ニホンザル 生態

ニホンザル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/13 05:37 UTC 版)

生態

常緑広葉樹林落葉広葉樹林に生息する[4]。地表でも樹上でも活動する[4]昼行性だが[4]、積雪地帯では吹雪の時は日中でも活動しない[7]。群れは1 - 80平方キロメートルの行動圏内で生活する[8]。行動圏は常緑広葉樹林では狭く落葉広葉樹林内では広くなる傾向があり[4][8]、照葉樹林では1頭あたり1.4 - 6.4ヘクタールだが落葉樹林では1頭あたり9 - 79ヘクタール[5]。複数の異性が含まれる十数頭から100頭以上の群れ(亜種ヤクシマザルはほぼ50頭以下)を形成して生活する[4]。群れは母系集団で、オスは生後3 - 8年で産まれた群れから独立し近くにある別の群れに入ったり遠距離移動を行うと推定されている[5]。他の群れとの関係は地域変異があると推定されており、例として屋久島の個体群は群れの間で優劣関係があり群れ同士が遭遇すると争うが、白山の個体群は群れ同士が避けあい時に混ざることもあるという報告例がある[7]

主に果実を食べるが、植物の葉、種子キノコ、卵、昆虫なども食べる[5]。京都府の嵐山では、192種の食物を食べていたという報告例がある[5][7]。亜種ヤクシマザルは、カエルトカゲも食べた例もある[5]。下北半島の個体群は食物が少ない時期に樹皮、海藻貝類なども食べる。春季は花や若葉、夏季は漿果、春季から冬季にかけては果実や種子を食べる[7]長野県松本市上高地では、冬季に魚類を日常的に食べている[11]。 哺乳類としては比較的大型で動きの機敏な本種に天敵は少ないが、捕食者としてクマタカが挙げられる[12]。また、絶滅したニホンオオカミも本種を捕食対象としていた。

肉食の報告例として2015年には北アルプスライチョウの幼鳥を捕食している姿が観察されている[13]

繁殖様式は胎生。主に秋季から冬季にかけて交尾を行う[5][4][7]。妊娠期間は161 - 186日[7]。この時期以外にメスが発情期に発情することは少なく、月経もまれ(月経があっても無排卵月経[5]。春季から夏季に1回に1頭(まれに2頭)の幼獣を1回産む[4]。出産間隔は2 - 3年だが[4]、栄養状態によってはより長くなることもある[8]。授乳期間は11 - 18か月[7]。メスは生後5 - 7年で性成熟する[4][8]。野生下での寿命は主に25年以下(幼獣の死亡率が高い)だが[4]、一方で餌付けされた個体群では30年以上の生存が推定されている個体や生後26年で出産した例もある[7]

文化的行動

幸島の個体群では、餌のサツマイモを海水で洗って食べる行動が報告されている[5][8]。群れの他のものにもそれをまねするものが現れた。海水でサツマイモなどの砂を洗い落として塩味をつける「イモ洗い行動」、砂浜にまかれた麦粒を海中に投じて選別する「砂金採集行動」が関心を呼んだ[14]。比較的若い個体がこうした行為を行い、成長しその個体と血縁関係がある個体を中心に同様の行動を行う傾向がある[5]。一方でこうした行動が「模倣による伝搬」なのか「他の個体の行為を見て刺激を受け、試行錯誤し結果的に同じ行動を行う」のか慎重に検討すべきだとする意見もある[5]

幸島のサルが魚を食べた事例は、1980年代以前に関しては餌として蒔かれたものが4回、浜に打ち上げられたものを取って食べたのが2回と記録されている[15]。しかし生きている魚を捕まえて食べてはいない[15]


注釈

  1. ^ 高崎山については「高崎山のサル」(伊谷純一郎 1954, ISBN 9784062919777 )を参照。
  2. ^ 南方は『南方随筆』の中で旧・和歌山県龍神村で見た例を挙げている[31]

