ドライスーツ ドライスーツの概要

ドライスーツ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/02/22 03:59 UTC 版)

汚染水域等での潜水時に着用される、加硫ゴム生地を用いたフード一体型のシェルドライスーツ

概説

着用者の身体が外部の水に触れることがないため、気温や水温が低い時期や、汚染された水域での着用に適している。型は全身一体のワンピース型で、特に潜水用のものではブーツ、時にはフードやグローブまでもが一体となっている。生地の接合部は各種の方法で水密に仕上げる。身体とスーツの間に何らかのアンダーウェアや専用インナーを着用することが多いため、ウエットスーツよりもルーズフィットに仕立てる場合が多い。

着脱は防水ファスナー等の水密構造を有する開口部を通じて行い、さらに柔らかいゴムでできた防水性シールにより首、手首、足首からの水の浸入を防いでいる。スクーバダイビングに用いられるドライスーツは、レギュレータから供給された空気を、スーツに設けたバルブから内部に送り込むことで、水圧下での締め付け(スーツスクイズ)を回避するとともに、浮力の調整ができるようになっている。逆に言えば、スーツ内に空気を送り込むことができないスキンダイビングでは、スーツスクイズの問題を解決できず、また潜行するにしたがって浮力が失われ、最悪の場合浮上が不可能になることから、スキンダイビングでドライスーツを着用することはできない。

ヘルメット潜水で使用される潜水服も、ドライスーツの一種である。 なお、セミドライスーツと呼ばれる保護スーツもあるが、これはドライスーツというよりもウェットスーツの一形態である。詳しくは、当該記事参照。

形態

ドライスーツは、以下の2種に大別される。

ネオプレンスーツ

ウェットスーツに用いられるのと同様の発泡クロロプレン生地[1]を用い、身体に対し比較的タイトフィットに仕立てたスーツである(ルーズフィットに仕立てることも不可能ではないが、この場合、ネオプレンスーツとシェルスーツ、両者の欠点を併せ持つスーツになってしまう)。生地がある程度の保温性を有するためアンダーウェアは必要ないか、薄いものでよく、また、内部に水が浸入してしまった場合(俗に水没という)でも、セミドライスーツ同等の保温性が確保できる。反面、タイトフィットに仕立てる関係上あまり厚いアンダーウェアを着用することは不可能であるため、あまりに冷たい水中での使用には制約があり、また保温性を落とすことはできないため、水温が高い場合の使用には向いていない。発泡ネオプレン固有の欠点として、生地の中に気泡を有するため周囲の水圧により保温性が変化し、またピンホールが生じやすく耐久性に劣る欠点がある。タイトフィットなため、水中での運動性に優れる利点があるが、反面陸上での運動性は制約される。日本国内で流通するドライスーツの大多数がこの素材・形状である。エントリーモデルでは6~8万円程度、フルオーダーの上位品で20万円超というのが2012年時点での価格である。 [2]

シェルスーツ

生地に防水性の布地を用い、身体に対し比較的ルーズフィットに仕立てたスーツである。生地自体の保温性はほとんどなく、別途スキーウェア状のインナーウェアを着用して必要な保温性を確保する。インナーウェアの選択次第で、アイスダイビング等の極寒環境から、水温が高い場合[3]まで対応できる。ルーズフィットのため、水中での運動性はネオプレンスーツと比較するとやや劣ると言う説もあるが、陸上での運動性は一般に優れる。また、生地の伸縮性は必須ではないため、強度や耐久性に優れた素材を使用でき、さらに水圧による保温性や浮力の変化がない利点がある。ネオプレンスーツとの最大の違いは、重量と容積である。価格はネオプレンとさほど変わらず、むしろ流通量が少ない分、メーカー在庫等も少なく、納期に時間がかかる場合がある。

また、この保温用インナーウェアは、ドライスーツ専用の製品だけでなく、日常にある普段着から選ぶこともできる。
その場合、一般的には、着用時に密封によってスーツと体表の間の空間の湿度が100%となるため、汗を吸わないポリエステルのフリースやウールのセーター、吸湿速乾性に優れる各種化学繊維で作られたスポーツウェアの長袖シャツや長タイツ等を複数枚重ね着することが推奨されている。汗を吸収する綿衣類を中心にインナーウェアを準備した場合、綿が汗を吸うことによって薄手のスーツを通じて海中の低温が容易に体表に届いてしまうようになるため、保温効果に劣るとされるからだが、各人の好みによってはこの限りではない。加えて、これらのインナーウェアは、フードやボタン、クリップ、ジッパー、留め金などの潜水時にスーツ内で破損の原因に成り得る装飾がないものが望ましい。

ネオプレンスーツ、シェルスーツそれぞれの利点を活かした、ネオプレンスーツの下半身と、シェルスーツの上半身を組み合わせた製品もある(現在ではない)。日本では、スクーバダイビング用としてはネオプレンスーツが圧倒的に多く使われているが、欧米、特に米国ではシェルスーツが使用される場合も多い。 スクーバダイビング以外の用途には、ネオプレンスーツが使われる場合とシェルスーツが使われる場合がある。例えばサーフィンではネオプレンスーツが主として使われ、セーリング水上オートバイウェイクボード、水面レスキュー活動などではシェルスーツが使われる場合が多い。水上での活動に使われる場合、水圧の影響がないため潜水用スーツよりも簡易な構造で十分な浸水防止が可能であり、潜水用としてはセミドライスーツとして扱われる程度の構造のものもドライスーツとして扱われている。

