クロルプロマジン クロルプロマジンの概要

クロルプロマジン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/05 02:08 UTC 版)

クロルプロマジン
IUPAC命名法による物質名
臨床データ
胎児危険度分類
  • C(US)/妊婦または妊娠している可能性のある婦人、授乳中の婦人には投与しないことが望ましい(日本)
法的規制
  • (Prescription only)
投与方法 経口、坐剤、筋注、静注(点滴)
薬物動態データ
生物学的利用能経口投与で30〜50%(個人差10〜70%)
代謝肝臓(主にCYP2D6
半減期16~30時間。長期連用で自己代謝誘導
排泄代謝物が胆汁・尿中排泄(未変化体排泄はごくわずか)
識別
CAS番号
50-53-3 (free base)
69-09-0 (hydrochloride)
ATCコード N05AA01 (WHO)
PubChem CID: 2726
DrugBank APRD00482
ChemSpider 2625
KEGG D00270
化学的データ
化学式C17H19ClN2S
分子量318.86 g/mol (free base)
355.33 g/mol (hydrochloride)
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沿革

1950年フランスの製薬会社ローヌ・プーラン(Rhône-Poulenc、現サノフィ・アベンティス)により、抗ヒスタミン薬として開発されたものの、鎮静作用が強すぎる上、抗ヒスタミン作用が少ないと当時は評価された(整理番号は4560RP)。

ドパミン遮断剤のほか、古くからヒベルナシオン (hivernation) という麻酔前投与剤として知られていた。

1952年2月、外科医であったアンリ・ラボリが、麻酔とクロルプロマジンを併用したところ、精神症状の変化に気づき、精神科治療での有用性を示唆した。同年3月に精神疾患患者でのクロルプロマジンの効果がみられ、その後1年の間にフランス全土で統合失調症に用いられるようになった。翌年にはヨーロッパ全土で用いられるようになった[1]

クロルプロマジンが、薬理作用としてドパミン遮断効果(その作用機序は、脳内の中枢神経系で、興奮や妄想を生み出すと考えられている、神経伝達物質ドパミンのD2受容体の回路を遮断することにある)を有することは、ラボリの発見まで知られていなかった。

約12.5 mg程度で、乗り物酔いの防止効果と悪心の防止効果を生じ、精神神経疾患に対しては、アメリカ合衆国では1日あたりの投与量が 1,000 mg 程度のいわゆる『1キロ投与』が、統合失調症精神障害者治療に発明当初から広く使用された。ヒベルナシオンとしての麻酔前投与も古くから行なわれ、この用途では前記発明以前から知られていた。

日本では、大阪地方裁判所昭和33年9月11日言渡:判例時報162号23頁)で、クロルプロマジンの被告製法が迂回方法にならない(すなわち非侵害)と判断された。吉富製薬がその迂回発明に拠る製法特許を取得し、市場の西半分はコントミンが占有し販売されている。ノバルティスの輸入品はウインタミン塩野義製薬取次)の商標を使用している。

クロルプロマジンの発明が、統合失調症における薬物治療の幕開けと、精神科病院閉鎖病棟を開放する、大きな動機づけとなったことは良く知られている。[要出典]ドパミン遮断薬としては最も歴史が古く、その塩の成分により、前者の迂回発明による吉富製薬迂回製法によるクロルプロマジン剤と、塩野義製薬の正規輸入クロルプロマジン剤とで多少の差異があるものの、薬効には差異はみられない。なお、吉富製薬(現「田辺三菱製薬」)は、この当事者系特許侵害訴訟(塩野義製薬が原告で請求棄却)に勝訴し、日本でのクロルプロマジンの市場を寡占状態近くにまで伸ばし、旧来の一流製薬企業に比肩することになった。

塩野義製薬は、1957年にクロルプロマジンとフェノバルビタールプロメタジンを含む、処方箋医薬品の合剤『ベゲタミン』を発売した[2]。赤玉、白玉の名で知られたが、強力な副作用やオーバードースが問題視されて、2016年12月に発売を終了した[2]

適応

基本的な注意点

重要な副作用は、パーキンソン症候群である。初期は手がふるえ、綺麗な文字が筆記できなくなり(くずしたような文字になる)、痙攣(振戦)が生じ、横隔膜の痙攣(しゃっくり)なども生ずることが報告されている。美容上では色素沈着などが生じ、その結果そばかす状の汚点などが生じる。眼科では網膜に色素沈着が生ずることも知られている。

抗パーキンソン薬(ビペリデン「biperiden」、商標:アキネトンタスモリンビカモール)をクロルプロマジンと同時に投与(1mg/日、から3-6mg/日)する方法で前記の「パーキンソン症候群」を防止することができるが、最悪は「遅発性ジスキネジア」のビペリデンのリバウンドを防ぐことができないので、「抗パーキンソン薬」を安易に投与せず、1日の投薬量を600mg以下の適量まで減薬し、パーキンソン症候群のリバウンドを生じさせない処方への切り替えが呼びかけられている[3][4]


  1. ^ 高橋一志. 向精神薬の今(1)抗精神薬. 日本医事新報 2014; 4709:14-21.
  2. ^ a b 佐藤光展 (2016年6月30日). “「飲む拘束衣」販売中止へ”. 佐藤記者の「新・精神医療ルネサンス」 (読売新聞東京本社). https://yomidr.yomiuri.co.jp/article/20160630-OYTET50016/ 2016年11月14日閲覧。 
  3. ^ 精神科の薬を知ろう こころの元気+オンライン 2009年、 NPO法人地域精神保健福祉機構コンボ ( 「こころの元気+」 2005年5月号、特集「薬を減らして元気になりたい」からの転載
  4. ^ 誤診・誤処方を受けた患者とその家族たち + 笠陽一郎『精神科セカンドオピニオン - 正しい処方と診断を求めて』(シーニュ、2008年7月10日) ISBN 978-4990301415 p.194
  5. ^ コントミン糖衣錠12.5mg/コントミン糖衣錠25mg/コントミン糖衣錠50mg/コントミン糖衣錠100mg 添付文書” (2015年4月). 2016年11月4日閲覧。


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