トンネル
出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/18 09:52 UTC 版)
断面・形態
山岳トンネルは多くが馬蹄型又は卵型の開口部を持つ。ニワトリの卵が縦方向の衝撃・圧力に強い構造であるように、このようなアーチを構成することによって山から受ける圧力に耐える構造としている。この種のトンネルが並列したものを特にメガネトンネルと称する。
シールドマシンによって掘削されたトンネルは基本的に断面が真円であるが、シールドマシンの発展に伴い、長方形や馬蹄形などにも掘削できるようになった。道路トンネルの場合、上部に換気路・中央部に道路本体・下部に電気回路や排水路を設ける。
開削トンネルや沈埋トンネルは断面が箱形である。
本坑と先進坑
トンネル掘削の際、本坑と呼ばれる主となるトンネルに並行して、先進坑(先進導坑)と呼ばれる断面積の小さいトンネルを掘削することがある。先進坑は本坑に先行して掘削を行い、工事中は本坑を掘削する際の地質把握や水抜きとして、開通後は緊急時の避難ルート(避難坑)や保守通路として、それぞれ役割を持つ。
在来工法では文字通り「先進」として小断面にて導坑を掘り、それを切り広げて本坑を掘削する。支保を行いながらの掘削で1本(底設導坑:下半部の真中)あるいは2本(側壁導坑:下半部の両壁)の導坑をまず掘削し、その後トンネルの上半部を掘削、導坑の支保を取り除きながらの下半部の掘削となる。
換気装置
前述の通り、特に道路トンネル内部は排気がこもりやすい構造となりがちであることから、道路トンネルの設計においては換気装置の検討が重要となってくる。
トンネル内の換気方法としては、自動車交通により発生する空気の流れ(交通換気)やトンネルそのものを抜ける風(自然風)を利用して換気を行う「自然換気方式」と、何らかの機械設備を用いて強制的に換気を行う「機械換気方式」の2つに大分される[20]。自然換気方式は特別な装置が不要な一方で、適用可能な長さや交通量に制限が生ずる方式であり、一定以上の規模のトンネルにおいては機械換気方式が採用されることが多い。
機械換気方式には、主に以下のような3種類が挙げられる[20]。
- 縦流換気方式
- トンネル天井にジェットファンと呼ばれる大型の送風機をぶら下げたり、送風機の機能を持つ換気口を設けるなどして縦断方向の空気の流れを強制的に作り、トンネルの坑口または中間部から排気を排出すると同時に、外部から直接トンネル内部に新鮮な空気を送り込む方法。
- 交通換気力を有効に活用する方法で、換気ダクトが不要なためトンネル断面を小さくできることから機械換気方式の中ではコスト面で最も有利な方式である。ただし、交通量が少なかったり、逆に交通量が増えすぎて旅行速度が低下すると交通換気力が低下して十分な換気が困難になる。また自然風の変動を受けやすい方式でもある。
- 自動車排出ガス規制の強化に伴い、長大トンネルであっても強力な換気機能を備える必要がなくなりつつあることから、後述の横流換気方式から切り替えられるケースがある。
- 半横換気方式
- トンネルの一部を仕切って「換気ダクト」とし、新鮮な空気をトンネルの坑口などに設けた吸気口から換気ダクトを通じて車道内に一様に供給し、排出ガスを新鮮な空気によって坑口から押し出す方法。
- トンネルポータル(坑口)の上部に天井板を設けて、天井板で区切られたスペースを換気ダクトとすることも多いが、シールドトンネルの場合はデッドスペースとなる道路の下にダクトを通す事が多い。また、鋼製のダクトをトンネル内に配管させるケースもある。
- 新鮮な空気の供給に関しては交通量や自然風に影響されない換気方式であるが、換気ダクトや換気装置を必要とするためコスト面では不利となる。また、換気風は坑口に向かって大きくなるため、適用延長に限界がある。
- 横流換気方式
- 半横換気方式と同様にトンネルの一部を仕切って「換気ダクト」のスペースを設け、さらにこれを「排気ダクト」と「送気ダクト」に分割し、新鮮な空気を送気ダクトを通じて車道内に供給すると共に、排気ダクトを通じて排気ガスを強制的に排出する方法。
