ガソリン 航空用ガソリン

ガソリン

出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』 (2024/01/29 05:00 UTC 版)

航空用ガソリン

100LLの航空用ガソリン

航空用ガソリンアブガス英語版)とは、ガソリンエンジンを動力とする航空機向けに以下の条件が備わった、アルキル鉛などで加鉛されている有鉛ガソリンである。ゆえに無鉛ガソリン仕様の自動車やオートバイには使用できない。有鉛ガソリンを無鉛ガソリン仕様のエンジンに使用すると健康被害や環境汚染の原因となるだけでなく、ポペットバルブやバルブシートの損傷、点火プラグの汚損、触媒の破損など故障の原因となる。一部の国を除き自動車用ガソリンには添加が禁止されている。

添加用のアルキル鉛はテトラエチル鉛 (C2H5)4Pb が最もよく用いられるが、他にも性質の近い四メチル鉛 (CH3)4Pb やメチルエチル鉛なども使用される。これらは全て強い毒性を持ち、テトラエチル鉛は毒劇法特定毒物に指定されている。呼吸だけでなく皮膚からも容易に吸収され、体内に蓄積されやすい。多く体内に取り込まれると鉛中毒を起こす。

日本で入手できる航空用ガソリンのオクタン価は最大でも100オクタンであり、自動車用として販売されている無鉛ハイオクと同じである。

  • 適度の気化性
  • 高いアンチノック
  • 高い発熱量
  • 腐食性がないこと
  • 耐寒性に富むこと
  • 安定性が高いこと(経時分解の進行が遅いこと)

航空ガソリンの規格には次のような物がある。

  • 米民間規格 : ASTM D910-70(旧)、ASTM D910-75(新)
  • 米国軍用規格 : MIL-G-5572
  • 日本産業規格 : JIS K 2206
ASTM D910-75による航空ガソリンの等級と色識別
等級 鉛(cc/gai) 着色 備考
80 0.50 世界的に製造縮小
100LL 2.00 日、米、欧で入手可
100 3.00 現在の主流だが、100LLに移行しつつある

第二次世界大戦には圧縮比の高いレシプロエンジンを駆動するためオクタン価の高いガソリンが必要となり、枝分かれの多い脂環式炭化水素によりオクタン価を上げる提案がされた。これらの原料としてクメンを製造するためのプラントが建設された。

日本では航空用ガソリンが給油できる飛行場が減少し、価格も上昇していることから[19]、より安価で給油できる場所が多いジェット燃料が使える航空用ディーゼルエンジンを販売するメーカー(Technify Motorsなど)の製品と換装する事業者もある[20]。ジェット燃料を使用しても操縦資格はガソリンと同じ「ピストン」である。

アリソン 250ターボシャフト/ターボプロップエンジンであるが、代用として航空ガソリン1に対しジェット燃料2の混合燃料、緊急時には無鉛ガソリンも使用可能である(整備が必要となる)。


  1. ^ a b c d e f g h i 危険物ガソリンについて! (PDF) 小林物産
  2. ^ 身近な危険物の火災、その消火方法 (PDF) - 消防庁
  3. ^ 元科学捜査官「ガソリンで短時間に高温か 逃げるのは困難」 - NHK
  4. ^ 工藤章, 「三国同盟と人造石油 : 日独経済・技術協力をめぐって」『社会経済史学』 55巻 5号 1989年 p.555-580,712, doi:10.20624/sehs.55.5_555
  5. ^ a b c 藤元薫, 「合成ガスから液状炭化水素の合成」『有機合成化学協会誌』 41巻 6号 1983年 p.532-544, doi:10.5059/yukigoseikyokaishi.41.532
  6. ^ a b c d e 乾智行, 「秘話人造石油 : 鉄からゼオライトへ(化学への招待)」『化学と教育』 37巻 3号 1989年 p.282-285, doi:10.20665/kakyoshi.37.3_282
  7. ^ 三輪宗弘, 「海軍の技術選択の失敗 : 航空機用ガソリンと石炭液化」『第5回シンポジウム「日本の技術革新―経験蓄積と知識基盤化―」研究論文発表会論文集』 特定領域研究「日本の技術革新―経験蓄積と知識基盤化―」総括班 2010年 p.27-30, NAID 120006654598
  8. ^ 大塚博, 富田宣, 「(233)フィッシャー法合成ガソリンの成分分析に就て」『工業化学雑誌』 44巻 9号 1941-1942年 p.746-747, doi:10.1246/nikkashi1898.44.9_746
  9. ^ 三井啓策, 「旧海軍燃料廠におけるベルギウス法の研究と結果」『燃料協会誌』 54巻 10号 1975年 p. 846-856, doi:10.3775/jie.54.10_846,
  10. ^ 石川勇, 「石炭液化反応器へのRI技術の応用」『RADIOISOTOPES』 45巻 5号 1996年 p.349-350, doi:10.3769/radioisotopes.45.349
  11. ^ 乾智行, 萩原隆, 武上善信, 「修飾したメタノール合成触媒とZSM-5ゼオライトからなる複合触媒による合成ガスからの選択的炭化水素合成」『石油学会誌』 27巻 3号 1984年 p.228-235, doi:10.1627/jpi1958.27.22
  12. ^ 藤元薫, 「稼動を始めたニュージーランド合成ガソリンプラント」『燃料協会誌』 66巻 1号 1987年 p.2-12, doi:10.3775/jie.66.2
  13. ^ a b 石油の種類について (PDF) 沖縄県
  14. ^ a b c ロバート・ボッシュ著、小口泰平監修『ボッシュ自動車ハンドブック第2版』シュタールジャパン、2003年、235頁
  15. ^ 猛暑、燃料商社に恩恵/ガソリンの体積が膨張/入荷時よりかさ増え利益 『日本経済新聞』朝刊、2018年8月16日(マーケット商品面) 2018年8月16日閲覧。
  16. ^ a b c d e 米国におけるガソリンの需給動向 (PDF) 一般財団法人日本エネルギー経済研究所 2004年10月
  17. ^ a b c ロバート・ボッシュ著、小口泰平監修『ボッシュ自動車ハンドブック第2版』シュタールジャパン、2003年、236頁
  18. ^ a b 燃料油の品質規制と対応の経緯 (PDF) コスモ石油
  19. ^ セスナ172P | Alpha Aviation
  20. ^ セスナ172型ディーゼル・エンジン搭載機耐空検査に合格 | Alpha Aviation
  21. ^ a b 国際先端テスト関連資料 (PDF) 総務省消防庁 2013年6月
  22. ^ 特許庁ホームページ - 鉛-錫合金めっき代替の鉛フリーめっき
  23. ^ 不正ガソリン製造・販売で罰金 三重の業者、灯油混ぜる」『日本経済新聞日本経済新聞社、2016年2月15日。
  24. ^ 多用途での活躍が期待される新型双発機 - JGAS AVIATION BLOG






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