ツイストペアケーブル ツイストペアケーブルの概要

ツイストペアケーブル

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/31 04:35 UTC 版)

ノイズ除去の仕組み

平衡接続の1つであり、撚り合わせていないものよりノイズの影響を受けにくい。古くから電話線などに用いられてきたが、近年ではイーサネットLANケーブルに採用され、広く普及している。

概要

ツイストペアケーブルは、平衡接続された2本の配線をねじり合わせることにより外部ノイズの影響を低減させている。

平衡接続では一般に差動信号を用いる。送信側は2つの配線に互いに逆位相の信号を送り、受信側は各配線信号の差分として信号を検出する。このとき、外部のノイズ源があると、それにより生じた電磁場が配線内部に侵入することで信号が乱れるが、基本的には両方の配線信号に等しく影響するため、受信側の差分検出によって打ち消し合い無効化(同相信号除去)される。しかし、ねじりのない配線の場合、2本のうちノイズ源に近い方の配線がノイズの影響を強く受けることがあり、これによりバランスを失ってノイズ無効化が上手く機能しないことがある。この不平衡は複数の平衡配線が束になっている場合など、互いの配線がノイズ源として同行している場合に顕著に現れ、配線長が長いほど増加する。これを漏話(クロストーク)と呼ぶ。

これを解消するために、配線を撚り合わせてノイズ源に近い配線が入れ替わるようにすることで、両配線のノイズの影響を均一(コモンモード)にし、ノイズ打ち消しが作用しやすいようにしている。また、ケーブルからの電磁波放射を減少させている。

ケーブルの主な仕様として、1メートルあたり何回撚られているかを表すツイスト率(ツイストピッチ)がある。隣り合ったペアのツイスト率が同じだと、別々のペア同士で同じ導線が繰り返し隣り合うようになるので、差動信号の利点を失うことになる。そのため少なくともケーブル内のいくつかのペアはツイスト率を変える必要がある[1]

シールド材に囲まれていないものはUTP(シールド無しツイストペア)ケーブルと呼ばれ、電話線やネットワークのようにケーブルの高い柔軟性を生かした用途で一般的である。特に、イーサネットで用いるケーブルでは4対のツイストペアによる8本の銅線で接続し、その両端に8P8C(通称RJ-45)[注釈 1]と呼ばれるコネクタがついたものが主に使われる。

歴史

電柱上でのワイヤトランスポジション

初期の電話では、電報線や、オープンワイヤ片側接地回路が使用されていた。1880年代、 路面電車の架線が多くの街で敷設され、それらの回路にノイズを誘導した。訴訟では解決できない状況と見るや、電話会社は平衡回路に転換した。それはまた付随的に減衰の減少をもたらし、それによって領域を拡大させた。

電力の供給がより一般的になると、この手段では不十分であると判明した。電柱の上のクロスバーの両端に張られた二本のワイヤは、送配電線と経路を共有した。何年か経つと、電力利用の成長が通話妨害を再び増加させたので、技術者たちは妨害除去のために、ワイヤトランスポジション(ワイヤ位置交換)という手法を考案した。

ワイヤトランスポジションでは、電柱何本かに一回ワイヤ位置を入れ替える。この方法では、二本のワイヤは送配電線から同等の誘導障害を受ける。これはツイストペア手法の初期の実装であり、ツイスト率はキロメートルあたり4回、またはマイルあたり6回である。このようなオープンワイヤ平衡線による周期的なトランスポジションは、農村部で今でも残っている。

ツイストペアケーブルは、アレクサンダー・グラハム・ベルによって1881年に発明された[2]。1900年までには、アメリカの電話回線ネットワーク全体は、ツイストペアあるいはトランスポジションオープンワイヤのいずれかで妨害に対する保護を行った。今日では、世界中の何百万キロメートルものツイストペアケーブルのほとんどが屋外配線にあり、電話会社所有で、通話サービスに供されており、電気通信設備工事担任者などの資格を有する技術者によってのみ取り扱われている。

種類

シールドの有無による分類

ノイズ対策のシールドが施されていないものをUTP(Unshielded Twisted Pair、シールドなしツイストペア)ケーブルと呼ぶ。電話線やイーサネットなどで使われる。取回しが簡単で安価なため、特に高速伝送を求められないイーサネットのLAN用途に標準的に使用されている[3]。日本で一般に販売されているLANケーブルの多くはUTPケーブルである。

