グリース 用途別分類

グリース

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/03 02:23 UTC 版)

用途別分類

JIS規格に基づく分類

日本工業規格では用途別にグリースを7種類に分類している[5]。各分類項ではグリースの成分、性能、および稠度番号が定められている。

用途別 種別 稠度番号 使用温度範囲(℃) 低荷重 高荷重 衝撃 水との接触 適用例
一般用グリース 1種 1号、2号、3号、4号 -10 - +60 一般低荷重用
2種 2号、3号 -10 - +100 一般中荷重用
転がり軸受用グリース 1種 1号、2号、3号 -20 - +100 汎用
2種 0号、1号、2号 -40 - +80 低温用
3種 1号、2号、3号 -30 - +130 広温度範囲用
自動車用シャシーグリース 1種 00号、0号、1号 2号 -10 - +60 自動車シャシー用
ホイールベアリンググリース 1種 2号、3号 -20 - +120 自動車ホイールベアリング用
集中給油用グリース 1種 00号、0号、1号 -10 - +60 集中給油式中荷重用
2種 0号、1号、2号 -10 - +100 集中給油式中荷重用
3種 0号、1号、2号 -10 - +60 集中給油式高荷重用
4種 0号、1号、2号 -10 - +100 集中給油式高荷重用
高荷重用グリース 1種 0号、1号、2号、3号 -10 - +100 衝撃高荷重用
ギヤコンパウンド 1種 1号、2号、3号 -10 - +100 オープンギヤ及びワイヤロープ用

各分類項について説明する。

  • 一般用グリース
    • 1種 ― 増稠剤にカルシウム石鹸を用い、耐水性が高いグリース。1号、2号、3号、4号で滴点はそれぞれ80℃以上、85℃以上、85℃以上、90℃以上であり、熱に弱い。水洗耐水度(38度、1時間)は質量分率20%以下。水分の規定上限が存在する。
    • 2種 ― 増稠剤にナトリウム石鹸を用い、耐熱性が高いグリース。滴点は170℃以上。水に弱い。水洗耐水度の規定は無い。
  • 転がり軸受用グリース
    • 1種 ― 主に基油と増稠剤から成り、機械的安定性、耐水性、および防錆性が良好なもの。
    • 2種 ― 1種の特性に加え、低温性が優れているもの。
    • 3種 ― 2種の特性に加え、耐熱性が優れているもの。
  • 自動車用シャシーグリース1種 ― 増稠剤にカルシウム石鹸を用い、耐荷重性と圧送性が良好なもの。
  • 自動車用ホイールベアリンググリース1種 ― 主に基油と増稠剤から成り、耐熱性、耐水性、機械的安定性および耐漏洩性が良好なもの。
  • 集中給油用グリース
    • 1種 ― 増稠剤にカルシウム石鹸を用い、圧送性が良好なもの。
    • 2種 ― 主に基油と増稠剤から成り、圧送性、耐熱性、耐水性、および機械的安定性が良好なもの。
    • 3種 ― 増稠剤がカルシウム石鹸で極圧添加剤が配合されており、圧送性と耐荷重性が良好なもの。
    • 4種 ― 極圧添加剤が配合されており、圧送性、耐熱性、耐荷重性、および機械的安定性が良好なもの。
  • 高荷重用グリース1種 ― 二硫化モリブデンなどの固体潤滑剤が配合されており、耐荷重性、機械的安定性および耐熱性が良好なもの。
  • ギヤコンパウンド1種 ― 主に基油とアスファルトから成るもの。

