヒスタミン合成だけでなく、カルノシン合成酵素によるカルノシンの合成にも使われている。カルノシン合成には、ATP及びβ-アラニンが必要となる。β-アラニンの摂取はヒスチジン消費によるカルノシンの合成を促進できるものの、β-アラニン自体がヒスタミン非依存性の抗ヒスタミン剤が効かない痒みの原因になりうるとされる[13]

細菌による合成

ヒスタミンを産生する菌は、ヒスチジン脱炭酸酵素を有するもので、Morganella morganii(モルガン菌)[14]Klebsiella oxytoca 及び好塩性菌の Photobacterium phosphoreumPhotobacterium damsela 等が知られている[15]。なお、Photobacterium 属菌の中には0 ℃の低温で増殖するものがある[16]

代謝

ヒスタミンの代謝には、ジアミンオキシダーゼ (DAO)による経路と、ヒスタミン-N-メチルトランスフェラーゼ (HNMT)による経路が存在する。

ジアミンオキシダーゼ (DAO)は銅を含む酵素であり、銅輸送タンパク質のセルロプラスミンはその活性を行うとされている[17] (なお、セルロプラスミンはエストロゲンによって増加するとされる)。また、ニジマスにおける実験では、ステビアに含まれるカリウムがDAOを活性化するとされた[18]

ヒスタミン-N-メチルトランスフェラーゼ (HNMT)による経路は、活性メチオニンであるS-アデノシルメチオニン (SAM)を消費する。

主な作用

肥満細胞のほか、好塩基球ECL細胞がヒスタミン産生細胞として知られているが、普段は細胞内の顆粒に貯蔵されており、細胞表面の抗体抗原が結合するなどの外部刺激により細胞外へ一過的に放出される。また、マクロファージ等の細胞ではHDCにより産生されたヒスタミンを顆粒に貯蔵せず、持続的に放出することが知られている。

血圧降下、血管透過性亢進、平滑筋収縮、血管拡張、腺分泌促進などの薬理作用があり、アレルギー反応や炎症の発現に介在物質として働く。ヒスタミンが過剰に分泌されると、ヒスタミン1型受容体(H1受容体)というタンパク質と結合して、蕁麻疹やアレルギー性疾患の原因となる。

神経組織では神経伝達物質として働き、音や光などの外部刺激および情動、空腹、体温上昇といった内部刺激などによっても放出が促進され、オキシトシン分泌や覚醒状態の維持、食行動の抑制、記憶学習能の修飾など、生理機能を促進することで知られている。


  1. ^ a b Merck Index 13th ed., 4739.
  2. ^ The physiological action of β-iminazolylethylamine
  3. ^ histidine decarboxylase: HDC, EC 4.1.1.22
  4. ^ 反応
  5. ^ histamine-N-methyltransferase: HMT, EC 2.1.1.8
  6. ^ 反応
  7. ^ diamine oxidase EC 1.4.3.22
  8. ^ 反応
  9. ^ イミダゾール酢酸
  10. ^ Étude randomisée en double aveugle contre placebo de la tritoqualine hypostamine* dans la rhinite allergique perannuelle (フランス語) Revue Française d'Allergologie et d'Immunologie Clinique 2003年4月
  11. ^ 汗に含まれるアトピー性皮膚炎の悪化因子はカビの1種の産生物 - 広島大 マイナビ 2013年6月10日
  12. ^ Clinical effects of apple polyphenols on persistent allergic rhinitis: A randomized double-blind placebo-controlled parallel arm study. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2006年
  13. ^ Mechanisms of itch evoked by β-alanine The Journal of Neuroscience英語版 2012年
  14. ^ 生食用鮮魚介類等におけるヒスタミン産生菌に関する調査(第2報) (PDF) 宮城県保健環境センター年報 第29号, 2011
  15. ^ 飯田宏美、海瀬好和、相磯和嘉、「ヒスタミンを産生する好塩性細菌について」 『日本衛生学雑誌』 1958年 13巻 3号 p.354-358, doi:10.1265/jjh.13.354
  16. ^ a b ヒスタミン産生菌 東京都福祉保健局
  17. ^ Levels of plasma ceruloplasmin protein are markedly lower following dietary copper deficiency in rodents Comp Biochem Physiol C Toxicol Pharmacol 2010年
  18. ^ ニジマスに対するヒスタミンの影響とステビア成分の解毒機構 塩崎一弘、中野俊樹、山口敏康、佐藤実 2005年
  19. ^ a b c d 第3章 調理室における衛生管理&調理技術マニュアル”. 文部科学省. 2020年6月5日閲覧。
  20. ^ 血小板輸血後に敗血症性ショックを呈し, Morganella morganii 菌による輸血後感染症が強く示唆された1例 (PDF) 日本輸血・細胞治療学会
  21. ^ 加熱しても防げない ヒスタミン食中毒”. www.city.tokyo-nakano.lg.jp. 2023年6月16日閲覧。
  22. ^ a b ヒスタミン食中毒防止マニュアル10.3.9 (PDF) 大日本水産会 国際・輸出促進部 品質管理課
  23. ^ Public Health Risks of Histamine and other Biogenic Amines from Fish and Fishery Products. Joint FAO/WHO Expert Meeting. (2012). p. 34-38. ISBN 978-92-5-107849-5. http://www.fao.org/fileadmin/user_upload/agns/pdf/Histamine/Histamine_AdHocfinal.pdf 2019年3月7日閲覧。 


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