一方で、シールドが施されたものを一般にSTP (Shielded Twisted Pair、シールド付きツイストペア)ケーブルと呼ぶ。特に、ツイストペアごとにシールドで覆ったケーブルは規格上FTP (Foiled Twisted Pair, 金属箔付きツイストペア)ケーブルと呼ぶ[4]

シールドは電磁干渉を防ぐために組み込まれ、外部ノイズ源の電磁波を減衰させるための導電性バリアとなる。また、誘導電流がアース接続を経て接続機器電源に戻る経路として作用し、電磁波放射を軽減させている。工場内や野外、通信速度が高い場合など、ノイズ耐性が要求される場面で使われる。

シールドには、ケーブル全体を覆う外装シールドとツイストペア線を覆う内装シールドの2つがある。ケーブルメーカーでは、STP・FTP・シールド付き・スクリーン付きなどの語が異なる意味で混用されている。ISO/IEC 11801ではシールド方式の仕様を標準化し、内外シールドを「/」区切りで明示的に表現している[5]

  • ケーブル全体を覆うシールド:「/」の前に、非シールド(U), 箔シールド(F), 網組シールド(S)
  • ツイストペア線を覆うシールド:「/」の後に、非シールド(UTP), 箔シールド(FTP)
ツイストペアケーブルの主要なシールド方式
分類 ISO/IEC 11801での命名 ケーブルシールド
(外装)
ペア線シールド
(内装)
主な混用表現
UTP U/UTP なし(U) なし(UTP) UTP
STP
(外装)
F/UTP 箔(F) なし(UTP) ScTP (Screened Twisted Pair), FTP
S/UTP 編組(S) なし(UTP) ScTP
SF/UTP 編組, 箔(SF) なし(UTP) S-FTP, SFTP
STP
(内装)
U/FTP なし(U) 箔(FTP) ScTP, PiMF (Pair in Metal Foil)
F/FTP 箔(F) 箔(FTP) FFTP
S/FTP 編組(S) 箔(FTP) SSTP, SFTP, PiMF

特に、ペア線シールドの使用時は接続機器に接地の必要がある[6]。多くの場合、RJ-45コネクタを用いるものはケーブル全体のみをシールドするF/UTP構造、GG45やTERAコネクタを用いるものはケーブルとペアの両方を覆うS/FTP構造を使用する[7]

一般にUTPと比べSTPは高価であり、等電位ボンディングなどの接地実施の困難さから用途が限定される。また、ノイズ耐性確保のためケーブル径が太くなり曲げ半径が制限される。ただし、カテゴリ6A以上の高周波用U/UTPでは要求される漏話性能を満たすために内部セパレータ・外部周囲介在が必要となり、S/FTPより太くなる場合がある[8]

カテゴリによる分類

転送速度に応じた周波数特性を満たすケーブルがカテゴリとして分類され、カテゴリ1~8 の名称が広く用いられる。複数の規格で横断的に仕様が公開されており、ANSI/TIA-568ではカテゴリ3, 5e, 6, 6A, 8.1[9]として、ISO/IEC 11801およびこの和訳版 JIS X 5150ではクラスA~Fなど[10]として規定している。「Cat.5」や「Cat.5e」などのカテゴリ略称が用いられる。

