クルックス管 クルックス管の概要

クルックス管

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/05 03:35 UTC 版)

オフ状態とオン状態のクルックス管。右のガラス壁の蛍光に差すマルタ十字の影が示すように、電子線(陰極線)は陰極(左)から出たあと直進する。基底部に取り付けられた電極が陽極である。

前身であるガイスラー管と同じように、クルックス管は様々な形状のガラス容器の両端に金属電極陰極陽極)を取り付けたものである。ただし、ガイスラー管よりも高い真空度にまで排気されている。電極間に高電圧が印加されると、陰極からいわゆる陰極線がまっすぐ飛び出してくる。クルックスのほか、ヴィルヘルム・ヒットルフユリウス・プリュッカー英語版オイゲン・ゴルトシュタインハインリヒ・ヘルツフィリップ・レーナルトらはクルックス管を用いて陰極線の性質を研究した。陰極線に関する最大の知見は、その正体が負の電荷を持つ粒子流れだというもので、J. J. トムソンの発見による。この粒子は後に「電子」("electron")と名付けられた。現在ではクルックス管は陰極線の演示用にしか用いられていない。

ヴィルヘルム・レントゲン1895年にクルックス管から放射されるX線を発見した。実験用のクルックス管から発展した第一世代の冷陰極X線管は「クルックスのX線管」と呼ばれ、1920年ごろまで利用されていた[5]

オフ状態。
磁石がなければ陰極線は直進する。
陰極線がU字磁石によって下方に曲げられた。
陰極線の磁気偏向を実演している様子。陰極(右側)の近くに磁石を置いて水平方向の磁場を作用させると、陰極線は磁場に直交する方向に力を受けて下方に曲げられ、管底の蛍光スポットが下にずれる。管の中の残留空気が電子線を受けてピンクに発光している。

  1. ^ クルックス管(クルックスかん)の意味”. goo国語辞書. 2019年12月8日閲覧。
  2. ^ Crookes, William (December 1878). “On the illumination of lines of molecular pressure, and the trajectory of molecules”. Phil. Trans. 170: 135–164. doi:10.1098/rstl.1879.0065. 
  3. ^ "Crookes Tube". The New International Encyclopedia. Vol. 5. Dodd, Mead & Co. 1902. p. 470. 2016年6月29日閲覧
  4. ^ Crookes tube”. The Columbia Electronic Encyclopedia, 6th Ed.. Columbia Univ. Press (2007年). 2016年6月29日閲覧。
  5. ^ Mosby's Dental Dictionary, 2nd ed., 2008, Elsevier, Inc. cited in "X-ray tube". The Free Dictionary. Farlex, Inc. 2008. 2016年6月29日閲覧
  6. ^ Kaye, George W. K. (1918). X-rays (3rd Ed ed.). London: Longmans, Green Co.. p. 262. https://books.google.co.jp/books?id=UFhDAAAAIAAJ&pg=PA262&redir_esc=y&hl=ja 2016年6月27日閲覧。  Table 27.
  7. ^ Tousey, Sinclair (1915). Medical Electricity, Rontgen Rays, and Radium. Saunders. p. 624. http://www.electrotherapymuseum.com/Library/TouseyMedicalElectricity/Vacuums/index.htm 2016年6月27日閲覧。 
  8. ^ C. H. Gimingham (1876). “On a new Form of the 'Sprengel' Air-pump and Vacuum-tap”. Proceedings of the Royal Society of London 25: 396-402. https://archive.org/details/philtrans05435332 2016年6月28日閲覧。. 
  9. ^ Pais, Abraham (1986). Inward Bound: Of Matter and Forces in the Physical World. UK: Oxford Univ. Press. p. 79. ISBN 0-19-851997-4. https://books.google.co.jp/books?id=mREnwpAqz-YC&pg=PA81&redir_esc=y&hl=ja 2016年6月28日閲覧。 
  10. ^ a b Thomson, Joseph J. (1903). The Discharge of Electricity through Gasses. USA: Charles Scribner's Sons. p. 138. https://books.google.co.jp/books?id=Ryw4AAAAMAAJ&pg=PA138&redir_esc=y&hl=ja 2016年6月28日閲覧。 
  11. ^ X線のエネルギーと透過力は管電圧とともに上昇する。電圧5000 V以下でもX線は生成するが、「硬度」が足りないため、ごくわずかなX線しかガラス壁を貫通しない。
  12. ^ Peters, Peter (1995年). “W. C. Roentgen and the discovery of X-rays” (Chapter 1). Textbook of Radiology. Medcyclopedia.com, GE Healthcare. 2013年6月16日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年5月5日閲覧。レントゲンは死後に研究ノートを焼き捨てさせたため、X線発見時の情況については多くの異説がある。この記述は伝記作家が作り上げたストーリーである可能性が高い。
  13. ^ Röntgen, Wilhelm (1896-01-23). “On a New Kind of Rays”. Nature 53 (1369): 274–276. Bibcode1896Natur..53R.274.. doi:10.1038/053274b0. http://www.nature.com/nature/journal/v53/n1369/pdf/053274b0.pdf 2016年6月29日閲覧。. , 1895年12月28日にWurtzberg Physical and Medical Societyに届けられた論文の英訳版。
  14. ^ Brona, Grzegorz. “The Cathode Rays”. Atom - The Incredible World. 2009年5月25日時点のオリジナルよりアーカイブ。2008年9月27日閲覧。
  15. ^ (Pais 1986), pp. 79-81.
  16. ^ (Thomson 1903), pp. 189-190.
  17. ^ E. Goldstein (1876). Monat der Berl. Akad.. p. 284. 
  18. ^ E. Goldstein (1886). Berliner Sitzungsberichte 39: 391. 
  19. ^ (Thomson 1903)pp.158-159
  20. ^ Concept review Ch.41 Electric Current through Gasses”. Learning Physics for IIT JEE (2008年). 2016年6月29日閲覧。





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