出典

  1. ^ Appendices I, II and III (valid from 26 November 2019)<https://cites.org/eng> (downroad 15/04/2020)
  2. ^ a b UNEP (2020). Macaca fuscata. The Species+ Website. Nairobi, Kenya. Compiled by UNEP-WCMC, Cambridge, UK. Available at: www.speciesplus.net. (downroad 15/04/2020)
  3. ^ a b c Watanabe, K. & Tokita, K. 2008. Macaca fuscata. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T12552A3355997. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T12552A3355997.en. Downloaded on 15 April 2020.
    Watanabe, K. 2008. Macaca fuscata fuscata. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T39909A10282194. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T39909A10282194.en. Downloaded on 15 April 2020.
    Watanabe, K. 2008. Macaca fuscata yakui. The IUCN Red List of Threatened Species 2008: e.T12565A3360100. https://doi.org/10.2305/IUCN.UK.2008.RLTS.T12565A3360100.en. Downloaded on 15 April 2020.
  4. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 石井信夫 「ニホンザル」『日本の哺乳類【改訂2版】』阿部永監修、東海大学出版会、2008年、66-67頁。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q r s t u v w x y z aa ab ac ad ae af ag ah 相見満、高畑由起夫「シリーズ 日本の哺乳類 各論編 日本の哺乳類18 ニホンザル」『哺乳類科学』第33巻 2号、日本哺乳類学会、1994年、141-157頁。
  6. ^ a b c d e f g h i 岩本光雄「サルの分類名(その1:マカク)」『霊長類研究』第1巻 1号、日本霊長類学会、1987年、45-54頁。
  7. ^ a b c d e f g h i j k l m 上原重男 「ニホンザル」『動物大百科 3 霊長類』伊谷純一郎監修 D.W.マクドナルド編、平凡社、1986年、98-105頁。
  8. ^ a b c d e f g h i j k l m n o p q 渡邊邦夫 「ニホンザル」『動物世界遺産 レッド・データ・アニマルズ1 ユーラシア、北アメリカ』小原秀雄・浦本昌紀・太田英利・松井正文編著、講談社、2000年、139頁。
  9. ^ a b c d e f 加藤陸奥雄、沼田眞、渡辺景隆、畑正憲監修 『日本の天然記念物』、講談社、1995年、716-720頁。
  10. ^ a b c 相見満「最古のニホンザル化石」『哺乳類科学』第18巻 2号、日本哺乳類学会、2002年、239-245頁。
  11. ^ サルが魚食、写真公開 上高地、信大など研究班 共同通信”. 2022年1月20日閲覧。
  12. ^ 飯田知彦「クマタカによるニホンザルの捕食」『日本鳥学会誌』第47巻第3号、日本鳥学会、1999年、125-127頁、doi:10.3838/jjo.47.125ISSN 0913400XNAID 10002156117 
  13. ^ “ニホンザル、ライチョウ捕食の瞬間 研究者が初めて確認”. 朝日新聞デジタル. (2015年8月31日). オリジナルの2016年5月6日時点におけるアーカイブ。. https://web.archive.org/web/20160506053807/http://www.asahi.com/articles/ASH804WG7H80UOOB00F.html 2015年9月1日閲覧。 [出典無効][リンク切れ]
  14. ^ 相見満、高畑由起夫「シリーズ 日本の哺乳類 各論編 日本の哺乳類18 ニホンザル」『哺乳類科学』第33巻 2号、日本哺乳類学会、1994年、p.149
  15. ^ a b 島泰三『魚食の人類史 出アフリカから日本列島へ』NHK出版、2020年、pp.21 - 22(渡邊邦夫の"Fish:A new addition to the diet of Koshima monkeys"『Folima Primatol』vol.52、1989年、pp.124-131からの引用)
  16. ^ 和田一雄「ニホンザルの餌付け論序説—志賀高原地獄谷野猿公苑を中心に」(PDF)『哺乳類科学』第29巻第1号、日本哺乳類学会、1989年、1-16頁。 
  17. ^ 野生鳥獣による農作物被害の推移(鳥獣種類別)”. 農林水産省. 2021年11月3日閲覧。
  18. ^ 野生鳥獣による農作物被害状況(令和元年度)”. 農林水産省. 2021年11月3日閲覧。
  19. ^ 兵庫県におけるニホンザル地域個体群の管理手法)”. 兵庫県森林動物研究センター. 2021年11月3日閲覧。
  20. ^ ニホンザル(H群)の全頭捕獲について”. 神奈川県小田原市. 2021年11月3日閲覧。
  21. ^ 川本芳、白井啓、荒木伸一、前野恭子 「和歌山県におけるニホンザルとタイワンザルの混血の事例」『霊長類研究』第15巻 1号、日本霊長類学会、1999年、53-59頁。
  22. ^ 川本芳、川本咲江、川合静 「下北半島におけるタイワンザルとニホンザルの交雑」『霊長類研究』第21巻 1号、日本霊長類学会、2005年、11-18頁。
  23. ^ a b 川本芳・萩原光・相澤敬吾 「房総半島におけるニホンザルとアカゲザルの交雑」『霊長類研究』第20巻 2号、日本霊長類学会、2004年、89-95頁。
  24. ^ 川本芳、川本咲江、濱田穣、山川央、直井洋司、萩原光、白鳥大祐、白井啓、杉浦義文、郷康広、辰本将司、栫裕永、羽山伸一、丸橋珠樹「千葉県房総半島の高宕山自然動物園でのアカゲザル交雑と天然記念物指定地域への交雑拡大の懸念」『霊長類研究』第33巻 2号、日本霊長類学会、2017年、67-67頁。
  25. ^ a b c d e f g h i 石井信夫 「北奥羽・北上山系のホンドザル」「金華山のホンドザル」『レッドデータブック2014 -日本の絶滅のおそれのある野生動物-1 哺乳類』環境省自然環境局野生生物課希少種保全推進室編、株式会社ぎょうせい2014年、103-105頁。
  26. ^ 特定動物リスト (動物の愛護と適切な管理)環境省・2020年4月15日に利用)
  27. ^ 「ボス猿」の呼称やめて「αオス」に 大分・高崎山 2004年2月17日 朝日新聞。[出典無効]
  28. ^ 新デザインの普通切手の発行”. 2023年1月31日閲覧。
  29. ^ a b c d e 南方熊楠. “十二支考 猴に関する伝説”. 青空文庫. 2019年3月18日閲覧。
  30. ^ 『広辞苑 第5版』 岩波書店。「得手」
  31. ^ 南方随筆 - 国立国会図書館デジタルコレクション
  32. ^ a b c d e f g h 中村禎里『日本動物民俗誌』 海鳴社、1987年。 9-14ページ
  33. ^ 『広辞苑 第5版』 岩波書店。「猿回し」
  34. ^ 中村民彦. “東北地方の厩猿信仰”. 2015年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月18日閲覧。, 中村民彦. “牛馬の守護神 -厩猿信仰-”. 2015年5月7日時点のオリジナルよりアーカイブ。2019年3月18日閲覧。
  35. ^ a b c 柳田國男『山島民譚集』 1914年。






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