ツイストペアケーブル カテゴリ一覧[9][10]
カテゴリ
(クラス)
帯域幅 構造 用途[11]
シールド コネクタ 対線 イーサネット その他
Cat.1 A 100kHz 任意 RJ-11 4芯2対 - 音声電話(PBX), X.21
Cat.2 B 1MHz 任意 RJ-45 (8P8C) 8芯4対 1BASE5 ISDN, アークネット
Cat.3 C 16MHz 任意 RJ-45 (8P8C) 8芯4対 10BASE-T
100BASE-T2
100BASE-T4
トークンリング (4Mbps)
ATM (25Mbps)
Cat.4 D[a] 20MHz 任意 RJ-45 (8P8C) 8芯4対 (100BASE-T4) トークンリング (16Mbps)
Cat.5
Cat.5e
[b]
D 100MHz 任意 RJ-45 (8P8C) 8芯4対 100BASE-TX
1000BASE-T
2.5GBASE-T
ATM (155Mbps)
トークンリング (100Mbps)
Cat.6 E 250MHz 任意 RJ-45 (8P8C) 8芯4対 5GBASE-T
10GBASE-T[c]
ATM (1.2Gbps)
Cat.6A[d] EA 500MHz 一重(F/UTPなど) RJ-45 (8P8C) 8芯4対 10GBASE-T 2/4G-FCBASE-T
Cat.7 F 600MHz 二重(S/FTPなど) GG45TERA 8芯4対 10GBASE-T FC-100-DF-EL-S
Cat.7A[d] FA 1GHz 二重(S/FTPなど) GG45TERA 8芯4対 - (40GbE: 50m)
(100GbE: 15m)[e]
Cat.8.1 I 2GHz 一重(F/UTPなど) RJ-45 (8P8C) 8芯4対 25G/40GBASE-T
Cat.8.2 II 二重(S/FTPなど) ARJ45・TERA 8芯4対
  1. ^ ISO 11801:1995で定義され、2002年に削除された。
  2. ^ Cat.5e (Enhanced Category 5)はTIA/EIA-568-A-2001で差し替えられた仕様を指す。
  3. ^ 100m未満の長さ制限あり。
  4. ^ a b "A"は augmentedを意味する。
  5. ^ ISO/IEC 11801で定義されたが25/40GBASE-Tでは採用されなかった。

コネクタの違いがなければ、上位カテゴリのケーブルを下位カテゴリのケーブルの代替として用いることが可能である[12]。カテゴリはISDN時代には「レイヤー」と呼んでいたこともあり、技術者によっては今でもそう呼ぶ場合がある[要検証]。カテゴリが上がるにつれ、ツイスト率が大きくなったり、シールドやセパレータ(4対間の十字介在物)の追加によってケーブルが太く硬くなる傾向にある。

カテゴリ5e以上のケーブルでは、IEC 61156のPart 5, 6に詳細が規定されている。カテゴリ5・6でも一重シールド(F/UTP)を実装したものがあり、カテゴリ7などでは二重シールド (S/FTPなど)が必須となっている。

カテゴリ7, 7A, 8.2などのペア線シールドのあるケーブル(S/FTPなど)では、コネクタ部分も規格化され、従来のRJ-45に代わりTERAGG45ARJ45英語版などが策定されている。これらのコネクタでは、ケーブル側コネクタの外側にケーブルシールドに接続されるメタルシールドがあり、機器側コネクタに装備されている信号シールド経由で接地される。

メーカー独自仕様

以下のものがケーブルメーカーから販売されることがある。これらはISO/IECANSI/TIAによって規格化されたものではなくメーカーの独自仕様である[13]

  • カテゴリ5相当」と表示された4対中2対しか結線されていないケーブル。100BASE-TXで使用できても1000BASE-Tでの使用はできない。1990年代末ごろ、100BASE-TX普及期に販売された。
  • カテゴリ6e」と表示されたケーブル。規格名称として存在しない。2000年代中盤、カテゴリ6A標準化前後に販売された。
  • カテゴリ7対応」と表示されたUTPケーブルまたはRJ-45コネクタつきケーブル。このカテゴリでは二重シールドのあるSTPしか定義されていない。また、終端にはRJ-45ではなく、その上位互換であるGG45コネクタもしくは独自形状のTERAコネクタの使用のみが定義されている[13]。これを用いるとシールドが接地されてないためにコモンモードノイズによる電波障害などの問題が起きる可能性がある。10GBASE-Tが登場した2000年代後半から販売されている。

  1. ^ 転送速度[Mbps] = レーン数 × スペクトル効率[bps/Hz] × 信号周波数[MHz]
  2. ^ 信号が送受される物理的な伝送路の数。10BASE-T100BASE-TXではツイストペアのうち送信専用に1対、受信専用に1対使うため、これを送受1レーン分と扱う。1G以上では、1対を1レーンとして送受両方で使い、4対全てを使うため全体で4レーンとなる。
  3. ^ 1周期分の信号が持つ実質的なデータ量(信号スペクトル効率)。符号化の際に増減するビットは含めない。
  4. ^ 信号振幅が最短で1周期分の変動となったときの周波数(信号スペクトル帯域幅)。ケーブル帯域幅以内の範囲に収める必要がある。
  5. ^ 1秒間の出力信号数(シンボルレート)。10BASE-Tマンチェスター符号で1シンボル/Hz、100BASE-TXのMLT-3で4シンボル/Hz、1G以上ではPAMによる正負ピークで信号1周期になるため2シンボル/Hzとなる。
  6. ^ Cat.5e以上推奨