JIS規格に基づかない分類

シャーシーグリース
自動車のシャーシーの軸受や摺動部に用いられるグリースをシャーシーグリースと呼ぶ。シャーシーグリースには高い耐水性が要求される一方、高い耐熱性は必要とされない。一般的にシャーシーグリースにはカルシウムグリースやリチウムグリースなどが用いられている。一方、ブレーキ用のグリースにはゴムに対する潤滑性や化学的安定性が必要とされるため、ラバーグリースが採用される。
ラバーグリース
ゴム用のグリース。特徴として、ゴムの潤滑性を特に高めることと、化学的にゴムを侵さない。シリコーングリースやグラファイトグリースなどである。自動車のブレーキなど、特に荷重が大きい箇所へのラバーグリースには二硫化モリブデンや有機モリブデンなどの極圧剤が配合される。
耐樹脂性グリース
樹脂への影響が小さくなるよう設計されたグリース。樹脂と接触する(樹脂-樹脂、樹脂-金属の潤滑)、あるいは接触する可能性のある個所での潤滑に使用される。耐樹脂性がないグリースでは樹脂の潤滑においてスティックスリップ、異音、摩耗が生じやすい。特にエステル系グリースの場合、エステル系の基油は樹脂組織に浸透しやすく、樹脂折れやひび割れを起こす。耐樹脂性グリースは塗布面近傍への基油の拡散が少なく(このことを、耐拡散性が高いと表現する)、AV・OA機器等の光学部品やテープの汚染防止につながる。また、手触りが滑らかかつべたつきがない(このことを、フィーリング性が高いと表現する)。フィーリング性は、ステレオボリューム等、手動操作時の滑らかさが必要な摺動部品で必要とされる。耐樹脂性グリースの例として、基油として合成炭化水素油、増稠剤として汎用型のリチウム石けん系と耐熱性型のジウレア系が採用されている[8]
実験室用グリース
実験室で使われるグリース。左はクライトックス、右はシリコングリース。使いやすいように注射器に入れられている
アピエゾン (Apiezon)、シリコングリース、フルオロエーテルグリースがコックやガラス器具のすり合わせ用の潤滑剤として一般的に用いられる。グリースはすり合わせが固まって取れなくなることを防いだり、高真空系での空気漏れを防ぐ。
アピエゾンや類似の炭化水素を主成分とするグリースは高真空を作る際に最も適している。また、大部分の有機溶媒に可溶である。そのためペンタンヘキサンを使ってふき取ることが容易であるが、反応混合物を汚染しやすい。
シリコングリースはアピエゾンやフルオロエーテルグリースよりも安価である。比較的不活性であり、普通は反応に影響を及ぼすことはないが、これも反応混合物を汚染しやすく、化合物の構造決定に用いられる 1H NMR で δ 0 付近のピークとして検出される。溶媒を使ってふき取るか、細かい構造を持つ器具の場合はアルカリバスに浸すことによって除去できる。
フルオロエーテルグリースは溶媒、酸、塩基、酸化剤に対して安定である。しかしながら高価であり、また除去することが困難である。
水溶性グリース類
グリースが持つ潤滑剤としての性能や高い粘度を有し、かつ毒性が無く油を主成分としない物質が必要とされる場合がある。カルボキシメチルセルロース (carboxymethyl cellulose, CMC) はそのような場合に用いられる水溶性グリース類の1つである。CMC は溶液けん濁剤および潤滑剤として使われ、さらに潤滑能が求められる場合はシリコングリースが添加される。外科的処置等に用いられるこの種の潤滑剤のうち、最も一般的なものはKYゼリーである。
接点用グリース
接点用のグリース
電気・電子部品の摺動接点部や接続部などに用いるグリース。導電性を安定させ、火花の発生を防ぎ、摺動接点部や接続部の酸化や摩耗を抑制する。熱で流出せず安定した粘性を保つなどの要件が求められる。あえて導電性を持たせていないものを一般に用いるが(写真のものはその一例)、カーボンファイバーなどの導電性物質を含み、グリス自体に導電性を持たせることで、接点抵抗の低減を図ったものもある。後者は隣接する接点を不用意に導通させ、電気回路の短絡を招く場合があるので、使用場所に留意する必要がある。

食品機械用グリース

アメリカ国立科学財団(NSF)は、食品機械用潤滑剤の規格を定めている。この規格は「食品工場用潤滑油 NSFガイドライン」と呼ばれる。現在、この規格が食品機械用潤滑剤の規格として唯一である[9]。日本においても食品機械用グリースの販売に際して同規格は参照されている。食品工場用潤滑油 NSFガイドラインの内容を以下に示す[10][9]

H1:Lubricants with incidental contact
食品に接触するべきではないが混入しても安全な潤滑剤。言い換えれば食品との偶発的接触が許諾される潤滑剤。原材料は、アメリカ食品医薬品局(FDA)の規格21CFR 178.3570に記載された物質および、FDAが安全基準合格証(GRAS)を与えた物質(GRAS物質)のみでなければならない。
H2:Lubricants with no contact
食品に絶対に接触してはならない潤滑剤。ただし、食品と接触する可能性のない箇所(食品工場内部や周囲で食品の置かれていない所)では使用が可能。鉛化合物などの明らかに人体に有害である物質を含まない。
H3:Soluble oils
食肉等を吊すフックやレールに引っ掛けるトロリーに塗布する防錆用オイル限定の規格。原材料はFDA規定の食用油(大豆油コーン油など)やGRAS物質のみでなければならない。
HT1:Heat transfer fluids with incidental contact
偶発的に食品に触れる可能性がある箇所で使用できる熱媒体油。原材料はFDAの21CFR 178.3570に記載された物質、172、182及び184で規定された物質のみでなければならない。
HT2:Heat transfer fluids with no contact
食品に触れる可能性がない箇所でのみ使用できる熱媒体油。鉛化合物などの明らかに人体に有害である物質を含まない。
3H
直接食品に接触する目的で使用される潤滑剤。食品との直接接触する離型剤、グリルやフライパン等の上で焦げ付きを防ぐ植物油など。