- トンネルポータルの上部に天井板を設けて、天井板の上部に隔壁を設けて排気ダクトと送気ダクトとして確保することも多いが、シールドトンネルの場合はデッドスペースとなる道路の下にダクトを通す事が多い。山手トンネル(首都高速道路)でも横流換気方式を採用しているが、シールド工法区間では道路下にダクトを通しており、天井板はついていない[21]。
- 送気用と排気用に換気装置がそれぞれ別に必要となることからコスト面では最も不利な方法であるが、トンネル内の縦断方向に換気風を起こす必要がなく、トンネル延長や交通量、自然風に影響されないため、最も安定した換気方式と言える。
- かつては長大トンネルに多く採用されていたが、天井板が存在することの圧迫感や、ジェットファンの性能向上等もあって近年では少数派になりつつあった。更に2012年12月に笹子トンネル天井板落下事故が発生、老朽化した天井板の危険性が指摘される様になったことから、全国において天井板の撤去、縦流換気方式への転換が進んだ。しかしながら機能的に撤去不能なトンネルや、撤去を見合わせるトンネルも少数ある[注釈 3]。
- なお、海底トンネルなどではこれらの方式を組み合わせた換気方式も見られる。
鉄道トンネルにおいても、走行時に高温の煤煙と蒸気を放出する石炭焚きの蒸気機関車が動力車として使用されていた時代には、トンネル内換気や排煙の誘導が重要な問題となっていた。このため、長大トンネル区間においてはトンネル天井から垂直に地上部まで縦坑を掘って排煙を促進する、トンネル両端の坑口部に強制換気ファンを設置する、列車通過後に遮断幕を下ろして煤煙が後方へ流れにくくする、など、様々な対策が講じられた。
もっとも、それでも勾配区間の長大トンネルでは北陸線柳ヶ瀬トンネル窒息事故のように機関車動輪に空転が発生し列車の運行速度が低下あるいは停止した際にまとわりついた煤煙が原因で乗務員や乗客が窒息する事故が少なからず発生した。
これは特に小断面の長大トンネルを含む区間で積極的に電化工事やトンネルの改築工事、あるいは線路付け替えによる改良工事が実施され、また、ディーゼル機関車の導入が他より優先的に実施される一因となった。なお先に触れた柳ヶ瀬トンネル内での事故により殉職者を出していた敦賀機関区においては、トンネル内における蒸気機関車の排煙の流れを制御し乗務員が窒息する危険性を軽減するための集煙装置と呼ばれる装置が1951年に開発されている。
記録を持つトンネル
最長・最短
- 世界最長のトンネルは、ニューヨーク市へ続く水道トンネル、キャッツキルアケダクトで、全長 147.2 km。[要出典]
- 人間が往来するトンネルとして世界最長のものは、スイスの鉄道トンネル、ゴッタルドベーストンネルで、全長57.1 km
- 世界最長の海底鉄道トンネルは青函トンネルで、全長 53.85 km、海底部長 23.3 km。
- 世界最長の海底道路トンネルは東京湾アクアトンネルで、全長 9.6 km[22]。
- 海底部が世界最長の鉄道トンネルは、英仏海峡トンネルで、全長 50.49 km、海底部長 37.9 km。
- 世界最長の狭軌鉄道の山岳トンネルは、スイスのフェライナトンネルで、全長 19.0 km。
- 日本最長の狭軌鉄道の山岳トンネルは北陸トンネルで、全長 13.87 km。
- 日本最長の連続した地下鉄トンネルは、都営地下鉄大江戸線で、光が丘 - 都庁前 - 大門 - 両国 - 都庁前の全線が該当し、 40.7 km。
- 日本の私鉄で最長の鉄道トンネルは、えちごトキめき鉄道日本海ひすいラインの頸城トンネルで、全長11,353 m。
- 世界最長の道路トンネルは、ノルウェーのラルダールトンネルで、全長 24,510 m。
- 日本最長の道路トンネルは、首都高速中央環状線にある山手トンネルで、全長 18,200 m。
- 日本最短の鉄道トンネルは、呉線の川尻トンネルで、全長8.7 m。
総数・総延長
世界で最もトンネルが多い国は中国で、約8,600個所、総延長約 4,375 km となっている(2004年)。うち、鉄道トンネルは6,876個所、総延長約 3,670 km で世界一、道路トンネルは1,972個所、総延長約 835 km となっている。
注釈
出典
- ^ 『隧道』 - コトバンク
- ^ トンネルとは?、一般社団法人日本トンネル技術協会
- ^ a b 浅井建爾 2015, p. 190.
