クルアーン 構成

クルアーン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/12/12 23:53 UTC 版)

構成

ウスマーン版のクルアーンは、全てで114の章(スーラ)からなり、スーラは節(アーヤ)に分かれている。各章はムハンマドに下されたひとつひとつの啓示であるが、長短は非常に大きなばらつきがあり、もっとも短い第108章「潤沢」には3節しかなく、もっとも長い第2章「牝牛」は286節ある。また、章の分け方とは別に、読誦するときに一度に読む目安となる分量ごとに全体を30等に分割したジュズウという巻に分かれており、ラマダーン月などに、1日に1巻ずつ読誦すると1ヶ月で全てを読誦できるようになっている。

章の構成は、第1章「開扉」を例外として、概して長い章から短い章へ向かう方針で編纂されており、時系列はばらばら。しかし、後代のウラマー(イスラームの学者の総称)らの研究によりおおよその推測がなされるようになった。そこでクルアーンの章を時期別に大きく三つに区分することができる。第1期はムハンマドが初めてアッラーフの啓示を受けてからの初期段階、第2期は大衆への伝道を進め、メッカにおける迫害が厳しくなった時期、第3段階はヒジュラ(ムハンマドがメッカの迫害を逃れてメディナへ移ったこと)以降の啓示である。

それぞれの特色を述べると、第1期は啓示が押し並べて短い。この時期はムハンマド自身がイスラームの境地を見出そうとしているときであり、信奉者もごく少数の身内が主であった。初めてアッラーフの言葉を聞いた当初のものとされるクルアーンの記述を見ると、ムハンマドのアッラーフの言葉へ対する畏怖の念が強く出ているのが興味深い。啓示も神の創造と世界の終末を厳かに語り、アッラーフの権威付けを行っている。そして詩的で力強い。

第2期の特徴としては、約80章もの啓示が下り、分量が多いことと、内容が説話的であるということである。ただし、旧約聖書新約聖書に比べると、クルアーンはストーリー性を重視していないきらいがあり、かなり端折ったりしている。この頃になると一般大衆の信奉者が増え、危機感を持ったクライシュ族による迫害が始まる。ここで改めてイスラームの正当性を主張し、ムスリムの結束を呼びかけているのである。

第3期の特徴としては、一章あたりの啓示が長いこと。内容としては法制的で、イスラーム社会の規律についてしきりに述べている。クライシュ族の迫害を逃れ、メディナに逃れると、クライシュ族や現地のユダヤ教徒との対抗の必要上、イスラームの共同体であるウンマがここで形成される。そこで信徒の生活に深く介入し、きわめて政治的な啓示が述べられているのである。

目次(章別)

