ハウステンボス 概要

ハウステンボス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/03/28 20:39 UTC 版)

概要

名称について

「ハウステンボス」(Huis Ten Bosch)は、オランダ語で「森の家」。「Huis」が「家」、「Ten」が「の」あるいは「〜にある」、「Bosch」が「森」である。オランダベアトリクス王女が住む宮殿の一つ、ハウステンボス宮殿(Paleis Huis ten Bosch)を再現した事から名付けられた。オランダ語の慣用例に基づいた「Huis Ten Bosch」のカナ転写は「ハウス・テン・ボス」である[注釈 2]。現代のオランダ語では「bosch」という言葉は「bos」として書かれ、「ten」という場所を示す文法的な表現 (te + den) はもう使われていない。

プロジェクトの概要

大村湾北端に面した佐世保市針尾島の早岐瀬戸に接する部分に位置し、総開発面積は152ヘクタール(46万1千坪)。現在の東京ディズニーリゾートディズニーランドディズニーシー)とほぼ同規模。単独テーマパークとして、連続した敷地面積では、群を抜いて日本最大である。

テーマパークの一形態ではあるが、ひとつの街として造るというコンセプトに基づいているため、舞台裏と呼べる部分がない。そのため、宅配業者などが行う店舗への物品搬入や、ホテルのリネン類補給のためのサービス車両は、全てハウステンボスの街中を走り建物脇に堂々と停車・駐車している。普通に宅配便の車が走っており、これによってハウステンボスの街並みに現実感が備わるとともに、こうした車両を、クラシックデザインの導入や、原色系に統一したテーマカラーで彩ることで、街並みのアクセントとして積極的に機能させている。

開園当初の構内車両には、日産自動車富士重工業が開発したオリジナルのクラシック架装が施してあるほか、トヨタ・クラシックなどのクラシックデザインの車両なども使われている。ハウステンボス向け特注車両がもとになって市販化された車が、スバルサンバー・クラシックである。

なお、開業までの詳細な経緯は、創業者である神近義邦の著書「ハウステンボスの挑戦」(講談社、1994年1月、ISBN 4062064073)に記述されている。

現在のハウステンボス敷地の大部分は、江戸時代に干拓された水田地跡である。太平洋戦争時に軍に接収されたのち、ごく短期間、広島県江田島の海軍兵学校針尾分校が置かれた。大戦終結後には、厚生省佐世保引揚援護局が置かれ、針尾島西部の浦頭港に帰着した船舶から上陸した引揚者は、ここまでを徒歩で移動し、休息救護を受けた歴史がある。この地で休息後、もよりの国鉄南風崎駅から故郷への帰宅の途についた。引揚援護局閉鎖後は、陸上自衛隊針尾駐屯地を経て、その後長崎県に払い下げられた。県は、針尾工業団地として造成を行ったが、工業用水供給の問題などから企業誘致が進まず、手つかずのままだった。議会で毎回のように批判を浴び頭を悩ませていた県は、大村湾西岸でテーマパーク運営で成功していた長崎オランダ村に注目。長崎オランダ村株式会社(当時)も、長崎オランダ村付近の交通渋滞が著しかったことなどから、駐車場としての購入を希望した[5]。しかし、神近はアジアのリゾート観光拠点を創り上げる新たな構想をねり上げ、オランダ村を発展的に大規模に拡大した施設を新たに建設した。完成後、商号変更を行い、現在のハウステンボス(ハウステンボス株式会社)に至る。

