コーポレート・ガバナンス コーポレート・ガバナンスの目的

コーポレート・ガバナンス

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2017/06/28 15:43 UTC 版)

コーポレート・ガバナンスの目的

菊澤 (2004) は、コーポレート・ガバナンスをめぐる議論を、(1)倫理に関わる問題と捉えるか、効率性に関わる問題と捉えるか、(2)広く社会全体(多様なステークホルダー)に関わる問題と捉えるか、株主債権者といった投資家と企業との関係として捉えるかによって分類し、次のように整理する[15]

コーポレート・ガバナンス問題の整理
企業と社会の問題(広義のガバナンス問題) 企業と投資家の問題(狭義のガバナンス問題)
倫理問題 社会倫理問題(正当性の問題) 企業倫理問題(正当性の問題)
効率問題 社会効率問題(国民経済政策の問題) 企業効率問題(企業政策の問題)

各国で1960年代から問われ始めたのは、公害等の社会倫理問題であったが、次第に、コーポレート・ガバナンス問題として問われる問題は、企業倫理問題(企業不祥事の防止)、そして企業効率問題(企業価値・業績の向上)、あるいは両者の複合問題へと移ってきたと指摘されている[16]

コーポレート・ガバナンスの必要性について、経済学のプリンシパル=エージェント理論(エージェンシー理論)は、次のように説明している。すなわち、株式会社においては、所有と経営が分離しており、株主は直接経営を行わず、経営者に経営を委任している。このような依頼人(プリンシパル)と代理人(エージェント)の関係においては、両者の利害が必ずしも一致しないこと(利害の不一致)、両者の持っている情報が同じではないこと(情報の非対称性)から、代理人が依頼人の利益を無視して自己の利益を追求するというモラル・ハザードが発生する可能性がある。例えば、経営者は、経営者としての名声を追求して、贅沢なオフィスを設けたり、不必要に多くの従業員を雇用したり、部下にポストを与えるために非効率的な事業に投資したりする可能性がある。そこで、このような問題を解決するために、依頼人である株主の利益が守られるよう、代理人である経営者を監視、規律するための制度として、コーポレート・ガバナンスが必要となる[17]

もっとも、このようなプリンシパル=エージェント関係は、経営者と株主との間だけでなく、経営者と債権者従業員、顧客、取引業者等の様々なステークホルダー(利害関係者)との間にも発生するものである。したがって、コーポレート・ガバナンスは、狭い意味では、「企業と投資家(特に株主)の問題」であるが、広い意味では、これらのステークホルダー全体の利益を守るための「企業と社会の問題」と捉えることも可能である[18]




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注釈

  1. ^ 例えば西ドイツの製造業の場合、1980年代のデータによれば、負債比率がおおむね70%前後、自己資本比率は30%前後であった。菊澤 (2004: 55)。原出典:日本銀行『国際比較統計1992』。
  2. ^ 1996年には、ドイツ(統一後)の製造業における自己資本比率は50.4%、負債比率は49.6%である。菊澤 (2004: 61)。原出典:日本銀行『国際比較統計1999』。
  3. ^ 住友銀行イトマンに対する不正融資(1990年)、富士銀行などでのニセ証書事件、日本興業銀行から尾上縫に対する巨額融資、東洋信用金庫の巨額ニセ預金証書発行事件(1991年)などが明らかになった。田村 (2002: 10)。
  4. ^ 日本合成化学、不二越と総会屋の癒着(1990年)、4大証券会社、平和堂(1991年)、高島屋(1996年)、味の素、旧第一勧業銀行松坂屋日立東芝三菱地所(1997年)、旭硝子日本航空(1998年)などの総会屋への利益供与が発覚した。菊澤 (2004: 30-31)。
  5. ^ 日東あられ、マクロスの粉飾経理事件(1991年)、アイペックの粉飾経理事件(1992年)、二信組事件(1995年)、三田工業の粉飾経理(1998年)などが発覚した。菊澤 (2004: 31)。

