キー配列 キー配列の概要

キー配列

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2023/07/11 03:16 UTC 版)

現代のコンピューターのキーボードは、そのキーが押されたときにキー上の文字そのものではなく、オペレーティングシステム(OS)にスキャンコードを送信するように設計されている。OSがそのスキャンコードを二進法の文字コードの変換に基づきある文字に変換する。その変換表をキー配列表と呼ぶ。つまり物理的なキー配列は実際のキー配列を変更することなく、キーの動きの意味を翻訳するソフトウェアを変更することにより、動的に変更することも可能である。

鍵盤の『鍵』の字が常用漢字外だったためJIS用語集では「けん盤配列」(けんばんはいれつ)だが、当記事では通称の「キー配列」を使用する。

概要

キー配列は、キーボード上のキー位置を定める物理配列と、ある物理配列に対して文字キー(機能キーなどを含む)の並びを定める論理配列とに大別される。

論理配列は、アルファベットカナともにさまざまなものが存在するが、英字ではQWERTY配列ドイツ語圏・チェコ語圏ではQWERTZ配列フランス語圏ではAZERTY (ASERTY) 配列日本語仮名入力ではJIS配列が普及している。同様に、中国語における漢字入力(繁体字における倉頡法の配列など)、朝鮮語におけるハングル入力(2ボル式の配列が標準的)の配列があり、いずれもQWERTY配列である。そのためQWERTY配列は「キー配列のデファクトスタンダード」と呼ばれることがある。

QWERTY配列がどのように成立したかについて、「初期の機械式タイプライターでは、あまり高速に打鍵しすぎると印字ハンマーが絡まってしまうために、よく連続打鍵される文字をあえて左右の離れた位置に配置した」という説がオーガスト・ドヴォラックやポール・アラン・デービッドなどによって流布されたが、異論もあり[1][2]、定説はない。

物理配列では、主にコンピュータではApple IIなどの流れを汲むMacintoshや各社UNIX端末でのキー配列と、IBMPC/AT後期にメインフレーム端末の操作性を持ち込んだ101キーボード系に大別される。

101キーボード系の主なものには以下がある。

  • 101キーボード(主に米国圏用)
  • 102キーボード(多国語用とも呼ばれる。主に欧文圏用、101キーボードに文字キーを1キー追加)
  • 106キーボード(主に日本語向け。英字はQWERTY配列、カナはJIS配列、101キーボードに日本語変換用の5キーを追加)

上記にMicrosoft Windows用の3キーを追加したものは、それぞれ104キーボード、105キーボード、109キーボードとも呼ばれる。さらに電源・音量などの3キーを追加したものは、それぞれ107キーボード、108キーボード、112キーボードとも呼ばれる。これらの101などの数字は本来はキートップの数であるが、実際は各メーカーにより数と配置は異なり、あくまでも基本的な配列に対する呼称である。このため、実際には104個や107個やそれ以上でも、現在でも「101キーボード」と呼ばれる場合は多い。

また、Windows用キーボードでSunやHPのUNIXのようなキー配列をエミュレートするためのWindows用ソフトウェアなどが知られている。

物理配列

物理配列

PC用

PC用とはIBM PC系の配列である。上述のように、USでは101/104英語キーボード、ヨーロッパでは102/105多国語 (Multi Language) キーボード、日本では106/109日本語キーボードが主流である。ただし実際のキー数やキートップ上の表記は、メーカーやモデルや言語によって、14インチ以下のノートPCは通常テンキーがない、電源・音量・アプリケーション起動関係のキーなど多少の相違がある。

83キーボード

オリジナルのIBM PCの83キーボード

オリジナルのIBM PCおよびPC/XTで採用された[3]。のちのATキーボードとの対比でXTキーボードとも呼ばれる。基本的な配列はIBM PC登場以前の各社配列と大差はないが、テンキーとカーソル移動キーなどが兼用されており、NumLockキーで切り替えるのが大きな特徴である。

  • キーの内訳
    • メインキーテンキー一体化73キー(メインキー文字キー47キー、テンキー文字キー14キー、その他12キー)
    • ファンクションキー部分10キー