  1. 開端(アル・ファーティハ)
  2. 雌牛(アル・バカラ)
  3. イムラーン家(アーリ・イムラーン)
  4. 婦人(アン・ニサーア)
  5. 食卓(アル・マーイダ)
  6. 家畜(アル・アンアーム)
  7. 高壁(アル・アアラーフ)
  8. 戦利品(アル・アンファール)
  9. 悔悟(アッ・タウバ)
  10. ユーヌス
  11. フード
  12. ユースフ
  13. 雷電(アッ・ラアド)
  14. イブラーヒーム
  15. アル・ヒジュル
  16. 蜜蜂(アン・ナフル)
  17. 夜の旅(アル・イスラー)
  18. 洞窟(アル・カハフ)
  19. マルヤム
  20. ター・ハー
  21. 預言者(アル・アンビヤーゥ)
  22. 巡礼(アル・ハッジ)
  23. 信者たち(アル・ムウミヌーン)
  24. 御光(アン・ヌール)
  25. 識別(アル・フルカーン)
  26. 詩人たち(アッ・シュアラーゥ)
  27. 蟻(アン・ナムル)
  28. 物語(アル・カサス)
  29. 蜘蛛(アル・アンカブート)
  30. ビザンチン(アッ・ルーム)
  31. ルクマーン
  32. アッ・サジダ
  33. 部族連合(アル・アハザーブ)
  34. サバア
  35. 創造者(ファーティル)
  36. ヤー・スィーン
  37. 整列者(アッ・サーッファート)
  38. サード
  39. 集団(アッ・ズマル)
  40. ガーフィル
  41. フッスィラ
  42. 相談(アッ・シューラー)
  43. 金の装飾(アッ・ズフルフ)
  44. 煙霧(アッ・ドハーン)
  45. 跪く時(アル・ジャーシヤ)
  46. 砂丘(アル・アハカーフ)
  47. ムハンマド
  48. 勝利(アル・ファトフ)
  49. 部屋(アル・フジュラート)
  50. カーフ
  51. 撒き散らすもの(アッ・ザーリヤート)
  52. 山(アッ・トール)
  53. 星(アン・ナジュム)
  54. 月(アル・カマル)
  55. 慈悲あまねく御方(アッ・ラハマーン)
  56. 出来事(アル・ワーキア)
  57. 鉄(アル・ハディード)
  58. 抗弁する女(アル・ムジャーダラ)
  59. 集合(アル・ハシュル)
  60. 試問される女(アル・ムンタヒナ)
  61. 戦列(アッ・サッフ)
  62. 合同礼拝(アル・ジュムア)
  63. 偽信者たち(アル・ムナーフィクーン)
  64. 騙し合い(アル・タガーブン)
  65. 離婚(アッ・タラーク)
  66. 禁止(アッ・タハリーム)
  67. 大権(アル・ムルク)
  68. 筆(アル・カラム)
  69. 真実(アル・ハーッカ)
  70. 階段(アル・マアーリジュ)
  71. ヌーフ
  72. 幽精(アル・ジン)
  73. 衣を纏う者(アル・ムッザンミル)
  74. 包る者(アル・ムッダッスィル)
  75. 復活(アル・キヤーマ)
  76. 人間(アル・インサーン)
  77. 送られるもの(アル・ムルサラート)
  78. 消息(アン・ナバア)
  79. 引き離すもの(アン・ナーズィアート)
  80. 眉をひそめて(アバサ)
  81. 包み隠す(アッ・タクウィール)
  82. 裂ける(アル・インフィタール)
  83. 量を減らす者(アル・ムタッフィフィーン)
  84. 割れる(アル・インシカーク)
  85. 星座(アル・ブルージュ)
  86. 夜訪れるもの(アッ・ターリク)
  87. 至高者(アル・アアラー)
  88. 圧倒的事態(アル・ガーシヤ)
  89. 暁(アル・ファジュル)
  90. 町(アル・バラド)
  91. 太陽(アッ・シャムス)
  92. 夜(アッ・ライル)
  93. 朝(アッ・ドハー)
  94. 胸を広げる(アッ・シャルフ)
  95. 無花果(アッ・ティーン)
  96. 凝血(アル・アラク)
  97. みいつ(アル・カドル)
  98. 明証(アル・バイイナ)
  99. 地震(アッ・ザルザラ)
  100. 進撃する馬(アル・アーディヤート)
  101. 恐れ戦く(アル・カーリア)
  102. 蓄積(アル・タカースル)
  103. 時間(アル・アスル)
  104. 中傷者(アル・フマザ)
  105. 象(アル・フィール)
  106. クライシュ族(クライシュ)
  107. 慈善(アル・マーウーン)
  108. 潤沢(アル・カウサル)
  109. 不信者たち(アル・カーフィルーン)
  110. 援助(アン・ナスル)
  111. 棕櫚(アル・マサド)
  112. 純正(アル・イフラース)
  113. 黎明(アル・ファラク)
  114. 人々(アン・ナース)

注釈

  1. ^ フスハーでは/al.qurˈʔaːn/と発音されるが、アーンミーヤにおいてはこの限りではなく、実際には地方ごとに違いが見られる。最初の母音は[o]/[ʊ]、二番目の母音は[æ]/[a]/[ɑ]と揺れる。例えば、アラビア語エジプト方言においては、[qorˈʔɑːn]と発音され、アラビア語中央アジア方言では、[qʊrˈʔæːn]と発音される。

