ソナー 性能・特性

ソナー

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/04/12 15:06 UTC 版)

性能・特性

ソナー方程式

ソナー装置と目標との関係は、ソナー方程式(sonar equation)によって表される。これは第二次世界大戦中に初めて定式化されたものであり、レーダー方程式と同様、媒質、目標および装置の効果を結びつける動作関係式である[28]

古典的なモノスタティック式のアクティブ・ソナー(送波器と受波器が同一場所にあるもの)の場合の方程式は下記のようになる[28]

混合層が出現すると、サーフェスダクトによって海面付近への音線の到達は改善する一方、層深より下にシャドウゾーンが出現する。
 
チャネル軸付近に音源を設定した場合のDSCの音線図(グラフ動画)

音速プロファイル

海中での音速に影響を与える物理特性は、気微生物といった混入物を除けば、海水温塩濃度水圧という3つの基本量のみとされている。これを利用して、海中での音速は、深度を変数とする関数として定義でき、この音速-深度関数を音速プロファイルと称する。音速プロファイルは、下記のように、それぞれ異なる特性と成因をもついくつかの層に分けられる[29]

表面層(surface layer
海面直下に位置しているため、熱交換やの作用を受けやすく、音速は不安定である。で覆われたり風浪のある海域では、風や波により撹拌されて等温層を生じることがあり、これを混合層 (mixed layerと称する。
水温躍層thermal layer
音速の負の勾配(水温および音速が深度とともに減少)に特徴がある。季節による影響を受けやすい(場合によっては表層と一体化して消滅する)季節水温躍層と、わずかしか影響を受けない主水温躍層に分けられる。
深海等温層(deep isothermal layer
海水温は39 °F (4 °C)で一定であり、音速は圧力の影響を受けて、深度とともに増加する。

サウンドチャネル

深さとともに音速が変わってゆくとき、途中で音速の極小部をもつような海洋中の領域をサウンドチャネルsound channel)と称する。これは音線(音の伝播経路)に対して一種のレンズのように働くため、屈折によって鉛直方向に発散しなくなり、遠距離に伝播しやすくなるという特性がある[30]。 サウンドチャネルには下記のようなものがある。

混合層サウンドチャネル(サーフェスダクト)
海面直下の、音速勾配が正の領域によって形成されるもの[30]。この層にトラップされた音波は、音線経路に沿って海面の反射を連続的に繰り返して遠方に伝播していく[31]。またサーフェスダクト内にあるソナーにとって、その層の直下の水温躍層内は音線が到達できないシャドウゾーンとなることから[29]、混合層下端の深度は対潜戦上重要であり、特に層深layer depth)と称する[32]
中間層サウンドチャネル
下記のDSCほど深くない中間深度に、より限定的な海域で季節的にサウンドチャネルが出現することがある。これは局地的・一時的な現象だが、しばしばソナーの運用に大きな影響を与える。例えばロングアイランドバミューダ諸島の間では、夏季にはメキシコ湾流の影響を受けて正の音速勾配が逆転し、深度300 ft (91 m)付近を音速極小点とするサウンドチャネルが出現する。地中海でも、風による撹拌を受けずに表面層の海水が太陽で暖められることによって、春から夏にかけて海面付近に強い負の音速勾配が発達し、やはり深度300 ft (91 m)付近を軸とするサウンドチャネルが出現する。これはDSCと同様に海面付近の音源による収束帯を形成するが、DSCよりも薄いチャネルであるため、帯の間隔は20 mi (32 km)程度と、ずっと短い[33]。また日本南西諸島西方の東シナ海でも同様の現象が認められる。この現象には1,000メートル程度の水深が必要とされる[34]
深海サウンドチャネル(SOFARチャネル, DSC)
水温躍層と深海等温層の境界を音速極小点とするもの[30]海面海底への反射による音響的損失を生じにくいことから、中程度の音響出力でも非常に長距離の伝搬を期待できるという特性がある[33]
深海サウンドチャネルの位置は海域によって異なるが、各種条件が合致して海面付近まで上がってきた場合には収束帯(CZ)が出現し、水上艦艇のソナーでも長距離探知を期待できる[33]

注釈

  1. ^ 1948年昭和23年)、世界で初めて魚群探知機の実用化に成功したのは古野清孝・清賢兄弟であった[18][19][20]

出典

  1. ^ a b c d 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 108–110.
  2. ^ a b 鳥羽 2009.
  3. ^ a b c d e f g h i Urick 2013, pp. 11–14.
  4. ^ 海上自衛隊の職域
  5. ^ 国税庁 漁ろう用設備に該当するもの
  6. ^ Seitz, Frederick (1999). The cosmic inventor: Reginald Aubrey Fessenden (1866-1932). 89. American Philosophical Society. pp. 41–46. ISBN 0-87169-896-X.
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  8. ^ a b 谷村 2007.
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  10. ^ a b 藤木平八郎「ASWの発達と今後の展望 (特集・ASWのすべて)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、75-81頁、NAID 40015258778 
  11. ^ 野木恵一「兵器 (特集・ASWのすべて) - (対潜艦艇・航空機・兵器の歩み)」『世界の艦船』第671号、海人社、2007年3月、94-101頁、NAID 40015258782 
  12. ^ Manbachi, A.; Cobbold, R. S. C. (2011). “Development and application of piezoelectric materials for ultrasound generation and detection”. Ultrasound 19 (4): 187. doi:10.1258/ult.2011.011027. 
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  17. ^ Hodges, Richard P. (2013) (英語). Underwater Acoustics: Analysis, Design and Performance of Sonar. Hoboken, N.J.: John Wiley & Sons. ISBN 9781119957492. https://books.google.com/books?id=2O4f2ETpjm8C&dq 2016年7月4日閲覧。 
  18. ^ 魚群探知機の誕生
  19. ^ 古野電気株式会社 魚群探知機 特許:特公昭31-3583ほか
  20. ^ プロジェクトX 挑戦者たち 夢 遙か、決戦への秘策 兄弟10人 海の革命劇/魚群探知機・ドンビリ船の奇跡
  21. ^ Friedman 2004, p. 261.
  22. ^ 東郷 2012.
  23. ^ a b 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 136–148.
  24. ^ a b c d Urick 2013, pp. 28–47.
  25. ^ a b c d 小林 2016.
  26. ^ 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 113–115.
  27. ^ a b 防衛技術ジャーナル編集部 2007, pp. 131–135.
  28. ^ a b c Urick 2013, pp. 20–27.
  29. ^ a b Urick 2013, pp. 71–76.
  30. ^ a b c 防衛庁 1978, p. 14.
  31. ^ Urick 2013, pp. 92–96.
  32. ^ 防衛庁 1978, p. 16.
  33. ^ a b c Urick 2013, pp. 97–102.
  34. ^ 小林 2012.


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