サンショウ 栽培

サンショウ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 05:31 UTC 版)

栽培

実生は果実が完熟する前の物を採取し、果皮を除いて播種する[19]。種子は乾燥してしまうと発芽が悪い[19]。果実の収穫を目的とする場合は、雌木を接ぎ木する[19]

観葉や香りを楽しむために苗木の店舗販売はポピュラーだが、家庭で大きく育てることは比較的難しい類の植物である。排水の悪い粘土質の土では、根腐れや病気を起こしやすいため[注釈 3]、水はけの良い土質にする必要がある。その一方で、生育には豊富な水分を要し、水切れすると枯死しやすい。また、真夏の直射日光には弱く、生育には半日陰の場所が適し、直射日光の当たり過ぎる場所では、葉が茶色くなって落葉し、一見枯れたようになる。また移植に弱く、根から土を落として植え替えると枯れてしまう。

秋の落葉後、翌年春に芽が出ず枯死してしまう場合もあり、栽培農家では収穫量が増えない悩みの種となっている。自生させれば数メートルに成長し収穫に手間であるため商業栽培では適宜剪定する。

兵庫県養父市付近の名産であった「朝倉山椒」は枯死しやすく栽培が難しかったものの、従来よりも枯死し難いサンショウの苗の育成に成功したように[31][32]、品種改良の動きもある。

害虫

アゲハチョウ科のチョウの幼虫の食草でもある。サンショウの幼木なら、1匹で葉を食べ尽くし、丸裸にされてしまう場合もある。

利用

古くから若葉や果皮は香辛料として使われており、薬用にも使われる[8]縄文時代の遺跡から出土した土器からサンショウの果実が発見された例も知られる[33][34]。材はすりこぎになる。しびれるような辛味成分サンショオールは、食欲増進や胃腸の働きを活発にし、抗菌や殺菌作用もある[8]

日本における利用

雄花は「花山椒」として食用にされ、雌花は若い果実、または完熟した物を利用する。

食用

若芽、若葉、花、果実、果皮を食用にする。とげに注意して春の若芽、夏の花、「青ザンショウ」とよばれる夏の若い実、秋には熟した果実を採って香辛料にする[11]。対生につくトゲは苦くて利用できない[11]

若芽・若葉(木の芽)
春3 - 5月ごろに出る若葉は「木の芽」と呼ばれ[13]、緑が鮮やかで香りが良いため、焼き物煮物など料理のあしらいとして添えられ[8]、また吸い口として用いられる[12]。使う直前に手の平に載せ、軽く数度叩いて葉の細胞(油点)を潰すと香りが増す[12][18]。特にとの相性が良い[35]。また、木の芽を味噌和えた「木の芽味噌」は、木の芽田楽、木の芽和えや木の芽煮の材料となる[16][10][35]佃煮にもなる[11]
花(花山椒)
花を漬けた花山椒は、料理の彩り、佃煮当座煮などに用いられる[10][12][36]。サワラの魚肉や、牛肉・鶏肉を具材にした鍋物に花山椒をつかう花山椒鍋は、雄花(蕾)を鍋の上にたくさん盛ってふたをして蒸らし、サンショウの上品な香りと辛味を味わう季節料理である[18]。花を吸い物に浮かせたり、酢の物に添えたりする[11]
果実
初夏6 - 7月ごろの雌木につく未熟な果実は、「実ザンショウ」「青ザンショウ」として使う[8]。茹でて昆布と共に醤油で煮付けて佃煮[6]ちりめんじゃこと混ぜてちりめん山椒にしたりする[36]。常食すれば食欲増進や、消化促進に役立つといわれている[6]。実ザンショウはよく洗ってから沸騰させた湯でゆで汁が茶色くなるまで茹でこぼして、さらに半日ほど水にさらして灰汁抜きして下ごしらえする[8]。下ごしらえしたものから、醤油漬けや佃煮などに加工されている[8]。青い実を2 - 3日ほど水に浸けて辛味を抜くが、あまり辛すぎるときには一度ゆでこぼすという方法もある[12]
実を塩漬けにしてから水を絞り干して貯蔵したものを「塩山椒」という[37]
果皮
秋9 - 10月ごろ、果実が熟して黄色や赤色になった時に採集し、それを陰干しすると果皮が開いて黒色種子が出てくるので、種子を除いて果皮だけを集めた物を「山椒」と呼んでいる[6]。中の黒い種子は食用にしない[8]
熟した実の皮を加工した乾燥粉末(粉ザンショウ)は香辛料となり[8]蒲焼の臭味消し、七味唐辛子の材料として用いられる[36]。この果皮が一般的に調味料として知られている部位である。乾燥粉末の状態で貯えておくと品質の劣化が激しく、精油が揮発して香りや辛味も大幅に損なわれてしまう[6]。このため、なるべく果皮のまま貯えて、使用直前にグラインダーで粉末にするか[6][注釈 4]、密封して冷凍保存すると長期間、鮮度が保たれる[38]。菓子類への利用では、五平餅[39][40]に塗る甘辛のたれや、山椒あられ[41][42]、スナック菓子のほか、甘い餅菓子の山椒餅[43][44]切山椒がある。
枝の皮
天保年間に初版が刊行された『漬物塩嘉言』に「辛皮」(からかわ)の記載があり、サンショウの若枝の皮を刻んで塩水に漬けて保存するものをいう[37]。また、兵庫県神河町に伝わる「辛皮」(からかわ)という伝統保存食は、冬期のサンショウの枝の皮を削り、内皮を流水に晒してアク抜きしたあと、佃煮にしたものである[5]

