スマートグリッド 従来型の電力系統の見直し

スマートグリッド

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/17 13:29 UTC 版)

従来型の電力系統の見直し

例えば日本の電力会社は「99.9999%の高い確度で周波数は規定内に収まっている」とその安定度を強調するが、欧米の電力網と比較すると規定の許容範囲は、60±0.2Hz以内、(中部電力 時差±10秒以内)[29]50±0.2Hz以内、(東京電力 時差±15秒以内)[30]と緩い。極めて安定な電力供給は当然のように考えられてきたが、停電などの大きな障害は別としても、逆潮流のような電力の安定性を阻害する要因の登場に対して、本当に電圧や周波数の変動を避けるために大きな設備投資が今後も必要か疑問の声が出始めている。周波数だけ見ても、産業用などで使われる同期式モーターのような今となっては特殊な物を除けば、多くの機器が正しい周波数を必要とはせずに、インバーター式による操作性と運転効率の改善による省エネルギーを志向する時代になっている。電圧についても、インバーター式の電源や直流動作のために内部で電圧の自動調整を行う電源回路を備える電気製品が主流となり、少しくらいの電圧の変化は多くの機器では全く影響しないようになっている。

電話回線では、専用回線によって高い通信品質を維持してきたが、それを構築して維持管理するのに大きなコストをかけてきた。デジタル通信でも当初はコストをかけた専用回線や伝送品質を保証する回線でスタートした後、今では品質と同程度に低コスト性にも配慮してベストエフォート方式を採用したIPネットワークが世界中を席巻しているが、品質に不満の声はあまり聞かれない。

逆潮流に対応するため電力網への追加投資が必要だとする議論もあるが、通信回線サービスが高い品質維持からベストエフォートへと変わったように、電力サービスにおいて極端な高品質化の維持にコストを掛け続ける必要があるのか、ベストエフォートではだめなのか再検討を求める意見もある。

電力網には、通信網には存在し得ない合成の誤謬を考慮する必要もある。1987年7月23日首都圏大停電の原因の一つにインバータ機器の負荷の定電力特性があり、配電線の電圧降下に対して負荷となるインバータ機器が電力を確保しようとして電流を多く取り込むように制御された結果、送配電網の電圧制御機能が限界に達したことが指摘されている[31]。ただし、現在ではこのような過負荷による大規模停電はスマート化によって防止できると考えられる。


注釈

  1. ^ NEDOに集った日本の協力体制。スマートコミュニティ・アライアンス会員一覧 2016年4月1日現在
  2. ^ Area Energy Management System(AEMS・エムス)」と呼ばれることもある。
  3. ^ 中央給電指令所では自動周波数制御装置 (AFC) などを使って10秒ごとに変動を監視し、負荷が増えて電圧が低下するか周波数が遅れる場合には発電所の出力を増すように調整が行われ、逆に負荷が減ると逆に出力を減らすように指示する。同様にそれぞれの発電所でも1秒ごとに調速器が発電周波数を一定に保つように働いている。
  4. ^ 世界中の家庭内の電気製品が送電網を経由した電力線の通信網で情報をやり取りするようになれば、現在のインターネット機器の10-100倍の数の端末が繋がる巨大な情報網が出現するため、未来のシスコシステムズ、次のGoogleを狙う企業はこれら2社のほかにもIBMインテルベライゾン・ワイヤレスを筆頭に、多くの企業がチャンスをうかがっている。
  5. ^ ニューメキシコ州の「Green Grid」計画では、日本側からは経済産業省やNEDOの他にも、東京電力日本ガイシパナソニック日立製作所東芝なども会合に参加している。

出典

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