出典

  1. ^ ブリタニカ 2011.
  2. ^ a b Nasr 2007
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  5. ^ *Shaikh, Fazlur Rehman (2001). Chronology of Prophetic Events. Ta-Ha Publishers Ltd.. p. 50 , Quran 17:105 (Arberry tr.)
  6. ^ Lambert, Gray (2013). The Leaders Are Coming!. WestBow Press. p. 287. ISBN 978-1-4497-6013-7. https://books.google.com/books?id=sV0mAgAAQBAJ&pg=PA287 
  7. ^ Roy H. Williams; Michael R. Drew (2012). Pendulum: How Past Generations Shape Our Present and Predict Our Future. Vanguard Press. p. 143. ISBN 978-1-59315-706-7. https://books.google.com/books?id=mygRHh6p40kC&pg=PA143 
  8. ^ Arberry, Arthur (1956). The Koran Interpreted. London. p. 191. ISBN 0684825074 
  9. ^ Toropov, Brandon; Buckles, Luke (2004). Complete Idiot's Guide to World Religions. Alpha. p. 126. ISBN 978-1-59257-222-9. "Muslims believe that Muhammad's many divine encounters during his years in Mecca and Medina inspired the remainder of the Qur’an, which, nearly fourteen centuries later, remains the Arabic language's preeminent masterpiece." 
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  16. ^ 例えば、2:163、4:64、5:101、12:64、106:3-4、110:3など。
  17. ^ 例えば、2:85、3:4、13:14、105:1-5など。
  18. ^ 岩波イスラーム辞典「ラクダ」
  19. ^ 岩波イスラーム辞典「ロバ」
  20. ^ 岩波イスラーム辞典「犬」
  21. ^ クルアーン2:91(97),3:3,5:52(48),6:155(154),10:38(37),26:196〜197,35:28(31),46:11(12),46:29(30)などを参照
  22. ^ クルアーン2:59(62),3:19(20)を参照。
  23. ^ クルアーン3:66(73)を参照。
  24. ^ クルアーン10:94,16:45〜46(43〜44)
  25. ^ 実際、新約聖書は写本で広まる中で本文の異同が多々発生し、それらから取捨選択して再編纂されたものである。そのため、オリジナルから変化してしまった写本の系統が採用された箇所が、聖書学本文批評の立場から多数指摘されている。バート・D・アーマン[著] 松田和也[訳]『捏造された聖書』柏書、2006年(原書: Bart D. Ehrman "Misquoting Jesus" 2005年)による。
  26. ^ 浜本一典「イスラームにおける宗教多元主義: 異教徒の救済と市民権をめぐって」第89巻第3号、日本宗教学会、2015年、2019年1月7日閲覧 
  27. ^ 神はソロモンに次のように言った。「あなたがこのようにふるまい、わたしが命じたわたしの契約とおきてを守らなかったので、わたしは王国をあなたから必ず引き裂いて、あなたの家来に与える。しかし、あなたの父ダビデに免じて、あなたの存命中は、そうしないが、あなたの子の手からそれを引き裂こう。ただし、王国全部を引き裂くのではなく、わたしのしもべダビデと、わたしが選んだエルサレムのために、一つの部族だけをあなたの子に与えよう」(旧約聖書I列王記11:9〜13)
  28. ^ クルアーンに述べられている預言者 イスラーム情報サービス 一般社団法人黎明イスラーム学術文化振興会
  29. ^ 鈴木紘司『真実のイスラーム 聖典コーランがわかればイスラーム世界がわかる』(学習研究社、2006年)pp.212-213
  30. ^ 丸山鋼二「中国におけるイスラム教教派(研究ノート)」『文教大学国際学部紀要』11巻2号(2001年)129-155頁 ISSN 09173072
  31. ^ 佐藤実「アッラーは上帝か?」p.121
  32. ^ 例えばクルアーン「物語」38節では、「エジプト王ファラオが、ペルシアの宰相ハマンに対して、メソポタミアのバベルの塔の建築を命じる」場面がある。時代も場所も混乱した記述の代表例であり、このような箇所はクルアーンの中に数多く登場する。
  33. ^ 藤原和彦『イスラム過激原理主義 なぜテロに走るのか』(中央公論新社〈中公新書〉、2001年)149-151頁
  34. ^ パキスタンが非イスラム教徒に不寛容な理由”. www.newsweekjapan.jp. ニューズウィーク日本版(www.newsweekjapan.jp) (2020年9月30日). 2021年3月2日閲覧。
  35. ^ 「コーランに火」禁止へ『読売新聞』朝刊2023年12月9日(国際面)
  36. ^ 電子版、および頒布書籍のご案内”. www.muslim.or.jp. www.muslim.or.jp. 2021年3月2日閲覧。
  37. ^ 聖クルアーン日亜対訳注解”. epub.qurancomplex.gov.sa. epub.qurancomplex.gov.sa. 2021年3月2日閲覧。
  38. ^ ファハド国王マディーナ・クルアーン印刷コンプレックス”. ja.eferrit.com. ja.eferrit.com. 2021年3月2日閲覧。
  39. ^ 聖クルアーン日本語訳”. www.alislam.org. www.alislam.org. 2021年3月2日閲覧。





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