ハゼノキ ハゼノキの概要

ハゼノキ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/24 21:14 UTC 版)

ハゼノキ
ハゼノキ
分類
: 植物界 Plantae
: 被子植物門 Magnoliophyta
: 双子葉植物綱 Magnoliopsida
: ムクロジ目 Sapindales
: ウルシ科 Anacardiaceae
: ウルシ属 Toxicodendron
: ハゼノキ T. succedaneum
学名
Toxicodendron succedaneum (L.) Kuntze (1891)[1]
シノニム
  • Rhus succedanea L. var. japonica Edwards[2] (1883)[3]
  • Rhus succedanea L. var. dumoutieri (Piérre) Kudo et Matsuura (1931)[4]
  • Rhus succedanea L. (1771)[5]
和名
ハゼノキ
英名
Japan wax tree

名称

「ハゼ」は古くはヤマウルシのことを指し、紅葉が埴輪の色に似ていることから、和名を埴輪をつくる工人の土師(はにし)とし、それが転訛したといわれている[8]

別名にリュウキュウハゼ[10][9]ロウノキ[7]トウハゼなど。果実薩摩の実とも呼ばれる。中国名は、野漆 (別名:木蠟樹)[1]

分布・生育地

ハゼノキ (イラスト)
果実を食べるキツツキの仲間のコゲラ

日本では本州関東地方南部以西、四国九州沖縄小笠原諸島のほか、朝鮮半島南西沖の済州島台湾中国、東南アジアに分布する[11]。低地で[9]、暖地の海に近い地方に多く分布し[12]、山野に生え、植栽もされている[6]。日本の山野に自生しているものは、かつて果実からを採るために栽培していたものが、それが野生化したものが多いともいわれる[7][6]。明るい場所を好む性質があり、街中の道端に生えてくることもある[12]。ときに、庭の植栽としても見られる[9]

特徴

雌雄異株落葉広葉樹小高木から高木で、樹高は5 - 10メートル (m) ほどになる[9][6]樹皮は灰褐色から暗赤色で、縦に裂けてやや網目状の模様になる[12][6]。一年枝は無毛で太く、縦に裂ける皮目がある[6]

奇数羽状複葉で9 - 15枚の小葉からなる。小葉は少し厚くて細長く、長さ5 - 12センチメートル (cm) の披針形で先端が尖る[11]。小葉のふちは鋸歯はついていない[12]。表面は濃い緑色で光沢があるが、裏面は白っぽい[13]葉軸は少し赤味をおびることがある[12]。秋には常緑樹に混じって、ウルシ科特有の美しい真っ赤な色に紅葉するのが見られる[9][7]。秋にならないうちに、小葉の1 - 2枚だけが真っ赤に紅葉することもある[8]

花期は5 - 6月、花は葉の付け根から伸びた円錐花序で、枝先に黄緑色の小さな花を咲かせる[11][7]。雄花、雌花ともに花弁は5枚。雄花には5本の雄しべがある。雌しべは3つに分かれている。

秋に直径5 - 15ミリメートル (mm) ほどの扁平な球形の果実が熟す[7]。果実の表面は光沢があり無毛。未熟果実は緑色であり、熟すと黄白色から淡褐色になる。中果皮は粗い繊維質で、その間に高融点脂肪を含んだ顆粒が充満している。冬になると、カラスキツツキなどの鳥類が高カロリーのとして好んで摂取し、種子散布に寄与する[7][8]は飴色で強い光沢があり、俗に「きつね小判」、若しくは「ねずみの小判」と呼ばれる。

冬芽は互生し、頂芽は円錐状で肉厚な3 - 5枚の芽鱗に包まれており、側芽のほうは小さな球形である[6]。落葉後の葉痕は心形や半円形で、維管束痕が多数見える[6]

個人差はあるものの、樹皮や葉に触れても普通はかぶれを起こさないが、葉や枝を傷つけると出てくる白い樹液が肌に触れると、ひどくかぶれをおこす[12][14]。また、枝や葉を燃やしたときに出る煙でも、かぶれることがある[12]

