ソナー 構成・利用技術

ソナー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 15:06 UTC 版)

構成・利用技術

送波・受波

円筒形アレイとして配列されたHMS-X探信儀の送受波器

音響エネルギーと電気エネルギーの相互変換を行うのが送受波器(トランスデューサー)である。電気エネルギーを音響エネルギーに変換する(音波を発振する)のが送波器(プロジェクター)、音響エネルギーを電気エネルギーに変換する(聴音する)のが受波器(ハイドロフォン)であり、同一の機構で兼用する場合と、それぞれ別に実装する場合がある[24]。これらはソナー・システムの最前線として水中にあることから「ウェット・エンド」とも称される[25]

これらの変換は、磁歪ないし圧電効果(電歪を含む)によって行われる。石英水晶振動子)、リン酸アンモニウムロッシェル塩などの圧電素子は、加圧すると結晶表面間に電荷を誘起し、また逆に結晶体に電圧を加えると圧力を生じる。また電歪素子は圧電素子と類似するが、高電界を加えて適当に分極させる必要があり、チタン酸バリウムチタン酸ジルコン酸鉛などが用いられる[24]

単一の素子による送受波器も研究用としては生き残っているが、実用機では、多素子を空間的に配列したアレイが用いられることが多くなっている。アレイとして配列し、ビームフォーミングを行うことで、感度の向上や音波到来方向の識別、また受波器のSN比向上が期待される[24]。ビームフォーミングの際の指向性利得(アレイゲイン)を向上させるためには、アレイは対象音の波長の数倍の長さを確保しておくことが望ましく、従って対象周波数が低周波になればなるほど所要のアレイ長・受波面積は増大する。一方、ビームフォーミングのためには、対象音の波長の半分以下の間隔でハイドロフォンを配置する必要がある[25]

送信・受信

ソナー・システムでは、ウェット・エンドで捉えた音響信号をコンピュータ等で適切に処理して初めて音響情報となる。このような処理を行うシステムは艦船内にあることから「ドライ・エンド」とも称される[25]

送信信号

アクティブ・ソナーでは、一般に、受信信号からエコー信号を検出する方法として相関信号処理が行なわれる。このために用いられる信号波形としては、下記の2方式が代表的である[26]

一定周波数連続波(Pulse Continuous Wave, PCW
一定周波数の連続波をパルス変調したもの。
直線状周波数変調(Linear Frequency Modulation, LFM
周波数が時間とともに直線的に変化する周波数変調波をパルス変調したもの。

またこのほか、より複雑な波形としてPRN(pseudorandom noise)やSFM(Stepped frequency modulation)などもある[15]。例えばSFMにPDPC処理を組み合わせたSFM-PDPC(Post detection pulse compression)は、SN比の改善手段として検討されている[27]

ビームフォーミング

上記のとおり、送波器・受波器をアレイとして配列することによって指向性をもたされる場合がある。このように音響ビームを形成することをビームフォーミングbeamforming)と呼ぶ[15]

ビームフォーミングはアレイの配列方法や整相、シェーディングなどによって決定される。またビームを形成したことによるハイドロホンアレイのSN比向上は、指向性利得(アレイゲイン)によって評価される[24]曳航ソナーのような直線状アレイであればアレイ長、探信儀などで使われるような円筒形アレイや球形アレイであれば音波を受けてビーム形成ができる受波面積が大きければ大きい(いわゆる「開口が大きい」)ほどアレイゲインが向上する[25]

送信形式

送信形式としては、下記のようなモードがある[15]

全方向送信(Omnidirectional transmission, ODT
全指向性で送信すること。
逐次方向送信(Rotating Directional Transmission, RDT
音響ビームを旋回、ないしその方向を適宜変化させながら送信すること。
三重逐次方向送信(Triple Rotating Directional Transmission, TRDT
3本のビームを生成してそれぞれ120度ごとに旋回させて走査すること。
SDT(Steering Directional Transmission)
音響ビームを任意の一方向にむけて送信すること。

受信形式

受信形式としては、下記のようなモードがある[15]

