ナシ 食用

ナシ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/27 20:45 UTC 版)

食用

小切りされたナシ

ナシの主な利用法は食用で、調理加工に不向きな特性があるのでほぼ生食に限られる。旬の時期は、和梨が9 - 10月ごろ、洋梨は10 - 12月ごろとされる[7]。一般的なナシの剥き方はリンゴに類似したもので、縦に8等分などして、皮を剥き中心部を取り除く方法である。また、シロップ漬けの缶詰にも利用されるが、ナシ単独の缶詰が売られていたり、それを食したりすることは稀であり、他の果物と混ぜてミックスフルーツとして販売・食用とされることが多い。シャリシャリとした独特の食感があり、これはリグニンやペントサンなど「石細胞」によりもたらされる[5]。この細胞は、食物繊維と同じ働きがあり、整腸作用がある[5]。なめらかな食感を持つ洋梨とは対照的であり、英語では、洋梨をバターペア(バターの梨)、日本梨をサンドペアー(砂の梨)と呼ぶ[5]

加工品としては清涼飲料水や、ゼリータルトなどの洋菓子に利用されているが、洋梨と比べるとそれらを見かける機会は少ない。料理に用いられることは冷麺の具として用いる以外ほぼないが、産地などでは梨カレーなどといったレシピも開発されている[59]

特性

ナシはポリフェノール系化合物による褐変を起こしやすい食材であり、食塩水につけるなどの方法がとられる[60]。フルーツサラダに加える場合は食塩水に代えて他の果物の缶詰内にある果汁を使用することもできる[60]

ナシはタンパク質分解酵素を持っているため、生の状態ですり下ろしたものを焼肉プルコギなどの漬け込みだれとして利用するレシピがある。

酒類

一大産地の千葉県鎌ケ谷市、白井市では1980年代末に梨ワイン、梨ブランデーを商品化した。このほか、千葉県いすみ市、埼玉県久喜市、秋田県男鹿市でも梨ワインが生産されている[注 2]

洋梨は、果実酒ペアサイダー)、蒸留酒ブランデー)などに利用されているが、和なしでの梨ワイン、梨ブランデーの生産は、現在、日本のみである。

2010年代より、二十世紀梨の産地である鳥取県や隣接する兵庫県但馬地方において、「梨のスパークリングワイン」の名称で和梨のシードル(ペアサイダー)も商品化されている[1][2]。千葉県鎌ケ谷市でも2012年から、豊水を原料とするスパークリングワインが商品化された(1980年代末から商品化されている梨ワインの原料は幸水)[3]

和梨および洋梨の発泡酒は、酒税法第3条によると、発泡性酒類のその他の発泡性酒類に分類される。

成分・栄養価

日本なし 生[61]
100 gあたりの栄養価
エネルギー 180 kJ (43 kcal)
11.3 g
デンプン 正確性注意 8.3 g
食物繊維 0.9 g
0.1 g
飽和脂肪酸 (0.01) g
一価不飽和 (0.02) g
多価不飽和 (0.02) g
0.3 g
ビタミン
チアミン (B1)
(2%)
0.02 mg
ナイアシン (B3)
(1%)
0.2 mg
パントテン酸 (B5)
(3%)
0.14 mg
ビタミンB6
(2%)
0.02 mg
葉酸 (B9)
(2%)
6 µg
ビタミンC
(4%)
3 mg
ビタミンE
(1%)
0.1 mg
ミネラル
カリウム
(3%)
140 mg
カルシウム
(0%)
2 mg
マグネシウム
(1%)
5 mg
リン
(2%)
11 mg
亜鉛
(1%)
0.1 mg
(3%)
0.06 mg
他の成分
水分 88.0 g
水溶性食物繊維 0.2 g
不溶性食物繊維 0.7 g
ビオチン(B7 0.5 µg

ビタミンEはα─トコフェロールのみを示した[62]。廃棄部位: 果皮及び果しん部
%はアメリカ合衆国における
成人栄養摂取目標 (RDIの割合。

糖度は11 - 14%程度で、糖分としてはショ糖果糖ソルビトールブドウ糖(多い順)を含む。酸度は0.1%程度で、リンゴ酸クエン酸などである[7]

