クズ 分布

クズ

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/02/12 02:56 UTC 版)

分布

温帯および暖帯に分布し、北海道から九州までの日本各地のほか[12]中国からフィリピンインドネシアニューギニアに分布している[6]世界の侵略的外来種ワースト100 (IUCN, 2000) 選定種の一つである。山野の林内や林縁、土手河原などに自生しており[10][12][13]、山の斜面や道端[5]荒れ地に多く、人手の入った薮によく繁茂する。

北アメリカでは、1876年フィラデルフィアで開催されたフィラデルフィア万国博覧会(独立百年祭博覧会)の際、日本から運ばれて飼料作物および庭園装飾用として展示されたのをきっかけとして、東屋ポーチの飾りとして使われるようになった[14]。さらに緑化土壌流失防止用として政府によって推奨され、20世紀前半は持てはやされた。しかし、繁茂力の高さや拡散の速さから、有害植物ならびに侵略的外来種として指定され、駆除が続けられている。現在ではクズの成育する面積は3万km2と推定されている[15]アメリカ合衆国におけるクズ も参照)。

形態

大型のつる性多年生草本[12][5]。至るところに旺盛につるを伸ばして茂る[8]。地面を這うつるは、他のものに巻きつくか地面を這って10メートル (m) 以上に伸び、若いときは全体に褐色の細かいが生えている[6][5]

根もとは木質化し、地下では肥大した長芋状の塊根となり、長さは1.5 m、径は20センチメートル (cm) に達する[6]

は大型の三出複葉で、長い葉柄互生[12]小葉は直径15 cm超の菱形状の円形でさらに中裂することがあり[7]、受ける日光の強さで角度を変え[13]、草質で幅広く大きい[6]。小葉の縁はなめらかで、裏面は白い毛を密生して白色を帯びている[6][5]

花期は夏から秋(7 - 9月ごろ)[8]葉腋から総状花序が上向きに立ち上がり、濃紺紫色の甘い芳香を発する蝶形花を房状に密集してつけ、下から順に咲かせる[6][12][7]。花色には変異がみられ、白いものをシロバナクズ、淡桃色のものをトキイロクズと呼ぶ[6]

花後に褐色の剛毛に被われた枝豆に似た、長さ15 cmほどある扁平な果実莢果豆果)を結ぶ[6][13]

生態

つる性の多年草[12]、絡みつく相手を求めながらつるを長く伸ばして[13]、広い範囲で根を下ろし、繁茂力が高い。クズは根茎種子により増殖する。除草剤に強く、根絶は困難であり、雑草としてはびこることもしばしばである[7]。海外では世界の侵略的外来種ワースト100にも指定されている。

かつての農村では田畑の周辺に育つクズのつるを作業用の材料に用いたため定期的に刈り取られていたが、刈り取りを行わない場合は短期間で低木林を覆い尽くすほど成長が早い。 伸び始めたばかりの樹木に巻き付くと、それによって樹木の枝が曲がり、やがては枯死、さらに森林全体を衰退させてしまうこともあるため、林業ではクズなどを除去するつる切り作業は森林を健全に成長させる作業の一つとされている[16]。 地上部のつるを刈り取っても地下に根茎が残り、すぐにつるが再生する。

本来の生態は林や垣根の周囲や斜面を覆うように生育している「マント群落」と呼ばれるつる草や低木の代表種で、森林(特に社寺・屋敷林のような小面積のもの)の周辺・露出した裸地・斜面などを覆い、風や直射日光を防ぎ、土砂の崩壊を抑える役目を果たしており、特に森林内を自動車道路が貫通するような場合などは、クズなどを含むマント群落植物が道路周辺にあった方が森林を保護する効果がある(むき出しの場合風や光が入って木が枯れ、森林が後退しやすい。)が、逆に森が切り開かれて林内の陰性の下生え植物が減ると、こうしたマント群落の植物が森林内部に侵入して林内が荒れた状態になる[17]

様々な昆虫のつく植物でもある。たとえば、黒と白のはっきりした模様のオジロアシナガゾウムシマルカメムシはよくクズで見かける。また、クズの葉に細かい虫食いがある場合、それはクズノチビタマムシによる食痕であることが多い。東南アジア原産の外来昆虫であるフェモラータオオモモブトハムシの幼虫はクズの蔓を肥大させて虫こぶ(ゴール)としその中を食べる。


  1. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Pueraria lobata (Willd.) Ohwi subsp. lobata クズ(標準)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  2. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Pueraria hirsuta (Thunb.) Matsum. クズ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  3. ^ 米倉浩司・梶田忠 (2003-). “Pueraria montana (Lour.) Merr. var. lobata (Willd.) Maesen et S.M.Almeida クズ(シノニム)”. BG Plants 和名−学名インデックス(YList). 2023年3月25日閲覧。
  4. ^ 米倉浩司; 梶田忠 (2003-). “BG Plants簡易検索結果表示”. 「BG Plants 和名−学名インデックス」(YList). 千葉大学. 2013年11月18日閲覧。
  5. ^ a b c d e f g h i j 金田初代 2010, p. 137.
  6. ^ a b c d e f g h i j k l 浅井 (1993) 74頁。
  7. ^ a b c d e 大嶋敏昭監修 2002, p. 158.
  8. ^ a b c d e f g h i j k l 篠原準八 2008, p. 73.
  9. ^ 裏見草とは”. コトバンク. VOYAGE. 2021年10月3日閲覧。
  10. ^ a b c d e f g h i j k l m n 貝津好孝 1995, p. 93.
  11. ^ 神農本草経の中巻、草部中品の葛󠄀根の節より。
  12. ^ a b c d e f g h i j k l 馬場篤 1996, p. 48.
  13. ^ a b c d e 川原勝征 2015, p. 66.
  14. ^ 浅井 (1993) 77頁。
  15. ^ Irwin N. Forsetha; Anne F. Innisa (2004). “Kudzu (Pueraria montana): History, Physiology, and Ecology Combine to Make a Major Ecosystem Threat”. Critical Reviews in Plant Sciences 23 (5): 401-413. doi:10.1080/07352680490505150. ISSN 0735-2689. 
  16. ^ つり切り、除伐、雪起こし”. 太田市森林組合. 2020年10月28日閲覧。
  17. ^ 宮脇昭「2常緑広葉樹林帯」『原色現代科学大事典3 植物』責任編集 宮脇昭、学研、1967年、p.89-92・145
  18. ^ NTS『薬用植物辞典』、p.370
  19. ^ 「健康食品」の安全性・有効性情報
  20. ^ a b c d 浅井 (1993) 76頁。
  21. ^ 松村光重、御影雅幸「葛根の研究 (I) 採集時期に関する史的考察」『日本東洋医学雑誌』第52巻第4-5号、日本東洋医学会、2002年、493-499頁、doi:10.3937/kampomed.52.493ISSN 0287-4857NAID 110004003706 
  22. ^ 久保道徳ほか「漢薬・葛花の生薬学的研究(第1報)」『生薬学雑誌』第31巻第2号、日本生薬学会、1977年、136-144頁、ISSN 0037-4377NAID 110008907815 
  23. ^ 栗原藤三郎、菊地正雄「花の成分研究(第5報)葛花の成分についてその2,新イソフラボン配糖体の単離」『藥學雜誌』第95巻第11号、日本薬学会、1975年、1283-1285頁、ISSN 0031-6903NAID 110003651975PMID 1240926JOI:JST.Journalarchive/yakushi1947/95.1283 
  24. ^ 高円宮家宮内庁、2016年3月16日閲覧。





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