84キーボード

IBM PC/ATで採用されたため、ATキーボードとも呼ばれる。83 (XT) キーボードとの外見上の差異は「メインキー部とテンキー部が分割された」「SysReqキーが増えた」の2点。接続端子の形状と電気的な仕様は83 (XT) キーボードと同一だが、スキャンコードが変更されているため、(スキャンコードを切り替え可能な一部の製品を除いて)83 (XT) キーボードとの互換性はない。

  • キーの内訳
    • メインキー部分56キー(文字キー47キー、その他9キー)
    • テンキー部分18キー(文字キー14キー、その他4キー)
    • ファンクションキー部分10キー

101キーボード

101キーボード(IBM モデルM)

「IBM 101拡張 (Enhanced) キーボード」。IBM PC/AT後期より採用され、同時にPC/XTにも発売された[4]。横一文字のEnterキーが特徴。のちにANSI X3.154-1988(2002年1月15日のINCITS(International Committee for Information Technology Standards)発足後は ANSI INCITS 154-1988)として規格化され、以後のPC/AT互換機の主流となった。後述の104英語キーボード、102/105多国語キーボード、106/109日本語キーボードなどのベースでもある。

  • キーの内訳
    • メインキー部分58キー(文字キー47キー、その他11キー)
    • テンキー部分17キー(文字キー15キー、その他2キー)
    • ファンクションキー部分12キー
    • その他14キー
  • 備考

アジア圏の古い製品を中心に、Backspaceキー、あるいは右Shiftキーのサイズを削ってキーを一つ増やし、代わりに「\」キー部分までEnterキーを拡張した101キーボードの変種が見られる。後述する韓国のKS規格・103キーボードはこの変種の派生型にあたる。当該変種の左右反転したL字型のEnterキーは俗に「Big-asian(あるいはBig-ass)Enter」と呼ばれる。

102キーボード

イギリス、アイルランド向けの102キーボード

多国語用に、101キーボードをベースにして101キーボードにおける左Shiftと「Z」の間にキーを1つ追加したもの。Enterキーは180度回転させた逆L字型。ISO/IEC 9995で規格化されているが、細部は各言語用で異なる。イギリス、カナダ、フランス、イタリアなどで用いられる。ただしこれら地域でも101キーボードで済ませてしまうことも多い。

  • キーの内訳
    • メインキー部分59キー(文字キー48キー、その他11キー)
    • テンキー部分17キー(文字キー15キー、その他2キー)
    • ファンクションキー部分12キー
    • その他14キー
→ 各言語用のメインキー部分は Keyboard Layout (英語)を参照

103キーボード

KS X 5002(古い番号ではKS C 5715)で規格化されている、韓国語用のキーボード。いわゆるBig-ass Enterキーを持つ101キーボードの亜種をベースに、スペースキーの左に「한자(ハンジャ:漢字)」キー、右に「한/영(ハン/ヨン:韓/英)」キーを追加したもの。KS X 5002は論理配列として2ボル式を想定しているが、3ボル式およびその変種を利用することもある。

ただし、漢字の使用機会が著しく減少していることもあり、韓国内でも101キーボードで済ませることが多い。

104キーボード

101キーボードをベースに、Windowsキー2個とメニューキーを追加したもの。

104キーボード(ブラジルABNT)

ブラジルABNT2キーボード

ブラジル規格協会 (ABNT) ・NBR 10346 variant 2(メインキー部)および10347(テンキー部)で規格化されている、ブラジルポルトガル語用キーボードの配列。102キーボードをベースに、“Ç”キーを追加、さらにテンキーの“+”キーを上下に分割したことで2つキーが増えたもの。両シフトキー間に12個のキーが並び、テンキーにコンマとピリオドがあるのが特徴。

テンキー部は“+”キーが上下に分割されて上が“+”、下が“.”となり、“0”の右隣のキーは“.”ではなく“,”(NumLock解除時は他キーボード同様“Del”)となっている。

“/”キーがなく、両シフトキー間のキー数が11(フルキーボードの総キー数が103)となる、NBR 10346 variant 1という規格も存在する。この配列の場合、“/”はAltGr+Q、“?”はAltGr+Wで入力する。

  • キーの内訳
    • メインキー部分59/60キー(文字キー48/49キー、その他11キー)
    • テンキー部分18キー(文字キー16キー、その他2キー)
    • ファンクションキー部分12キー
    • その他14キー

105キーボード

102キーボードをベースに、Windowsキー2個とメニューキーを追加したもの。

106キーボード

109キーボードの左側(ただし右Winキーがない)

