ヒガンバナ ヒガンバナの概要

ヒガンバナ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/15 18:52 UTC 版)

ヒガンバナ
リコリス、曼珠沙華とも呼ばれ
日本では秋の彼岸の頃に花開く
分類APG III
: 植物界 Plantae
階級なし : 被子植物 Angiosperms
階級なし : 単子葉類 Monocots
: キジカクシ目 Asparagales
: ヒガンバナ科 Amaryllidaceae
亜科 : ヒガンバナ亜科 Amaryllidoideae
: ヒガンバナ連 Lycorideae
: ヒガンバナ属 Lycoris
: ヒガンバナ L. radiata
学名
Lycoris radiata (L'Hér.) Herb. (1819)[1]
シノニム
和名
ヒガンバナ(彼岸花)
英名
red spider lily
品種変種
  • ニシキヒガンバナ L. r. f. bicolor
  • ワラベノカンザシ L. r. var. kazukoana
  • コヒガンバナ L. r. var. pumila

原産地は中国大陸であり、日本においては史前帰化植物に分類される[3]。分布は日本全国である[3][注釈 2]。秋の彼岸(9月)の頃に、花茎の先に強く反り返った鮮やかな赤い花を咲かせ、秋の終わりに葉が伸びて翌年の初夏に枯れるという、多年草としては特殊な性質を持っている[3]。地下の鱗茎(球根)に強い毒性を有する有毒植物であるが、かつて救荒作物として鱗茎のデンプンを毒抜きして食べられていた[3]

名前

彼岸花、曼珠沙華

学名の属名 Lycoris(リコリス)は、ギリシャ神話の女神・海の精であるネレイドの1人であるリュコーリアス英語版 (Lycorias) からとられ、種小名 radiata (ラジアータ)は「放射状」の意味で、花が完全に開いた時に放射状に大きく広がっている様子にちなむ[4]。英語では、レッドスパイダーリリー (Red spider lily)、スパイダーリリー (Spider lily) などの花名がある[5]

彼岸花(ヒガンバナ)の名は秋の彼岸頃、突然に花茎を伸ばして鮮やかな紅色のが開花する事に由来する[6][7]。別の説には、これを食べた後は「彼岸(死)」しかない、という説も有る。

別名の曼珠沙華(マンジュシャゲ)は歌にも歌われた事でも知られ[8]梵語(サンスクリット語)で「赤い花」[9]「葉に先立って赤花を咲かせる」という意味から名付けられたと言われている[6]。サンスクリット語 manjusaka の音写であり、『法華経』などの仏典に由来する。また、法華経序品では、釈迦が法華経を説かれた際に、これを祝して天から降った花(四華)の1つが曼珠沙華であり[9]、花姿は不明だが「赤団華」の漢訳などから、色は赤と想定されている。したがって、四華の曼陀羅華と同様に法華経で曼珠沙華は天上の花という意味もある。

また、『万葉集』に見える「いちしの花」を彼岸花とする説も有る(「路のべの壱師の花の灼然く人皆知りぬ我が恋妻は」、11・2480)。食用は一般的には危険だが、毒を抜いて非常食とする場合もあることから、悲願の花という解釈も見られる。

日本では各地方のみで通じた異名が派生し、別名・地方名方言は数百から1000種以上あると言われている[10][11]。葬式花(そうしきばな)[10]、墓花(はかばな)[10]、死人花(しびとばな)[5]、地獄花(じごくばな)[5]、幽霊花(ゆうれいばな)[5]、火事花(かじばな)[10]、蛇花(へびのはな)、剃刀花(かみそりばな)[5]、狐花(きつねばな)[5]、捨て子花(すてごばな)[5]、灯籠花(とうろうばな)、天蓋花[5]などがその例で、不吉な別名が多く見られる[9]。それに加え、開花時に葉が無く花と葉を同時に見られないため、葉見ず花見ず(はみずはなみず)の別称も有する[12][9]

分布・生育地

水田のあぜ道に群生するヒガンバナ

中国大陸の原産[13][7]日本列島では北海道から南西諸島まで見られる。土手、堤防、あぜ、道端、墓地、線路の際など、人手の入っている場所に生育している[8][5]。特に、田畑の縁に沿って列をなす時には花時に見事な景観をなす。湿った場所を好み、時に水で洗われて球根が露出するのが見られる。なお、山間部の森林内でも見られる場合があるが、これはむしろそのような場所がかつては人里(里山)であった可能性を示す。仏教に由来する花であり、原種が彼岸の9月頃に咲いたため、かつては墓地や寺院などの周辺に植栽されている場合も多かった。また、その植生からモグラなどの害獣対策として、田の畦に植栽される場合もあった[10]

日本列島には中国大陸から有史以前に渡来したと考えられており、現在では各地で野生化している[7]。その経緯については、稲作の伝来時に土と共に鱗茎が混入してきて広まったと言われるが、モグラやネズミなどを避けるために有毒な鱗茎をあえて持ち込み、土手に植えたと推測する意見もある[14]。また、鱗茎は適切に用いれば薬になるほか、水に晒して有毒成分のアルカロイドを除去すれば救荒食になる。これの澱粉で栃木県などでは「ヒガンバナ餅」などを作る。