その他

木材はすりこ木にする[10][13]

日本の東北地方など各地で、サンショウを煮てから煮汁ごと川に流し、魚を獲る毒もみと呼ばれる漁法が見られた[7]宮沢賢治の童話『毒もみのすきな署長さん』の中にも、サンショウを利用した違法漁法の話が出てくる[45]

中国での「山椒・花椒」の利用

カホクザンショウ(花椒)の果実

中国では山椒花椒(かしょう、ホアジャオ)、二つのスパイスを使い分ける。

中国種の山椒は日本のサンショウとは香りがかなり違い、花椒は山椒の同属別種で、カホクザンショウZanthoxylum bungeanum, 英名 Sichuan pepper)と呼ばれている。中華料理での山椒は果実や果皮を共に使うが、花椒は実を乾燥させたスパイスで[8]、果皮のみ用いる。強い香りと辛味は四川料理で多用され、山椒は主に唐辛子の辛さを引き出すのに対し、花椒は四川料理の特徴といわれる舌の痺れるような独特の風味(麻辣のうち、「麻」)をもたらす。肉の煮込み料理や麻婆豆腐などの炒め物に使われる[8]。また、山椒や花椒から派生した調味料も多い。中華料理の五香粉という調味料の材料としても用いられている。炒った食塩と同量の山椒の粉末を混ぜた物を花椒塩(ホアジャオイェン)と呼び、揚げ物につけて食べる。漬け込んで成分を溶出させた油を、花椒油(ホアジャオヨー)として用いる。

薬用

サンショウの樹皮および果皮は、生薬としても用いられる。「花椒」は蜀椒とも呼ばれ健胃、鎮痛、駆虫作用があるとされる[46]大建中湯、烏梅丸などに使われる。

日本薬局方では、本種および同属植物の成熟した果皮で種子をできるだけ除いた物を、生薬・山椒(サンショウ)としている[19]。日本薬局方に収載されている苦味チンキや、正月に飲む縁起物の薬用酒の屠蘇の材料でもある。中国の薬物名としては、花椒(かしょう)や蜀椒(しょくしょう)と称し、トウザンショウやイヌザンショウなどを薬用に使用し、日本のサンショウも代用できる[14]

果実の主な辛味成分はサンショオール、サンショウアミド、不飽和脂肪酸イソブチルアミド[6][47]。他に有効成分としてシトロネラールフェランドレン、エステル型のゲラニオールなどの芳香精油2 - 4%、シトラールなどを含んでいる[6][46]。辛みは胃液の分泌を促す健胃作用があるとされるものの、サンショオールは川や池に入れて魚を捕る毒流しにも使われる成分であり、食べ過ぎには注意が必要である[6]。サンショウの芳香の主成分であるシトロネラールには、虫除け作用や抗ウイルス作用があるとされている[4]

民間療法では、胃もたれ、消化不良の痛み、胃下垂症、胃拡張症、胃カタル腸カタル回虫駆除を目的に、山椒粉末を1回量2グラムを水か湯で1日数回に分けて飲むか[6][14]、果皮1日量5 - 8 gを、水400 mLで半量になるまで煎じて、1日3回に分けて温かいものを服用する用法が知られている[19]。胃腸を温める効果が強く、胃腸が冷えて痛みや吐き気のある人に良いといわれている反面、胃腸に熱がある人に対しては使用すべきでないとされている[14]

文化

サンショウの花言葉は、「健康」[18]「魅惑」[18]とされる。

(ことわざ)のひとつ「山椒は小粒でもぴりりと辛い」の意味は、サンショウの実は小さいが非常に辛いというところから、体は小さくても、鋭い気性や優れた才能を持っていて侮れない人物のたとえで使われる[48]


注釈

  1. ^ 直訳すると「日本のコショウ」とか「日本の辛味香辛料」といった意味である。
  2. ^ 中国も原産地だとする説も存在する。香辛料の分類と特徴”. 全日本スパイス協会 (2002年). 2011年2月8日閲覧。
  3. ^ サンショウの病気としては、真菌が原因の「白絹病」と呼ばれる病気などが知られる。
  4. ^ グラインダーとは、粒状のコショウなどを粉末にするための器具である。

