コレステロール
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生化学
コレステロールは生体内の代謝過程において主要な役割を果たしている。まず多くの動物でステロイド合成の出発物質となっている。また動物細胞においては、脂質二重層構造を持つ生体膜(細胞膜)の重要な構成物質である。人間では肝臓および皮膚で生合成される。肝臓で合成されたコレステロールは脂肪酸エステル体に変換され血液中のリポタンパク質により全身に輸送される。
悪玉コレステロールと善玉コレステロール
コレステロールが生命維持に必須な役割を果たす物質であるという事実は、科学者以外にはあまり知られていない。むしろ、一般社会には健康を蝕む物質として認知されていることが多い。すなわち、様々なリポタンパク質コレステロール複合体の血液中でのあり方が、脂質異常症など循環器疾患の一因になるとの認識が強い。
たとえば、医師が患者に対してコレステロールの健康上の懸念がある場合には、悪玉コレステロール(LDLコレステロール:low density lipoprotein cholesterol、いわゆる bad cholesterol)の危険性を訴える。一方、悪玉コレステロールの対極には善玉コレステロール(HDLコレステロール:high density lipoprotein cholesterol、いわゆる good cholesterol)が存在する。この両者の違いはコレステロールを体内輸送する際における、コレステロールと複合体を作るリポタンパク質の種類によるものであり、コレステロール分子自体の違いではない。
悪玉といわれるLDL (コレステロールではない) が、動脈硬化巣に酸化LDLとし蓄積された結果、動脈が詰まり心筋梗塞や、その他の疾患を発生させていることが明らかになってきた。逆に善玉HDL(コレステロールではない) は、動脈硬化巣から酸化LDLを引き抜く作用があり善玉と呼ばれている。詳細は、脂質異常症、体内輸送およびリポタンパク質、変性LDLの項を参照のこと。
構造と生合成
コレステロールの存在自体は知られていたが、20世紀に入るまでその構造は長い間不明であった。1927年にコレステロールのステロイド骨格が4つの環構造6, 6, 6, 5員環が繋がっているものであると決定したのはオットー・ディールスである。彼はセレンを使った脱水素反応を利用した炭化水素の構造に関する系統的な研究を行っている。すなわち構造が未知の炭化水素を脱水素して二重結合を生成したり骨格を切断したりして既知の炭化水素に導き、元の炭化水素の構造を推定していくのである。ステロイド骨格もその一環でディールスの炭化水素と呼ばれる化学式 C16H18 の炭化水素から現在の立体配置を除くステロイド骨格の構造を決定した。この方法では構造変換の過程で立体構造に関する手掛かりが失われるため、コレステロールの立体構造は解明されないままであった。
1930年代はステロイドホルモンの単離と構造決定が相次いで研究された。この段階ではディールスの研究では立体構造が不明なため、これらのステロイドホルモンの構造はコレステロールを化学的に構造変換してステロイドホルモンへ変換しそれによって立体構造を決定している。
立体構造を最終的に決定したのはE・J・コーリーである。彼の天然物合成の研究方法に基づき、ほとんど立体構造が分からない状態から天然物の生成経路ならびに中間体の立体配座と反応機構からステロイド骨格の生成反応が立体特異的に進行することを見出した[12][13][14]。
コーリーの見つけ出したステロイド骨格(ラノステロール)の構築反応は、生体内で生じる生化学反応のなかでも非常にエレガントなものの一つである。動物の場合では、メバロン酸経路およびゲラニルリン酸経路を経て生合成されるスクアレンの2,3-位が酵素的にエポキシ化(オキシドスクアレン)されると、逐次閉環反応が進行するのではなく、一気にラノステロールが生成する。酵素によりエポキシ酸素がプロトネーションされるのをきっかけに、4つの二重結合のπ電子がドミノ倒しのように倒れこんでσ結合となりステロイドのA, B, C, D環が一度に形成される。それだけでなく、ステロイドの20位炭素上に発生したカルボカチオンを埋めるように、2つの水素(ヒドリド)とメチル基がそれぞれステロイド環平面を横切ることなく1つずつ隣りの炭素に転位することで、熱力学的安定配座となりラノステロールが生成する。
一方、植物の場合、ラノステロールではなく、シクロアルテノールと呼ばれる別のプロトステロールを経てコレステロールが合成される。シクロアルテノールは6, 6, 6, 5のステラン骨格に加えて3員環をもつ。スクアレンもしくはオキシドスクアレンから、ステロールと同様の環化機構により別のテルペノイドであるホパノイドやβ-アミリンを生成する生合成経路も知られている。
ラノステロールもしくはシクロアルテノールからさらに先は、リダクターゼとP450酵素によるメチル基の酸化が繰り返されて適用される。その結果、3つのメチル基が二酸化炭素として切断される酸化的脱メチル化によって(ラノステロールから17段階で)コレステロールが生成する[6][15]。
生体膜とコレステロール
リン脂質から人工的に製造した脂質2分子膜は電気容量、屈折率、水との界面張力が実際の生体膜とよく類似するが、生体膜と異なり相転移温度Tcを持つ。すなわちTc以上では流動性を示すが、Tc以下では硬くなり流動性を失う。
これに30–50 mol%のコレステロールを加えると流動性はさらに増し、しかもTcが消滅することが知られている。脂質2分子膜上では次のように埋め込まれる。すなわち、親水性を示すコレステロールのヒドロキシ基は外向きに配置されリン脂質の燐酸基部分と水素結合する。そして嵩高いステロイド骨格と炭化水素側鎖は内側のリン脂質の脂肪酸鎖の間に埋め込まれる。
コレステロールは細胞内膜系にも普遍的に存在するが、ミトコンドリアの脂質膜には例外的にほとんど含まれていない。
コレステロールは高等動物の細胞膜の必須成分であるが、植物の細胞膜には別のステロールであるフィトステロール類(シトステロール、スチグマステロール、フコステロール、スピナステロール、ブラシカステロールなど)が含まれ、真菌ではまた別のステロールであるエルゴステロールが含まれる。一方細菌の細胞膜にはコレステロールは含まれない[16]。代わりに一部の細菌はホパノイドと呼ばれる構造的に類似した化学物質を利用している。
注釈
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コレステロールと同じ種類の言葉
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