和梨・洋梨ともに果物としてはビタミンをほとんど含まず、栄養学的な価値は高くない。果物の多くがそうであるように、ナシのほとんどは水分で可食部100 gあたり88 g含まれる。食物繊維は可食部100 gあたり0.9 g含まれる。カリウム(可食部100 gあたり140 mg)は、血液中のナトリウムイオンの増加を防ぎ、高血圧予防に良い[7]ソルビトールは甘く冷涼感のある糖アルコールで、便秘の予防に効果がある[7]。洋なしではこれによって追熟が起きる。アスパラギン酸アミノ酸の一種で、疲労回復効果がある。タンパク質分解酵素プロテアーゼの働きで消化を助けたり、肉料理において肉を柔らかくしたりする効果がある。


注釈

  1. ^ また、天の川に長十郎ではなく今村秋を掛け合わせたと考えられていたのが原因で、それぞれの品種の原産地である新潟県(天の川)と高知県(今村秋)の頭文字を取ったという俗説がある。
  2. ^ ただし、ワインとは厳密にはブドウから作られた酒のみを表す。正確には、和梨のシードル (: cidre) 、ペアサイダー (: pear cider) 、ペリー (: perry) 、スパークリングペリー(梨のスパークリングワイン)、和梨の発泡酒、ポワレ(: poiré)などと呼ぶのが適切である。