イメージづくり

計画の設計は、日本設計が行い、オランダ村の設計も手がけた池田武邦が再び行なった。オランダ400年の国づくりに学びながら、現在の時代を先取りする環境都市となっていく生活ストーリーを作り、「人と自然が共存する新しい街」「自然の息づかいを肌で感じることのできる新しい空間」を目指してつくられた。ユトレヒト地区を最古の市街部に見立て、ビネンスタッド、ニュースタッドと入園口方向へと新しく都市が広がっていく形の構造となっている。 各地区毎にオランダの文化と豊かな自然が息づかせ、ハウステンボスで生活する人々や訪れる人々につかの間の余暇と、本格的な充実したリゾートライフを提供することを目指している。どの地区でも、施設や街の紋章までもがオランダ政府の協力や助言のもとにオランダに実在する建物を忠実に再現する方法で造られており、建物に付属の石像もオランダの文化財修復家が製作に当たっている。車道はピンコロの石畳とし、歩道や横断歩道にまで様々な色彩のレンガが使われた。このようなレンガ基調の街並に、ウッドデッキなど木材を配して落ち着ける空間を提供し、さらに、そこに植物を植え込んで充足感を抱けるように工夫されている。特に最奥部に建てられたパレスハウステンボスは、オランダ王室の宮殿を写したもので、王室の許しを得て忠実な再現が行われている。宮殿最上部に置かれた王冠は、オランダの企業グループより贈呈を受けたもので、日蘭両国の友好の象徴である。このパレスハウステンボス宮殿は、庭園の設定にも、これからの友好関係の発展を願う、希望を込めたストーリーが隠されている。

町名としては、1991年(平成3年)6月16日に「佐世保市ハウステンボス町(まち)」に変更された[6]。施設の側を通る県道にも長崎県道141号ハウステンボス線の名称が付されている。

なお、母体となった長崎オランダ村は、2001年10月まで西彼町の元の場所でしばらく営業を続けていたが、閉園後、2003年に西彼町に売却された。現在、西彼町は、町村合併によって西海市になっている。オランダ村跡地はハウステンボスの南方、27kmの所に現存している。2010年5月より施設の一部が西海市西彼支所として活用されている。

土壌の改良

長崎オランダ村株式会社が買い上げた土地は、敷地のほぼ全域がヘドロで埋め立てられており、雨が降ると地面に染みこまずに巨大な水溜りになり、乾燥するとひび割れを起こした。砕石されずに投棄された2m近い岩塊が次々とでてくる有様だった[5]。一面、背の高い草に覆われ、樹木は生えていない状況だった。まずは草木が失われていた土地を土壌改良して樹木林を形成させることからスタート。土地購入費以上の投資をして土地を掘削し、堆肥を混入する有機的な方法で土壌改良を実施した。東京農業大学関連の学術研究者による綿密な周辺調査に基づいて植栽を行い、約40万本の樹木と30万本の花を植えた。

運河の掘削

水田だった頃には、塩害防止用のクリークが張られていたが、ハウステンボス建設時にはすでに埋められていた。ハウステンボス建設では、これとは別に、城塞部を囲むように新たに運河が掘削された。運河は全長6,000m。水深2.5m、幅20〜30m。水際は、動植物に対し自然の生態系がなだらかに形成されるように、接水部分に砕石や土、木を利用した。運河護岸はコンクリート壁を使わず、石積みとしている。ハウステンボスでは親水護岸と呼んでいる。白鳥などの水鳥も、運河から容易に陸部に上がり、営巣している姿が見られる。また、魚類の姿もよく観察できる。

また、運河の海水大村湾の干満の潮位差を利用して入れ替える他、要所要所に設置した水中ポンプで強制循環させて澱ませないように管理している。園内には水処理施設が建設され、ここで汚水や排水を高度浄水処理し、中水道として草木に散水、または土壌浸透させて、自然に運河に戻すという方法をとっている。その徹底した環境への配慮により、大村湾の水質よりもハウステンボスから湾に戻される海水のほうが水質が良いと言われている[7]