出典

  1. ^ a b c 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Zanthoxylum piperitum (L.) DC. サンショウ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月25日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Zanthoxylum piperitum (L.) DC. f. corticosum Kusaka サンショウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月25日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Zanthoxylum piperitum (L.) DC. f. verrucatum Kusaka サンショウ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年4月25日閲覧。
  4. ^ a b 講談社編 2013, p. 112.
  5. ^ a b c d e f g h i j k 鈴木庸夫・高橋冬・安延尚文 2014, p. 120.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l m n o 田中孝治 1995, p. 148.
  7. ^ a b 大嶋千代美 著、村上志緒 編『日本のハーブ事典 身近なハーブ活用術』東京堂出版、2009年9月、142 - 143頁。ISBN 4490106122 
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 猪股慶子監修 成美堂出版編集部編 2012, p. 164.
  9. ^ a b c d 亀田龍吉 2014, p. 98.
  10. ^ a b c d e f 滝戸道夫「薬草百話20:サンショウ」『月刊漢方療法』第2巻第8号、1998年、p.p.638-640。 
  11. ^ a b c d e f g h i j 篠原準八 2008, p. 74.
  12. ^ a b c d e f g h i 金田初代 2010, p. 80.
  13. ^ a b c d e f 平野隆久監修 永岡書店編 1997, p. 126.
  14. ^ a b c d e f 貝津好孝 1995, p. 36.
  15. ^ 小曽戸洋「『日本薬局方』(15改正)収載漢薬の来源」『生薬学雑誌』第61巻第2号、2007年、73頁、ISSN 00374377 
  16. ^ a b c d e f g h i 岡田稔「和漢薬の選品20:山椒の選品」『月刊漢方療法』第2巻第8号、1998年、pp. 641 - 645。 
  17. ^ 佐竹(1989年)、p.280
  18. ^ a b c d e f g 田中潔 2011, p. 89.
  19. ^ a b c d e f g h i j k l m n 馬場篤 1996, p. 60.
  20. ^ 辻井達一『日本の樹木』中央公論社〈中公新書〉、1995年4月25日、106頁。ISBN 4-12-101238-0 
  21. ^ 県民の友8月号|和歌山県ホームページ
  22. ^ ぶどう山椒 の産地育成と需要拡大への取り組み ∼和歌山県有田川町∼
  23. ^ a b c 牧野富太郎「植物研究雑誌」『第五巻』第十号、1928年、p.378-380。  (PDF)
  24. ^ 飛騨農林事務所:高原山椒 (PDF)
  25. ^ サンショウ栽培品種(タカハラサンショウ・アサクラザンショウ・ブドウザンショウ)の成分比較研究 (PDF)
  26. ^ 手島茂晴「コモエの森の宝物:第6回Zanthoxylum zanthoxyloidesRutaceae:ミカン科)」(PDF)『コモエの森からの恋文』第8巻、2010年6月、p.2、2011年2月8日閲覧 
  27. ^ 佐竹(1989年)、p.278
  28. ^ 金田初代 2010, p. 81.
  29. ^ 椿叶花椒 Zanthoxylum ailanthoides Sieb. et Zucc.”. www.iflora.cn. 2018年11月19日閲覧。
  30. ^ 佐竹(1989年)、p.p.278-279
  31. ^ 朝倉さんしょ|香り高くやさしい辛味の山椒|JAたじまの特産品」
  32. ^ 養父市特産「朝倉山椒」
  33. ^ 有田の特産品:山椒”. ありだ農業協同組合. 2011年1月28日閲覧。
  34. ^ 食彩の王国#24:山椒”. テレビ朝日. 2011年1月28日閲覧。
  35. ^ a b 講談社(2007年)、p.42
  36. ^ a b c 講談社(2007年)、p46
  37. ^ a b 宮尾 茂雄. “漬物塩嘉言と小田原屋主人”. 東京家政大学・食品加工学研究室. 2023年1月12日閲覧。
  38. ^ NHK ためしてガッテン(2012年10月11日)
  39. ^ 五平餅の作り方”. とよた五平餅学会. 2011年1月30日閲覧。味噌には「※お好みで、山椒、刻んだくるみやピーナッツなど」と記してある
  40. ^ 農文協『伝承写真館日本の食文化 5 甲信越』農山漁村文化協会、2006年https://books.google.co.jp/books?id=ZxVOAQAAIAAJ ,p.13 「伊那谷の五平もち春はさんしょう味檜 1 秋はゆず味噌をつけて。」
  41. ^ 京山椒あられ”. 小倉山荘. 2011年1月30日閲覧。
  42. ^ 山椒あられ”. 七味家本舗. 2011年1月30日閲覧。
  43. ^ 実生屋の山椒餅”. NPO法人佐川くろがねの会. 2011年1月30日閲覧。
  44. ^ 餅類”. 俵屋吉冨. 2011年1月30日閲覧。
  45. ^ 樹木シリーズ26サンショウ、イヌザンショウ”. 森と水の郷あきた あきた森づくり活動サポートセンター. 2020年6月4日閲覧。
  46. ^ a b 野生植物[民間療法で利用されている種] 奄美群島生物資源Webデータベース
  47. ^ 相原傳、鈴木猛、山椒の成分に就いて (第5報) 殺虫及び魚毒成分 YAKUGAKU ZASSHI., Vol.71 (1951) No.11 P.1323-1324, doi:10.1248/yakushi1947.71.11_1323
  48. ^ 山椒は小粒でもぴりりと辛い”. コトバンク. DIGITALIO. 2023年12月10日閲覧。





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