日本列島で繁殖しているヒガンバナは、染色体が基本数の3倍ある三倍体であり、正常な卵細胞や精細胞が作られないため、いわゆる「種無し」になってしまい、一般に種子では子孫を残せない[15]不稔性である。種子を持つ植物と同様の方法では、自ら生育地を広げる術を持たないため、人の手が一切入らないような場所に、突然育つことがない植物である[16]

ただし、中国大陸には種子繁殖が可能で遺伝的に多様なヒガンバナの2倍体が自生し、それらが3倍体化することで、幾つかのタイプのヒガンバナが存在する。このため、「中国で突然に生まれた3倍体のヒガンバナが日本に持ち込まれた」と推察されている[15]


注釈

  1. ^ APG体系による分類。クロンキスト体系ではユリ科
  2. ^ 特に近畿地方や中国地方に多く分布している[3]
  3. ^ シロバナマンジュシャゲは別種である。
  4. ^ かつては多くが土葬であり、墓穴棺桶を埋め、上から土をかぶせた。これをキツネなどの動物が掘り返してねぐらとするなど、荒らされる場合があった。
  5. ^ 日本テレビの『所さんの目がテン』(2005年9月25日放送)では、戦中当時のレシピを使用して食用実験を行った。ただし、これは万全な準備を経て専門家による指導のもとで行われた実験である。実際に同様のことを行った場合、毒抜きの時間が不充分であったり、長期間の摂取によって有毒成分が体内に蓄積したりすると、中毒を起こす危険性がある。
  6. ^ 紅い花ではあるが、地元は彼岸=死のイメージを嫌い、あえて曼珠沙華と呼ぶ。

出典

  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Lycoris radiata (L'Hér.) Herb. ヒガンバナ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  2. ^ a b c 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). “「BG Plants 和名-学名インデックス」(YList)”. 2012年6月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2011年10月4日閲覧。
  3. ^ a b c d e 川名瑞希「<研究ノート>彼岸花にみる生活世界 : 命名と名称分布から」『常民文化』第41号、成城大学常民文化研究会、2018年3月、11-25頁、ISSN 0388-8908NAID 120006462906 
  4. ^ 田中修 2007, p. 118.
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n 稲垣栄洋 2018, p. 218.
  6. ^ a b c d e f g h i j 田中孝治 1995, p. 106.
  7. ^ a b c d e f g h i j 主婦と生活社編 2007, p. 127.
  8. ^ a b c d e f g h i j k 馬場篤 1996, p. 96.
  9. ^ a b c d e f g h 稲垣栄洋 2018, p. 219.
  10. ^ a b c d e f g h i j 田中修 2007, p. 119.
  11. ^ 熊本国府高等学校PC同好会 (2010年3月22日). “彼岸花の別名”. 四季の花や植物. 2011年10月4日閲覧。
  12. ^ a b 田中修 2007, p. 125.
  13. ^ a b 大嶋敏昭監修 2002, p. 340.
  14. ^ 「田畑のあぜに真っ赤な帯 京都・乙訓でヒガンバナ見ごろ」京都新聞』2018年9月21日(2018年11月9日閲覧)。
  15. ^ a b c d 田中修 2007, p. 121.
  16. ^ 田中修 2007, p. 122.
  17. ^ a b c 近田文弘監修 亀田龍吉・有沢重雄著 2010, p. 219.
  18. ^ 田中修 2007, pp. 118, 124.
  19. ^ 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2018, p. 14.
  20. ^ a b 金田初代 2010, p. 187.
  21. ^ 巻末資料『安浦町史 通史編』p.1064、安浦町史編さん委員会編、2004年3月31日発行
  22. ^ ヒガンバナ科植物の誤食による食中毒”. 国立保健医療科学院. 2020年12月10日閲覧。
  23. ^ 松村 明、山口 明穂、和田 利政 編 『旺文社 国語辞典(第8版)』 p.1432 旺文社 1992年10月25日発行 ISBN 4-01-077702-8
  24. ^ 新谷尚紀 監修 著、PHP研究所編 編『12ヶ月のしきたり : 知れば納得! 暮らしを楽しむ』PHP研究所、2007年、100頁。ISBN 978-4-569-69615-7 
  25. ^ 四季の花々”. 埼玉県日高市巾着田管理事務所. 2020年9月22日閲覧。
  26. ^ 再調査で「500万本」 埼玉・日高のマンジュシャゲ”. 朝日新聞社 (2013年9月15日). 2013年9月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2013年9月15日閲覧。
  27. ^ 矢勝川(彼岸花)”. 愛知県の公式観光ガイド「Aichi Now」. 愛知県、Aichi Now運営事務局(ピコ・ナレジ). 2020年9月29日閲覧。
  28. ^ 田中修 2007, p. 120.
  29. ^ 田中修 2007, pp. 122–123.





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