出典

  1. ^ Potter, D.; Eriksson, T.; Evans, R.C.; Oh, S.H.; Smedmark, J.E.E.; Morgan, D.R.; Kerr, M.; Robertson, K.R.; Arsenault, M.P.; Dickinson, T.A.; Campbell, C.S. (2007), “Phylogeny and classification of Rosaceae”, Plant Systematics and Evolution 266 (1–2): 5–43, doi:10.1007/s00606-007-0539-9, http://biology.umaine.edu/Amelanchier/Rosaceae_2007.pdf 
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Pyrus pyrifolia (Burm.f.) Nakai var. culta (Makino) Nakai ナシ(狭義)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年1月27日閲覧。
  3. ^ a b c d e 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 201.
  4. ^ a b c 辻井達一 1995, p. 198.
  5. ^ a b c d e ゼクシィキッチン. “梨にしかないシャリシャリ食感の秘密は?”. 2019年5月12日閲覧。
  6. ^ 有の実って何?忌み言葉色々”. 2021年3月21日閲覧。
  7. ^ a b c d e f g h i j k 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 200.
  8. ^ 卷第卅 七年(中略)丙午勅詔令天下勸殖桑苧梨栗蕪菁等草木以助五穀
  9. ^ 和漢三才図会 巻第八十七 梨”. 国立国会図書館 近代デジタルライブラリー. 2015年5月15日閲覧。
  10. ^ 鈴木晋一 『たべもの史話』 小学館ライブラリー、1999年、pp50-54
  11. ^ https://www.lalanet.gr.jp/sp/search/searchdtl.aspx?knd=6&ht=7&pageSiz=0&pageNum=0&&stdycd=16715
  12. ^ a b c d “秋の味覚「梨」品種ごとに違う味や旬の時期を知ろう”. ウェザーニュース. (2020年9月26日) 
  13. ^ フジテレビトリビア普及委員会『トリビアの泉〜へぇの本〜 2』講談社、2003年。 
  14. ^ 二十世紀(にじっせいき Nijisseiki) | 鳥取二十世紀梨記念館 なしっこ館”. なしっこ館. 2020年9月28日閲覧。
  15. ^ a b 松戸が二十世紀梨発祥の地です まつどの観光・魅力・文化 松戸市、2017年6月10日閲覧
  16. ^ a b 梨|旬鮮図鑑 千葉県、2017年6月10日閲覧
  17. ^ 二十世紀梨の原木【松戸市指定有形文化財】”. 松戸市観光協会. 2022年1月9日閲覧。
  18. ^ 二十世紀梨誕生の地 【松戸市指定文化財】”. 松戸市観光協会. 2022年1月9日閲覧。
  19. ^ 神奈川県園芸試験場桃季会:「桃季の郷に集う」創立10周年記念誌
  20. ^ a b c d 信州伊那谷生まれの梨、南水物語”. JA長野県. 2021年2月20日閲覧。
  21. ^ NPO法人かわさき歴史ガイド協会. “長十郎梨のふるさと” (pdf) (日本語). 2015年11月6日閲覧。
  22. ^ 埼玉ブランドの梨「彩玉(さいぎょく)」”. 埼玉県. 2020年8月29日閲覧。
  23. ^ 品種登録ホームページ 新甘泉 農林水産省生産局知的財産課
  24. ^ にっこり 農林水産省品種データベース、2021年2月20日閲覧
  25. ^ a b c d にっこり(梨)”. カラダにとちぎ. 一般社団法人とちぎ農産物マーケティング協会. 2017年4月29日閲覧。
  26. ^ 農産物のブランド化に対する行政の取り組み 宇都宮大学国際学部中村祐司研究室
  27. ^ いばらきの農林水産物 梨”. 茨城県営業戦略部販売流通課. 2018年11月21日閲覧。
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  29. ^ 秋麗(しゅうれい)』(プレスリリース)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構https://www.naro.go.jp/collab/breed/0400/0415/001277.html2022年8月30日閲覧 
  30. ^ “見かけ覆す驚きの甘さ 熊本の梨「秋麗」”. 西日本新聞 (西日本新聞社). (2017年8月12日). https://www.nishinippon.co.jp/item/n/350452/ 2022年8月30日閲覧。 
  31. ^ 作況調査(果樹):農林水産省”. www.maff.go.jp. 2020年11月3日閲覧。
  32. ^ 教えてちばの恵み 旬鮮図鑑 梨 千葉県、2021年11月27日閲覧
  33. ^ 白井市 しろいの梨
  34. ^ 市川市 農水産業 市川のなしについて
  35. ^ 鎌ケ谷市 特産物 鎌ヶ谷の梨
  36. ^ 船橋のなし情報サイト
  37. ^ 松戸市 観光梨園(梨もぎ)
  38. ^ 柏市の梨直売所情報
  39. ^ まいぷれ八千代市 八千代市の梨のすべて
  40. ^ 市原市 特産品の概要 梨
  41. ^ 香取市 カトリノ郷物語vol.16 水郷梨
  42. ^ JAいすみ 梨
  43. ^ JA長生 とれたて彩菜 長生ブランド
  44. ^ 東京新聞 梨の出荷始まる 筑西のJA選果場
  45. ^ 茨城をたべよう
  46. ^ 宇都宮市 特産物のご案内 梨
  47. ^ ふくしま新発売。ふくしまの日本ナシ
  48. ^ 一般社団法人 福島市公設地方卸売市場協会 ナシ(梨)
  49. ^ 利府梨のルーツ 利府町観光協会、2022年2月27日閲覧
  50. ^ 石川遥一朗 (2020年8月24日). “日野藤吉”. https://kahoku.news/articles/20200824kho000000103000c.html 2022年2月27日閲覧。 
  51. ^ 食の都庄内 刈屋梨
  52. ^ 越中とやま食の王国 富山食ブランド 呉羽梨
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  55. ^ 生協ひろしま 世羅 幸水梨・豊水梨
  56. ^ 道の駅 伊万里ふるさと村
  57. ^ 荒尾梨でおもてなしMAP
  58. ^ 四季を通して日田の梨
  59. ^ 梨 とれたてクッキング JA全農とっとり、2021年11月27日閲覧
  60. ^ a b 第3章 調理室における衛生管理&調理技術マニュアル”. 文部科学省. 2020年6月5日閲覧。
  61. ^ 文部科学省 「日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  62. ^ 厚生労働省 「日本人の食事摂取基準(2015年版)
  63. ^ 歌舞伎事典:梨園”. 文化デジタルライブラリー. 2021年2月20日閲覧。
  64. ^ 梨の礫”. コトバンク. 2021年2月20日閲覧。






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