脚注

  1. ^ Crosstalk dependence on number of turns/inch for twisted pair versions of the end-cap umbilical cable”. 2011年5月8日閲覧。
  2. ^ US 244426, Bell, Alexander Graham, "Telephone-circuit", issued 1881 . See also TIFF format scans for USPTO 00244426
  3. ^ a b 日経NETWORK 2004/3
  4. ^ https://www.sanwa.co.jp/lan/lan_qa.html
  5. ^ ISO/IEC 11801-2002, Annex E
  6. ^ LANケーブルのノイズ対策のための接地(NL22号 Q&Aより)”. 通信興業(株) > 技術情報 > FAQ > メタルLANケーブル. 2011年12月21日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年12月10日閲覧。
  7. ^ Valerie, Maguire (2015年7月12日). “Size of the Category 7A Installed Base”. 2015年9月25日閲覧。
  8. ^ Morihiro.Kaneda. “10GBase-TおよびCat.6A配線の規格と技術” (PDF). BICSI(Building Industry Consulting Service International )日本支部. 2014年3月24日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年1月18日閲覧。
  9. ^ a b ANSI / TIA-568.2-D, Introduction
  10. ^ a b c ISO/IEC 11801-1:2017, Clause 6
  11. ^ ISO/IEC 11801-1:2017, Annex F
  12. ^ ANSI/TIA-568-C.2, Clause 4.1
  13. ^ a b JEITA 情報配線システム標準化専門委員会 ツイストペア配線 最新規格動向と関連情報 Archived 2016年3月4日, at the Wayback Machine.
  14. ^ ISO/IEC 11801, Clause 9.2, Clause 10.2.5.3
  15. ^ ISO/IEC 11801:2017, Clause 6.4.2
  16. ^ ISO/IEC 11801, Clause 9.2.2.2
  17. ^ ANSI/TIA-568-C.2, Clause 5.3, 5.5.
  18. ^ IEEE 802.3cg-2019
  19. ^ IEEE 802.3-2018, Clause 104.3
  20. ^ IEEE 802.3-2018, 40.4.4
  21. ^ a b c d e f g LANプロ:LANケーブル自作方法・最新情報 | サンワサプライ株式会社”. www.sanwa.co.jp. 2022年9月5日閲覧。
  22. ^ ぐっとす6シリーズ[カテゴリー6対応 | 情報配線システム | Panasonic]”. www2.panasonic.biz. 2022年9月6日閲覧。
  23. ^ AT&T, Bell System Practices, Section 461-200-101 Issue 7, Connector Cables—Identification (1979年5月)
  24. ^ Recommended Color-Coding Scheme, The Siemon Company”. 2005年2月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2010年8月21日閲覧。
  25. ^ 単線ケーブルのススメ(サンワサプライ)
  26. ^ a b 【LANケーブル】単線とヨリ線の違いは何ですか”. qa.elecom.co.jp. 2022年9月6日閲覧。
  27. ^ CAT5eケーブル自作(フラットケーブル) | サンワサプライ株式会社”. www.sanwa.co.jp. 2022年9月6日閲覧。
  28. ^ メルコ、極細フラットLANケーブル「きしめんケーブル」”. pc.watch.impress.co.jp. 2022年9月5日閲覧。
  29. ^ a b 株式会社インプレス (2022年2月25日). “【やじうまミニレビュー】 「CAT6Aのすき間LANケーブル」は10Gbpsで通信できるか?窓の隙間を使って屋外から2階へ配線してみた”. PC Watch. 2022年9月5日閲覧。
  30. ^ 株式会社インプレス (2022年8月10日). “【特集】 LAN工事するなら必見!ツメ折れ対策、フラットケーブル作成、LANコンセント敷設等を初心者向けに解説”. PC Watch. 2022年9月5日閲覧。
  31. ^ カテゴリ6 細径ケーブル | エイム電子株式会社”. www.aim-ele.co.jp. 2022年9月5日閲覧。
  1. ^ RJ-45はもともと電話線を接続するものを指す。
  2. ^ 撚り線(ストランド)と撚り対線(ツイストペア)は別語である点に注意。


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