注釈

  1. ^ 同じ「HTB」を略称に用いている北海道テレビ放送と混同しないように公式ホームページなど対外向けには多用されておらず、ホームページのドメインも「huistenbosch」を取得している。一方で公式Twitterアカウントのユーザー名や関連会社の社名などには「HTB」が用いられている。
  2. ^ オランダ語の「ui」は日本語に類似の発音が無いが、慣用的に「アウ」を用いる。
  3. ^ ただし、ハウステンボス敷地は佐世保市が特別用途区域に設定しており、娯楽施設以外の建設はできない。
  4. ^ 炎は火を3つ重ねた字を使用。
  5. ^ 「Kirara(キララ)」に続く新たなアミューズメント施設として、ニュースタッド地区にある「天星館」を改装して設置。愛知万博の「三井・東芝館」に出展され、CGを使い観客が映画の登場人物になれるもの。
  6. ^ 「オフィシャルホテル1.5DAYパスポート」、「オフィシャルホテル2DAYパスポート」、「オフィシャルホテル3DAYパスポート」、「翌日1DAYパスポート」など。一般に購入できる1DAYパスポートを同じ日数分購入するよりも割安となり、複数日連続のパスポートは基本的に一般向けの発売はない。
  7. ^ ハウステンボス5ホテルのうち、ハウステンボス開業当初から運営されている特に上級である3つのホテル(ホテルヨーロッパ、ホテルアムステルダム、フォレストヴィラ)は「ザ・スリーホテルズ」と呼ばれることもあるが、現在ではハウステンボスの広報等でも用いられることはほとんどなくなっている。
  8. ^ 例えばウェブサイトでの案内だけでも、ご来場ガイド チケット のページでは「ハウステンボス5ホテル・オフィシャルホテル宿泊者専用」とハウステンボス5ホテルの他の2つのみをオフィシャルホテルというように表記されている。
  9. ^ a b c 開業当初は株式会社NHVホテルズインターナショナル(ハウステンボス株式会社の子会社)が、場内の直営ホテル(ホテルヨーロッパ、ホテルアムステルダム、ホテル デンハーグ、フォレストヴィラ)と迎賓館を運営していたが、後にハウステンボス株式会社に合併された。
  10. ^ 2022年3月22日付でエイチ・テイ・ビイ観光株式会社より商号変更。

