バチカン 経済

バチカン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/12 23:09 UTC 版)

経済

国家予算

バチカンの「国家予算」は2003年のデータで歳入が約277億円で歳出290億円となっている。主な産業として出版業、モザイク製作などがある。バチカンは国家というにはあまりに特殊な存在であり、(下記にある「宗教活動協会」の投資運用は除き)利益追求の産業活動は行っていないため、歳入は「聖ペトロの献金」(Peter's Pence)として知られる世界中のカトリック信徒からの募金切手の販売、バチカン美術館の入場料収入、出版物の販売などによるものである。

宗教活動協会

第二次世界大戦中の1942年に、ピウス12世によってそれまでの「宗務委員会」から改組され設立された、バチカンの国家財政管理を行う組織である「宗教事業協会」(Instituto per le Opere di Religioni/ IOR、「バチカン銀行」とも呼ばれる)が、各国の民間の投資銀行を通じて投資運用し資金調達を行っている。上記の「国家予算」には、「宗教事業協会」の投資運用による利益は入っていない。

1980年代前半までは、宗教事業協会の投資運用と資金調達を行う主力行としての業務はイタリア国立労働銀行の子会社のアンブロシアーノ銀行が行っていたが、1982年に、同協会のポール・マルチンクス大司教と、「教皇の銀行家」と呼ばれていた、アンブロシアーノ銀行のロベルト・カルヴィ頭取のもとで起こった、マフィアや極右秘密結社であるロッジP2が絡んだ、多額の使途不明金と資金洗浄に関わった不祥事の影響を受け、同行が破綻し、カルヴィ頭取などの複数の関係者が暗殺されて以降は、ロスチャイルド銀行とハンブローズ銀行などが行っている。また、この事件は、アメリカ映画ゴッドファーザー PART III」でも取り扱われている。

不正行為の疑い

宗教事業協会は度々マネーロンダリングなどの違法な取引にかかわったと指摘されており、近年も2009年11月と2010年9月の2度に渡り、宗教事業協会とエットーレ・ゴティテデスキ総裁がマネーロンダリングに関係したとの報告を受けたイタリアの司法当局が捜査を行い、捜査の過程で2300万ユーロの資産が押収されている[25]

2013年5月22日、独立機関の聖座財務情報監視局は、2012年の金融取引において6件のマネーロンダリングの疑いがあると発表した[26]。2013年6月28日には、現金4千万ユーロ(約52億円)を無申告でスイスからイタリアに運ぼうとしたとして、スカラーノ司祭がイタリア警察に逮捕された。2013年7月1日には、幹部2人が辞任に追い込まれた[27]

その他

バチカン職員の給与水準は、イタリア・ローマの平均給与よりもやや良いといわれている。独自通貨をつくらないため、以前はリラが用いられていたが、イタリアがユーロに通貨を変更した2002年1月1日以降、バチカンでもユーロが流通するようになった。なお、バチカン発行のユーロ通貨は、ユーロ圏ならどこでも使用することが可能であるが、切手はバチカン専用で、バチカンでイタリアの切手は使えない。


注釈

  1. ^ イタリア語が常用される。
  2. ^ 1999年以前の通貨はイタリア・リラバチカン・リラ
  3. ^ バチカンのユーロ硬貨も参照。
  4. ^ ただし、バチカンは国際連合に加盟していないため、国際連合加盟国に限る場合はモナコが国土最小国に該当する。

出典

  1. ^ 日本国外務省・バチカン(Vatican)基礎データ
  2. ^ イタリア政府観光局(ENIT)公式サイト「ヴァティカン市国」
  3. ^ バチカン市国基本法第一条
  4. ^ バチカンが釈明、ワクチン接種拒否への解雇法令に批判集まる”. ロイター (2021年2月19日). 2021年2月21日閲覧。
  5. ^ 徳安茂『なぜローマ法王は世界を動かせるのか』PHP研究所、第1版第1刷、2017年3月1日。28-29頁。ISBN 978-4-569-83268-5
  6. ^ a b バチカン 基礎データ 外務省
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