スキャニング受信(scanning reception
1本の受波音響ビームを走査させながら受信する方式。
待ち受け受信(preformed beam reception
複数方向にあらかじめ形成された受波音響ビーム(preformed beam)によって同時に受信する方式。
スプリットビーム受信(split beam reception; 双ビーム受信とも)
ある方向に対して音響中心位置の異なる2つの受波音響ビームを構成しておく方式。これらの音響ビームで同一信号を同時に受信して、到達時間差を位相差として検出して、目標の方向を特定できる。

またこれらの古典的なモードのほか、所定の方向に主極を向けつつ妨害音の方向の感度が最小になるように自動的に指向性を制御する適合ビームフォーミング (adaptive beamforming, ABFなどの新しい方式も登場している[15][27]

パッシブ・ソナー音響信号処理の基本は、信号のスペクトル解析による周波数情報と方位情報の抽出である。スペクトル解析には高速フーリエ変換(FFT)や最大エントロピー法(MEM)が用いられる[23]


注釈

  1. ^ 1948年昭和23年)、世界で初めて魚群探知機の実用化に成功したのは古野清孝・清賢兄弟であった[18][19][20]

出典

  1. ^ a b c d 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 108–110.
  2. ^ a b 鳥羽 2009.
  3. ^ a b c d e f g h i Urick 2013, pp. 11–14.
  4. ^ 海上自衛隊の職域
  5. ^ 国税庁 漁ろう用設備に該当するもの
  6. ^ Seitz, Frederick (1999). The cosmic inventor: Reginald Aubrey Fessenden (1866-1932). 89. American Philosophical Society. pp. 41–46. ISBN 0-87169-896-X.
  7. ^ Hill, M. N. (1962). Physical Oceanography. Allan R. Robinson. Harvard University Press. p. 498.
  8. ^ a b 谷村 2007.
  9. ^ 「艦艇 (特集・ASWのすべて) - (対潜艦艇・航空機・兵器の歩み)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、84-89頁、NAID 40015258780 
  10. ^ a b 藤木平八郎「ASWの発達と今後の展望 (特集・ASWのすべて)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、75-81頁、NAID 40015258778 
  11. ^ 野木恵一「兵器 (特集・ASWのすべて) - (対潜艦艇・航空機・兵器の歩み)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、94-101頁、NAID 40015258782 
  12. ^ Manbachi, A.; Cobbold, R. S. C. (2011). “Development and application of piezoelectric materials for ultrasound generation and detection”. Ultrasound 19 (4): 187. doi:10.1258/ult.2011.011027. 
  13. ^ Friedman 2004, p. 69.
  14. ^ a b c 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 126–131.
  15. ^ a b c d e f g h i j k 防衛庁 1980.
  16. ^ 黒川武彦「センサー (現代の掃海艦艇を解剖する)」『世界の艦船』第427号、海人社、1990年10月、88 - 91頁。 
  17. ^ Hodges, Richard P. (2013) (英語). Underwater Acoustics: Analysis, Design and Performance of Sonar. Hoboken, N.J.: John Wiley & Sons. ISBN 9781119957492. https://books.google.com/books?id=2O4f2ETpjm8C&dq 2016年7月4日閲覧。 
  18. ^ 魚群探知機の誕生
  19. ^ 古野電気株式会社 魚群探知機 特許:特公昭31-3583ほか
  20. ^ プロジェクトX 挑戦者たち 夢 遙か、決戦への秘策 兄弟10人 海の革命劇/魚群探知機・ドンビリ船の奇跡
  21. ^ Friedman 2004, p. 261.
  22. ^ 東郷 2012.
  23. ^ a b 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 136–148.
  24. ^ a b c d Urick 2013, pp. 28–47.
  25. ^ a b c d 小林 2016.
  26. ^ 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 113–115.
  27. ^ a b 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 131–135.
  28. ^ a b c Urick 2013, pp. 20–27.
  29. ^ a b Urick 2013, pp. 71–76.
  30. ^ a b c 防衛庁 1978, p. 14.
  31. ^ Urick 2013, pp. 92–96.
  32. ^ 防衛庁 1978, p. 16.
  33. ^ a b c Urick 2013, pp. 97–102.
  34. ^ 小林 2012.


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