NSFは各規格の潤滑剤を登録している[11]。衛生管理基準の国際的な規格FSSC22000は食品や包装容器メーカーを対象に、食品への意図的な異物混入の防止策などを規定している。FSSC22000では食品への潤滑剤混入リスク対策としてNSF H1登録潤滑剤の使用を推奨している。食品機械用グリースの用途としては煮物釜、オーブン、ミキサー、ミンチ機、食肉加工機、洗瓶機、瓶詰機、缶詰機、食品用コンベアなどである。


  1. ^ ある平面にグリースを塗布して平面だけを動かしたとき、グリースにおける平面との接触面に、平面の運動方向と平行な力が加わる。この力を剪断力という。剪断力の大きさを接触面の面積で割った数値を剪断応力という。剪断応力の単位はPa、またはN/m2である。例えばグリースを塗布した軸に軸受けをはめた後に軸を高速回転させた場合、回転の描く円の接線方向でグリース(の接触部)に生じる力が剪断力である。
  1. ^ a b グリース基礎知識”. 中央油化株式会社. 2016年5月12日閲覧。
  2. ^ a b c グリースの基礎知識”. 株式会社ラブノーツ. 2017年1月7日閲覧。
  3. ^ ニュートン流体とは”. ジュンツウネット21. 2017年1月7日閲覧。
  4. ^ a b グリースのチキソトロピー性と流動性とは”. ジュンツウネット21. 2017年1月7日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j k l m n o JIS K 2220:2013”. kikakurui.com. 2017年1月7日閲覧。
  6. ^ a b グリースの性状や性能を試験する方法”. ジュンツウネット21. 2017年1月10日閲覧。
  7. ^ JIS K 2275-1:2015 原油及び石油製品-水分の求め方-第1部:蒸留法”. kikakurui.com. 2017年1月17日閲覧。
  8. ^ 耐樹脂性グリース(なぜ必要か)”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  9. ^ a b 食品機械用潤滑剤のリスク管理と市場動向”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  10. ^ NSFガイドライン”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  11. ^ 食品機械用潤滑油等の NSF登録 に関して”. ジュンツウネット21. 2017年1月15日閲覧。
  12. ^ a b c グリースの分類と特性”. 共同油脂株式会社. 2017年1月8日閲覧。
  13. ^ a b 潤滑剤の基礎知識”. 友信貿易. 2017年1月8日閲覧。
  14. ^ a b c d e f g h グリースの種類と使用方法について”. ジュンツウネット21. 2017年1月8日閲覧。
  15. ^ グリース”. 油脂技術委員会. 2017年1月9日閲覧。
  16. ^ 特集記事「グリースの市場動向」2005/11”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  17. ^ グリースの生産実績推移”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  18. ^ a b c グリースについて”. 2017年1月9日閲覧。
  19. ^ 各種潤滑油の製造に使われるベースオイルの品質性状”. ジュンツウネット21. 2017年3月28日閲覧。
  20. ^ ジェイテクト「ベアリング入門書」編集委員会. 図解入門よくわかる最新ベアリングの基本と仕組み 
  21. ^ a b 合成系グリース(どのような用途に向くか)”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  22. ^ a b エステル系合成潤滑油の使い方”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  23. ^ 【工業用】エステル系グリース”. 住鉱潤滑剤株式会社. 2017年1月9日閲覧。
  24. ^ フッ素系合成潤滑油の特長”. ジュンツウネット21. 2017年1月9日閲覧。
  25. ^ a b フェニルエーテル系(厳しい条件下で活躍)”. ジュンツウネット21. 2017年1月18日閲覧。
  26. ^ a b グリースに増ちょう剤や添加剤は何故必要か”. ジュンツウネット21. 2017年1月16日閲覧。
  27. ^ グリースの製造方法”. 中央油化株式会社. 2017年1月17日閲覧。
  28. ^ グリースの分類と特性
  29. ^ 使用グリース分析による潤滑状態の把握”. ジュンツウネット21. 2017年1月21日閲覧。
  30. ^ a b グリースの劣化判定方法および汚染物除去方法”. ジュンツウネット21. 2017年1月19日閲覧。
  31. ^ ISO 6743-9:2003”. International Organization for Standardization(ISO). 2017年1月19日閲覧。





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