出典

  1. ^ a b “=長崎オランダ村ハウステンボス= JR九州 玄関駅がオープン”. 交通新聞 (交通新聞社): p. 2. (1992年3月17日) 
  2. ^ 更生会社ハウステンボス株式会社への経営支援に関して管財人と基本合意書を締結することのお知らせ
  3. ^ a b 平成23年9月期 決算について』(プレスリリース)ハウステンボス株式会社http://www.huistenbosch.co.jp/aboutus/pdf/111201_htb21.pdf2020年8月21日閲覧 
  4. ^ 「日本一面積が広い遊園地・テーマパークはどこ?」
  5. ^ a b 池田武邦「聞き書きシリーズ 超高層から茅葺きへ94」 2009年9月25日付『西日本新聞』朝刊
  6. ^ 平成3年長崎県告示第437号
  7. ^ “再発見!ハウステンボス(7)海への汚水ゼロ目指す 上水レベルに浄化”. 長崎新聞 (長崎新聞社). (2009年12月10日). オリジナルの2012年9月3日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/20120903153915/http://www.nagasaki-np.co.jp/press/htb/kikaku18/07.html 
  8. ^ 五十嵐麻理 ゴーストタウンから奇跡のV字回復!「ハウステンボス」【長崎】 | 日本珍スポット100景
  9. ^ 『PHPビジネスレビュー 松下幸之助塾』2011年11・12月号
  10. ^ [1] フリーゾーン(ハーバータウン・フォレストヴィラエリア) 2015年6月27日閲覧
  11. ^ ハウステンボス、中国企業の出資受け入れ撤回”. 朝日新聞 (2019年2月13日). 2019年3月5日閲覧。
  12. ^ HIS、ハウステンボス666億円で売却へ 財務基盤の強化急ぐ 1億円減資も”. トラベルジャーナル (2019年2月13日). 2022年9月5日閲覧。
  13. ^ a b c https://www.huistenbosch.co.jp/group/htb-learning/SDGs.html
  14. ^ a b 長崎ハウステンボス滞在ウラ話”.Legend Of MOONWALK
  15. ^ ハウステンボスが会社更生法申請”. 長崎新聞 (2003年2月27日). 2020年7月12日閲覧。
  16. ^ ハウステンボスでマイケルさん追悼ダンス集会”. 日本経済新聞 (2010年5月31日). 2021年7月9日閲覧。
  17. ^ ハウステンボス歌劇団の新体制について|ハウステンボス株式会社のプレスリリース” (2015年12月24日). 2016年2月29日閲覧。
  18. ^ 2014年1月9日中日新聞朝刊31面
  19. ^ “HTB歌劇学院1期生入学”. 長崎新聞 (長崎新聞社). (2014年5月13日). オリジナルの2014年5月13日時点におけるアーカイブ。. https://archive.is/20140513044935/http://www.nagasaki-np.co.jp/news/kennaitopix/2014/05/13091312013345.shtml 
  20. ^ “ハウステンボス、無人島取得…テーマパーク建設”. 読売新聞. (2016年1月19日). https://web.archive.org/web/20160119100028/http://www.yomiuri.co.jp/economy/20160119-OYT1T50085.html 2016年1月19日閲覧。 
  21. ^ 宙づり 250メートル滑降 HTBに新アトラクション”. 西日本新聞ニュース. 2020年8月29日閲覧。
  22. ^ ハウステンボス、無人島に新アトラクション 恐竜と対決『朝日新聞』朝刊2018年2月3日(経済面)
  23. ^ 非日常の世界に酔いしれる!ハウステンボスの「仮面舞踏会」 - STRAIGHT PRESS[ストレートプレス]
  24. ^ 長崎ハウステンボス「100万本の大チューリップ祭」、夜はイルミネーションも|財経新聞
  25. ^ ハウステンボス美術館でミュシャ展!世界最多数500点を展示 ストレートプレス
  26. ^ a b 加藤勝利、原口晋也 (2020年5月16日). “ハウステンボスが開園「しても赤字」 県内限定の観光地”. 朝日新聞. https://www.asahi.com/articles/ASN5J74GHN5JTIPE010.html 2020年8月21日閲覧。 
  27. ^ 光のファンタジアシティ”. ハウステンボスリゾート. 2021年5月11日閲覧。
  28. ^ エイチ・アイ・エスなど株主がハウステンボスを1000億円で売却”. NHK (2022年8月30日). 2022年8月30日閲覧。
  29. ^ 日本放送協会 (2023年4月17日). “ハウステンボス園内の船から転落 意識不明だった乗客死亡 長崎 | NHK”. NHKニュース. 2023年6月23日閲覧。
  30. ^ ホテルヨーロッパ | ハウステンボス公式ホテル”. 2022年5月8日閲覧。
  31. ^ “ハウステンボス、ロボット接客のローコストホテル開業、15年7月に”. Travelvision. (2014年11月30日). http://www.travelvision.jp/news-jpn/detail.php?id=64682 2015年2月3日閲覧。 
  32. ^ “「変なホテル」で楽しむ近未来 ハウステンボス、名称決定”. 産経新聞. (2015年2月3日). オリジナルの2015年2月3日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20150203011545/http://www.sankei.com/region/news/150203/rgn1502030015-n1.html 2015年2月3日閲覧。 
  33. ^ JR九州ハウステンボスホテル、「オークラ」に加盟”. 日本経済新聞社. 2022年5月8日閲覧。
  34. ^ 長崎バスホテルズ”. 長崎バスホテルズ株式会社. 2022年5月8日閲覧。
  35. ^ 第三者割当増資実施に関するお知らせ - ギャガ 2016年7月29日(2016年8月2日閲覧)






固有名詞の分類


英和和英テキスト翻訳>> Weblio翻訳
英語⇒日本語日本語⇒英語
  

辞書ショートカット

すべての辞書の索引

「ハウステンボス」の関連用語

ハウステンボスのお隣キーワード
検索ランキング

   

英語⇒日本語
日本語⇒英語
   



ハウステンボスのページの著作権
Weblio 辞書 情報提供元は 参加元一覧 にて確認できます。

   
ウィキペディアウィキペディア
All text is available under the terms of the GNU Free Documentation License.
この記事は、ウィキペディアのハウステンボス (改訂履歴)の記事を複製、再配布したものにあたり、GNU Free Documentation Licenseというライセンスの下で提供されています。 Weblio辞書に掲載されているウィキペディアの記事も、全てGNU Free Documentation Licenseの元に提供されております。

©2024 GRAS Group, Inc.RSS