素材

ネオプレンスーツ用の素材

発泡クロロプレンゴム

ウェットスーツに用いるものと同様の生地である。ドライスーツ用としては、ピンホールの発生を極力避けるため、比較的硬いグレードが選択される。低水温での着用が前提となることから、ウェットスーツの場合と比較して裂けの発生は深刻な問題であり、強度面で劣るスキン地は使用できない。外面はジャージタイプ、内面はジャージまたは起毛タイプのものを用いことがほとんどである。

ラジアルコーティング

発泡クロロプレンゴム生地の外面に、(気泡を含まない)ゴムなどの非吸水性素材をコーティングしたものである。内面は通常のクロロプレン生地と同様である。表面の吸水性が非常に低いため、汚染物質の除去が容易なこと、浮上後気化熱により冷やされることがないこと等の利点があり、日本のコマーシャルダイビングにおいては主流の素材になっている。通常の発泡クロロプレン生地と比較すると若干伸縮性すなわち運動性に劣ること、また生地が重くなることが欠点として挙げられる。

シェルスーツ用の素材

圧縮ネオプレン

硬度の高い発泡クロロプレン生地であり、また内部の気泡の圧力を高めている。通常の発泡ネオプレンの欠点である、圧力による体積変化と、それに伴う浮力、保温性の変化を抑制した素材であるが、反面伸縮性が犠牲になっているため、これを用いたスーツはあまりタイトフィットにできず、シェルスーツ用の素材である。

バイラミネート

ゴム、プラスチック等の防水性フイルムの片面に、繊維質の布帛を貼り合わせた素材である。軽量なスーツを製造できるが、強度面では他の素材と比べ劣る。

トリラミネート

ゴム、プラスチック等の防水性フイルムの両面に、ナイロン、ポリエステル等の繊維質布帛を貼り合わせた素材である。防水層が外部に露出していないため、防水層の損傷による浸水が発生しにくく、また強度面でも優れるなど特性のバランスが取れていることから、レクリエーショナルダイビング用シェルスーツの高級モデルには、この素材を使用したスーツが多い。

加硫ゴム

ポリエステル織物などの基材に、天然ゴム/EPDMゴムブレンド、水素添加ニトリルゴム等のエラストマーをコーティングした素材である。近代的な加硫ゴム製ドライスーツは、この素材の生地を未加硫の状態で一体に接合した後、金属製のマネキンに被せ、大きな加硫釜に入れて熱加硫することで製造される。この工法によれば、部材が完全に接合するので、防水性や防水信頼性に非常に優れたドライスーツができあがる。表面の吸水性が非常に低いため(実質的にゼロ)、汚染物質の除去が容易であり、素材に吸収された水分の気化熱による浮上後の体温損失がない。また、ピンホールの修理をタイヤチューブのパンク修理同様の方法で容易かつ迅速に行うことができる。これらの利点により、欧米のコマーシャルダイビングや、南極等極寒地[4]でのダイビングにおいては主流の素材となっている。生地が重く嵩張ること、また製造に使用するマネキンをサイズ毎に準備する必要があることから小刻みなサイズ設定ができないことが欠点である。 ヘルメット潜水に用いられる伝統的な潜水服もこの素材でできているが、上記とは異なり、生地の状態であらかじめ加硫した部材を接着剤で接合することで製作される。表面の吸水性が低い等の特徴は同じであるが、防水信頼性の点では上記の方法で製作されたものと比較すると劣る。

防水透湿生地

ゴアテックス等の、水蒸気は通すが液体は通さない生地を用いたドライスーツがある。激しい運動をしても蒸れにくい利点があるためヨット、セイルボード、水上オートバイ用等、主として水上での活動になる用途のスーツに用いられることが多い。一方、水中ではその利点を得ることができないばかりか、むしろ徐々に水が内部に浸入することになるため、潜水用のスーツに用いられることは皆無ではないが、まれである。


  1. ^ 素材の一般名はクロロプレンであるが、スーツの形態名としては専らデュポン社の登録商標であるネオプレンの語が用いられ、クロロプレンスーツと呼ばれることはまずない。
  2. ^ 水中でBCDに給気せず、ドライにのみ給気するのであれば、スーツ内部に供給すべき空気の量は素材とは関係ない。 水中での浮力調整はドライスーツでのみ行なうのが正しい方法で、十分に給気することによってダイバーはスクイズ(締め付け)から解放され暖かく過ごすことができる。また、欧米ではネオプレンドライは(国内とは逆に)少数派で、素材による取り扱いやすさの難易度はさほど変化はない。
  3. ^ 汚染水域等では、ウェットスーツで十分対応できる水温の場合でも、汚染からの身体保護を目的にドライスーツを着用する場合がある。
  4. ^ 気温が0℃付近以下の環境では、表面に吸収された水分が短時間で凍結・固化してしまい、その後の運動性を大きく妨げるため、表面に水分を吸収するドライスーツを使用することは勧められない。
  5. ^ シリコンシールも登場している。ゴムアレルギーでも着用できる可能性がある。
  6. ^ http://www.p-valve.com - ウェイバックマシン


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