- ^ a b c d e 浅井建爾 2001, p. 234.
- ^ 長崎新聞 (2019年6月21日). “トンネル工事で減水 水源確保、水田に送水 諫早市多良見町井樋ノ尾地区 | 長崎新聞”. 長崎新聞. 2020年7月10日閲覧。
- ^ “九州新幹線工事で水枯れ 代替井戸で水田へ送水、久々の田植えに喜び”. 毎日新聞. 2020年7月10日閲覧。
- ^ トンネルでは基準の10倍超 - 東大など、高速道路上の二酸化窒素濃度を調査(2012年1月13日マイナビニュース)
- ^ 「長いトンネル、外気は禁物…NO2基準の50倍」『読売新聞』2012年1月14日。 オリジナルの2012年1月23日時点におけるアーカイブ 。
- ^ 「河口湖・新倉掘抜史跡館」山梨新報社公式HP
- ^ 「河口湖新倉掘抜史跡館」河口湖net公式HP
- ^ 「市指定史跡・市指定名勝」富士吉田市公式HP
- ^ 『東北新幹線工事誌 黒川・有壁間』(日本国有鉄道仙台新幹線工事局編)及び『上越新幹線工事誌 大宮・水上間』(日本鉄道建設公団東京新幹線建設局編)による
- ^ 快適で安全な地下鉄を目指して(営団地下鉄ホームページ)(インターネットアーカイブ・2003年時点の版)
- ^ 浅井建爾 2001, pp. 234–235.
- ^ 例:旭川市・旭山動物園
- ^ 浅井建爾 2015, p. 192.
- ^ 下水処理場なんでも一番・その2_日本最初のトンネル式下水処理場
- ^ 産業遺産保存・活用事例集33_甲州市勝沼地域におけるワイン貯蔵庫・遊歩道としての活用
- ^ 「予防医療.com」・特集・キノコ多糖体
- ^ a b 社団法人交通工学研究会, ed. (2007), 道路交通技術必携2007, p. 116, ISBN ISBN 978-4-7676-7600-5 (PDF)
- ^ 品川線の秘密13 トンネルの換気方式 (PDF) - 東京SMOOTH(首都高速道路特設サイト)内
- ^ a b 浅井建爾 2001, p. 241.
- ^ a b c d e 浅井建爾 2015, p. v.
- ^ 月報KAJIMA 2001 October
- ^ ジオスター(株)
- ^ 浅井建爾 2001, p. 240.
- ^ 浅井建爾 2001, pp. 238–239.
- ^ a b 浅井建爾 2015, p. 188.
- ^ 浅井建爾 2015, p. vi.
- ^ 『南日本新聞』 2012年2月14日付 4面(新武岡トンネル貫通)
- ^ 鹿児島東西道路鹿児島IC~建部IC間が開通 - 鹿児島建設新聞、2013年9月28日付
- ^ a b “高速道路のトンネルで火災が発生した場合の対処とは?”. 日本自動車連盟. 2013年12月10日閲覧。
- ^ a b c d e ロム・インターナショナル(編) 2005, pp. 95–96.
- ^ 小﨑美希、原直也、望月悦子、鈴木広隆、秋月有紀『建築光環境工学―その基礎から応用まで―』理工図書株式会社、2018、123-124頁。
- ^ 一例として「トンネル工事で女性を立入禁止」『日経コンストラクション』2001年9月5日 。
- ^ 圧巻のスケールと技術力、世界の巨大トンネル10選 CNN(2017年3月25日)2017年5月14日閲覧
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