ドイツ語
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/22 00:25 UTC 版)
方言
ドイツ語の方言は、大きく分けて北部方言(低地ドイツ語:Niederdeutsch)と中部・南部方言(高地ドイツ語:Hochdeutsch)に分けられる。地方分権が他の西欧諸国に比べて遥かに進められているドイツでは方言の公的地位が高く、中には低ザクセン語のように独自の言語として保護されているケースも存在する。とはいえドイツ国内の保護は概ねドイツ語の一方言としての扱いに留まっている感が否めず、これに不満を持つ者と現状を支持する者との間で激しい議論が交わされている。
現在標準ドイツ語と呼ばれるものは、書き言葉としては主にテューリンゲン地方などで話されていた東中部方言(テューリンゲン・オーバーザクセン方言)を基にした言葉で、この特徴をもつルター訳聖書のドイツ語が広まったことによって標準文語の地位を獲得した。このため、「高地ドイツ語(Hochdeutsch)」という言葉は「標準ドイツ語」という意味でも用いられる。ただし、発音に関する標準語の規範は19世紀末になってテオドール・ジープス(de:Theodor Siebs)の「舞台ドイツ語」(de:Bühnendeutsch)を権威として確立され、ジープスが低地ドイツ語の発音に強く傾倒した[4]ため、発音に関しては低地ドイツ語の地域であるハノーファーの都市部の発音が最も標準語に近いと言われている。今日外国語としてドイツ語を学ぶ場合、この標準ドイツ語を学習することになるが、ドイツ本国では完璧な標準ドイツ語を母語とする話者は少なく、どの地域も(たとえテューリンゲン地方やハノーファーであったとしても)ある程度の「訛り」が存在する。
中部・南部方言(高地ドイツ語 Hochdeutsch)
中部・南部方言は、「第二次子音推移」ないし「高地ドイツ語子音推移」と呼ばれる子音変化が起こったが、北部方言では起こらなかったので、子音に規則的な違いが見られる[5]。中・南部方言はさらに中部ドイツ語(Mitteldeutsch)と上部(南部)ドイツ語(Oberdeutsch)に分けられる。
- 高地ドイツ語(Hochdeutsch)
- 中部ドイツ語(Mitteldeutsch)
- 西中部ドイツ語(Westmitteldeutsch)
- 中部フランケン諸語(Mittelfränkisch) - 中部フランク方言、「フランケン語」(フランク語)に分類される。
- モーゼル・フランケン語(Moselfränkisch) - モーゼルフランク方言
- ルクセンブルク語(Lëtzebuergesch)
- リプアーリ語
- ケルン語(Kölsch)
- ジーベンビュルガー・ザクセン語(Siebenbürgersächsisch) - ルーマニア・トランシルヴァニアでトランシルヴァニア・ザクセン人によって話される。「ザクセン」の名があるが、実際には中部フランケン語の系統である。
- モーゼル・フランケン語(Moselfränkisch) - モーゼルフランク方言
- ラインフランケン語(Rheinfränkisch) - ラインフランク方言
- ヘッセン語(Hessisch)
- ロートリンゲンフランケン語(Lothringisch) - ロートリンゲンフランク方言
- プファルツ方言(Pfälzisch)
- 中部フランケン諸語(Mittelfränkisch) - 中部フランク方言、「フランケン語」(フランク語)に分類される。
- 東中部ドイツ語(Ostmitteldeutsch)
- ヴィラモヴィアン語(Wilmesaurisch) - ポーランド南西部のビェルスコ=ビャワ近郊の町ヴィラモヴィツェで話される。
- 西中部ドイツ語(Westmitteldeutsch)
- 上部ドイツ語(Oberdeutsch)
- 上部フランケン諸語(Oberfränkisch) - 上部フランク方言、「フランケン語」に分類される。
- 東フランケン語(Ostfränkisch) - 主にケムニッツ地方、バイエルン州北部にあるウンターフランケン、ミッテルフランケン、オーバーフランケンといった現在のフランケン地方で話される。
- 南フランケン語(Südfränkisch) - 「南ライン・フランケン語」とも呼ばれ、主にプファルツ地方(ライン地方)南東部、バーデン=ヴュルテンベルク州北部にあるハイルブロンフランケン地方、カールスルーエ地方、ラインネッカー地方などで話される。
- ヴュルテンベルク方言(Württembergisch) - ヴュルテンベルク地方を中心に話される。
- バイエルン諸方言(Bairisch)- ミュンヘン - オーストリアドイツ語圏とチロル地方と相互に影響していると指摘される。「バイエルン・オーストリア語」という独立言語として扱うこともある。
- アレマン諸方言(Alemanisch) - シュトゥットガルト - スイスドイツ語圏とアルザス地方と相互に影響していると指摘され、オーストリア西部・フォアアールベルク州などで話される。
- 上部フランケン諸語(Oberfränkisch) - 上部フランク方言、「フランケン語」に分類される。
- イディッシュ語 - アシュケナジム(ユダヤ系のディアスポラ)の言語。
- 中部ドイツ語(Mitteldeutsch)
北部方言(低地ドイツ語 Niederdeutsch)
低地ドイツ語は中部ドイツ語・上部ドイツ語と方言連続体を形成しており、かつては同じ言語と見なされていた。だが今日は第二次子音推移を経ていないことなどを始めとする大きな相違点から、明確に他言語であると考える傾向が強い。また、低地フランク語は他の低地ドイツ語(低ザクセン語、東低地ドイツ語)と比べアングロ・フリジア語群との共通点が少ないことから、低地フランク語を低地ドイツ語に含めず別の言語グループとする場合がある。
- 低地ドイツ語(Niederdeutsch)
- 低ザクセン語(Niedersächsisch) - 「西低地ドイツ語」(Westniederdeutsch)とも呼ぶ。EUから地域言語の地位を得ている。低地フランク語に属するオランダ語との言語連続体に属すると考えられている。
- 東低地ドイツ語(Ostniederdeutsch)
- フォアポンメルン方言(Vorpommersch) - ロストック、シュヴェリーンなどで話される。
- 中部ポンメルン方言(Mittelpommersch)
- 東ポンメルン方言(Ostpommersch)
- マルク・ブランデンブルク方言(Mark-brandenburgisch)
- 低地プロイセン方言(Niederpreußisch) - バルト語派の影響が指摘されている。
- メノナイト低地ドイツ語(Plautdietsch)
- 低地フランク語(Niederfränkisch) - 「低地フランコニア語」、「低地フランケン語」とも呼ばれる。
注釈
出典
- ^ Ethnologue report for language code GER
- ^ en:German language、 Sprachen im Internet - aktuelle Studie
- ^ Europeans and their Languages European Commission Public Opinion 調査期間2005年11-12月、刊行2006年2月、4頁。
- ^ 『言語学大事典セレクション ヨーロッパの言語』 三省堂、1998年、284頁。
- ^ 例えば、 Fausto Cercignani, The Consonants of German: Synchrony and Diachrony. Milano, Cisalpino, 1979. ISBN 978-8820501853.
- ^ ドイツ語語源漫筆 / 渡辺格司著, 大学書林, 1963.2
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