クローン 再生医療への応用

クローン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/09 07:16 UTC 版)

再生医療への応用

個体全身を作製するクローンではなく、体細胞クローン技術やその途中経過である移植者自身の体細胞より発生した幹細胞を利用することで、臓器を複製し機能の損なわれた臓器と置き換えたり、あるいは幹細胞移植による再生医療も研究されている。

法規制

日本におけるクローン技術規制法のように、世界各国でヒトクローンを禁止する枠組みができつつある。理由としては、先ほど出たような寿命が短いというような問題の他に、「外見の全く一緒の人達が何人もいると社会制度上大変なことになる」「優秀な人間のクローンをたくさん作り優秀な人間だけの軍隊を作る」、「独裁者がクローンで影武者を立てる」などといった事態[注釈 2]が起こるから、ということが挙げられるが、上記のように根本的に不可能なものがある[注釈 3]。また、「優秀な人間だけの軍隊・野球チーム・サッカーチーム」などという存在は、生まれてきたクローン人間に強制的に軍人やスポーツ選手の道[注釈 4]を歩ませない限り不可能であり、これは「クローン人間に普通の人間並みの人権を認めない」ということになり人権上問題があるばかりか、ある意味奴隷制度にもつながりかねないものである。なお、研究上ネアンデルタール人等といった古人類のクローンについては規定が明確ではなくグレーの部分がある。絶滅した古人類をヒトとして扱うか動物として扱うかは本来法的に問題にならないが、クローン技術で復活させて研究する等といった、技術的な進歩次第では人類進化のための研究を認めるか等を考慮する必要性が発生することも考えられる。

菅沼信彦はいくら法規制をしたとしても、権力者が自分のクローンを作ろうとすることは止められないだろうと述べている。[14]

加藤尚武は、「(クローンの作成が)ドイツでは禁止されているから、アメリカで作ろう」というような事態が起きないように、全世界共通の倫理基準を作るべきだと主張している[15]

このような禁止措置はES細胞iPS細胞などの生命科学の発展の障害となる可能性があり、考え方の対立が問題となっている。

宗教の見解

多くの宗教はクローン(特に人間のクローン)の作成について批判的な見解を持っている。

  • 浄土宗は、ラエリアン・ムーブメントによるクローン人間作製の発表後に、それを批判する声明を出した。クローン人間の作成は「いのち」への冒涜であり、「人間の優劣・差別、支配・被支配につながるとともに、奴隷人間の生産という修羅道への転落を予告するものである」と主張した[16]
  • 日本のカトリック教会においては、日本司教協議会が、クローン人間も絶対的価値と尊厳を有する「人間」であることに変わりはなく、「人間」を作る行為は神によってのみなされるべきものであって人間の手でなすべきことではないと主張している。また、クローン人間が持つ「男女の営みにおいて誕生し、父と母とのもとで養育される権利」を誰が保証するのかが明らかになっていない点を批判している。さらに、ヒトのクローンの研究が人間の生命維持に貢献するかどうかわからないことも問題視している[17]

クローン人間作製を推進するラエリアン・ムーブメントの関連企業であるクロネイド社は、ES細胞を用いたクローン技術によって、人工臓器を作ることができ、多くの人々を救えると主張している。また、不妊に苦しむカップルにとっては、クローン技術こそ子孫を残すための唯一の方法であるとしている[18]


注釈

  1. ^ 2002年に新宗教団体ラエリアン・ムーブメントの関連団体であるクロネイド社がクローン人間を作ったと発表している。しかし、真偽は不明である。
  2. ^ サイエンスフィクションではよくある表現である。
  3. ^ たとえば、手塚治虫の「火の鳥」の生命編では「クローン人間を使用した殺人ゲーム」が営利目的で企画・実行されるが、クローン元になる大人と同じ年齢・容姿の人物がクローンとして出現することになっている。実際には「クローン元になる大人と同じ遺伝情報を持った赤ん坊が出現する」ものであるため、それで殺人ゲームをやろうとすれば「赤ん坊を一方的に殺す何のスリルもないもの」か「苦労して殺人ゲーム用の赤ん坊を育てなくてはならないまったく経済的に引き合わないもの」になる。
  4. ^ 肉体が同じであっても、メンタル面での違いがあるため、同じパフォーマンスを発揮できるとは限らない。

出典

  1. ^ 体細胞クローンの遺伝子発現は正常か? 東京医科歯科大学難治疾患研究所
  2. ^ ヤマコウバシがたった1本の雌株から生じた巨大なクローンであることを発見!、2021年2月26日、大阪市立大学
  3. ^ Mary Bates (2017年2月3日). “カニがイソギンチャクのクローン作り共生維持か”. ナショナルジオグラフィック. http://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/16/c/020200027/ 2018年6月17日閲覧。 
  4. ^ Charles C. Mann (2003年1月). “The First Cloning Superpower”. Wired. http://www.wired.com/wired/archive/11.01/cloning_pr.html 2007年6月3日閲覧。 
  5. ^ Chaĭlakhian LM, Veprintsev BN, Sviridova TA, Nikitin VA (1987). “Electrostimulated cell fusion in cell engineering”. Biofizika 32 (5). PMID 331894. 
  6. ^ 世界最高齢の体細胞クローン豚「ゼナ」 約10年で寿命を終える”. 農業生物資源研究所 (2010年4月22日). 2016年12月1日閲覧。
  7. ^ David Braun (2002年2月14日). “Scientists Successfully Clone Cat”. National Geographic. http://news.nationalgeographic.com/news/2002/02/0214_021402copycat.html 2007年6月3日閲覧。 
  8. ^ FIGURE 1. Nuclear-donor cat, and cloned kitten with its surrogate mother. - ネイチャー 2002年2月21日
  9. ^ “Pet Cat Cloned for Christmas”. BBC. (2004年12月23日). http://news.bbc.co.uk/2/hi/americas/4120179.stm 2007年6月3日閲覧。 
  10. ^ “世界初の遺伝子組換えクローン犬、中国が育成に成功”. 人民網. (2017年7月6日). http://j.people.com.cn/n3/2017/0706/c95952-9238058.html 2018年4月18日閲覧。 
  11. ^ 北京公安局に「クローン警察犬」…攻撃性高い犬の体細胞採取”. 読売新聞 (2019年11月27日). 2019年12月3日閲覧。
  12. ^ a b “世界初、サルのクローン誕生 羊のドリーと同じ手法で”. AFPBB. (2018年1月25日). https://www.afpbb.com/articles/-/3159894 2018年2月7日閲覧。 
  13. ^ “ゲノム編集サルでクローン 5匹誕生、世界初と中国”. 時事通信. (2019年1月24日). https://web.archive.org/web/20190125073455/https://this.kiji.is/461099816758707297 2019年1月25日閲覧。 
  14. ^ 「最新 生殖医療」p56(名古屋大学出版会、2008年)
  15. ^ クローン技術と倫理 ライフサイエンスには特有の規制条件が成立するか”. 2014年2月8日閲覧。
  16. ^ クローン人間誕生に対する浄土宗の声明”. 2014年2月8日閲覧。
  17. ^ クローン人間の研究に関する日本カトリック教会の見解”. 2003年3月2日時点のオリジナルよりアーカイブ。2021年1月12日閲覧。
  18. ^ FAQs”. 2014年2月8日閲覧。






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