コンブ 歴史

コンブ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/18 01:35 UTC 版)

歴史

爾雅』(紀元前3世紀〜2世紀ころ)には、『綸似綸,組似組,東海有之。』「綸(という発音で呼ばれているもの)は綸に似ている。組(という発音で呼ばれているもの)は組に似ている。これは東海にある」[45]と書かれており、『呉普本草』(3世紀前半〜中葉)には綸布の別名が昆布であるとする。また、陶弘景(456-536年)は、「昆布」が食べられることを記している[44]。ただし、前述のように、この「昆布」が日本で言う昆布と同じものなのかは定かでない。

日本では、古くから昆布が食べられてきた。縄文時代の遺跡からは、ワカメなどの海藻の植物遺存体が見つかっており[46]、コンブもまた、この時代から食されていたかもしれない。文字資料で残っているものとしては、前述の「軍布(め)」は、音から推測して、コンブであった可能性がある。続日本紀(797年)の霊亀元年(715年)十月丁丑条には、蝦夷(大和朝廷に属さない東北人一般とする説と、アイヌ人説がある)の須賀古麻比留が「先祖代々、朝廷に献上している昆布はこの地で取れるもので、毎年欠かしたことがない」と言った、とある。平安時代延喜式(927年)にも、陸奥から貢納されていたことが記されている。安土桃山時代には城建築の際に石を滑らせるための材料として使用していた。安土城大坂城でもこの工法が使われている。

戦国時代には、陣中食として昆布が使用されていた[47]。江戸中期には、敦賀が昆布の唯一中継地となり、弘化に入ってから江戸や大坂や各地に広がっていく。特に大坂においては問屋が発展した。蝦夷地北海道)の開発が盛んになると、北前船による「昆布ロード」などの航路の整備、出荷量の増加などにより全国に広まっていく事になる。とりわけ琉球王朝時代に昆布を中国への朝貢品の主要産物としていて、朝貢には適さない半端モノや下等級品をやむなく工夫して自家消費したことから、のちに伝統料理化する沖縄料理にはよく用いられる。

上方食文化における昆布

包装された日高昆布

乾燥させた昆布を湿気の多い大阪で倉庫に寝かせておくと、熟成することで昆布の渋みが無くなり甘みが出てくる。大阪に昆布が広まったのは商用船が日本海航路(北前船)を通って下関経由で大阪に運ばれるようになってからである。安土桃山時代に農・乾物の一大集積地であった大阪は多湿な気候が乾物や昆布の旨味を熟成させ、江戸時代にはこれらは大阪の味ともされた。

大阪の農産物と交換に蝦夷から運ばれた乾物は、昆布の他に、帆立貝棒だら身欠きにしんなどがある。主に商用船は太平洋側を避けて日本海航路で運ばれるようになったことから、大阪より敦賀小浜で昆布の消費が多い傾向が見られる。

また刃物の街であるの職人により、乾燥昆布を甘酢に浸し表面を削った「おぼろ昆布」が生まれた。昆布表面の黒い部分は甘酢がよく染みていることから、酸味が多い黒い「おぼろ昆布」(黒おぼろ)になる。中でも表面を薄く削ってゆくと、内側の白い部分が出てくる。ここは酢に浸っておらず、昆布本来の甘みがある。この昆布は「太白おぼろ」と呼ばれる。最後に残った昆布の芯の部分はばってら寿司や押し寿司に使われるばってら昆布(白板昆布)になる。薄く削るには職人による高等技術が必要とされる。

上記の堺でも「おぼろ昆布」が発達し、また北前船の集積地でもある敦賀でも「おぼろ昆布」技術が発達した。おぼろを削ったヘタの部分は爪昆布と呼ばれ、お菓子として食べられることがある。また、爪昆布は煮込むとコンブ特有の粘りが強く出ることから、煮物などの調理の際に煮汁と共に入れ、その粘りを利用して表面に浮いた灰汁取りを容易にするといった使い方もなされた。その他昆布の加工品と言えば、塩昆布(日高昆布)が連想されるが、戦国時代の出陣の際、勝ち栗や喜ぶなどの縁起を担いだ出陣式に醤油で炊かれた塩昆布は、細目昆布を醤油で煮込んだ物であった思われる。

醤油で炊かれた塩昆布を火鉢の網の上に並べて乾燥させては醤油に漬け、網の上で3回乾燥させた物を「汐吹き昆布」と言い昭和20年代に初めて作り出され商品化された。粉が表面に吹いているように見えるが、これは昆布の旨味成分が結晶化した物である。しかし現在では、イノシン酸や昆布のグルタミン成分などの調味料をまぶす場合もある。

江戸における昆布

北前船で蝦夷地から運ばれた昆布は上方でその多くが消費され、上質なものは上方で消費されたので江戸へ回った分はその残りで、量が多かった日高昆布がほとんどであった[48]。また、江戸の水質は上方より硬水寄りで、昆布のダシが出にくい水質であったために、ダシの材料として「鰹節」が多く使われていた[49]

江戸時代に江戸佃島では、昆布などの海藻などを醤油などで煮しめた料理が多く作られ「佃煮」と呼ばれるようになり、郷土料理となっている。

シーボルトの『江戸参府紀行』によると、最上徳内サガレン(樺太)に滞在した時に105人中53人が寒冷の影響で死亡したが、徳内は大量の昆布を食べることで、すこぶる健康であったと記載されている[50]


  1. ^ 文部科学省日本食品標準成分表2015年版(七訂)
  2. ^ 厚生労働省日本人の食事摂取基準(2015年版)
  3. ^ 吉江由美子、「海藻の食物繊維に関する食品栄養学的研究」 『日本水産学会誌』 2001年 67巻 4号 p.619-622, doi:10.2331/suisan.67.619
  4. ^ 米原万里『旅行者の朝食』にはソビエト連邦で深刻な食料品不足の時ですら誰にも買われず商品棚を満たしていた缶詰に「昆布のトマト煮」という物があったと書いてある。
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  7. ^ 大野正夫 「16 世界の海藻資源の概観」『有用海藻誌』 大野正夫 編、内田老鶴圃、2004年、初版、ISBN 4-7536-4048-5、pp.318-319.
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  9. ^ ネコアシコンブ属 BISMaL (Biological Information System for Marine Life) 独立行政法人海洋研究開発機構構築 2013年6月9日閲覧。
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  21. ^ https://www.maff.go.jp/j/tokei/kouhyou/kokusai/index.html#r
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  38. ^ 硬水・軟水で料理の味が変わる
  39. ^ 軟水、硬水はどのように使い分けされているのでしょうか。
  40. ^ 橋爪一男「「ラミナリア」桿」『醫科器械學雜誌』第17巻第3号、日本医療機器学会、1939年9月20日、65-66頁、NAID 110002532213 
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  48. ^ 奥井隆『昆布と日本人』日本経済新聞出版社〈日経プレミアシリーズ〉、2012年、初版、ISBN 978-4-532-26177-1、p.71
  49. ^ 奥井隆『昆布と日本人』日本経済新聞出版社〈日経プレミアシリーズ〉、2012年、初版、ISBN 978-4-532-26177-1、p.72
  50. ^ 宮本義己『歴史をつくった人びとの健康法』(中央労働災害防止協会、2002年、129-130頁)





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