よく似ている樹種にヤマハゼToxicodendron sylvestre)があり、ヤマハゼは葉の両面に細かい毛が生えていて、紅葉が赤色から橙色で、鮮やかさはハゼノキよりも劣る印象がある[9]。ハゼノキは葉の表裏ともに毛がない点で、日本に古来自生するヤマハゼと区別できる[13]

利用

果実 

果実を蒸して圧搾して採取される高融点の脂肪、つまり木蝋は、和蝋燭(Japanese candle)、坐薬軟膏の基剤、ポマード石鹸クレヨン化粧品などの原料として利用される[11][12]。日本では、江戸時代西日本の諸で木蝋をとる目的で盛んに栽培された。また、江戸時代中期以前は時としてアク抜き焼いて食すほか、すり潰してこね、ハゼ餅(東北地方のゆべしに近いものと考えられる)として加工されるなど、救荒食物としての利用もあった。現在も、食品の表面に光沢をつけるために利用される例がある。20世紀に入り安価で大量生産可能な合成ワックスにより、生産が低下したが、近年合成ワックスにはない粘りや自然品の見直し気運などから需要が増えてきている。

木材

木材は、ウルシと同様心材が鮮やかな黄色で、工芸品、細工物、和弓、櫨染(はじぞめ)などに使われる[7]。櫨染は、ハゼノキの黄色い芯材の煎じた汁と灰汁で染めた深い温かみのある黄色である[7]。なお、日本の天皇が儀式に着用する櫨染の黄櫨染御袍(こうろぜんのごほう)の色素原料は同じウルシ属のヤマハゼになる。


注釈

  1. ^ 櫨実は運上銀納入者に買い占めさせる旨の薩摩藩藩達が1637年~1639年(寛永14年~16年)にあり、櫨栽培がそれ以前に始まっていたことは推測されている[17][18]
  2. ^ 江戸時代には火口(ほくち)に火をつける火打石硫黄附木も庶民に普及した。

出典

  1. ^ a b 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Toxicodendron succedaneum (L.) Kuntze ハゼノキ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月25日閲覧。
  2. ^ William Henry Edwards or シデナム・エドワーズ
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus succedanea L. var. japonica Engl. ハゼノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月25日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus succedanea L. var. dumoutieri (Piérre) Kudo et Matsuura ハゼノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月25日閲覧。
  5. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Rhus succedanea L. ハゼノキ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年12月25日閲覧。
  6. ^ a b c d e f g h 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 103.
  7. ^ a b c d e f g h i j k l 田中潔 2011, p. 61.
  8. ^ a b c d 亀田龍吉 2014, p. 29.
  9. ^ a b c d e f g 林将之 2008b, p. 40.
  10. ^ a b 樹皮・葉でわかる樹木図鑑 (2011)、170頁
  11. ^ a b c d 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 248.
  12. ^ a b c d e f g h 林将之 2008a, p. 139.
  13. ^ a b 林将之 2011, p. 145.
  14. ^ 林将之 2011, p. 144.
  15. ^ 木蝋(もくろう)-文化財を維持する特用林産物”. 日本特用林産振興会. 2019年4月24日閲覧。
  16. ^ 櫨の道. 松山櫨復活委員会. (2015年8月1日) 
  17. ^ 桜島町郷土誌編さん委員会 1988, p. 153.
  18. ^ 鹿児島県 1967.
  19. ^ 「第三章 城下町と近郊農村の産業」『広島市史 第三巻 社会経済編』pp224 昭和34年8月15日 広島市役所
  20. ^ 「櫨紅葉」「櫨の実」「櫨採り」は晩秋・植物の季語。一方、「櫨」「櫨の木」は仲夏・植物に、「櫨の花」は初夏・植物に分類される季語である。- 齋藤慎爾・阿久根末忠編『必携季語秀句用字用例辞典』柏書房、1997年、P.871。
  21. ^ 9位 柳坂曽根の櫨(福岡県久留米市)葉と実 一幅の絵のよう日本経済新聞』2019年9月7日・土曜朝刊別刷りNIKKEIプラス1「何でもランキング」(2面)2021年1月3日閲覧


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