出典

  1. ^ 日本経済団体連合会「我が国におけるコーポレート・ガバナンス制度のあり方について」2006年6月20日
  2. ^ 菊澤 (2004: 12-14)。
  3. ^ 菊澤 (2004: 15-17)。
  4. ^ 菊澤 (2004: 17-19)、田村 (2002: 28-29)。
  5. ^ 菊澤 (2004: 17-20)、田村 (2002: 25-32)。
  6. ^ 田村 (2002: 33-36)。
  7. ^ 平田 (2001: 278)。
  8. ^ 平田 (2001: 285-91)。
  9. ^ OECDコーポレート・ガバナンス原則改訂版”. OECD東京センター (2004年4月22日). 2009年5月13日閲覧。
  10. ^ 平田 (2001: 291)。
  11. ^ 田村 (2002: 46)。
  12. ^ 平田 (2001: 291)。
  13. ^ 田村 (2002: 46)。
  14. ^ 町田 (2008: 66-69)。
  15. ^ 菊澤 (2004: 10-12)。
  16. ^ 菊澤 (2004: 33-35)。
  17. ^ 岩田 (2007: 43-45)、菊澤 (2004: 39-41)。
  18. ^ 菊澤 (2004: 41-42)。
  19. ^ 菊澤 (2004: 43-45)。
  20. ^ 田村 (2002: 178-80)。
  21. ^ 岩田 (2007: 45-46)、菊澤 (2004: 43)。
  22. ^ 菊澤 (2004: 45)。
  23. ^ 菊澤 (2004: 54)。
  24. ^ 神田 (2009: 25)、Kraakman et al. (2004: 13)。
  25. ^ 菊澤 (2004: 215-18)。
  26. ^ 岩田 (2007: 70-71)、菊澤 (2004: 219)。
  27. ^ 岩田 (2007: 208)。
  28. ^ 菊澤 (2004: 247)。
  29. ^ 岩田 (2007: 22, 123-26)。
  30. ^ 岩田 (2007: 61-62, 128-50)。
  31. ^ 岩田 (2007: 28, 173-76)。
  32. ^ 田村 (2002: 21-22, 44)。
  33. ^ 菊澤 (2004: 50)、田村 (2002: 39)。
  34. ^ 黒沼 (2009: 91-92)。
  35. ^ 田村 (2002: 38)。
  36. ^ 田村 (2002: 51-52)。
  37. ^ 日本経済団体連合会 (2006: 1(2))。
  38. ^ 黒沼 (2009: 92)、田村 (2002: 52)。
  39. ^ 田村 (2002: 50, 52-54)。
  40. ^ 菊澤 (2004: 57-58, 90)、田村 (2002: 54-55)。
  41. ^ 菊澤 (2004: 90-94)、田村 (2002: 55)。
  42. ^ 菊澤 (2004: 55-56)、田村 (2002: 56-57)。
  43. ^ 菊澤 (2004: 24-25)。
  44. ^ 菊澤 (2004: 61-62)。
  45. ^ 菊澤 (2004: 110)。
  46. ^ 菊澤 (2004: 111-12)。
  47. ^ 菊澤 (2004: 112-13)。
  48. ^ 菊澤 (2004: 114)、田村 (2002: 76-78)。
  49. ^ 菊澤 (2004: 114-18)、田村 (2002: 84-85)。
  50. ^ 田村 (2002: 85-92)。
  51. ^ 田村 (2002: 92-94, 114-27)。
  52. ^ 菊澤 (2004: 30-31)。
  53. ^ 菊澤 (2004: 31)、田村 (7-8)。
  54. ^ 田村 (2002: 156-61)。
  55. ^ 田村 (2002: 161-71)。
  56. ^ 菊澤 (2004: 32)、田村 (2002: 186-87)。
  57. ^ 「会社法」の概要”. 法務省民事局. 2009年5月19日閲覧。
  58. ^ 神田 (2009: 191-92)。
  59. ^ 神田 (2009: 191)。
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  61. ^ 神田 (2009: 191, 222-23)。
  62. ^ 神田 (2009: 192, 227-28)。
  63. ^ 黒沼 (2009: 75-76)。
  64. ^ 上場会社コーポレート・ガバナンス原則”. 東京証券取引所 (2004年3月19日). 2009年5月15日閲覧。
  65. ^ 日本経済団体連合会 (2006: 1(1))。
  66. ^ コーポレート・ガバナンスに関する報告書”. 東京証券取引所 (2008年9月9日). 2009年5月15日閲覧。
  67. ^ 企業行動の開示・評価に関する研究会 (2005年8月31日). “コーポレートガバナンス及びリスク管理・内部統制に関する開示・評価の枠組について-構築及び開示のための指針-”. 2009年5月11日閲覧。
  68. ^ 町田 (2008: 238-40)。
  69. ^ 【日本】金融庁と東証、コーポレートガバナンス・コードの適用を正式決定”. Sustainable Japan (2015年3月8日). 2015年3月9日閲覧。






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