「日本語106キーボード」「OADG 106キーボード」などと呼ばれる。101キーボードをベースに、日本語入力(JIS配列)で必要な「変換」「無変換」「カタカナ/ひらがな」などのキー(言語入力キー)を追加したもの。Enterキーは逆L字型であり、正確には102キーボードがベースともいえる。1991年に日本IBMのPS/55シリーズ用に追加された5576-A01キーボードの配列が、OADGにも採用され、DOS/VおよびPC/AT互換機の普及とともに日本で事実上の標準となったもの。

  • キーの内訳
    • メインキー部分63キー(文字キー48キー、その他15キー)
    • テンキー部分17キー(文字キー15キー、その他2キー)
    • ファンクションキー部分12キー
    • その他14キー

102キーボードと拡張された文字キーの数は同じだが、スキャンコードが違うためソフト的に配列を入れ替えても同じように入力することはできない。

具体的には、102キーボードの数字の1の左隣のキーはスキャンコードでは同じ位置にある「全角/半角」キーと同じである。したがって文字キーの数が一つ減ることになるが、これをBackSpaceキーを分割してキーを追加することによって補っている。同様に、102キーボードで「Z」キーの左に追加されたキーが106キーボードではない代わりに、右端にキーが追加されているが、これらのスキャンコードは同一ではない。このように文字キーの位置が異なるためそのままでは106キーボードと同様の利用はできないのである。

109キーボード

106キーボードをベースに、Windowsキー2個とメニューキーを追加したもの。2019年現在はこれが主流。OADGで標準化されている。右Windowsキーを省略した108キーも存在する。

その他

Macintosh用

Apple Keyboard(英語)参照

速記用ワープロ用

キヤノンのキヤノワードα370(1991年5月発売)で初めて採用された[6]。日本語入力のできる速記用ワープロ、スピードワープロ用に開発されたキーボード。物理配置はいわゆる左右分離式で、基本は右手で母音、左手で子音を担当する。文字キー自体は10個しかないため、シフトキーで補うほか、複数キーの同時押しによって単語を纏めて入力する。とくにキーの組み合わせは莫大で、テキスト3冊分に及ぶという。

1991年10月16日に学校法人川口学園早稲田速記ワープロ事業部から「ステノワード」が発売される。システムの開発者は学校法人川口学園、早稲田速記ワープロ事業部門の柴田邦博。後述のステノタイプのようにニーモニック(同時押しするキーの組み合わせ)を割り当てることで、よく用いられる文句のパターンをコマンド入力したり、文章同士を組み合わせることで適切な文句を一括入力することも可能。地上デジタル放送聴覚障害者向けのリアルタイムキャプション(リアルタイム字幕放送)が始まると、その用途に活用されるようになった。主な用途がリアルタイムであるから、ニュースなど生放送において欠かせない。


  1. ^ 安岡孝一、安岡素子『キーボード配列 QWERTYの謎』、東京、NTT出版、2008年3月、ISBN 978-4-7571-4176-6
  2. ^ 安岡孝一「ことばの疑問 パソコンのキーボードは,なぜABC順・五十音順ではないのですか」『国立国語研究所 ことば研究館』、大学共同利用機関法人人間文化研究機構 国立国語研究所 、2018年6月15日
  3. ^ IBM Personal Computer - IBM PC/XTの鍵盤について
  4. ^ 101 Key no LED (1390120) - IBM PC/XTの鍵盤について101 Key (1390131) - IBM PC/XTの鍵盤について
  5. ^ a b Announcement Letter Number 186-052 : IBM PERSONAL COMPUTER AT (R) 5170 MODELS 319 AND 339”. IBM (1986年4月2日). 2018年6月1日閲覧。
  6. ^ 写真で見る速記(ステノワード)(速記道楽)
  7. ^ R. L. Deininger: "Human Factors Engineering Studies of the Design and Use of Pushbutton Telephone Sets", The Bell System Technical Journal, Vol.39, No.4 (1960年7月), pp.995-1012.
  8. ^ a b 平川陽一編『今さら誰にも聞けない500の常識』廣済堂文庫 p.294 2003年
  9. ^ Phone Key Pads”. Dialabc.com (2012年12月11日). 2015年3月15日時点のオリジナルよりアーカイブ。2016年6月4日閲覧。


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